グローバル・タックス研究会 ~Study Group On Global Tax~

貧困のない、公正かつ持続可能なグローバリゼーションのための「グローバル・タックス」を提言する、市民研究グループです。

G20金融サミット:トービン税議論と成果(メルケル首相が提案)

2009-09-28 | 国連、G20、G8サミットなど
                  ドイツ・シュタインブリュック財務大臣

G20サミットに向け盛り上がったトービン税議論--サミットではどのような議論が行われ、結論(成果)はいかなるものだったでしょうか。ロイター通信などの海外のメディア報道と欧州のNGOからの報告によりますと、サミットでは次のような議論が行われたようです。

●議論:金融サービス業界にコストの一端を担わせるということで議論し、ドイツ・メルケル首相が通貨取引税を提起。フランス、スペイン、オーストリア、英国が支持表明との情報(英財務省は否定)。コストを担わせる選択肢(通貨取引税も含む)について報告するようIMFに要請した、とのことです。

ということで、確かに通貨取引税(トービン税)については議論されました。その目的は、危機を引き起こした金融セクターに一定のコストを支払わせるための原資として考えようというものです。

その結果、この議論がどう首脳声明(コミュニケ)に反映されたかというと、残念ながら通貨取引税(トービン税)という言葉はありませんでしたが、次のような記述となりました。

●結論(成果):<首脳声明の本文・第16パラグラフ>
「16.我々は、IMFに対して、金融セクターが銀行システムの修復のための政府の介入に関係するいかなる負担に対し公平かつ実質的な貢献をどのようになし得るかについての各国がとってきた又はとることを検討している一連の選択肢に関し、我々の次回会合のために、報告書を準備するよう指示する。」

●私たちの評価:G20諸国は、これまで今回の金融危機・世界経済危機をもたらした「原因」については、「金融セクター及び金融規制・監督における主要な失敗が危機の根本原因であった」(4.2ロンドンサミット)等と甘い分析だとは思いますが、一応行っています。しかし、肝心の「責任」については一切語ってきませんでした。今サミットでようやくコスト負担という形ですが、金融セクターの責任を問い始めました。一歩、いや半歩前進と言えるでしょう。金融当局、政策当局の責任もぜひ問うべきです。

●「投機家負担の原則」の確立を:環境政策においては「汚染者負担の原則」というのがあり、「環境を汚染したものは自ら責任を取り(修復の)コストも払うべき」という考え方が一般的です。金融システムを危機におとしいれ、ばく大な損失をもたらした根本原因は「暴走する(規制なき)金融投機」「カジノ資本主義」であったことは明白です。投機家が責任を取りコストを支払うべき「投機家負担の原則」の確立が今求められています。これが確立されれば、通貨取引税を含むあらゆる金融取引に税金をかけ、かかったコストを返済していくことは当然のこととなります。

●世界の政治リーダーの中で、はじめて金融セクターの責任を問うことになるペール・シュタインブリュック・ドイツ財務大臣のフィナンシャル・タイムズ紙への寄稿文を送ります。


取引に課税し危機のコスト負担共有を


ペール・シュタインブリュック ドイツ財務大臣
フィナンシャル・タイムズ(FT.com)発行:2009年9月24日

 
世界金融市場の何がいけなかったのだろうか。極めて簡単に言えば、現代金融の素晴らしい新世界の内部崩壊とそれに続く経済危機は、自由資本市場だけで経済の繁栄が可能だという考え方に起因している。今回の危機は、低利資金、規制撤廃、リスクを顧みない経営幹部による収益競争の組み合わせが発端となっている。

住宅バブルが崩壊し、その結果として金融市場が暴落したとき、大恐慌以来最悪の世界同時不況が到来した。

これらの苦難にもかかわらず、生き残った金融市場参加者らは政府救済策により大幅な利益を得ることとなる。G20各国が金融セクターにつぎ込んだ支援の額は平均で国民総生産の30%以上に上る(資本注入、保証、財政融資、資産買収、流動資産の提供、その他の中央銀行による支援を含む)。今回の危機への政治的対応において、新しい形の財政的負担の共有が必要となっている。そのうちの1つが国際金融取引税である。

生き残った金融市場参加者らはこの危機において、自らの負担分を十分に負っていない。しかし実体経済の従事者らは、ウォール街、そしてロンドンやフランクフルトで何が起きているかを理解している。市民らは、銀行にてこ入れするために何千億ユーロ、何千億ドルという資金がつぎ込まれていることを理解している。金融セクターにおけるボーナスの支払いと実体経済における大規模な雇用削減は今、緊密に関係しているのである。

今回の危機を受けての政治的解決策は、規制体制の強化、リスク管理戦略の改善および自己資本比率の引き上げにとどまらず、より広い分野を網羅する必要がある。ウォール街と実体経済の間の負担共有を政府がどのように扱うかによって、社会的一体性、市場の安定、今後数年間にわたる政治指導者らの世評が決まるのである。
もちろん、政府保証に対する補償金の支払いおよび手数料は、公的資金による安定化措置に参加した銀行に課されることになる。しかしそれだけでは十分ではない。金融市場参加者らは、危機を招いた自らの責任を理解していること、および危機の再発防止に重要な貢献をする意思があることを示す必要がある。

金融市場参加者の全員が同等の貢献を行うようにするためには、全てのG20参加国における国際金融取引税の課税が明らかに適切な手段といえる。フランク=ヴァルター・シュタインマイアー独外相と私は、(取引所で行われる取引であろうとなかろうと関係なく)G20参加国の管轄区域における全ての金融商品取引に対して0.05%の課税を実施することを目指し、G20が具体的措置を取るよう提案する。個人投資家を免税の対象とすることも考えられる。

オーストリア経済研究所(Austrian Institute for Economic Research)の計算に基づくと、このような国際税を0.05%の税率で課税した場合、年間6900億ドル(世界のGDPの約1.4%に相当)を創出できる可能性がある。この税は金融市場参加者に過度の負担をかけることなく、危機のコストを支払うための相当な額の資金を創出することができるのである。

金融市場参加者らは、自分達の公正な負担分を支払うことを避けようと必死に抵抗している。中には、そのような税は投資家による脱税行為を招き市場をゆがめる作用があると唱えている。しかしG20が団結して立ち上がれば脱税行為は不可能に近いのである。

G20および欧州連合における取引所の出来高は、取引所で取引される株式全体の約97%、および取引所で取引される債券の約94%を占めている。国際金融取引税の税率は非常に低く、またデリバティブおよび店頭市場の取引、全ての資産区分(株式、債券、デリバティブおよび外国為替)に課税されることから、市場を大幅にゆがめる作用もない。また私はこの税が市場の流動性に大きな影響を与えるとは考えていない。もし影響を与えたとしても、買い持ちを促すことは悪いことではないだろう。

ピッツバーグでのG20会議の準備期間にロンドンで会合した財務相による議論では、今回の金融危機がもたらした負担が公平な形で共有されるべきだという基本合意があることが明らかになった。G20サミットでは、我々は納税者と金融市場参加者の間における公正かつ衡平な負担共有がどうあるべきかを議論すべきである。アンゲラ・メルケル独首相は、ゴードン・ブラウン英首相およびニコラ・サルコジ仏大統領がこのような案を支持していることを明らかにした。さらにEUその他の国々も相次いでこの案に対する関心を我々に示してきている。

国際金融取引税を進める論拠は明らかである―この税は公正であり、害にならず、多くの利益をもたらす。もしこの案より適当な、公正な負担共有の方法があるならば、聞かせてもらいたい。もしないのならば、この税をただちに導入しようではないか。

◆出典;http://www.ft.com/cms/s/0/25afd1d4-a905-11de-b8bd-00144feabdc0.html




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