『パンとサーカス』島田雅彦 2023-12-03 08:28:11 | 読書 この本はいったいなんだろ! 小説にはちがいない。 文体は、どこかこなれない翻訳本を読んでいるような感じで、 例えば場所の細かい描写などはなく、筋書きがどんどん運ばれていく。 レポート的な? そんなそっけない書き方なのに、その内容にぐんぐん先へ導かれる。 そして、今の日本を考え、怖くなる。 日本人であれば、読まなければならない本だと思う。
斎藤幸平とマルクス 2023-11-20 08:26:57 | 読書 『大洪水の前に』読書中。 斎藤さんが、どのようにしてマルクスと出会ったのか。 そこが分からないけれど、知りたい。 膨大なマルクスの著作、資料のみならず、マルクスについて書かれた多くの文献を読みこなして、マルクスと環境問題を語る。 「マルクスは環境問題を考察していた」ということを語りつつ、斎藤さんの明確な主張は、「資本主義では環境問題は解決しない」ということだ。 資本主義の明確な否定、代わるものとしてのコモンズ。生活に不可欠なもの、とくに生産手段を共有するということ。 共産党独裁に陥ってしまった共産主義ではなく、新しい共産の提唱。それが、マルクスの望んでいたことだ、と。 この人がマルクスを語るとき、単に研究対象ではなく、尊敬と愛を感じる。 ただ「賢い」だけのひとではない。ただならぬほど賢いけれど。 この深いマルクス研究に対して、マルクスが基盤になっているはず(?)の日本共産党はどう考えているのかな。 謙虚に学ぶべきだと思うのだけれど。
ムーミン2 2023-07-24 08:44:55 | 読書 これまでムーミンを読んで、良かったとか感動したとか思ったことがない。 まりこさんにムーミンランドに行こうと誘われたとき、正直言って気乗りがしなかった。 それでムーミンを読んでみることにした。 トーベ・ヤンソン原案という絵本が多くて、実は私はトーベが書いたものを読んでいなかったと気づいた。ムーミンを借りて、誰か違う人が書いたものらしい、と。 ここまでは、全回書いた。 それでムーミン全集を1から読んでみることにした。以下、ムーミン全集(講談社)より。 ムーミン全集1 ムーミン谷の彗星 スニフがとても面白い。怖がりで、自慢したがりで、キーキーと自分の存在を主張したがり、宝欲張りで、文句を垂れるし、良い子ではないけれど、愛すべき存在。 スナフキンは自由に生きている。誰にも束縛されず、誰も束縛しない。 じゃこうねずみが「地球が滅びる」などと子ども(ムーミン)の前で言うので、ムーミンママがムーミンパパに「じゃこうねずみさんが、子どもたちをいっそうこわがらせるのよ。あの人に楽しい話をするか、そうでなければ、なにもいわないように、おねがいしてくださいません?」とたのんだとき、言ったムーミンパパのことば。 「うん、そうしてみよう」「あの人は、ひとりぐらしが長かったから、いいたいことをそのまま口に出してしまうんじゃないかな」 ママに同意しつつも、じゃこうねずみへの思いやり。 ガーネットの谷間で、スニフがかかえきれないほどガーネットを採るが、オオトカゲに追われて結局すべて失くしてしまう。 逃げ帰ったスニフと谷底のオオトカゲを見て、ムーミンは「なんてこった」 スニフは地面に座り込んで泣いている。 スナフキン「すんだことだよ。ね、きみ」 スニフ「ガーネットが……ぼく、一つも取ってこられなかったよ」 スナフキン「なんでも自分のものにして、持って帰ろうとすると、むずかしくなっちゃうんだよ。ぼくはみるだけにしてるんだ。そして立ち去るときには、頭の中へしまっておく。ぼくはそれで、かばんを持ち歩くよりも、ずっとたのしいね」 スニフ「ガーネットはリュックに入れられたのに。(そのリュックも波にのまれてなくしてしまうのだが)観るだけと、手に持って自分のだと思うのとは、ぜんぜんちがうよ」 こういったやりとりを通して見える価値観の違いのおもしろさ。 自分はどうだろうか。 ムーミン全集2 楽しいムーミン一家 にょろにょろの気圧計をヘムレンさんがとってしまい、ヘムレンさんは取り返しに来たにょろにょろに感電したり、その拍子にテントを倒してその下敷きになったりする。 ヘムレンさんは嘆く。 「これじゃあ、あんまりだ。どうしてなんの罪もないまずしい植物学者が、平和な一生をおくれないのだろうか」 「生きるってことは、平和じゃないんですよ」とスナフキン。 自分が原因をつくっていることの分からなさ。生きるとはどういうことか。 ムーミン全集3 ムーミンパパの思い出 フレドリクソンとムーミンパパの会話 ム「ヨクサルがあんなに無関心なのは、おかしいと思わないか?」 フ「ふむ、もしかしたらまるっきり反対で、ヨクサルはあらゆることを気にかけているのかもしれないよ。落ち着き払って、ほどほどにね。 ぼくたちは、一つのことばかり考えてしまうんだなあ。きみはなにかになりたがっている。ぼくはなにかをつくりたいし、僕の甥は、なにかをほしがっている。それなのにヨクサルは、ただ生きようとしているんだ」 ム「生きるなんて、だれにだってできるじゃないか」 フ「ふむ」 ここでも、生きるとはどういうことか。 お化けがムーミンパパの予言通りやって来てみんなを驚かすかどうか、不安の中で待つムーミンパパの心の内。 どんなことをしてでも、まわりに強い印象をあたえたいというのが、わたしの性分なんです。尊敬でもいいし、同情でもいいし、恐怖でもいい。とにかく、人にわたしというものを印象付けることです。この性分はたぶん、人から無視されがちだった、わたしの子ども時代の影響でしょうね。 自分自身への省察。 自由気ままな冒険仲間が定住に安住しているのを見て、 いちばんこまったのは、そういうくらし方が、わたしにもうつってしまったことでした。略 愛する読者のみなさん、わたしの気持ちをわかってくれるでしょうか。はじめのうちは、たとえ閉じこめられていても、外のことを気にしていたのですが、しまいにはなんにも考えなくなってしまいました。 自分自身への省察。 生きること、自分というものについて、常に語られる。 ムーミントロールのお話は、多様な生き様を登場させ、負の感情をいだいても、誰かの前向きな、あるいは深みのあることばをちりばめて、日常と冒険を織りまぜておおむね楽しく進んでいく。 第7巻は、ちょっと様子が違う。 負の感情が渦巻く。 トーンが暗い。 スナフキンでさえ、不機嫌だ。 それでも時間が立つにつれ、それぞれの道へ歩みだしていく。 ムーミンには興味が湧いてきたけれど、テーマパークにはあまり興味が湧かない。 まだ行ってないが、はたして行くのだろうか。
ムーミン 2023-06-22 09:22:34 | 読書 ムーミンバレーパークという施設が埼玉県飯能市にあるそうな。 ムーミンの世界を追体験できるところだそうな。 誘われて、行くことになるらしい。 でも私はムーミンに全く思い入れがない。 したがって、楽しめそうにない。 ムーミンのどこがよいのやら。 ということで、トーベ・ヤンソンについて調べたりした。 気がついたのは、私はトーベ・ヤンソンが書いたムーミンを読んでいないということ。 原案からつくられた絵本を、我が子にいくつか読んで聞かせる機会があっただけ。 それらの本は、どうやら換骨奪胎で、トーベの哲学が無いようだ。 というわけで、現在ムーミン全集を1から読んでいる。 人間というものが、よく語られている。 なるほど、人気があるわけだ。 だけど、こういったことの何を追体験できるのか? 俄然、興味が湧いてい来た。
『ザリガニの鳴くところ』 2023-06-10 07:14:49 | 読書 これまでの私の価値観をくつがえす小説だった。 自然の描写がリアルで美しい。 映画になることを前提に書かれたような過去と現在の巧みな進行。 映画は観ていない。 たぶん観ない。 映画では、この価値観の変化はおこらないと思えるから。