ピアノのお稽古4

2015-05-26 23:22:57 | ピアノ
久しぶりにピアノのお稽古の続き
高校を卒業してもピアノは続けていた。
音大に行かず、さらに下宿していたので、ピアノの練習場所に困った。
スタジオを借りるなんて考えもできなかった私は、なんと教育学部の教授に直談判しに行った。
教育学部には音楽の授業のために学生が練習するピアノ室が沢山あり、いつも幾つか空いていたからだ。
教授は少し考えてから、
「何か弾いてみなさい」
と仰った。
ちいちいぱっぱの男子学生が四苦八苦してバイエルを弾いている隣の部屋で、バリバリと
ファリアの「火祭りの踊り」を弾いてみた。
「空いていたら何時でも弾いて宜しい」
と言って下さった。
有難や有難や。
ある日ドビュッシーのベルガマスク組曲を弾いていたらトントンと教授がノックされた。
「グランドピアノを使ってもいいですよ。」
ええ~?ええのん?

その日から私は授業のない時間帯ならグランドピアノで練習できるようになった。
が、流石に少し不味かった。
快く思わない学生もいたのだ。それはそうでしょう。
それで、今度はサークル活動用のピアノを狙った。
そこはアコースティックバンドやらコーラスグループなどが良く利用していた。
丁度昼ごろなら誰も使っていない時間帯があったのだ。早い者勝ちで飛び込んで鍵をかける。
広い部屋でまたバリバリ弾いていたら、今度は聴衆が集まってきた。
凄いカーリーヘアの女子が昼にピアノを弾いている、それもクラシックを弾いているのを見物にくるのだ。ドアの向こうに男子学生がいつもニヤニヤしながら覗き込んでいるのがガラス越しに見えた。
勿論使いたくて「早く終われ~」と、せっつきに来ている学生もいた。

まあ、そんなことをしながら、時々は帰省して家のピアノで練習して、どうにかこうにか月一度のレッスンは受けに行った。

その頃先生は車の免許を取得されて、レッスンは琵琶湖の見える高台の豪邸と、結婚後の住まいである膳所のマンションを行ったり来たりして、その時の生徒に合わせて場所を決めていらした。
高台の家の方は、遠いけれどあの優しいお母様がいらっしゃるので嬉しい。
マンションの時はいつも先生はお留守で私はドアの前で立ちん坊していた。
「私の前と後ろには車が無いのよねえ~!」と先生がバタバタ帰ってらして狭い部屋でレッスンを受ける。
ご自分だけの閉鎖空間で本心が剥き出しになるからだろうか、先生の愚痴やら嫌味やらを黙って聞くこともあった。
そんな時は、例の如くぶらぶらされている組んだ足の指先の真っ赤なマニキュアに目を剥きながら辛抱した。
先生は子どもが大っ嫌いだと仰った。子どもを追いかけてくたくたになっている母親には絶対なりたくないそうだ。
国立大の教育学部を出て子どもにピアノを教えていながら何故そう仰るのか不思議だった。
今思うと子どもを産まないことの弁解だったのだろうか。
きっと周りから色々言われて面白くなかったのだろう。

私が結婚するまでレッスンには行って発表会にも出さして頂いた。
最後の発表会では
フォーレのバルカローレ3番
私が最年長となっていたので、ある日、私より上手なのに2歳下の大学生から電話がかかってきた。
ロングドレスを着るかどうかの相談だった。
母の主催するピアノ教室の発表会で、私がロングドレスを着たことがあったからだ。
彼女は私に遠慮して、私がロングならロング、違うならやめるとのこと。
私はどうでも良いことなのになぁと驚いたけれど、彼女にすれば大事だったのだろう。
結局私はワンピースにした。彼女はロング丈とミディ丈のどちらにもできるスカートを用意して、ミディ丈で弾いた。

結婚して東京に行きます
と先生に報告した時、先生は「良かったわねー」と目を丸くして仰った。やれやれこれでこの娘と縁が切れるとホッとされたのかもしれない。

東京の住宅事情は想像以上に厳しかった。
アップライトピアノを4畳あるかないかの洋室に、根来塗りの和ダンスと一緒に押し込んでギリギリペダルを踏み込めるスペースしかなかった。ピアノなんか嫁入り道具にして……と、姑に嫌味を言われてもそれだけは譲れないことだった。広い寺でそだったのに、46平方メートルのマンションに住むことになり、私は息が詰まりそうだったが、それでも夫の月給は家賃で半分飛んで行くのだから分不相応と言われても仕方ない。

ピアノの練習はぼちぼちしたが、先生を見つけるわけでもなく、ピアノ殺人事件とかも起きていて、マンションで弾くのはやはり徐々に難しくなってきた。
そして、子どもが生まれたらもうそれどころではなくて、ピアノ室はただの納戸と成り果てた。

ところがその後、夫が北海道に長期出張となり、住環境はいきなり改善された。
社宅扱いで80平方メートルだ!
6畳弱の洋室にピアノだけを置くことができた。
私がピアノを弾いていると3歳の娘も次第に興味を持ち始めた。
ここから私の第二のピアノ生活が始まった。 続く。



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