フォーメーションA
モンチの追加ワクチン。
初めて行く、一番近所の動物病院。
自転車が壊れてるので、猫かごに入れて歩いて連れて行く。
モンチは2.8キロ、そんなに重くないだろうと思ってたけど、ギリギリだった。
モンチはかごに入れてしばらくは、たいそう嫌がって鳴いたけど、
しばらくするとおとなしくなった。
車の通らない道がいい、と思ってちょっと遠回りして公園を抜けていく。
途中、環八を越えなきゃいけなくて、
モンチが車の音に怯えていた。
胸の前でかごを抱えて、ずっと名前を呼んで、大丈夫だよ、
私がいるからね、と話しかけながら歩いた。
今日は暖かくて、坂を上ってたら汗ばむほどだった。
動物病院には、お客さん(患者さん)が一人もいなかった。
なのですぐ呼ばれたのはいいけど、
なんというか、愛想の無い女の先生で、
かごから出したモンチに、さっさと拘束衣着せるのはどうなの?
術後まだ1ヶ月なんだから経過を調べたり、
何か問題はないか触診したりしてくれてもいいんじゃないの?
拘束衣を着せられたのは初めてだ。
てきぱき済ませるのが猫にだってありがたいかもしれないけど、
うちの猫は人をひっかいたりしないのに、
それを確かめもしないで嫌な感じ。ほかに人がいないのもうなずける。
拘束衣を着せられたモンチは、置物のように大人しくなって、
顔だけ出してるのがかわいかった。
モンチったらビー以上に内弁慶。ただじいっとしてる。
今日もらった診察券に、モンチ、オスと書いてあった。
女の子なのになんて失礼な。
うちから一番近いけど、もうここには来たくない。
次からは隣駅まで行こう。
三茶に住んでた時行ってた病院は、初めての診療のとき、
今の環境についていろいろ質問して説明してくれたし、
その界隈に住む猫たちの伝染病の説明なんかもしてくれた。
どんなご飯を食べているか、他の猫との折り合いはどうか、
なども聞いてくれた。
それにビーちゃん、ゴンちゃん、と何度も声をかけてくれた。
殿なんか看護婦さんにだっこされて「苦しゅうない」の顔になってたもんだ。
うーん、やっぱり人としていいな、と思えない人に猫の診察を任せるなんてできない。
家に戻ってコーヒーを淹れて30分ほど休憩。
ダー起きてくる。普通に話しかけてくるので「ふん」という。
すると私の両腕をつかみ、何何なんでそんなに怒ってるの?
どうしたの?という。なんだか必死なので笑ってしまう。
でも怒ったふりを続ける。
仕事に行くので駅まで歩いてたら、
いつのまにか隣にいた。「ふん」というと、おかまいないに話しはじめた。
「昨日電話したとき打ち合わせから会社に戻るとこだったんだけど、
そんとき、会社の裏の駐車場に野良猫が十匹くらいいてね、
おばちゃんがご飯あげてて、ちょっと見てたら、
おばちゃんが話しかけてくるの。
ずっと猫たちにご飯あげてた人が急にいなくなっちゃったんだって。
それでそのおばちゃんが後を引き継いだみたい。
すぐ前にコンビニあったから、俺も黒缶買ってきてあげたの。
おばちゃんが、最後まで見てて片付けてくれるってゆうから。
おばちゃんが、膝に乗るのはこの子だけ、
っていう子がすぐ寄ってきて食べ始めたけど、
ほかのやつらはちょっと離れていいなぁ、って顔で見てるの」
「へぇ、またおばちゃんに会ったら、応援してね」「うん」
そして渋谷でいつも通りに別れる。
会社では、おかまDがドンちゃんを飛ばそうとしてて雰囲気が悪い。
ドンちゃんがいなくなったら、私も辞めてもいいかも。
そんなのどこ吹く風なドンちゃんは、絶好調なんですよ、といってた。
Nを誘っても断られるもん、といってたけど、
そろそろ一度飲みにいきたいな。
ドンちゃんもDも今頃になって
ホワイトデーは休みだったから代わりに何かしたい、とかいってる。
お昼は銀座に行ってはしご。スープまで完食。
帰り、T駅で待ち合わせてCに会う。
Cんちへ行くと、デザイナー気取りで〝素材〟買ってきて、
できたのがこれ、といってプラスチックの衣装ケースに
〝素材〟を貼って作った手作り家具を見せてくれる。
「旦那が見るたび失笑してる」。
ヨガマットはキッチンマットになっていた。
「ヨガマットがテーマカラーなの」。
ノンチがさらに太っていた。
ビーと違って手足・しっぽが細いので、なんだかバランスが悪い。
太って、つやつやしていて、黒いのでフケが目立った。
DVD「ツィゴイネルワイゼン」を見てたら腹が減り、丸亀でうどん。
二人ともホルモンの関係で薄味のものなんかよくわからなくなっていて
選択ミスだった。釜玉にさらに醤油かけて食べる。
その後、涙が出るほど笑ったりしてたけど、何しゃべったのかあまり覚えていない。
ちょっと前、不動産屋などとおかしなことになってたことの話をしてて、
私が「おかしな…」といったら「うるさいな!」と怒鳴っていた。
自分で「おかしかったあの頃」と何度もいってるのに。
「お香がテーブル貫通しちゃって、あたしがやったのに旦那を怒った。
ちゃんと見てなきゃだめじゃん、って。旦那普通に謝ってた」。
私も、ダーがなにもやらないという話をすると、
「前に自分の分だけ食器洗ったことがあって、
そのとき、『ふん。器量の小さい男』っていったらそれからやるようになったよ」。
戻ってあいのりのビデオ見て、一服して家を出る。
帰り道、帰る方角にずっと月が出ていた。
下弦の半月が、水の表面張力みたいにぷっくらと膨らんでる月。
低いところ、ビルの谷間に見えた。
瑞々しい、黄色っぽい月は春の月だ。
渋滞で道が混んでて、サージェントペパーなんか聞いてたら
頭がボヤボヤになって寝てしまいそうだった。
フタコの川沿いに着くと、川の上に、月がさらに沈んで大きく赤く、
燃えてるようになっているのが見えた。
二人で「わぁ!」「すげぇ!」といいながら見てたら、
道の川側に、毎年そこだけ早咲きするところの桜の木が、
今年ももう7分くらい咲いていて、夜に花が白く浮かび上がった。
「うわ~!」「わぁ!」「すごい!!」「すっごいね」とただそれだけいってて、
通り過ぎてから、「戻る?」「戻る?」で、戻るはずが、
気がついたら、見覚えの無い急勾配にいて、
坂の上から遠くの街を見渡す景色になんとなく見覚えがあったけど、
いつ来たのかまったく覚えてない。
なんだか、うちの実家の方で似た場所は覚えてるけど…
なんて夢心地のまま、なんとか川に出て、
桜のとこまで戻り、車を止めた。
桜を近くで見ようとしたけど、寒さがハンパじゃないのだった。
日中は17度くらいはあったのに、7度まで下がってる。寒すぎ。
私はさっさと車に戻る。
帰ってから、倉庫部屋でしばらく猫たちと遊ぶ。
遅く帰った日は、ビーがすぐに寄ってきて、
私の顔を見ると安心したように「グフー」「クツクツクツ」とのどを鳴らす。
殿は私が遅く帰るとご立腹で、自分から寄ってこないので、
私の方から抱き上げに行かせていただく。
モンチは私のことなんか忘れてたみたいに、
倉庫部屋の物の奥に隠れて、野良猫みたいな顔で見てる。
お風呂であったまってから、パソコンを開こうとしたら、
猫用のコップがひっくり返ってて濡れていた。
電源入れても灰色の画面しか出ない。
もういいや、と思って寝る。