あなろぐ

ここは私の巣穴です。自閉症の息子のことや、好きな作品のことなどを書きます。
最近のハマリものはイ・ジュンギ。愛だぜ。

悪人

2010-12-30 20:44:41 | 読書メモ
『悪人』吉田修一(朝日新聞社 2007年4月刊)\1800

朝日新聞に連載されていた小説です。
多くの人物のモノローグを重ねるかたちで語られる、現代日本の「罪と罰」って感じでしょうか。
映画をご覧になった方も多いのでは?

深津絵里がこの映画で受賞したんでしたっけ?
樹木希林がいいとも、妻夫木くんが熱演したとも聞いたので、私もそのうち見たいです。



人間の嫌な部分をさらけ出している芳乃は被害者になり、
腐ったプライド臭をまき散らす増尾は学内の人気者に戻り、
そして祐一は殺人犯として「悪人」の烙印をみずからに捺して、光代を傷つけまいとしました。

「悪」って何かを考えさせられますね。
祐一の祖母や、芳乃の両親が丁寧に描かれていて、思わず感情移入しちゃいました。

祐一が芳乃を手にかけてしまった理由が私には腑に落ちないんですけど、
その腑に落ちなさも、かえって最近の犯罪らしさを感じさせました。
祐一の友人が彼を語っていわく、「起承転結」の「起」と「結」しか言わないような無口なヤツで、「承」と「転」をすっとばしてしまうから人にはわかってもらえない、と評されていたのが印象的でした。

ヘルスの女の子のちょっとした言葉を真に受けて(起)、
本気で一緒に暮らすためのアパートを借りちゃった(結)、ってくらいだもんね。
ふつう、真に受けたら真に受けたで、その後、その女の子と語り合うとか、約束するとか、そういう手順を踏むものですが、祐一の論理はそこで飛躍しちゃうんですね。

祐一は、カッとして芳乃を殺してしまうくらい凶暴な面がある一方で、悲しいくらいやさしい男でもあります。
自分を捨てた母親のことも、光代のことも、自分が加害者になることでしか守ってやれなかった不器用な優しさ。

ラストの、祐一の祖母と、芳乃の両親、それぞれの「足をふんばって立ち上がる」感がたいへんよかったです。
重苦しいテーマながら、読後感が悪くないのは、この周辺の人々の描き方が丁寧で温かいからでしょうね。

文庫版も出ているので、未読の方はよろしければご一読を。
私はイッキ読みしてしまったけど、モノローグを一人分ずつ、じっくり読み重ねていくのもいいかもしれません。


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2 コメント

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私は映画を先に… (柚子茶)
2010-12-31 09:56:00
春花さん、私は秋にママ友に誘ってもらって映画館で観ました。
重い映画とだけ聞き、あえて事前に何も調べないで観たのですが、登場人物が皆濃くて、上映時間を長く感じず楽しめました。ロケ地の雰囲気も印象に残ります。
妻夫木聡さん、髪のせいかとても若く見えたし、妻夫木さんと分からないくらいの風貌を醸し出してました。
ママ友の1人が文庫本を買って、借りそびれてそのままになってるけど、私もそのうち読んでみようかなぁ~

春花さん、3月にブログに出会って今年は度々おじゃまさせていただき、ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします♪
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映画 (春花)
2010-12-31 20:17:26
映画ご覧になったのですね~!
私も見てみたいなあ。
小説だと、九州のことばも印象的に使われているんですが、映画もそうだったのかしら。

「重い」テーマとはいっても、嫌な重苦しさではないので、意外と後味が悪くないでしょ。
私、祐一の描写を読んでて、ちょっと息子を理解できた気がするところありましたよ…

柚子茶さん、横浜でもお世話になり、ブログへもちょくちょくお立ち寄りくださって、本当にありがとうございました。
どうぞよいお年を
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