中小企業診断士 福田 徹 ブログ

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吉野家という企業(2):環境変化への対応

2008年05月06日 | 福田徹の飲食業
 先日の記事のつづきです。2003年末の米国でのBSE発生により、牛丼専門店としての吉野家は、輸入済牛肉の在庫切れと同時にメインの商品を失うという危機に見舞われます。まさに、「そばやでそばがない状態」が1、2ヶ月後に予想されたのです。

米国BSE発生後の対応
 
2003年末の米国でのBSE感染牛の発生直後から、吉野家の新メニューの検討が始まりました。1000店舗近くの店舗で売るものを短期間に探すのです。もともとある店舗で販売するのですから、客層や客単価、オペレーション、厨房設備の面などで、牛丼専門店「吉野家」業態に制約を受けます。さらに、調達する量たるや1000店舗分の膨大な量です。単品メニューでこれだけのボリュームを1、2ヶ月後に確保することはまず不可能です。
 また、店舗でのオペレーションの確立にも時間が掛かるため、牛丼がなくなってから新メニューを導入するのでは遅いのです。新メニューを徐々に、導入して厨房や接客のオペレーションを作っていく必要がありました。新メニューと牛丼の平行販売には、本格的な対策を打つための時間を稼ぐ意味もありました。
 最初に導入したのはカレーでした。輸入禁止処置からわずか2週間後の1月初旬に導入されたのは、「千吉」のカレーでした。「千吉」は、吉野家が「カレー亭」、「POT&POT」などの名前で続けてきたカレー業態開発のカレーうどん専門店です。そのカレーがカレー丼として、吉野家のメニューに導入されました。最初に導入されたこのカレーは、カレー専門店のレシピですから、本格的なカレーであり、店舗での調理もファストフード店としては手が込んでいました。
 続いて麻婆丼、豚キムチ丼などの業務用冷凍食品に一手間掛けただけのメニューを導入しました。これらはいかにもな間に合わせメニューでありました。
 吉野家の緊急対応は、自社でノウハウをもっていたカレーと、湯煎などで既存設備による調理が可能な既存の業務用冷凍食品メニューの導入による時間稼ぎでした。2004年の年初から2月までに導入された、これらのメニューは既存業態の客層・客単価、オペレーション、厨房設備の制約をクリアして、牛丼在庫を引き延ばし、本格的対策までの時間をわずかでも稼ぐことに成功しました。
 このとき各店舗では毎週のように次から次へと導入される新メニュー導入やオペレーション変更への対応が必要でした。このとき吉野家の店長以下従業員は複数メニューへのオペレーション対応の経験を得ました。こんなことは普通の外食チェーンでは当たり前のことですが、吉野家では前回述べたとおり単品オペレーションが追求されていたために、この経験が薄かったのです。この経験は、今後の吉野家にとって得難いものでした。

 2月中旬、米国産牛肉の在庫がなくなり、牛丼の販売が休止されました。吉野家各店は、急ごしらえのメニューだけの「そばやでそばがない状態」に陥りました。3月、牛丼の製造設備を使い、製造オペレーションも牛丼の応用が可能な「豚丼」を導入しました。

 次回は、2004年3月以降の吉野家を見ていきます。