── 若いとは、いったいどういうことなんだろうか。
なんて、なんだかそれっぽい小説の書き出しみたいにも思えますが、もともとそういう哲学めいた問いかけを頭の中で投げかけたり、何気ない言葉の定義をあれやこれやと考えて遊んだりというのが好きな性分だったので、そんな「若さ」についてもあれこれ想いを巡らせたことはままあります。
若さというのも、実際に年齢の若いときにはその意味だとか、若さの持つその特権の素晴らしさをやはり理解しきれておらず、そこから離れたときに初めてその価値に気づくという皮肉な性質のものだなあとは思いますが、時の流れの中で、いわゆる若さからはどんどん離れてゆくことは明々白々、決して抗えないことは太古の昔から不変の事実であることはわかっているはずなのに、それでもなお若さを追い求めてしまうというのは、これはもう人類の性なんでしょうね。
しかして、若さのその本質や真髄を若いときに振りかざすことは叶わず、つい大人びた振舞いに憧れてしまったり、若さゆえの過ちで核心を見失ってしまいがちな一方、老いてからその真価にふと触れたときの感動は、何とも形容しがたい甘美なものがあるなあとも思います。
ボブ・ディランの「My back pages」、そしてそれを日本語詞でカバーした真心ブラザーズの「マイ・バック・ページ」。昔から真心ブラザーズが大好きだった僕は10代でこのカバーバージョンに出会ったのですが、“私はとても年老いている、そして私はあの頃よりもずっと若い”というリフレインが印象的なこの歌の本質を、やはり若い頃はあんまりわかっていなかったなと思います。
そんな10代の頃は夢にも思わなかったミュージシャンとしての人生を、ひょんなことから歩み始めた20代。順風満帆かに思えたけれども結局バンドは解散し、なし崩し的に30代で始まった一人旅。悩んで苦しんでもがき抜いて、ようやく自分の人生の羅針盤が示す方向が見つかった気がした今はもう40代が終わろうとしています。
でも、今まさに自分の意思で、自分の力で、自分で決めた方向に自分の船を漕ぎ出していくこの瞬間の、この純粋さ、期待と不安が織りなす胸の高鳴り、これこそ今までの人生のどんな瞬間よりも本質的な若さに満ち溢れているではないか。
ボブ・ディランが「My back pages」を書いたのは23歳の時だそうで、当時の彼が描きたかったことがこういうことなのかどうかはわからないけれど、「若さとは何か」という人類の大きな命題について、僕なりに必死に年月を重ねて、僕なりに人生を切り開いて、そうしてたどり着いた一つの答えのようなものを、偉大なミュージシャンの言葉を借りながらですが、描けたんじゃないかなあと思っています。
楽曲としては、最初からバンドサウンドのイメージがあったので、丁寧にそのイメージをなぞるようにバンドアレンジを重ねました。なんと言うか全編を通じてバンドメンバー含めて特殊なことはほとんどしていないのだけど、王道のポップスアレンジ、エバーグリーンな雰囲気がこの歌詞のテーマに非常にマッチしていて、チームとしてとても良い仕事ができたんじゃないかなあと思っています。山とケの山ちゃんのハーモニカも本当に良い存在感で素晴らしい!
個人的には、コーラスのアレンジだとか、Bメロでちょっとだけ入る転調、さりげないオーギュメントの使い方、みたいな目立たないけどいぶし銀的に効果のあるギミックをちりばめてあるところがお気に入りです。
ミュージックビデオを作ったのも非常に印象深いですね。グンジケンゴとYajiさんにお願いしていろんな素材を撮ってもらって、自分で編集しました。これもプロの作品と比べるとやはり物足りないしレベルの差を痛感してしまうけれど、素人なりにいろいろと工夫を凝らして作ったのは良い思い出です。あとやはり撮られ慣れていない!笑
ミュージックビデオを作ったおかげもあり、実質的なアルバムのリードトラックになりました。これからもたくさんの方に聴いていただきたい、きっと多くの人に共感してもらえるメッセージなんじゃないかなと思っていますし、僕もずっとずっと「どこまでも歌えるさ」の通りにいつまでも歌っていきたいと思っています。
ハマノヒロチカ「マイ・バック・ページ」Music Video