御徒町アメ横でマグロのサクを買って来て、と頼まれ25キロのトラバース、春日通りを上って行く。
春日通り。
「二つ目通り」はあるのか。
春日通り。
「春日通り」なんて自分もさも知ったように言っているが、その上は「蔵前通り」その先が本所吾妻橋、なんて有名処を平然と説明出来る人がどれほどいるのだろう。
「四つ目通り」「三つ目通り」は耳にしたことがあるがどからどこまでの道で、その位置関係がどうなっているのかさっぱりわからない。
「二つ目通り」はあるのか。
やはり江戸の香りが残っていると粋でカッコいいと思ってしまう。
何故その位置関係がわからないのか。
何故有名処が線で結べないのか。
歩いていないのも一つだが、はっきり言って、亀戸、錦糸町、上野、浅草、御徒町、なんて、ガキが遊んではいけないところだったから。
ガキにとって“怖い街”だった。
大人の世界の街で、ガキが入り込む余地などなかった。
だからこの界隈の事を知らないのだ。
隅田川を渡ると浅草や御徒町だ。
アメ横ではマグロのサクは他の魚とセットで売り付けられ、結局高く買わされたり。
百貨店では手に入らない宝物が手に入ったり。
チンピラにウソの映画チケットつかまされたり。
胡散臭さや情念が渦巻く人間臭さがブンブンした。
浅草や御徒町を歩くと
「俺も大人になったぜ」なんて肩で風切りいきがったりしてね。
やっとたどり着いたアメ横は、外国人の露店が大半を占め、コロナ禍でマグロサクの一本も売ってないありさまだ。
「お前もお高くとまった東京に成り下がったか。つまんねぇ街」
マグロのサクの件はカミさんに詫びた。
疲れた体にアメ横の寂寥感はお似合いだった事だろう。
「当分、来ることはねぇな」