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値下がりをどう処理するか 負債と「のれん」の評価

2014-03-21 19:21:59 | Financial Management
売買目的のものの時価評価は異論はない。
その他有価証券の時価評価
 下落率50%未満:評価損を損益計算書を通さず自己資本に反映する(自己資本 ー評価損+評価損×税率=ー評価損×(1-税率))が簿価は変えない。つまり評価損だけ損失が生じたことを自己資本にだけ反映させる。
 下落率50%以上:評価損を損益計算書に反映し(減損処理をし)、かつ簿価も変更する。投資有価証券の時価が帳簿価格の半値を下回るとその差額を原則として評価損に計上しなければならない。

持ち合い株式の扱い
 2009年秋に公表された国際基準IFRS案では持ち合い株式の時価変動を純利益に影響させない例外処理が盛り込まれた
 原則は時価変動を純利益に計上。持ち合い株式については包括損益への計上も選択できる
 貸付金は償却原価で計上
 ⇔時価会計厳しすぎると危機を助長する
 また将来の損失を見越して前倒し処理する新ルール案 ⇔ 損失認識の遅れ 含み損の不透明さに反省
                                    
米財務会計基準審議会案FASB(2010年5月下旬)
 時価評価の原理主義 決算の透明性重視する投資家に配慮
 持ち合い株を純利益に反映させずに済む例外措置がない すべて純利益に計上
 預金や貸付債権など国際基準では対象としていないものも時価評価
 原則は時価変動を包括損益に計上
 →米国内では機関投資家など投資家は透明性を支持。しかし銀行団体は毎期の収益のブレが、貸し渋りにつながると批判

満期まで保有する金融商品の扱い
 米財務会計基準審議会FASBは2010年5月に時価会計の全面適用を打ち出したが、貸し渋りにつながるなどの批判を受けて、2011年1月、満期まで保有する場合は、償却原価での処理を認めるように方針を変更した。
 時価会計が自己資本比率を悪化させ貸し渋りにつながるプロシクリカリティ(景気循環増幅効果)
 金融機関や米国議会の強い反発 満期保有の債券や貸付金 償却原価での処理を認めるようにFASBは軌道修正(2011年1月)

負債の評価益の計上問題
 国際会計基準審議会が先行して決定。米国では2007年11月から認められている。日本では認めていない。資産の評価損の計上の逆の問題。
 買い戻したと想定する。評価損益。問題は売買が成立しない証券化商品にどのように適用するか。
CDSが上昇する状況。発行している債券価格が下落したとする。
 安値での買い戻しをしたと考えて、元本との差額を利益と認識する。
 時価会計のもとでは資産として保有する債券の値下がりを損失に計上することに対応している。
金融機関が出す債券の評価が問題になった。
 証券化商品のように市場が存在しないもの(レベル3)の扱いはどうするかには問題残る。
 国際会計基準審議会が金融機関の負債の評価益を認めない決定 2010年10月28日 

負ののれん
 買収価格が企業価値(企業価値の時価評価)より高い分をのれんといい、日本基準では20年以内に均等償却するとして費用計上する。
米欧基準ではこの償却の必要がないが、そのために利益が押し上げられやすい。しかし収益力が低下したとき(著しく企業価値が下がったと判断されたとき)減損損失を計上する。そのため不況時には、費用負担が過大になる。
 他方買収額が純資産額より小さい場合は「負ののれん」として計上。純利益の押し上げ要因になる。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in December 15, 2011



M&A会計 のれん代の償却見直しが課題

2014-03-21 19:06:33 | Financial Management
のれんの償却について:
 日本の現在の会計ルールではのれん(企業の買収価値と、時価価値との差額)を償却させている。これは のれんが表しているのは、収益力でそれが時間の経過とともに低下することを反映している。これに対して国際会計基準では償却させていないことが知られている。
IFRSでの のれんの償却 ifrs-in-english cocolog-nifty.com, 2010/02
IFRSを適用する会社では償却が廃止され利益が押し上げられること、負ののれんについては特別利益として一括計上されることになり利益の押し上げ効果が働くことなどを指摘している。
 のれんの償却は利益の減少要因であるので、IFRS基準に従って、のれんの償却を止めることは、日本企業の利益の押し上げにつながると考えられている。同様に企業買収時の「負ののれん」も利益押し上げ効果が指摘されている。このようにM&Aが、企業の利益に影響を与えることが知られている。
 言い換えると企業買収によって経費や利益は変動することがある。加えてその数値は会計処理方法によって変ってくる。そこで会計基準の変更が、企業買収の盛衰に影響することも十分想定できる。また企業買収が、会計操作(利益操作)を目的に行われることも排除できない。

 もともと国際会計基準は欧州発祥の会計ルール。2005年に欧州連合が域内に上場企業に強制適用。豪州、ブラジルなどが追随。しかし米国で移行のコストを中心に慎重姿勢が高まり日本の姿勢は変化。産業界で懐疑論が高まる中での東日本大震災は導入積極論の導入ありきの虚構を流し去った。ふ
まず日本企業に国際会計基準導入を義務付けすることに対し、相当の準備期間が必要として当面延期する方針が2011年6月に担当大臣から示され(当時の自見庄三郎金融担当相)、さらに2012年7月には米証券取引委員会が米国企業への国際会計基準適用の判断を先送りしたことで、日本にあった国際会計基準を絶対視する主張は事実上吹き飛んだ。2013年5月までに金融庁でも上場企業に対する国際会計基準強制適用の方針の見送りを固めた。
 しかし大変興味深いことは強制適用の話が吹くとんだあと、自発的に国際会計基準に移行する企業が、この前後から増えてきたことである。とくに企業買収ののれんの扱いは、日本の会計基準を採用する企業にとり、企業の利益の押し下げ要因になっている。そこで大型の企業買収を展開する企業のなかかから、国際会計基準に移行する企業が目立つようになった。(先行して住友商事、日本たばこ産業 2014年3月期からソフトバンク 武田薬品工業 アステラス製薬 2015年3月期から電通 富士通 など)。
    
M&A会計ルールの異同
 合併・買収などの会計処理方法として、買収した企業をどう帳簿に残すかについては、国際会計基準や米国基準で用いられてきたパーチェス法に日本でも一本化された。この方法では被買収企業の資産や負債を時価評価して、時価純資産額を計上。買収金額と時価純資産額の差額を、無形固定資産の「のれん」として資産に計上する。この「のれん」はブランド価値ともいえるものであり、一般にはプラスの大きさとして現れ資産に計上される。
のれん = 買収金額 - 時価純資産額
 2006年4月に導入された企業結合会計基準では、「のれん代」の20年以内の均等償却が導入されたが、これは「のれん代」の償却は行わない国際基準や米国基準とは違っている(償却期間などが恣意的になることが批判された 2002年に定期償却をアメリカは廃止した。その代わりに毎期、市場価値が低下していないか点検して、下がっていれば減損処理求められる このリスクに対して海外では自己資本を厚くもつ必要がある。買収が成功して利益が伸び、市場価値が上昇していれば費用計上は迫られない 日本の場合、償却するのは買収の経済効果が時間の減少とともに減少すると考えているのではないか)。
 直近ではソフトバンクによるスプリントネクステル買収(2013年7月)3000億円 20年で償還として1年に150億円。
 日本ルールのもとにある日本企業は利益が少なくみえる(企業の競争力が低く見られるリスクがある)。国際基準に移行すれば、利益水準は少し高くなるとの指摘がある。とくに大型買収になるほどこのことは企業収益に大きく影響する。一部の日本企業はこのことを嫌って、米国基準あるいはIFRS採用に踏み切るようになった(2014年3月期から日本たばこ産業 ソフトバンク 武田薬品工業 アステラス製薬 2015年3月期から電通)。
 国際基準では、固定資産の減価償却で定額法が多いがこのことも利益改善につながる。
 日本処理を支持する考え方) 
 超過収益は時間の経過とともに減少する可能性が高い。したがって償却した方がいい。
 のれんの大きさの測定が経営者にゆだねられているのは問題。
 将来価値がなくなり損失処理する可能性は残る。
 国際基準を支持する考え方)
 企業を比較するうえでは基準がそろっている方が比較しやすい。
 償却すると償却期間により利益がぶれる。
 
 (アメリカではパーチェス法のもとにある企業は40年償却をおこなっていたようだ。ところが国内で持ち分法の企業もあるなか、パーチェスに統合したときに、影響の大きさから償却そのものを止める判断をしたとのこと。)そのことが日本企業の企業買収を抑えているとの指摘がある。また利益が増えれば法人税収を増やすことにもなる。
 企業買収の扱い方を、米欧型にすると確かに企業買収直後の利益は高くなる。そのため企業の税負担が上昇する。ところが市場環境が悪化して、買収企業の価値が大きく下落した場合には、損失が急拡大するリスクがある。

 なお日本では対等合併のケース(統合後の議決権割合が45%から55%の範囲の場合)に限り、持ち分プーリング法を例外的に認めた(2006年4月時点)。この場合は、相手企業の資産・負債や純資産を簿価でひきつぐ。これは企業の継続を想定しているからとの説明を読んだ。この持分法でも「のれん」に相当する大きさがある。しかし、投資金額に「のれん」が含まれた形でしか、認識されない。買収対価を発生させないで
 
パーチェス法に一本化へ 大和総研 2007/12/27 ASBJの論点整理 2007/12/27 についての解説
2008年12月に企業結合基準が改定され、2010年4月以降、持ち分プーリング法の適用は禁止された。
2008/12/26公表の企業会計基準等(ASBJ)について
 この「のれんの償却」を含み損処理に悪用したのが2011年10月に発覚したオリンパスの不正経理だった。最初は含み損のある金融商品を簿価のまま売却する「とばし」という手法でファンドにつけかえたものの損失を回復できず損失はむしろ拡大。結局、企業買収に絡んで巨額ののれんを計上、これを償却することで、含み損を処理したとみられる。当初、オリンパスは問題を指摘した英国人社長を解任して、ことを会社ぐるみでごまかそうとした。事件発覚後も、英国人社長の解任に賛成し、また問題の企業買収に役員会で賛成票を投じた人物が社長を続けた。監査法人に対する責任問題、東京証券取引所での上場維持問題が絡んでいる。
 参照 「オリンパス含み損処理の全容」『エコノミスト』2011年12月13日号, pp.15-16.
    「オリンパスの調査報告書」『金融財政事情』2011年12月19日号, p.9. 

評判がよくなかった2006年4月の企業結合会計基準
 2006年4月に導入された企業結合会計基準では、対等合併以外の買収と認定されるケースについては、資産の時価評価が求められることになった。その点で日本のM&A会計ルールは国際ルールに近くなった。しかし「のれん」の償却という日本ルールは残され、かつ、従来、日本の企業の多くが行っていた、のれん代の一括償却を原則禁止した。原則として、実際の買収価格から純資産額を引いた額である「のれん代」を<20年以内に均等割り償却処理するもの>とした。
 また長期間の均等償却は、長期間にわたり企業収益の減益(営業外費用)となる点で、企業経営者が好まないやりかただった。
 国際基準などで償却しない背景には買収により取得されたブランド価値について、日本では時間とともに減少する(時間とともに劣化する)と考えるのに、国際基準(米国基準)ではブランド価値は変わらないとしているという考え方の違いがある。だから英米では大幅に価値が減ったときだけ減損処理をすればよいと考える。このような減損処理の考え方は、日本も同じである。
 2006年の企業結合会計基準が示した「のれん代」均等償却論は、正の「のれん」の償却をそもそも想定していない国際基準とは食い違っている。また一括償却が禁止されて、のれん代の償却の影響が長期化する点では、日本の企業経営者に不満を残す内容でもあった。 
 なお買収金額が被買収企業の純資産を下回る場合は「負ののれん」を負債計上する。その償却額は営業外収益の利益となる。これも最大20年かけて均等償却、つまり長期間にわたる増益要因とする。
 まとめると国際会計基準や米国会計基準では、のれん代を償却処理しない。しかしのれん代の価値を定期的に評価しなおし大幅に下落したら減損処理する点は日本と同じである。

日本のM&A会計ルールは国際会計基準にどこまで近寄るか
 このようなM&A会計ルールの違いは、日本の企業会計基準が海外の基準と違う残された大きな論点になっている。それが日本企業の企業買収を阻害しているとの指摘も行われている。もともと国際基準は、企業買収に積極的な国際企業の意向を受けて作成されたとされる。日本ルールは、時価会計の部分をつまみぐいする一方で、償却についての日本ルールを残すものとなっている。
 会計ルールの統一をコンバージェンスというが、日本の会計ルールが孤立することは結果として、企業活動に負担が多く好ましいことではない。妥協を求める声も強まり、2007年8月に日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は、国際会計基準理事会(IASB)との間で2011年6月末までに基準を共通化することで合意した。2008年中に、ASBJは、持ち分プーリング法については廃止して、時価会計の原則を広げる方針を固めるとみられる。これは簿価会計方式を廃止して時価会計方式に一本化することを意味している。
 そして償却処理のうち「負ののれん」については、買収時に一括して利益計上するとの変更が確認されている。
 最後に残る問題は「正ののれん」の償却という日本ルールを廃止するかどうかである。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in December 15, 2011
reposted Mar.21, 2014



Research: 銀行間金利をめぐる不正と対策

2014-01-05 12:16:44 | Financial Management
ロンドン市場への信頼を低下させたLIBOR不正事件(2012年6月27日)
英大手銀行バークレイズがロンドン銀行間取引金利LIBOR(ライボー)での不正操作で処分を受けた。
(2012年6月27日 米英当局に対しバークレイズに2億9000万ポンド=約350億円の課徴金支払いを発表
 7月3日 バークレイズ首脳が辞任)
この事件は2つにわかれており、第一の事件では。
トレーダーがデリバテブで荒稼ぎするため、LIBOR担当者に不正をもちかけたとされる。
不正は2005年から2009年までの長期間繰り返された。
また2008年の金融危機のときのもう一つの事件では、
自行の信用を補うため、幹部の指示で低く偽ったとのこと

この問題は、ロンドンの金融市場で、自分たちがもうかれば
それでいいという道徳のない世界が広がっていることを示した。

現状は、問題を監督する側と監督される側は仲間意識で包まれ不正摘発に進みにくい
(英銀行協会BBAの外為資金市場委員会は金利提示行で構成される内部組織、
監督組織のFSAは実は身内の民間組織。
中央銀行であるイングランド銀行も銀行関係者との仲間意識に包まれている。
今回の問題ではイングランド銀行のタッカー副総裁の直接の関与が暴かれている。)

LIBORについては英国銀行協会が1986年から公表導入。仕組みは主要行が午前11時にまとまった金額を借りられるという
金利水準を銀行協会に申告。協会では上下4分の1ずつを除いた残りの平均を算出するというもの(ドルの場合で18行
円の場合では13行)。毎営業日の午前11時に収益して公表している。LIBORが基準となる取引は全世界で総額300兆ドル。
国際決済銀行の報告書(2008年春)が低い金利の提示問題を指摘して以降、議論が広がっていた。
デリバ取引を有利に進めるためたびたび虚偽の金利を申告、
あるいは金融危機に際しては信用力の低下を隠すため低い取引金利を示したとされる。

不正の指摘に2011年4月ころから米欧当局が捜査に着手 20前後の金融機関が調査の対象になっていた。
米シティG JPモルガンチェース 英ロイヤルバンクオブスコットランド 独ドイツ銀行
スイスUBSなど。
そのうちバークレイズが不正の事実を認めて2012年6月末に罰金を支払い。問題に火がついた。
なお捜査対象には東京三菱銀行(ロンドン)の行員も入っている。
2009年2月の円建て取引が問題になっているとのこと。

2005-2007年 バークレイズノトレーダーの荒稼ぎはスワップの共謀相手はみな昔の同僚。
こうした金融機関を超えた交友関係が不正の温床になっていた。

 LIBORを使った取引は世界で300兆ドル(約2京4000兆円 金利スワップが230兆ドル シローンが10兆ドル 変動利付債が3兆ドル)とされ
その影響は極めて大きく金融システムをゆるがほどの大きな問題とされる。
 取引金額から金利スワップ取引の拡大が重要なファクターであることがわかる。この取引は1980年代に拡大した。そこでイギリス銀行協会は1985年にイングランド銀行と協力して変動金利の指標となる金利を作成。1986年には貸し出しとスワップ取引の基準金利となるBBA・LIBORの公表を始めた。1986年はイギリスが金融改革に着手した年。LIBOR公表には米国外のドル取引きを主導する戦略的な狙いもあった。
2012年9月9-10日にスイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行の中央銀行総裁会議では議題の一つにLIBOR改革問題が取り上げられた。

改革の一つの焦点は想定借入金利ベースである点。想定される借入金利の自己申告という現在のデータの集め方には
確かに「不正」が入りやすい(とくに金融危機時の適正な金利設定にはむつかしさがある)。

またもう一つは金利を提示する参照銀行の数をふやすことだ。

そして最後は監視体制だ。銀行協会任せはやめて、第三者が監視して、必要に応じて立ち入り検査をして不正防止を徹底することだ。

さらには、商業銀行と投資銀行を分離して、とくに商業銀行の利益追求を厳しく制限することも必要だろう。

この問題をめぐってはNY連銀が2008年にイングランド銀行に改善を促したにも
かかわらず、イングランド銀行が長年にわたり問題を放置してきたことが明らかになっている。
加えてタッカー副総裁の場合はバークレイズに金利が高いことを注意する電話を入れて
バークレイズに偽装操作を指示した電話内容が明らかにされておりこの不正事件に直接関与した。
このことはイングランド銀行、そして次期総裁とされていたタッカー氏に対する信頼感の低下につながった。
バーゼル会議でキング イングランド銀行総裁が議論を呼びかけたとしてもむなしさは残る。
と同時にアメリカとしてはこの機会に英国主導でない新たな基準金利を目指したいところ。
同じ動きは欧州連合からも出されている。

2012年9月28日には英国政府がLIBOR改革案を示した。まず算出を銀行協会から新組織に移して英金融サービス機構(FSA)の
監督下に置くこと(FSAの機能は来年初めにイングランド銀行に吸収されるので、これはイングランド銀行が監督にあたるのと
同じ意味)。想定借入金利ではなく実際の銀行間取引を裏付けに算出したものとし、150にまで増えた基準金利
(10種類の通貨に15の貸し出し期間設定)
を20種類に絞り込むこと。申告を義務付ける金融機関を現行の16機関からできるだけ拡大すること。
申告金利は3け月以上経て公表とのこと。

その後2012年10月 英ロイヤルバンクオブスコットランドは過去の不正を見つけたとして行員4人を解雇したことを
明らかにした。バークレイズに続き不正が発覚したことで、この不正がイギリス銀行業界の体質になっていることも
明らかになったといえよう。

2012年12月11日 英重大不正捜査局(SFO)はLIBOR不正操作に絡んで英国人3人の逮捕を発表した。そのうちの一人は
金利操作の疑いで2011年にシティの東京オフィスを解雇された人物で元UBSに在籍(→トレーダーは移籍が多く
業界内の個人的つながりが強く、それが不正の背景になったとされる)。

2012年12月19日にはLIBORの不正事件でスイスの大手銀行UBSに総額14億フラン(1300億円)の課徴金を求める
行政処分が米英スイスの金融当局から発表された。UBSは2005年から2010年まで日本を含む複数の国で組織的に不正を
行っていた。不正対象はLIBORのほかEURIBOR。日本拠点での取引 円建てLIBORも不正の対象となった。
すでに日本の金融庁は2011年12月にUBS証券に対して、LIBORやTIBORを不正に操作しようとしたとして
UBS証券に一部業務停止命令を出している。円取引が不正の舞台であった可能性が浮上している。

LIBORと同じ問題が東京で全国銀行協会が算出する東京銀行間取引金利TIBORタイボー
(16の金融機関から申告を受け上下2行ずつを除いた12行の平均を算出)についてもあり、銀行協会では調査して
問題はなかったとしたが(8月10日)、しかしそれを信じるべき根拠はない。
算出基準のあいまいさ(みずからが優良銀行だったら出すであろう金利)
提示金利が横並びであること など
基本的には業界団体がこのような計算の算出・管理を行い、第三者が監督しないことの妥当性がある。
イギリスでの議論を受けて日本でもTIBORの見直しをするべきだろう。
(TIBORはコール市場の長めの取引使われるほか、スプレッド貸しの基準金利に活用されている)

イギリスでは銀行協会が算出権限を返上したとのこと。とはいえ
信用不安をさとられないように低い金利を今後も申告する誘惑は残る。
この問題は
業界団体の自主管理=金融業界の性善説、自由主義を盲信した金融規制緩和は転換点にあるといえよう。
もともとロンドンの金融センター機能を重視してきたイギリスは、ゆるやかな規制を売り物にしてきた。

なお1997年FSA発足は中央銀行の権力が弱めた一方 FSAにはきっちりした監督権限がなかった。
イギリスではFSAを解体(売り物は財源の独立で金融機関の納付金で賄う その長官の年収は1億円を超える。
金融業務に精通した人物ロいう名目のもと業界幹部が就任)。
イングランド銀行が来年から銀行監督の役割を担うことになった。
しかしイングランド銀行と市場関係者との仲間意識が問題にされているときに
この解決法はすごく奇妙だ。本当はFSAを監督組織として権限を強化するのが
正しい方向だったのではないか。

次のステップとして金融機関を投資銀行と商業銀行に分割すべきとの声もある。
しかしこれまでの経緯、とくにイングランド銀行の振る舞いからすれば
監督権を取り戻したイングランド銀行が不正の排除にどこまで真剣かはなお疑問かもしれない。

このLIBORをめぐる問題追及は2013年も続いた。関係したとみられる金融機関は拡大を続けた。
バークレイズに続き 2012年12月にはスイスのUBS.そして
2013年2月にはイギリスのロイヤルバンクオブスコットランド(RBS)さらにドイツ銀行が摘発された。
そして全銀協が不正はないと言い張った日本の市場でも問題があったことが判明する。

英RBSが荒稼ぎしていたのは2006-2010年の日本円やスイスフランでの取引だった。

欧米ではNYSEユーロネクスト(傘下にロンドン国際金融先物取引所)がLIBORの算出運営の権限を
英国銀行協会から引き継ぐとのことになった。

しかし日本で対策として出てきたのは全銀協に外部監査を導入。運営を独立の監視委員会で監督するというもの。
基本的な問題である業界団体がこの数値を算出するという仕組みには手をつけていない点でこの改善は
不十分なのではないだろうか。

2013年12月4日 欧州連合の欧州委員会は
複数の欧米金融機関がカルテル行為を実施したとして合計で17億1000万ユーロの制裁金を科した。問題に
されたはユーロ建て指標金利 さらに円建て指標金利。円建て東京銀行間金利
が改めて問題になった。全銀協の不十分な改革姿勢は問題とされてよいのではないか。


0riginally appeared in Sept.19, 2012
Corrected and reposted in January 5, 2014

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資産運用型ネットバンクの急伸

2013-08-19 19:01:56 | Financial Management
2ケタの伸びを示す資産運用型ネット銀行に注目
 2010-03 2012-03 2013-032013/2012
住信SBIネット銀行 11,938(75) 22,827(137) 26,910(165)  18%
大和ネクスト 14,328( 49) 22,107( 72)  54%
ソニー 15,100(79) 17,622( 89) 18,527( 92)   5%
イオン  6,371(142) 11,167(137) 12,201(306)   9%
楽天  6,962(346)  7,583(398)  8,362(425)  10%
ジャパンネット  4,438(212)  4,944(234)  5,087(246)   3%
セブン  1,295( 77)  3,722( 97)  3,946(107)   6%

注:資金量単位:億円 括弧内は口座数単位:万 最後の%は2012から2013年の資金量の増加率

資金量急増の背景としての銀証連携サービスの利便性 スウイープ機能
 大和ネクスト銀行―大和証券 ツインアカウント
 住信SBIネット銀行ーSBI証券 SBIハイブリッド預金 口座の半分は銀証連動口座 銀証連携でも先鞭
 楽天銀行―楽天証券 マネーブリッジ 201104導入
 ソニー銀行ーソニーバンク証券 資金スイープサービス
 なお住信SBIネット銀行とジャパンネクスト銀行はFXの取引手数料を無料化している。ソニー銀行では外貨預金と外貨MMFとFX取引の口座間を手数料なしで資金移動できる。 
ネット銀行。資産運用型。決済型。とに分けられるが資産運用型が急速に残高を増やしている。

ネットバンキング 残高の急増の反面 不正送金被害が多発している まず金融機関名でメールを送付。ウイルスに感染させてニセサイトを表示。ニセサイトに誘導 パスワードを盗み取る手口(フィッシング)。不正防止策としてトークン(1分ごとにパスワードが変わる仕組み)と呼ばれる専用端末を配る企業(ジャパンネット銀行では2006年に導入 全利用者に配布 ソニー銀行では2012年7月に導入)もある。

ネット銀行はいわゆる新しい銀行(新形態銀行)の一角。コンビニATMのセブン銀行に続き、資産運用型ネット銀行の躍進が脚光を浴びる可能性は高い

2013/03資金量預貸率開業年月
住信SBIネット銀行26,91042%開業2007-09*
大和ネクスト銀行22,107 4%開業2011-04**
ソニー銀行18,57452%開業2001-06***
イオン銀行12,20158%開業2007-10****
楽天銀行 8,36224%開業2001-07*****
ジャパンネット銀行 5,087 5%開業2000-10******
セブン銀行 3,946 1%開業2001-05*******

 資料:金融財政事情2013-07-08, 46-47

*住信SBIネクスト 住宅ローン カードローン推進 社債増やし国債減らす ネット専業銀行 ATMの利便性の高さ 住宅ローン(団体信用保険を拡充 保険料は銀行が負担)を借りている顧客のカードローン金利を優遇 系列のSBI証券と連携(証券口座との資金移動が即座にできる)。FX取引でも。資金増加急速。外貨預金の為替手数料の安さ 金利で評価。
**大和ネクスト銀行  債券売買益(国債運用 リスク管理を強化)で稼ぐ 大和証券の対面営業を活用 大和証券の顧客に決済用口座として活用させる ネット銀行 預金業務に特化 金利を高く設定 MRFのシステム運用維持に多額の費用が掛かる点を解消 管理コストの削減につなげる。背景には三井住友銀行との法人分野での合弁解消(2009年9月決定)も影響か。2011年5月13日開業。急速な資金増加⇔大和証券の営業力 富裕層を獲得
***ソニー銀行  住宅ローン推進 外貨での運用調達比較的多い ネット専業銀行 外貨預金のシェア高い(品揃えがよい レートは市場と連動する価格を常に表示) 住宅ローン(低金利 来店不要 固定・変動の金利の切り替え容易 繰り上げ返済無料化)などの特色 家計簿機能。個人向け顧客満足度評価で高い評価 住宅ローン残高は上位地銀並みの1兆円弱。外貨預金4000億円弱はメガに次ぐ規模。
****イオン銀行  住宅ローン推進 イオンクレジット(カード)を統合 保証料↑ 2011年9月に経営破綻した日本新興銀行を預金保険機構から引き継いでいる。イオンとしては中小企業向け融資を展開する足がかりとする狙い。さらに2013年1月にイオン銀行とイオンクレジットサービスを持株会社方式で経営統合している(2013年1月にイオンクレが株式交換方式でイオン銀行を完全子会社化。その後4月にイオンクレを持株会社に改組。イオン銀行に個人ローンやカード発行業務を移管するとのこと)。セブンと異なりコンビニの店舗が限られたことが融資強化の背景。 
*****楽天銀行  国債500億円のほか売却 カードローン カード債権への投資増やす 楽天グループ 24時間海外送金を受け付けている ポイント制度にも特徴 2010-0504 イーバンクから楽天銀行に改称
******ジャパンネット銀行 決済業務が主軸 運用で社債増やす  ネット専業銀行 
*******セブン銀行  ATM手数料(決済業務)が主軸 コンビニATMの領域を開拓者 全国1万8000台 24時間稼働のATM。2001-2010年の間に既存の銀行ATMの引き出しは年2億5000万件が2億円に減少。セブン銀行の利用はゼロから5億円へ。銀行では来店客数が減少。

付録 流通業界による銀行業への進出について(2009年4月の旧稿)
1.小売業界を取り巻く国内市場環境
 人口の減少もあり国内の小売市場は、売上高の縮小傾向という環境の中で収益力を改善する困難な課題に直面している。加えて2008年9月のリーマンショック以降、消費者の買い控え傾向が小売り市場を直撃している。
 1990年代初頭に10兆円(91年に9兆7000億円)近くあった国内百貨店売上高は2006年に約7兆8000億円、2007年には約7兆7000億円まで2兆円程度減少している。2008年通年では7兆3813億円で20年前の1987年(7兆4910億円)並み。1997年から11年連続の前年割れ。2008年にコンビニの売上高は7兆8000億円台なので百貨店売上高はコンビニに抜かれたことになる。
 他方スーパーの売上高も1996年度の17兆円近くをピークに減少。2006年度の売上は14兆円余りで3兆円の減少。これはほぼ1989年度の水準である。この間、店舗面積は増え続け、販売効率(面積あたり売上高)は低下した。コンビニはわずかに売上高が上昇しているとされるがその伸び率は次第に低下している(成長の鈍化)。
なおコンビニの店舗数は全国で2003年度末4万店(41,339)を超えているとされ(全国で5万店が限界とされ飽和状態ともいわれる)、市場規模は2003年度で7兆3202億円。しかし主要11社ベースの統計で2007年(既存店 主要11社ベース)の売り上げをみると、6兆8130億円でこれは8年連続減である。
 2007年3月にイオンがダイエー、丸紅と資本業務提携をすることが正式に決まった。これは年間売上で6兆1000億円を超える巨大流通Gの誕生である。総合スーパー業界は、セブンアイHD(セブンイレブン、イトーヨーカ堂、ミレニアムリテイリングなど売上は4兆8000億円を超える…三井物産と親密)とイオンG(イオン、マイカル、ミニストップ、ダイエー、グルメシシィなど)の2大グループ時代に入った。メーカーにとって価格交渉力(バイイングパワーbuying power)の強い巨大スーパーの出現は脅威。対抗上、メーカー側の再編が進むとの見方もある。
 ところでイオンのダイエーの再建への参加は、これまでダイエー 再建を主導してきた丸紅が、リストラ推進後も回復が遅い総合スーパー業の丸抱えリスクを回避した結果である。また丸紅としては三菱商事と親密なイオンを販売先として確保する戦略的意図もあった。他方、イオンはダイエーのほかダイエー傘下の食品スーパーマルエツやダイエー系ファッションビルOPAの取り込みなど販売ルートの拡大が狙いであった。このイオンの意向もあり2007年に入るとそれまで予定されていたOPAの株売却が見送られた。
その後、イオンは2008年4月に発表した経営3ヵ年計画において、国内事業については大規模な店舗閉鎖・転換。海外事業への投資拡大を打ち出した。主力の総合スーパーの4分の1にあたる約100店を閉鎖もしくは業態転換。SCの出店もペースを半減して選別を強化すると国内投資を抑制する一方で、アジア各国への進出を強化する(50店あまり→190店体制)。SCの出店もペース(現在は年10ヶ所)を半減して選別を強化するとした。
 ほぼ同時にイオンの好敵手であるセブン&アイ(傘下の子会社には2003年6月にそごうと西武百貨店の経営統合で生まれたミレニアムリテイリングを含む)も3ヵ年の中期経営計画を発表した。ここでも主力のコンビニ(全国で1万2000店)で600店、また外食(デニーズなどで680店)で140店の不採算店の閉鎖が謳われた。これは外食が赤字に転落、コンビニも二期連続営業減益になるなどの落ち込みがみられるため。また利益率の高い自主企画品の強化を打ち出した。
 この両社の違いは、イオンの営業利益率の低下が18%減だったのに、セブン&アイの低下は2%減と微減だったことが反映している。イオンは海外事業の急拡大に復活をかけいる。イオンについては以下も参照。ファーストリテイリング、イオン、オンワード、良品計画

2.流通と金融 イオン銀行の開業
 イオンの今一つの戦略は銀行だ。2007年10月末にイオン銀行が開業した。4店舗から始め次第に増やす。5年以内に60店舗。原則無休で朝9時から夜9時まで営業。有人店舗で世界的にもめずらすい流通と金融の融合。また独自の電子マネーWAONの機能をイオン銀行のキャッシュカードに搭載した。2001年開業の後述するセブン銀行に続く動き。セブンがATMの出し入れを主体とするのに、イオン銀行はインストアで幅広い金融商品を扱うのが特色。背景にはコンビニ店舗数の差がある。セブン&アイは全国に1万2000店舗。これに対してイオン系はミニストップ1800店。コンビニATMではイオンに競争力ない。しかし中大型店ではイオンは1500店とセブン&アイのほぼ倍。これを活かそうとの戦略だ。
 他方セブンイレブンは2006年9月にまず独自飲料で98円飲料投入。2006年10月しょうゆなど調味料など30品目で値下げ。他社も追随。価格を下げる新たな戦略開始でコンビニ業界は体力勝負に入る。2007年4月から独自電子nanaco取扱い開始。入金処理のスピードアップが可能。加えて入会時の情報を利用して顧客の購買分析に使える。当面は導入に伴うコスト、情報システム投資が利益を圧迫。なおローソンも2008年以降7年ぶりに情報システム更新。投資額450-500億円。

イオン(大型SC・量販店・スーパー)(ーダイエー・マルエツ)-三菱商事-ローソン-日本郵政
セブン&アイ(コンビニ中心)(-ミレニアムリテイリング)-三井物産

 なおコンビニは収納代行ですでに銀行の機能を上回ろうとしている。1987年にセブンイレブンが東京電力の電力料金を受けたのが始め。2005年 セブンイレブンだけで330社。予想扱い額2兆円以上、取扱い件数2億3千万。ローソンが1兆1000億円、1億3000万件。毎年2割前後伸びている。
 セブン銀行(01/04設立。ATM手数料を収益源とする独自のビジネスモデル。リスク資産を取り扱わないことで規模の拡大とともに安定した収益の伸びなど有利性発揮。04/03期に単年度黒字達成。05アイワイバンク銀行から社名変更。2008年2月末 ジャスダック取引所に上場)全国に1万2500台(07・10 2005/3に1万台超)。ATMの自社保有化。セブンはほとんどの店舗にATMを設置(他のコンビには5-7割)。独自のネットワークに強み(提携金融機関のネットワークに依存すると設置の自由度下がる)。2008年1月ジャスダックに上場。
 イーネット(ファミリーーマート、サンクスなど)、ローソンATMなどは既存銀行間ATMネットワークに依存。ファミリーマートは全国に7700台。このほかローソン、サークルKサンクスなど。コンビニATMは全国で2万4000台(06/6末)。ATM利用は無料化増える。ゆうちょ銀行。全国に2万6000台。セブンがゆうちょ銀行の最大のライバル。セブン銀行と提携して自行ATMを削減する地銀増える。1台の維持費。年間400-500万円。
 なお郵政とのコンビニのもう一つの対抗軸は、宅急便の扱い。ヤマト運輸とセブンイレブン、ファミリーマート(05/06)が組んだ他方では、ローソン(04/11 ヤマトとの提携を解消)やデイリーヤマザキなどは郵政公社と組んだ。コンビニ側の本音は両方扱いたいところであるが、それは郵政の側が認めなかった。
 店舗数の限られた銀行や地方銀行だけでなく、リストラを迫られている大手銀行の側でもコンビ二ATMを戦略的に活用する動きが広がっている。
 コンビニ業界ではこのほか店舗の差別化も課題。健康志向のナチュラルローソン。女性・中高年ねらい。セブンイレブンはドミナント戦略(一地域に集中出店 地域占有)。独自商品で差別化など。またファミリーマートは海外シフト。2008年度には店舗数で海外が多くなる予定。そして隠れた優良コンビニとしてJR東日本が展開するニューデイズが注目される。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in April 11, 2009.
Revised in August 19, 2013

Case Study: JT、船井電機、ミスミ

2013-05-23 06:54:19 | Financial Management
船井のビジネスモデル:OEMの徹底による効率経営
 船井電機はOEM(original equipment manufacturer: 相手先ブランドでの生産)で知られる。最近までは高い利益率を実現していた。OEM生産の利点は注文生産のため、売り残り在庫を抱えないこと。販売のための広告宣伝費も不要であること。黒子になるものの、このような高利益率になるビジネスモデルを船井はあえて選んできた。OEM生産のほかウオルマートでの販売で、北米のDVDシェアは5割近いとされていた。また国内に工場をもたないことも特徴であった。中国の工場では、あえて機械化を進めず、人手に頼ることでフレキシブルに様々なサイズのテレビを生産できるとしてきた。このような船井の戦略は、OEM生産とともに「逆張りの発想の経営」として知られる。2007年7月にはポーランドにも新工場(DVD録画再生機工場)を立ち上げた。

2010年3月期をピークに船井の業績は急降下している
 しかし北米依存型(2010年3月期で売上高の73%が北米のため北米景気の影響をうけやすい 後述するようにフィリップスの北米の液晶テレビ事業を2008年4月に取得。おかげでテレビ事業が2009年4-9月期黒字に転換。中国の委託生産工場で製造した廉価品をウオルマート等向けに販売している。)米国の景気悪化をうけてフィリップスブランドの高級機種が伸悩み、値引き販売で採算も悪化。2010年3月期は4期ぶりの黒字だったが、続かず2011年3月期は再び赤字に転落。2012年3月期 2013年3月期と売上の急激な落ち込み(売上は2010年3月期がピーク)。損失の拡大が続いている(2011年3月期から3期連続最終赤字でしかも赤字額拡大)。
 2013年3月期の売上高は前期比22%減の1920億円。営業利益が52億7000万の赤字。前期の4億6100万の黒字から赤字化。さらに純利益は前期46億2900万の赤字が,今期85億4200万の赤字に赤字額を大きく拡大した。船井は国内販売の不振を主たる理由に挙げているが かつての勢いはどこにもみられない。

独自ブランドによる新興国市場開拓 
 そもそも液晶テレビ事業はパネル価格の上昇と製品販売価格の下落で利益率が低下。2007年3月期には最終赤字に転落した。これには税金をめぐるトラブルも大きく影響した。そこで従来の生産のありかたの見直しを進めている(2008)。北米の販売では、高機能品にシフト。高機能AV、大型液晶TV、次世代DVD再生機など。しかし大手との価格競争で苦戦。
 このような変化を先読みする形で、2006年からは家電最大手のヤマダ電機と組んでFUNAIブランドの液晶テレビの国内販売を始めていた。あえてOEM生産から離れたのは、ブランド力をこれからの生き残りの重要な課題と意識したからだという。しかしこの国内販売が船井の足を引っ張ったのは皮肉だ。船井は得意とする北米でのテレビ販売では成果を上げたものの(2008-2009当時 船井の主力のテレビ販売事業は8割を北米に依存。後述するように2008年にはフィリップスブランドを取得。2008-2009 北米の景気減速の影響をうけたものの 2010年には業務用テレビ事業に参入など)。
2013年1月になってこのフィリップスのオーデイオ事業を取得するとの発表があった。チグハグなのは現在の船井の業績が必ずしも良くない中で、180億円を投じての買収とされた点だ。そしてさらに2013年4月には,米国のプリンターメーカーであるレックスマーク・インターから、インクジェットプリンター事業を95億円で譲りうけるとの報道が続いた。すでに見たように2013年3月期の船井は85億円余りの赤字。巨額の赤字のなかでの企業買収は、少し変だ。
 この北米事業についての一極集中をリスクととらえた船井は国内、そして新興国戦略を強化。中国(2011年春にも)。インド(2012年春にも)にそれぞれ自社ブランドでも参入したと伝えられる。しかし新興国でのブランド力はなお低く、現地メーカーとの競争も厳しい。国内で2010年夏の地上デジタル放送移行後の反動減。2011年大震災。さらにタイ水害による品不足。円高ドル安による為替差損などの影響を受けた。事業環境も厳しかったといえる。

価格競争に巻き込まれる
 2007年には価格下落ペースが速く採算の合わない、プラズマテレビの生産や42型液晶テレビの生産から撤退などの手を打ったものの、税負担が増えたことも響き08年3月期は2期連続赤字の見通しとなった。台湾のメーカーからの液晶パネル調達に手間取り販売機会損失もあった。
なお船井電機のOEMの特徴はアッセンブラー型といい、液晶パネルなど基幹部材の供給を外部メーカーに頼るやり方。これに対して日本の大手電機メーカーは、基幹部材の内製化producing in-houseを重視している。
 これは技術革新が激しく市場価格の低下の激しい部材を使った商品の場合、肝心の部材を生産していないと、技術革新のメリットによるコスト低下のメリットをうけにくいからである。船井の事業モデルは、日本の大手家電メーカーとは差別性を保っていても、新興国の競合メーカーとの間で決定的といえる差はなく、比較優位性を失っているのではないか。

ビクターとの業務提携(2008年1月)
 こうした中で同様に液晶テレビ事業で調達コスト上昇で収益悪化に苦しむビクターと船井が2008年1月に業務提携を発表した。将来的には製品の共同研究や共同開発に踏み込む計画だ。
 当面は、ビクターのメキシコ工場で作った液晶テレビを北米で船井ブランドでの販売を開始する。またその後、船井のポーランド工場で生産開始する液晶テレビを欧州にビクターブランドで販売する。こうして互いにOEM生産することでそれぞれの工場の稼働率を引き上げ、製造コストを引き下げるとしていた。
 将来的には、ビクターは大画面テレビ、画像処理技術に優れており、船井は中小型が得意で、トヨタ生産方式に学んだ低コスト生産技術を誇ることを生かして共同開発したテレビをビクターブランドで全世界で販売するとした。
 もともと松下電器の子会社だったビクターは、2007年6月ケンウッド(音響・映像メーカー、カーオーデイオでパイオニアに次ぎ2位)と経営統合ですでに合意している(両社は上場廃止、持ち株会社が上場の見通し)。松下は、1954年にビクターを傘下に入れたものの、事業分野の重複があり、価格競争が激しいAV製品を抱えるビクターの業績は低迷。松下電器は売却先を長年探してきた。
 そしてビクターの経営再建はケンウッドとの統合でなお十分とは、考えられなかった。大きな問題は規模の問題で、両社を合わせても大手の10分の1という規模。さらなる生き残り策が必要だった。ビクターにすれば、そこに船井との提携の意味があったのだろう。

フィリップスの北米液晶TV事業を取得(2008年4月)
さらに2008年4月に船井電機の次の一手が出て注目された。船井電機はオランダの電気大手、フィリップスの北米液晶TV事業を取得することで基本合意に達したと発表した(これはフィリップスとの間でブランドライセンス契約を結ぶという手法による)。船井は将来、北米でフィリップスブランドで液晶TVを販売することになるという。フィリップスにとっては北米の同事業からの撤退だが、船井は、北米での販売額を従来の9位(3.1% 2007)から、フィリップスの販売高を加えて4位(9.4%)に躍進させ、攻勢に転じるものと見られた。
 すでに見たように船井の売上高は2010年3月期をピークに減少。2013年3月期にむけて2011年3月期から3期連続して最終赤字を増やすに至った。船井は北米の経済状況に左右されただけというには、この傷は深い。船井の復活はあるのだろうか。

ミスミ:独自の事業モデルと積極的国際展開で堅調 
船井電機と同様に独自の事業モデルに有名になった企業にミスミがある。船井と違ってというと船井に悪いがこちらは元気である。
2013年3月期(連結)売上高は3.6%増1348億円 営業利益が1.0%増168億円 純利益5%増の98億円である。売り上げの地域別構成を見ると米国金型部品メーカーを買収したことも作用して、海外売買比率が平均で26.4%大きく伸び、売上高に占める海外の比率は27.5%から33.6%(これには日本での売上高が5.1%減ったことも大きい)に増加した。
 ミスミはある意味で一気に国際化し、そのことが売上高の減少を食い止めたともいえる。ではこのミスミの独自の事業モデルとは何かであるが、それは機械部品の調達において、まず小規模部品メーカーとの協力の上で商品を「標準化」してカタログに掲載、部品一つでも短納期を実現したことにある。部品調達に必要だった手間と時間が、顧客メーカー、部品メーカーで節約できるというもの。標準化と豊富なバリュエーションとの矛盾を解決するのが、「半製品」の在庫をもち、注文に応じて最終製品に仕上げるというもう一つの考え方。この事業モデルを今ミスミは世界に問うようになっている。

購買代理商社ミスミの行き過ぎたアウトソースの軌道修正
 購買代理商社と自らを呼ぶミスミであるが、そのもともとの業務は小ロットの部品の供給を中小企業から請け負うというもの。その事業モデルは、経営資源の徹底した外部化に特徴があり、もともとファブレスだけでなくたとえば物流センターのほか、社内外の情報システムなどを外部化して急成長した。
 ところが近年に至ってミスミはこの事業モデルの修正を進めたことが注目されている。行き過ぎたアウトソースによって、経営資源となるべき重要な情報やノウハウが社内に蓄積されていないことが、反省されるようになった。
 2005年4月に最大の協力メーカーであった駿河精機を経営統合。グループ内に生産機能と技術力を備えるようになった。その後、2008年3月には精密機械メーカーのSAパーツを統合している。中国、韓国、タイ、北米、ベトナムと海外生産拠点拡大(海外生産拠点は18拠点)。また海外営業拠点は47拠点 配送センター10拠点に広がっている(2013年5月現在HP

参考文献
クロスボーダーM&A成功事例:JT(大和総研2011)
船井と奇美Gの提携(20060215)
無署名「常識にとらわれない戦略を戦う(船井電機)」Create Value社メルマガJan.5, 2005
小林秀雄「ミスミ:アウトソーシングの真髄ここにあり」CIO Magazine Jan.2001
松尾順「ミスミのコアコンピタンス修正」Insight Now Oct.31, 2007

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Reposted in May 23, 2013

Area Studies Business Models Business Strategies

Case Study on Nidec

2013-05-04 19:43:35 | Financial Management
連結純利益のV字回復宣言をした日本電産(2013年4月23日)
 M&Aを活発に展開して成長してきたことで有名な企業に日本電産や末尾で触れるミネベアがある。両者とも高い世界シェア、大量生産方式が共通している。まず日本電産は小型精密モーターに強く主力のHDD用精密小型モーターは世界シェア75%。このほか車載用モーター(パワーステアリング ミラー 駆動 冷却ファンなど)、家電機器向けモーター(エアコン、冷蔵庫、洗濯機など)。小型高効率(省エネ効果高い)のデジタル制御モーターで高い市場シェアを持つ。ところが主力のPC向けハードディスク起動装置用モーターの売上が落ち込んだことで、日本電産の成長路線に試練が訪れた(2013年3月期)。背景にあるのはパソコン市場の縮小(HDD用モーター出荷台数は2011年3月期をピークに減少)。このことを予測して中大型モーターで稼ぐ体制への移行を急いでいたが(産業・商業分野の中大型モーター事業を拡大することで、IT市場への依存度の高い同社の事業構造の転換を急ぐ方針。2012年9月中大型モーター2社の買収を発表 買収は2012年に入ってからこれで6社 この9月の発表時に同時に、つぎの成長市場での製品供給体制はほぼ整ったとして、M&Aを一時ストップして、収益確保(生産体制の再編や市場の開拓など)を今後は優先するとも発言している)。
 2013年1月に、2013年3月期決算見通しについて、パソコンの落ち込みが想定よりも早くきたとして、在庫や生産設備について思い切った減損処理、生産拠点の再編(より人件費の安い地域への移転)などを進めたとのこと。その結果、構造改革費用400億円が必要になったなどとして、連結純利益で89%減45億円の見通しを明らかにした(2013年1月24日)。これは連結純利益についての従来見通し23%増500億円を大きく修正したものであった。
 なお2013年3月期の実績は連結純利益79億円(前期比80%減)であった。
 1月の大幅減益見通しという衝撃的な記者会見からわずかに3ケ月。今度は円高修正効果に加えて前期で行った構造改革費用が不要となり、コスト改善効果も見込めるとして、2014年3月期の予想について連結純利益が500億円に達するV字回復が見込めると発表した(2013年4月23日)。この急回復宣言には舌を巻かざるをえないが、損益の構造をみるとV字回復には構造改革費用の有無などテクニック的な面も見える。
 参照 プロフォーマ利益とビッグバス

日本電産のM&A戦略について(2009年10月末稿)
 買収により内製率、自動化比率、設計共同化などを上げることで利益率を改善。グループ化した企業とは共同購買・原価管理。販売管理費・本社費の節約につなげる。財務的にはグループ内の貸付で有利子負債の節減など。最近は買収により、家電用や自動車用の中型モーターにも手を広げている。中でも2006年のフランスの自動車部品大手のヴァレオからの車載用モーター事業買収(2006年10月発表 自動車用モーターの製造で世界トップグループ入りへ)。翌11月のシンガポールのHDD部品メーカーブリリアントのTOBによる買収(HDDの内製化率向上で利益率改善を目指す)。これらはとくに注目される展開であった。こうした海外にもわたるM&Aで、海外にも工場を積極的に展開している(シンガポール、タイ、フィリッピン、中国など)。
 今後、主用途先であるパソコンやデジタル家電(携帯音楽プレーヤーなど)などの今後の需要には不透明感もあるが、原価管理とM&A戦略で乗り切るとしていた。その日本電産のM&Aが2008年12月に相次いで撤回・断念に至ったことは注目される。
 断念した一つは東洋電機製造に対する買収提案。日本電産は08年9月16日に東洋電機に対してTOBを提案。子会社化して鉄道機器事業の取り込みを図った。これに対して東洋電機側は大量の質問状を出して抵抗。回答書は提出されたものの東洋電機側は「株主が判断するには不十分」とし08年12月15日には買収防衛策の発動を取締役会で検討するとした。これを受けて日本電産は買収断念を発表した。
 この買収が従来の日本電産のやり方と違うのは、相手企業との時間をかけた交渉で相手企業の合意を得た買収ではなく、スピードを重視したいわゆる敵対的企業買収であった点である。結果として買収は成立しなかったが、なぜ企業の経営環境が全体に悪化している状況で、敵対的企業買収に日本電産が踏み切ったのかは、現在のところは謎である。というのもこの買収で日本電産は、すっかり悪者になり、東洋電機側の社員の士気をあおるどころか、敵対的感情を煽ったように見えるからである。これは日本電産の永守さんの従来の主張と随分違った展開であった。
 日本電産の永守重信社長は、買収企業の再生に取り組んできたと自負していた。6S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、作法)の悪化が、3Q(社員、製品、会社の質・クオリティ)の悪化につながる。だから買収しても人員削減をしないことで社員の士気を高め、3Q6Sの改善に努めさせるのが、会社再建への道だというのが自論だった(具体的には厳しい目標管理で会社の雰囲気を変える。現場には高い出勤率、営業部隊には高い訪問件数、経営陣には調達先への日参による調達コストの引き下げ。不採算事業の廃止は仕事の改善で成果がでてから、積極投資は最高益がでてからと説いていた)。
 企業が再生できるかは技術力の有無。企業再生には社員の心の再生が必要という永守の主張には、説得力があった。敵対的買収は日本では成功しないとも主張していた。その日本電産が、東洋電機に対してなぜか敵対的企業買収にのりだしたのである。そして失敗した。これは何を意味するのか。永守はなぜ自らの主張を翻したのか。この戦略の責任者は誰なのだろうか。
 ただ東洋電機製造は、鉄道車両用モーターや運転制御装置などが中心。独立系メーカーだが業績は継続的赤字会社ではなく、異業種の日本電産の誘いに警戒感を抱くのは自然だった。売上高の規模でみると日本電産は東洋電機製造の40倍ほど大きい。日本電産側に現在需要が伸びている鉄道事業部門への進出の意図は明らかであり、買収されたあと、経営戦略に自立性を失うことは明らか。いずれにせよこのような点が東洋電機製造側に、疑心を招いたのであろう。
 もうひとつの中止は08年9月30日に富士電機HDとの間で基本合意していた産業用モーター事業の買収。工作機械や搬送装置に使われるモーター事業を買収する予定であったが、産業用機械の需要低迷などから、買収額・不良資産の処理・会社化する時期などの条件が折り合わず、08年12月17日に両社は交渉打ち切りを公表した。
 2009年10月19日。日本電産は、イタリアの家電部品大手のアプライアンス・コンポーネンツ・カンパニーズと、ソウルモーターズ(イタリアの家電用モーター大手)買収で基本合意した。この買収には、欧州の家電メーカーへの販路確保の狙いがある。日本電産は、この買収で、市場の拡大と収益力の回復を受けて、M&A戦略を再開したと評された。

日本電産と並びM&Aで名前がよく出る企業のミネベアがある(同社は1971年以降内外33社を買収その成長の糧とした)。ミネベアはミニチュアボーリングで世界シェア60%という言い方もよくする。同社のHPをみると、経営方針などがよく整理されて示されている。

originally appeared in Dec.22, 2008
corrected and reposted May 4, 2013

財務管理論講義 財務管理論リンク

fraudulent accounting 不正会計

2013-02-13 11:31:23 | Financial Management
会計的利益の限界 粉飾決算window dressing, fraudulent accounting
Hiroshi Fukumitsu

 会計上の収益(利益)把握には、現在の会計制度からくる限界が一方にあり、他方で数字が粉飾されることがあとを断たないという問題がある。現在の状態を偽ろうとする動機は、企業内のさまざまなレベル、様々な場面で生じる。以下で述べる粉飾手法はまとめてfraudulent accounting不正会計ということができる。

会計制度そのものの問題
 現在の会計制度から来る限界というのは、たとえば費用・収益が発生主義(accrual basis)で把握されるため、実際の現金の動きでそのまま記帳する現金主義(cash basis)の数値とはずれるということ。商取引では信用取引(掛取引)が行われること(したがって会計上利益が出ていることと手元にキャッシュが残ることとは対応しない)はよく使われる。また固定資産について減価償却会計が行われることも、会計制度がもたらす問題として、よく引用される。
cash versus accrual accounting
 accrual accounting(発生主義会計):an accounting method that measures the performance and status of a company regardless of when cash transactions occur(investopedia)
cash accounting(現金主義会計)
売上の記帳を発生主義で行うことについては、どの時点で発生とするかは議論がある。契約が署名された時点という方法のほか、製品・サービスの配送時点(出荷時点あるいは引き渡し時点)、請求書invoiceの発送時点などが考えられる。企業会計基準委員会では、医薬品や商社などで使われる出荷時点を廃止して商品引渡時点に売上基準を統一する方針と伝えられる(『日本経済新聞』2009年9月18日 この移行を行うと、移行を行った企業では一時的に売上と利益が減少すると見込まれる)
 会計制度の問題としては、経費の配分問題もある。経費は一般に活動部門間にどのように配分allocationするかでさまざまな仮定や恣意性を排除できない。経費のうちたとえば、さまざまな間接経費overhead costは、仮定を設けて配分するがそこには一定の恣意性がどうしても入り込む。
 また多年度にわたり費用の時間配分accrualする場合はさらに恣意性は高まる。
 経費は、支出時点が明確な営業経費operating expenditureと、支出時点を多年度に配分すべき資本経費(投資)capital expenditure(capex設備投資、特許取得費など)とに大別される。いずれもさまざまな仮定によらざるを得ないため、そこで問題が生ずる。たとえば資本経費は貸借対照表に計上されるが、利益計算(損益計算)上は、減価償却費depreciationとして計上するものだけが、影響する。すると、利益はこの減価償却の仮定によって大きな影響を受ける。
depreciation makes accounting more complex, but more accurate.
 なお有形固定資産の減価償却をdepreciation。無形固定資産の減価償却をamortizationと英語では区別する。
 そして無形固定資産(特許 商標 などのほか ビジネスモデル 従業員のノウハウ など評価がむつかしいものを含む)の価値評価についてなお、統一された見解には至らないため、企業の価値として重要な無形資産価値が、十分評価されていない(実際に保有していても企業買収などで有償取得されないと資産として認識されない)。
 このような無形固定資産の重要性はいろいろな形で議論されています。特許はまだわかりやすいですが、会社のなかには、そのほかにも技術、素材、市場に関する様々な知識(経験)があります(intellectual capital)。それと関係しますが技術、能力、知識、などを蓄積している人を資産として考えるべきではないかということもあります(human capital)。また会社のなかの人の関係、あるいは外との人との関係。これがビジネスの基礎になっているともいえます(social capital)。そしてそれらを含んだ形で、ブランド価値といわれるものがあります。
人的資本の重要性の発見は新しいものです。それが一見同じ条件にある経済の発展程度が異なってゆく理由になっているのではと指摘されます。またヨーロッパや日本のように第二次大戦で大きな被害を受けた国が目覚しい復興を遂げるとき、そこには、人的資本の問題があるのではと考えられます。その基本は教育だともされます。
 
 資産の評価基準は原価基準(取得原価基準)を原則とし、時価基準(売却時価基準あるいは再調達価格基準)、低価基準が資産の種類や状況に応じて採用される。ちなみに金融商品については時価基準が原則となっている。

 損益計算書も貸借対照表は,会計原則と基準のもとに作成されている。会計原則の中で最高の規範とされるのは真実性の原則である。後述する粉飾はまさにこの原則に抵触する。
 財務諸表における項目の分類 配列にも基準がある。たとえば流動か固定かの区別は、企業本来の営業取引のサイクル内にある資産・負債を流動資産・流動負債とするものは正常営業循環基準(normal operating cycle basis)という。この営業循環基準を基本として、それに当てはまらないものは1年基準(one year rule)で(決算日の翌日から1年以内で入金あるいは支払期限が到来するか)行う。なお有価証券の分類については所有目的基準が優先適用される。
 資産・負債の各項目の中の配列は一般的には流動性配列法(流動性の高い科目から並べる)によるが、固定資産の多い企業の中には固定性配列法を採用する企業もある。

粉飾の問題 
 つぎに粉飾について述べる。
 粉飾は行おうとする誘引がある。営業の現場では売上をあげてノルマを達成する強い誘惑が働く。株主や金融機関に対して、財務担当者は、企業の実態をよく見せて、取引条件を維持改善したい強い誘惑が働く。逆に課税当局に対して、いかに収益が上がっていないかを強調して、課税額を少なくしたい誘惑も働くかもしれない。

 会計上の粉飾をいくつかにわけてみよう。まず粉飾は悪い状態をよく見せるという意味が基本である。税務対策上は、費用を多く計上してあるいはまた売上を少なく計上して所得(利益)隠しをすること(逆粉飾)もある。売上はごまかして、経費はしっかり計上というのは個人営業主にありがちな手法。英語ではskimmingという。

 最初は売上高をつくる行為。これは売上至上主義が生み出すともいう。営業現場ではどこでも売上高がノルマとされることが多い(その結果、商品単価(製造原価)を無視した受注(採算割れ)が行われがちになる)。ここで問題にする会計帳簿の上では、架空売上の計上はあまりに単純だが取引先・縁故先との共謀があれば取引先との間で帳簿の上だけで売買を繰り返した上で所有権が最終的に元の取引先に戻る「循環取引」により売上高を膨らませることはできる。これはまさに営業が円滑であるかに見せかけるわけである。
 これに対して、決算後、買い戻すことを約束して売るのは「仮装売買」とか「押し込み販売」という。これも売上高をつくる行為となる。また押し込み販売は営業マンの手法としても、決算期末に契約して実績を稼ぎ期明けに解約という形でよく行われている。あるいは名義借りで契約してその後解約というケースもあろう。多くの会社は営業マンに資金の回収まで義務付けてこうした行為を抑制しようとしている。
 なお英語でchannel stuffingというのは、実際には注文もされていない商品を発送して、発送伝票で売上を仮装することを指している。
 
 つぎは利益をねん出する行為。
 費用の計上方法の変更。たとえば減価償却の方法の変更。費用計上を少なくする行為がこれにあたる。関連会社などに保有不動産・有価証券を高値で引き取らせて利益をねん出する行為もみられる。これは関連会社からの利益の吸い上げになる。費用を過少につける行為はすべてこれにあたる。
 そして損失の処理・費用計上を遅らせる行為。
  長期売掛金を引当処理をしない 
  不渡手形の引当処理をしない
  長期不良在庫の評価減処理をしない
  有価証券の含み損を計上しない など。

粉飾を発見するには、どうすればいいか。財務諸表も大事だが、企業を訪問して関係者の話を聞き、直感を大事にとは、よく指摘されることだ。
以下では公認会計士の都井さんの指摘を引用してみる(都井清史『粉飾決算の見分け方 増補版』きんざい 2005年)。
 注意すべき数値
  架空売り上げもある
  翌期の売上の先取り 請求書の発送調整で操作できる
            売上の波で判別
            下期の売り上げ増加は期末操作を示す
  販管費の繰り延べ 未払い計上漏れ 
   関係会社向け売り上げの増加
  関係会社向け債権 → ゼロ評価とするべき 
  買い戻し条件付き売上は借入とみるべき
  仲間取引は資金融通の可能性大
  その他の営業収入の増加
  配達運送費の急減
  有価証券売却益 → 利益操作とみるべき
 経営悪化の兆候
  在庫の積み上がり 雑費の多さ(経営管理がルーズ)特別損失の多さ
  在庫   → 実地棚卸しているか確認
  滞留在庫 → 陳腐化評価損計上するべき
 経常利益に占める雑収入  70%以上は危険 利益を雑収入でつくっている
  特別利益を雑収入計上してもかまわない(会計原則注解Ⅰ)。会計士が入れば修正されるが、会計士が入らない会社は修正をうけずそのまま残っている。
 営業利益と比べた支払利息 70%以上は危険 営業利益が利息支払で消えている
中小企業については
 税務上の減価償却を行っているか(減価償却をストップするのは粉飾)
 在庫の水増し(在庫が増えるように操作すると売上原価が下がりみかけの利益が生まれる)
  売上高ー[(期首棚卸残高+仕入高)ー期末棚卸残高]=売上総利益
  →原価率の低下により判定する
 短期貸付金・短期借入金の増加
  →実態は短期でない可能性
  →知人などを相手にするものはあやしい
 その他流動資産 ゴミとみた方がいい
 税金支払い後の当期純利益が確保されているか

なお倒産に至りかねない危険な兆候の例示を十六銀行の黒木さんの著述から引用すると
  貸付金の増加多額化(不良債権化の可能性)
  投資などの多額化(無価値資産増加の可能性)
  売上の急激な伸び(社内体制、資金繰りが追いつかない可能性)
 また計画倒産の兆候としては
  借入金増加のなかでの支払手形・買掛金減少(借入で一般債務を減らしている可能性)
 最後に業務改善の兆候の例示としては
  在庫の減少
  借入金減少
  短期借入金の長期借入金へのシフト
 (黒木正人『わりやすい融資実務マニュアル』商事法務, 2007年, pp.36-37より)

鷲野健次さんの本から分析を拾うと。まずは 
 売上高の大幅な減少傾向⇒重大な事態の可能性 (減少要因の速やかな把握)
 売上高の大幅な増加(運転資金借り入れができているか)
 営業利益の赤字(=利息を支払えない状態にある 企業の存続条件を満たしていない 新規融資 新規取引は停止が必要)
(鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.70-71)
 経常収支比率が100%割れしている場合(⇒粉飾の可能性 100%越えている場合も回転期間が業界平均より高くないか確認)
 キャッシュフロー比率(運転資金を除く借入金を返済するの何年必要か)が10年を超える場合
 支払手形の増加 そして急減
 当座比率が80%を切る場合
 インタレストカバレッジレシオ(利払い能力)が1を切る場合
 デットカバレッジレシオ(資金調達力)の100%越え
 回転期間分析turnover analysis
 売上債権trade receivables回転期間(業界平均に比べて長い:不良債権の内包の可能性 長期化:資金の固定化あるいは不良債権累積の可能性、無理な売上計上の可能性)
 棚卸資産inventories回転期間(長期化:不良品、仕損じ品の資産への混入 仕掛品の過大計上 不良棚卸資産の増加 販売不振に対する生産調整の遅れ 返品の増加 逆に:期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースもある)
 買入債務trade payables回転期間(売上債権回転期間とほぼ同時に長期化したときは融通手形*操作の可能性あり 棚卸資産回転期間と同時に長期化する場合は棚卸回転期間の長期化は期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースと判断される)
 (鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.151-160)
 なお近年重視されるものに運転資本回転期間working capital turnover or cash conversion cycleがあります。
 これは棚卸資産回転期間+売上債権回転期間ー買入債務回転期間 で求めた値です。この値が近年重視される理由についてはまたあとで財務比率分析のところで述べることにします。

 しかし他方でそもそも中小企業を相手にするところではとくに決算書の分析などそもそもあてにならないという言い方もある。三和銀行にいた寺田さんはつぎのように述べる。「そもそも決算書はあまりあてにならない。決算書はあくまで過去の実績を示すものに過ぎないし、いくらでも操作できる。在庫の評価方法然り、売掛金や受取手形の中にどんな問題債権(問題企業が受け取った手形や、一触即発で不渡りとなりかねない金融手形など)が混じっているかも、すぐには分からない。固定資産勘定の中にも毎年減価償却はしていても故障になって使い物にならない機械設備が、そのまま計上されているかもしれない。巧妙に隠された簿外負債があるかもしれない。」融資において決定的なのはむしろ経営者の人となりだとする。そして債権の保全に必要なのは企業を生き物として見る技術だとして、かつての融資マンたちは、頻繁に取引先にでかけて、企業活動全体の観察につとめたものだと説いている。寺田欣司『銀行員という職業』近代セールス社, 2008年, pp.175-177.
(寺田さんは中小企業向け融資の実態を知らない金融庁が、金融機関に細かな規則を押し付け金融機関の融資活動を却って阻害しているという趣旨を述べている。寺田欣司 前掲書 pp.217-220.) 
 融通手形は商取引から発生したものではない手形で資金繰りのため銀行に振り出されて銀行に持ち込まれたものをいう。寺田さんによれば3つのパターンがあるとのこと。
 1)親しい商売相手に取引がないのに振り出してもらう(借り手形)。これを銀行で割り引く。商売相手には期日に金を払って決済する。
 2)資金繰りに困った同士が互いに同金額の手形を相手に振り出す(書き合い手形)。これをそれぞれの銀行に持ち込んで割り引いてもらうというもの。期日には別途資金を調達して決済する。
 3)金融業者が間に入った形での金融手形。この場合、金融業者は資金繰りに困った企業に対して自身を支払い人とする手形を振り出す。企業はこれを銀行に持ち込んで割り引いてもらい、金融業者には金を払って決済する。
 銀行にとって、これらの融通手形は資金繰りが苦しい企業が振り出すもので、不良化しやすいので、本来避けるべきものとされている。
寺田欣司 前掲書 pp.181-184.  

The Art of Accounting
goodwillbooking at inflatd prices
accounts payablesputting off paying bills
accounts receivablesrecording payments from customers who likely won't pay
Business Week, Nov.2, 2009, 26.

 そして逆粉飾は以上の逆であり利益の圧縮をする行為。売上を少なく計上する。単純には隠す行為。在庫の過大評価をはじめ、費用計上方法の変更など費用を過大に計上すること。このときに縁故先や関連企業を相手方にした取引の形をとることがある。たとえば架空の業務委託。また仲介料やリベートの代わりに、仕事の委託(実態の仕事がない架空委託、名目としては仲介手数料あるいは輸送原価)の形をとりそれが経費の上乗せとなることもある。

なお英語ではwindow dressing(fluffing the pillows;cooking the books;massaging the numbers)だと日本ではされている。それで間違いではないが個人的にはfraudulent accountingといった表現の方が好きである。window dressingは、そもそも言葉通り、窓周辺の装飾を意味することがあり、投資用語としては、mutual fundsを売りだすときに、悪い株を処分していい株に差し替えて涼しい顔で取り繕うことを意味することもある。おそらくwindow dressingという言い方がやや古めかしいのである。
粉飾決算の上品な言い方としてcreative accountingという言い方もある。

 記憶されるべきなのは、このように様々な意味で歪んだ会計数値をもとに、企業分析をせざるを得ないということである。
「いくら数字を精緻に分析してみても、それが粉飾に基づいた数字ならば、間違った結論しか出てこない。」「そもそも企業の決算書は間違いだらけ。」「粉飾にだまされないために必要なのは、支店長や担当者が顧客のもとに足しげく通うことに尽きる。」「銀行員は常日頃、取引先の経営者や財務担当者とよく話をしておく必要がある。」「取引先の会社の雰囲気、働いている従業員の人となり、お金がどう流れているのか、こういったことを詳しく知る必要がある」「若い連中は自分で考えない」「紙と鉛筆で決算書を分析したり、取引先の現場で実体験を積み重ねたりすることが必要だ。」'粉飾決算 感覚を磨かなければ融資はできない'『金融財政事情』2010年8月23日号, pp.54-55.

なお虚偽記載が判明した場合は、過年度の業績の修正を求められるとともに、金融庁などから課徴金の納付を求められたり、影響が重大な場合は上場廃止となる場合もある。2008年度から上場会社は四半期終了後45日以内に四半期決算の開示(貸借対照表、損益計算書、現金収支計算書、監査人による監査)を法律(金融商品取引法)により求められるようになった(取引所では自主ルールで2004年4月から四半期決の開示を求めていた。しかしこれは期限、罰則を伴わないものであるため上場会社の対応はさまざまであった。なお有価証券報告書は提出期限は3ケ月以内である)。
 なおすでに取引所では2003年3月期から継続企業going concernの前提に疑義がある場合の開示(経営継続リスクの開示)は適時開示の対象としている。また四半期決算と同じく上場会社にとって、2008年度からやはり金融商品取引法法定の義務となったものに年1回の内部統制報告書の提出がある。
 このような四半期報告書と内部統制報告書の法定義務化によって、企業経営の透明性が改善した半面、上場企業の負担が増え、新規上場や上場維持のハードルが高くなったとの指摘がある。これが一因になってIPO(新規株式公開)が減りMBO(経営陣参加による自社買収・非上場化)が増えているとの指摘もある。

リスク企業の見極め方
・継続企業の前提に関する注記が付いた企業(監査法人によるお知らせといえる)改善計画の実現可能性
・営業キャッシュフローの赤字化とその継続
・資金繰りのための増資 短期間に何度も繰り返される
・監査法人の交代(意見が対立した可能性)、業績予想の下方修正繰り返す
 
以下を参照
友田信男「取引先企業の倒産予兆の見極め方」『経理情報』No.1270, 2011年1月10日号


Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.25, 2008.
Corrected and reposted in Feb.13, 2013.
 

企業金融理論corporate finance

2013-02-13 08:00:19 | Financial Management

企業金融理論

Hiroshi Fukumitsu

 本日は企業金融理論corporate financeについてお話します。

sole trader

partnership

incorporated firm

 

private limited firm

 

public limited firm

 企業金融理論の中で従来もっとも熱心に議論されたのは資本構成capital structure、つまり使用総資本に占める債務(他人資本)の比率の問題でした。ここで使用総資本というのは調達資金全体という意味。その使用総資本の内容を問うのが資本構成の問題です。あるいは自己資本に対する債務(他人資本)の倍率、別名、債務レバレッジの問題でした。この議論は来週のエクイティファイナンスの議論にも関わります。以下のお話はこれらの点を理論的にどのように説明するかに関わります。詳しくみてゆきましょう。

1.資本構成比率(capital structure)
 ここで資本とは使用総資本のことです。そして資本構成比率とは、債務と自己資本の総資本に占める構成比率のことです。
 この比率の決定にあたって前提になるのは、企業経営の目的は、株主にとっての企業価値(わかりやすく考えれば株価)**の最大化にあるという考え方です。もちろん、このようにいうことは過度の単純化を含みますが、企業価値を最大化する比率が存在するという考え方はtrade off theoryを前提にしています。
 しかし果たして企業経営者が、このような企業価値最大化という観点で行動しているかは疑問があります。企業はむしろ債務が嫌いなのではないかとも思えるのです。企業経営者は銀行借入であれ、増資であれ、経営の行動を制約されることを嫌い、できるだけ手元資金の水準を高くして行動しようとするものではないかと思います。現実に多く見られる無借金経営や、高いCF水準の企業を理解するには、企業について異なる仮説が必要です。学問的な外観をもちながら標準的な「理論」は、企業買収者の側からみた企業観で、経営者を不信の目でとらえる、かなりイデオロギー(思想)過剰な「お話」であるように私は考えています。加えてこのような金融理論は、現実には存在しない「完全市場」を仮定して議論を進めるなど、かなり「無理」もあります。それでも、標準的なお話を理解することは大事です。
 trade off theoryとは債務の増加にはプラス面にマイナス面が随伴している、マイナス面は最初は小さいがやがて大きくなってプラス面を超えてしまうという考えかたです。ここでの債務について一方でプラス面があり、他方でマイナス面がありますが、やがてプラスの効果はマイナスの効果で減殺されてしまいます。
 **企業価値を株価のようにいうのはもちろん単純化した言い方で、厳密にいえば企業価値=債権者価値+株主価値 とされ、株主価値(単純化すれば時価総額)を発行株数で割ると株価がでてきます。この式は以下のように変形されます。
 債権者価値=企業価値ー株主価値
 株主価値=企業価値ー債権者価値
 保田隆明『企業ファイナンス入門講座』ダイヤモンド社, 2008年, pp.102-103.  

債務の魅力(プラス面) 
 すでにレバレッジ効果については説明していますがあとで再論します。もう一つは資本コスト効果があります。これは債務が要求するコストが、自己資本が要求するコスト(期待収益率)に比べて低いために、債務比率を上げるほど(債務と自己資本とを合わせた)資本コストが下がるというものです。しかしそれには一定の債務比率の範囲までという限界があります。

 資本コスト効果
 債務の増加には、資本コスト(加重平均資本コスト)を下げる面があります。資本コストとは、資本を提供する側が期待している収益の大きさです。資本コストが下がるということは、企業経営者が完全に自由にできるキャッシュはそれだけ大きくなります。
総資本A=負債D+自己資本E とします。負債のコストをi 自己資本のコストをrとします。そのとき
 資本コストWACC=i(D/A)+r(E/A) はi<r のとき負債比率D/Aが大きいほど小さくなります(負債の収益である利子の支払いは債権債務契約の中で保護されており、自己資本に対する収益に比べてリスクは小さいので自己資本の収益率より小さい大きさでよいと仮定していますので、一般的にはi<rとなります)。
A=E+Dという関係を前提に以下のように変形します。
WACC=i(D/A)+r(A-D)/A=r+(i-r)(D/A)=r-(r-i)(D/A)
 さてこの式で 0<i<r ですが D/A負債比率の増加とともに rとiがどのように変化するかを考えます。このiは負債コストですが、市場で決定されるリスクフリー金利で個別資本のリスクプレミアムを付加したものと考えられます。そしてそのリスクプレミアムに大きく影響するのは債務比率です。
 iが少しずつ増えますので当初はWACCは減少。しかしやがてあるところで反転します。(あるところから反転するのは倒産コストが表面化するからですが、後述します)。 
 なおWACCとは加重平均資本コストweighted average cost of capitalのことです。waccは現在価値を決める割引率にも使われます。この値が小さいほどDCF法(discounted cash flow method)で計算された現在価値は大きくなります。(現在価値, DCF法などについての私の説明は、「現代の証券市場」の企業価値評価valuationのところで行います。)
 rについては個別資本ごとに、投資家の側から見て期待する収益率の大きさが存在すると考えられます。それを説明するのがCAPMという式ですが、この自己資本コストrを導くCAPM capital asset pricing modelに多くの問題があります。capmはつぎのような算式で示されます。
 Ri = Rf + βi×Rm
なおここでRiは個別証券の収益率。Rfはリスクフリーレート。Rmは市場平均収益率。βiは個別証券収益率の市場平均収益率からの乖離の程度。実はcapmには多くの疑問がでています。これはベースとなるデータの信頼性に専門家の間にすら異論があるからです。沢山の関連文献がありますがたとえば次の資料をみてください。
 cf.Rober F.Brunner and others, Case Studies in Finance, 6th.ed., McGrawHill, 2009, 185-195.
 CAPMという式が成立するかにも疑問がでています。しかしむつかしい議論に頼らなくても、負担するリスクの違いから、自己資本の期待収益率は、負債のコストより大きいと仮定できます。負債比率の意義を考える上ではそれで十分だといえます。
なお自己資本コストにはいかのような報告もあります。
 [自己]資本コスト 配当利回り+株価の年平上昇率 
 David Campbell and others, Business Studies, Butterworthe-Heinemann:1999, pp.53-73, esp., p.60 

 節税効果もあります。
節税効果tax benefits;tax relief;tax saving;tax shield effect
利払い額分だけ課税対象所得が減るので利払い額×税額だけ、負債は課税額を減らす効果があるというものです。  i×t このような効果は税金が高い国ほど大きくなります
節税額を考慮した債務コスト i-i×t=i×(1-t)
                  =i(1-t)
節税額を考慮した加重平均コストはつぎのように表現されます。
 WACC=i(1-t)(D/A)+r(E/A) 
 つまり節税効果it(D/A)は負債比率D/Aが大きいほど大きくなります。

 レバレッジ効果leverage effect 
 債務のレバレッジ効果について再論します。自己資本利益率ROE=R/Eの改善という視点です。 
資産利益率ROAが正の値であるかぎり、D/E(債務レバレッジ倍率)が大きいほど自己資本利益率ROEが大きいという命題を債務のレバレッジ効果といいます。これはつぎのように証明できます。
 R/E = (R/A)×(A/E)
= (R/A)×(E+D)/E
= R/A + (R/A)×(D/E)
ROE=R0A×(A/E)=ROA×(E+D)/E=ROA(1+ D/E)
(E+D)/E あるいは D/E は財務レバレッジ(係数)と呼ばれることがある。この比率が大きいほど負債比率も高い。
 この式をleverage effect equationとよぶことがあります。

 (cf.レバレッジはアメリカ風の言い方。イギリス風ではgearingといいます。L/E あるいはL/(L+E)です。Philip Ramsden, Finance for Non-financial Managers, McGrawhill:2003, pp.14,73)
 なお債務の逆レバレッジ効果reverse leverage effectとは、ROAがマイナスのときは全く逆の効果が生ずることを指しています。マイナスの数字が拡大する。レバレッジ効果を謳歌していた企業が、一転して逆レバレッジに苦しむことは十分ありうることなのです。 
 ところでD/E の増加によりROEの振幅が大きくなるというのがleverage effectの含意ですが、通常はROAが正であるところだけを見て、債務レバレッジ倍率が高いほど自己資本利益率は改善されると見ます。
 
しかし債務にはマイナス面もあります。 すなわち債務を増やすと固定費に含まれる利払い費用が増加します。総費用が上昇して損益分岐点売上高も上昇します。債務を増やすほど、倒産リスクdefault riskが上昇しているともいえます。このリスクは債務の増加とともに逓増します(徐々に増えます)のでこれを逓増リスクincreasing riskともいいます。前提となるROAが正という条件が成立しなくなるということでもあります。
 この倒産リスクの拡大は、貸付を行う企業・金融機関にとっては、債務不履行のリスクだといえます。当然ですが、倒産リスクの上昇に対して貸付条件の変更で債権者は自分の側を守ろうとします。分かりやすいのは金利水準の引き上げです(そのほか担保や保証の積み増し、貸付額を減らす、貸付期間を短縮化するなど)。
 返済能力を失ってしまった企業は、財務的困窮financial distress状態にあるとされます。そして実際に倒産したときに、貸付側には倒産コストが発生します。
以下の記述の理論的な部分はつぎの2つの本を参照しています。
Stephen Ross, Randolph Westerfield, Jeffrey Jaffe, Modern Financial Mnagement, McGraw-Hill Irwin, 2007.
Carol Alexander and Elizabeth Sheedy, The Professional Risk Managers' Guide to Finance Theory and Application, McGraw-Hill Irwin, 2008. 

倒産コストbankruptcy costの内容
倒産には2つの状態があります。まったく債務超過になった状況での倒産と、精算すればある程度の資産が残っている状況での倒産です。
 倒産はしかしタダではできません。まず清算及び再建に伴う法律的・管理的コストがあります。これを直接費用(direct cost)としますと、間接費用(indirect cost)としては、事業継続能力の喪失あるいは事業能力への信頼の喪失、投資の余裕がなくなることによる投資機会の喪失、利払い負担の増加による企業価値の喪失などがあります。
 一般にtrade offというのは、相反する動きが生ずることをいいます。債務の増加にはこうしたtrade offの議論があてはまります。
 資本コストに注目しますと、自己資本100%のところから出発すると最初は、債務の方がコストが低いのですから、資本コストは低下してゆきます。また債務レバレッジ効果や、利払いの節税効果も出ているはずです。しかし債務比率があがると金利負担が次第に上昇。やがて倒産に至ります。その間、債務コストが資本収益率を上回る可能性が増えますし、やがては最後には債務を増やすと資本コストが上昇するようになります。つまり債務の増加には、資本コストの面あるいは企業価値の面から限界があるとみるべきでしょう。

2.債務のそのほかの魅力attractiveness of liabilities
 柔軟性flexibility
株式発行による自己資本調達に比べて柔軟性があるとされています。当座貸越や融資枠契約などでは企業側の判断や都合だけでの調達も可能です。 

 モニタリングによる効率の改善
これは議論の余地があるでしょうが、借入によってたとえば銀行によって監視されていることで、経営者の行動において規律が改善され、企業の株主価値が改善するという考え方です。
 同様に高い債務比率にある経営者は、経営の改善に向けて高い緊張感のもとにあるという言うこともできます。では逆にモニタリングを受けていない経営者はどのような行動に走りやすいと考えられるか。それをagency costsと名づけて例示してみましょう。 

agency costs; selfish investment strategyの例示
  ハイリスク投資への誘惑taking large risk
  行うべき収益改善投資の放棄underinvestment
  過剰な配当支払いの誘惑milking the property

 債務増加のシグナル効果
 最後に株価(企業価値と読み替える)に与える影響をみましょう。実はプラスに働くという考え方があります。債務の増加(そして設備投資の拡大)は経営者が強気の経営判断を示すものだという理解があります。つまり債務増加が、株価の過小評価のシグナルになるからです。それは収益見通しについて、投資家が知りえない情報をもっている経営者が強気の経営判断をしているそのシグナルだと理解されるからです。そこで債務の増加は、投資家を買いに走らせ株価にプラスの影響を与えることがあります。これを債務増加のシグナル効果と呼ぶことにします。
 このことから企業によっては投資家を欺く目的で、債務の増加に踏み切るものがいるとされます。砂川さんは企業が負債比率を高めるのは、「デフォルトしない強い自信の表れ」であり、「将来の業績に自信がある」とのシグナルを市場に発信しているのだと説いています。砂川伸幸『コーポレート・ファイナンス入門』日本経済新聞出版社, 2004年, p.138.また配当政策の変更にも投資家より企業の業績を知っている企業[経営者]が発信するシグナルの側面があるとします。前掲書, pp.152-153.
 逆に債務減少deleverageに企業経営者が動くのは、経営者が債務に耐えられないと赤旗を振っているともいえます。
Any sign of deleverage shown by a company is a red flag to investors who require growth in the companies they invest.(investopedia)

3.自己資本の魅力とは何かhow equity is charming
 つぎに企業経営の立場から自己資本の魅力とは何かを考えましょう。あるいはなぜ自己資本は必要なのでしょうか。
自己資本の魅力
 自己資本といっても株式を発行して調達した部分と利益の内部留保により調達した部分とがあります。このうち内部留保retained profit分は配当負担がありませんので、コストがかかっていないようにみえます。また株式で集めた部分については収益を必ず払わなければいけないわけではありません。債務のように利払いを約束したわけでも、償還を約束したわけでもありません。
 この株式の部分と内部留保の部分の違いはどこにあるのでしょうか。同じ自己資本であっても、この株式の部分だけが、会社に対する所有権にかかわっています。言い方を変えると、株式には株主という所有者がいます。内部留保は会社そのものに帰属している部分ですね。
これら自己資本に共通するのは、経営上のリスクを負担する資本だということです。その意味は2つあるのではないでしょうか。
 一つは残余利益residual profitの受け手として不安定な収益に甘んずるということです。そして実際に損失が発生した場合は対応する減失を受け入れるということです。だとすると自己資本の厚さは、リスク負担能力の高さ、経営の安定度を示すことになります。
 もう一つは安定性にあるのではないかと思います。それは償還が予定されない点に示されています。永続資本permanent capitalという言い方があります(ただし株式を通じて自己資本を出している投資家は、その株式を売ってその立場を譲渡することがあります)。またより積極的には株主が存在することで、追加的負担(追加的出資)に応じる可能性を示してもいます。そういうと、まるで株主が無限責任を負っているかのようですが、教科書的な有限責任論の世界とは異なり、現実の世界では経営の関与している支配的株主は、企業が危なくなると追加的出資に応じることがしばしばあります。自己資本を増やそうとする経営者の行動は株価にマイナスの作用を与えることもあります(以下のシグナル効果の説明参照)。
 
 参考 株式発行のシグナル効果
 経営者は経営実態について投資家より情報を持っていると仮定すると、株式を経営者が発行するのは、株価(企業価値と読み替える)が過大評価(割高)overvaluedになっているからだという仮説があります。そこで株式が発行されると、市場は従来の過大評価を修正するので株価が下がるというのです。
 だとすると株式の発行は、株価の過大評価修正のシグナルになり、それを契機に株価が下がるというのです。この考え方では、単純な比較では債券の発行(株価の過小評価を意味します)のほうが株価に与える影響からすればこのましいということです。
 なお私自身は株が追加で発行されれば、需給要因から考えて株価が下がるのは当然とみます。シグナルなのかもしれませんが、現実に需給でみて株式の供給が増えるのは株価の押し下げ要因ですよね。なぜそれをシグナル効果signaling effectと呼ぶのか。市場参加者の行動が重要だということでしょうか。
 株式発行がこのように株価割高を告げるものだとすると、自社株買いは株価の割安のサインになるとのことです。砂川さんは「業績の好調」であると判断したとき、企業は自社株を買います。だから自社株買いは、企業の株価が割安であるシグナルとみなせますと結んでいます。砂川伸幸, 前掲書, p.155.

4.cash flow の安定性と資金の選択という考え方
 では企業経営者は、債務と資本の実際の選択をどのように行うべきでしょうか。
伝統的な考え方は、企業価値を最大化するという意味で最適な負債比率が存在するというものです。ここではもう一つの考え方を紹介します。それは事業リスクの大きさが、負債比率の決定に大きな影響を与えるというものです。
 事業収益のリスク(不安定性)が高いほど、困窮及び破産コストdistress and bankruptcy costが大きいので、元利払いを約束する債務debtの比率は小さくなるというものです。逆にいえば、株式の保有者は不安定な所得の受け手になるわけです。他方、収益の不安定な企業は債務で大きく調達がしにくいということです。
 そのほか事業収益の不安定さのほか、債務比率に影響を与える要素として、節税効果の大きさ、有形資産の大きさなどが考えられます。
 
Cash Flowの違いから債務比率に違いが出ている
a) 現実の企業は低い債務比率を好み、しばしば無借金企業が存在する。
 b) 産業ごとに債務比率に違いがみられる。
 c) 多くの企業は目標とする債務比率をもっている。
    i)節税効果を反映して課税対象所得の大きい企業は債務比率が高い傾向がある。 
   ii)有形資産の大きい企業は破産時の追加コストが小さいので債務が大きい傾向がある。
   iii)営業所得が不安定でない企業ほど債務が多くなる傾向がある。

 使用する資金調達方法間の序列を説明する仮説には、ほかにペッキングオーダー仮説POT: pecking-order theoryがあります。POTでは、それは資金コストの差が外部資金調達の手段間に経営者からみた選好の優劣があるとします。この仮説では、まずは内部資金になります。内部資金は、支払いコストがかからないように見えますし、外部から経営者に干渉が及ぶリスクも小さいように見えます。(借入に頼る事業者の優位性というのは一つの発見でした。借入に頼る事業者は自己資本だけで事業を行う人に比べて、使用資本の多くについて利子率さえカバーするればよいので低価格で競うことができる。イギリスは事業者が低価格で満足して事業を開始できる借入資本取引という特別な仕掛けをもっていると、バジョットは借入に頼る事業者の競争力を指摘するとともに、イギリスの銀行業を称えています。Walter Bagehot, Lombard Street, New edition with an introduction by Hartley Withers, Smith, Elder & Co., 1910, p.16.)

5.財務上の特約covenantsについて代理コストagency cost問題の導入
社債の世界では社債の無担保化が進んだ結果、償還のよりどころとして財務上の特約をつけることが広がった。また融資の世界では、キャッシュフロー・ファイナンスが普及し与信管理が、重要になってきたことが、財務上の特約の普及につながったと指摘されています。
  債権者と債務者の関係は代理関係に例えられます。そこで債権者は債務者を従わせるために、さまざまなテクニック(監視や契約など)を使います。このように代理関係があるゆえに発生するコストを代理コストagency costといいます。このagency問題を緩和する方策として(agency costを引き下げる方法として)債務契約にコベナンツ条項を織り込むことが増えてきました。この条項の付与は債権者の立場からするリスク管理の問題の一つとしても理解できます。 
 ところでコベナンツは次の二つの行為に別けられます。
  positive covenants 何かをする約束
  negative covenants 行為の制限あるいは禁止
 コベナンツを改めて説明します。債務契約において債務者が守るべき約束の取り決め全体をindentureといい、その中の個々の項目をコベナンツcovenantと呼んでいます。日本語では財務制限条項とか財務上の特約と呼ばれます。この条項に違背する事態になると、期限前償還の強制など債務者の保護のための措置を実行することが債務者に義務つけられています()。

コベナンツ条項について

センサー機能

純資産維持条項、利益維持条項、配当制限条項、自己資本比率維持条項、追加債務負担制限条項など

劣後性回避機能

担保提供制限条項(ネガティブ・プレッジ条項)、担保切替条項

その外の企業活動制限

セールアンドリースバック制限条項
、主要会社・子会社の処分を制限する条項、子会社株式譲渡制限条項、合併制限条項など

 徳島勝幸「現代社債投資の実務 新版」2004,pp.102-103,107.
 コベナンツのうち一定の資産比率の維持を求めるものはリスク投資を制限する意味があります。資産内容の変更を制限するものも、リスクの増加を防ぐ意味がある。資産処分を制限するものは、資産の株主への移転や過小投資を防ぐ意味がある。借入を制限するものは、既存の債権者の権利の希薄化を防ぐ意味があります。なおコベナンツのうち、出資者の出資比率の変更を問題にする条項をとくにCoC(change of control)条項といいます。このような財務上の特約の有効性の差にも関心がもたれています。岡東務氏によりますと、財務上の特約の有効性には差があります。日本で発行された無担保社債および無担保転換社債を検討したところでは、利益維持条項と純資産維持条項の有効性は明らかに高く(実際に抵触例があり物上担保付社債に変更されて社債権者を保護した)、配当維持条項も有効性が高かった場合があるとのことです(岡東務「債券格付けにおける財務上の特約について」『証券経済学会年報』35号, 2000年5月,pp.23-35, esp.29, 34.)。
  コベナンツ・ファイナンスの普及を受けて、つぎのようなコベナンツを定型的融資契約書に組み込むことが提案されています。(1)事業CFの入出金集中義務。(2)融資対象事業の継続義務。(3)融資対象事業に関する法令順守など。(4)事業計画・実績報告義務。(5)業績が順調でない場合の報告義務。(入道正久「コベナンツ類型化の有用性」『金融財政事情』2010年6月28日, pp.34-37).コベナンツのことを入道さんは「キャッシュフローを担保する仕組み」と表現していますが、これはなかなか適切な表現かもしれません(入道正久「中堅・中小企業に安定的な長期資金調達の道を開く」『金融財政事情』2010年4月5日p.25)。

7.代理コスト問題も入れた債務比率問題のまとめ
 債務比率の決定に影響する要因はつぎのようにまとめることができます。
 1)節税効果 高減価償却・高研究開発費などの節税要因を十分にもつ企業は、債務の節税効果を高く評価しない可能性もある。
 2)利払い費用という圧迫的コスト 収益が不安定な企業、あるいは資産価値が大きく変動する企業は、高い債務比率を避けるかもしれない。大企業は、このコストが相対的に小さいので、債務を好むかもしれない。
 3)無形資産と成長の選択肢が大きい企業は、担保資産の処分は困難で、リスクの性格が変わりやすい。このような企業では債務のエージェンシーコストは大きいので債務比率は小さくなるかもしれない。
 4)成長機会のある企業は、融資枠のような便宜による債務への需要を有するだろう。

8. 配当政策
債務比率については、債務比率の違いが企業価値に影響を及ぼさないというMM命題あるいはMM理論があります。しかしMM命題は、情報が瞬時に平等にゆきわたり、取引コストも存在しない、「完全市場」を前提にしています。MM命題の世界では、同様に配当政策の違いも企業価値に影響を及ぼさないとされています。 

 配当のシグナル効果 しかし実際には配当政策には大きなシグナル効果があり、増益で増配すると大きな株価上昇(8%)が得られるほか、減益で減配は大きな株価下落(8%)。減益で配当を維持すると小さな株価下落(2%)で済んでいるとのことです。このような配当が与える影響の大きさは、企業が配当政策を重視する理由にもなっています。
 配当政策については企業側には手元キャッシュを厚くするため、内部留保を大きく取りたいという誘惑があります。これに対して英米流の企業金融論では、それが経営者の保身のための手元資金確保になることを警戒して対立しています。また自己資本が過剰だと、自己資本利益率が下がる。したがってそれは配当として分配されるべきだとします。
 配当とともに株主還元策として自社株買いがあります。日本の企業は、株主還元策として配当を中心に考える企業が多いとされています。自社株買いにも株価が割安というシグナル効果(自社株買いのシグナル効果)が知られています。
 内部留保をしてもそれが高い成長率につながる場合には、容認するという考え方もあります。その考え方ではDOEという指標が重視されます。日本の企業のDOEは2%程度(米国は5%前後)、ROEは6%程度(米国は16%程度 2012年4月現在)とされています。
 DOE = 配当/自己資本 = ROE×配当性向

Corrected and reposted in February 13, 2013.財務管理論講義 証券市場論講義


財務比率分析 

2013-02-02 17:22:04 | Financial Management
財務比率分析financial ratios analysis
Hiroshi Fukumitsu

 財務管理論は企業財務に関する経営者の意思決定を扱う学問だという言い方がある。その意思決定の主要分野としては、投資決定、資金調達(資金構成 具体的な資金調達方法)、配当政策(得られた利益の配分、処分方法の決定)の3つがあるともされる。
 ところで意思決定のさらに前提になるのが、過去および現在の企業の財務内容についての財務分析である。
 そしてこの財務分析の手法の伝統的な手法として財務比率分析がある。これは定量的分析(定量分析)(quantitative analysis)でもある。ここでは財務比率についてどのような数値があるか。その意味合いを述べ重視される指標の変遷(それをもたらしたガバナンス構造の変遷)を明らかにする。なお財務分析には、定量的分析のほかに、戦略や人や技術などについての定性的(qualitative)分析がある。
 時間的変化とともに同じ企業に生じている変化や変遷を明らかにするlongitudinal analysisと、競合相手など他社との比較cross sectional analysisとがある。

財務比率分析の枠組み
 財務比率分析で日本ではまず重視されるものとして収益性profitabilityがある。また収益性を補う視点として成長性さらに効率性efficiencyが強調されることがある。収益性と対比的に重視されるものとして(合わせて)安全性stability(あるいは債務弁済能力solvency)があり、、さらに安全性を補う視点として流動性liquidityが指摘される。 
 一般にみられる財務分析では、これらの関係は並列的である。たとえば「財務分析」(wikipedea)は分析の角度として、収益性、安全性、効率性、成長性をあげている。また「財務分析」(経営に役立つ財務分析)は、経営分析を定量分析と定性分析に分けた上で、定量分析の中を、収益性、成長性、生産性、安定性の各分析に分けている。「財務分析」(ITPro)は、収益性、安全性、生産性、成長性、株主関連指標に分けている。しかし論理的には、収益性と安全性を対比的にとらえ、そのほかの分析をこの対比を補完するものと位置付けるべきだろう。
 
Reference
1)辛磊 易兰华 主編 企業管理概論 第2版 上海財経大学出版社 2012
2)V.Lanjigian and others, The Forbes CFA Institute Investment Course, Wiley, 2011.
3)Wiilaiam G.Droms and Jay O.Wright, Finance and Accounting for Nonfinancial Managers 6th ed, Basic Books, 2010
4)Karen Berman and Joe Knight, Financial Intelligence for IT Professionals, Harvard Business Press, 2008.
5)葛正良編著 証券市場学 立信会計出版社 2008
6)John A.Tracy, J.K.Lasser's Financial Basic for Business Managers, John Wiley & Sons, 2002.
7)David Campbell and others, Business Studies, Butterworth-Heinemann:1999, pp.53-73

重視される指標の変化とその意義
 次に注目されるのは教科書的な分析では、時代とともに、重視される分析や指標に変遷があるということである。
 まず収益よりは成長が重視された時代というのは経済成長が早かった時期に対応する。右上がりの経済成長の時期には、ともかく売上高などの規模(あるいはその拡大)が重視された。それが成長の鈍化とともに、利益の重視や、その資産(自己資本)と対比した効率性に焦点が移り、最近では資本コスト、すなわち資本調達コストを超えてどれだけ新たな価値を生み出しているかが問題にされ、さらに最近は資金効率に議論が移っている。企業の業績改善で財務セクションが能動的に何ができるかが問われるなかで、資金効率の改善が問われるようになったといえるのではないか。
 売上高 ⇒ 経常利益 営業利益 ⇒ ROA ROE  ⇒ EVA(=NOPAT-資本コスト額) ⇒ cash conversion cycle
 量中心 ⇒ コスト(経費)意識 ⇒ 資本効率 ⇒ 資本コストとの比較 ⇒ 資金効率(運転資本回転期間)
NOPAT net operating profit after tax
 なお上記の指標のうちEVA(経済付加価値)については(キャッシュフロー計算書)で述べる。  

 なお今後もこうした関心の変化は生じるであろう。大事なことは、その変遷を引き起こす社会的な背景をよく理解することである。また私たちはそうした関心が変化してゆく社会に生きているのであるから、今何が問題にされているか、さらにこれから何を問題にすべきかを自身に常に問いかける必要がある。新たな分析の観点や指標の開発に私たち自身が参加する必要もある。
 なお投資分野としての収益率をみるときは、投資対象としての効率性を判断しなければならないのでたとえば1株当たり利益(EPS)、株価当たり配当率dividend yield、など投資指標を用いる(株式関連指標として後述)。

Ⅰ.いろいろある利益概念がまずは採算性profitability:profitability ratios:収益性:企业获利huoli能力分析fenxi 
 採算性も問わず? 規模(売上高など)を問題にしていた段階が最初にある。その次に採算性を議論するようになる。

 販売価格
 製造原価
 粗利益 gross profit
 輸送費・包装費など
 販売費
 overhead cost
FIFO
LIFO
売上高利益率 return on sales ratio

EBIT eanings before interest and tax :事業利益 と呼ばれることがある 営業利益とほぼ対応
 営業利益
 経常利益(営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を引く)
 純利益(経常利益に特別利益を加え、特別損失と税金費用を引く) have to satisfy the shareholders
 包括利益(長期保有の株式などの時価の変化、海外子会社への出資金など外貨建て資産の為替レート変動額などを純利益に反映させた数値)

●gross margin: be aware of rising costs or inappropriate discounting
       : shows basic profitability of the product or service (B&K, 146,150) 

 粗利益=売上額  ー 売上原価  
売掛債権↑  売上原価↑
粗利益gross margin=gross profit/ revenue
 債権の増加が利益の押し上げと認識される可能性がある。⇒CCC分析による補完(後述)

 在庫の増減が売上原価を通じて当期利益に影響する 
売上原価=期首在庫 + 当期仕入 ー 期末在庫
      仕入債務↓  棚卸資産↑
 在庫の増加が売上原価を押し下げ、利益を押し上げる可能性もある。⇒CCC分析による補完(後述)

 営業利益はでているか 販売管理費が利益を圧迫していないか* 
              
 経常利益はでているか 少ない→金利負担が大きいのではないか

●operating margin=operating profit/revenue
operating margin: how efficiency the business is operating
 return on sales(ROS)

销售xiao1shou4利润率li4run1lv
 売上高営業利益率 その高さは高採算企業である(採算のよい事業基盤、堅固な事業基盤をもつ企業である 高シェア企業で価格支配力がある)ことの証明 採算性の基本指標とされる

 2011年3月期売上高営業利益率ランキング(上位の数字であることに注意)
 1)国際石油開発帝石 56.2%(+1,2)
2)ファナック    42.5%(+20.8) 
 3)日本電気硝子   30.1%(+0.5)
 4)武田       25.9%(-2.8)
 5)SMC        25.2%(+13.6)
 6)JR東海      23.2%(+3.5)
 7)ソフトバンク   20.9%(+4.1)
 8)NTTドコモ     20.0%(+0.5)
 9)テルモ      19.1%(-1.0) 
 10)田辺三菱     18.7%(+3.5)
 こうした収益性分析では、同業種に属していても個々の企業の収益性に違いがなぜ生じているかを、説明できるようになる必要がある。
 営業利益はでているか(本業の収益を求める) 注目点:販売管理費が利益を圧迫していないか 
 経常利益はでているか(営業外損益 大きなものとしては金融収益・金融費用を考慮) 注目点:金利負担がどうなっているか。

●net margin: its highly variable from one industry to another
 net profit margin = (net income)/(sales)
 純利益

次に 資産利益率そして自己資本利益率が問題になる
●ROA: return on assets, simply shows how effective the company is at using those assets to generate profit
 総資本利益率:资产zi1chan3报酬bao4chou2率lv 利益として用いるものはケースによって 経常利益 純利益など
ROA=(R/S)×(S/A)
なお厳密に考える場合は期初と期末の各資産価値を合計の平均値をこの場合の資産価値(=A)とする。
●ROE: return on equity, it tells us what percentage of profit we make for every dollar of equity invested in the company
 自己資本*純利益率:资本ziben収益率shouyilv ここでは利益として一般に純利益 を用いる
 なおすでに述べたように厳密には資産、負債、資本などストック項目は期首と期末の平均値を用いる。
 ROEは株主にとって株主重視経営が主張されるなか重要な指標とされることがある。
 DuPont system or DuPont equation
ROE=(R/S)×(S/A)×(A/E)
 自己資本利益率=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
         =採算性×資産効率×負債の活用度
 自己資本利益率は資本効率 株主から預かった資本を効率的に使っているかを示す指標
 採算性に加えて 資産効率 負債の活用度が 考慮されている。
 設問 自己資本利益率の3要素とはなにか。 

 株主の立場からは配当性向payput ratio=配当金/当期純利益
配当利回りdividend yield=配当/株価
 あるいはその逆の内部留保率=留保利益/当期純利益
 内部留保率が決まると自己資本の成長率は 内部留保率×自己資本利益率
なお1980年代後半のバブル期以降、日本の上場企業の間では配当性向や配当利回りdividend yieldの上昇傾向が知られています。
 例 野間幹晴 本多俊毅『コーポレートファイナンス入門』共立出版, 2005年, p.119(図5.11 1986-2004). 

Ⅱ.対極的な考え方がある負債:安全性についての理解 肯定的とらえ方と否定的とらえ方

安全性分析leverage(capital structure) ratios
 この項目の比率はcapital structure(leverage) ratiosと総称される。
 負債比率 debt ratio = debt / asset
 負債自己資本比率 debt equity ratio = debt / equity
equity multiplier = asset / equity

 負債についての考え方は、負債を拡大して自己資本を効率的に使う(少ない自己資本で借り入れで事業を拡大する 攻めの経営)という考え方と、負債を減らして財務内容の改善に努めるか(守りの経営)で、正反対である。 
 安全性の分析(アーク会計)は、健全性、流動性、固定性の3つに分けている。他方で安全性の分析(会計屋さんのメモ帳)は、短期的安全性、長期的安全性、金融支払い能力に分けている。一般的にこのような安全性分析は、内容としては、負債を抑える考え方。これに対して、負債が資産規模拡大(あるいは自己資本利益率拡大)に役に立つというのは、あるいは負債のレバレッジを活かしているといった表現では、負債は肯定的に捉えられる。
 どちらの立場に立つかは、企業が置かれている競争環境に加えて、今の段階で過大な負債の取り入れになっているかが判断基準の一つ。その判断基準の一つはデットエクイティレシオ(DE ratio)あるいは負債依存度である。DE ratioは理想的には1以下。しかし設備投資が多い業種では、伝統的に高い値になることもある。3を超えるのは行き過ぎとされる。

●負債自己資本比率debt-to-equity: weather a company will be able to pay back a loan
: bankers use it determine weather to offer a company a loan(B&K)
英語でdebt equity ratio 日本語では負債自己資本比率 負債純資産倍率 などさまざまな言い方があり注意が必要。
 debt equity ratio=debt/ equity=有利子負債/株主資本=負債純資産倍率
 負債純資産倍率は1倍以下が理想的とされる      1.36倍(上場企業2001年度)
Most industrial businesses stay below 1. They don't want to take on too much debt...Public utilities and financial institutions have much higher debt to equity ratio than 1 .(Tracey, p.104)
 しかし同時にgearing or leverageの比率すなわちレバレッジ効果leverage effectの比率でもある
 ROE=R0A×(A/E)=ROA×(E+D)/E=ROA(1+ D/E)
(E+D)/E あるいは D/E は財務レバレッジ(係数)と呼ばれることがある。この比率が大きいほど負債比率も高い。
 この式をleverage effect equationとよぶことがあります。
 例題 ROA:8% DEレシオ:120% なら ROE=8%(1+1.2)=17.6% これはRを区別しないとき
 ROAのRとROEのRを区別するときは
    仮に ROEのRは税引き後利子支払い後利益(純利益)
       ROAのRは税引き前利子支払い前利益(EBIT事業利益)とすると(表現に税金を入れて現実に近付けると)
    ROE=(1-t)×{ROA+(ROA-i)×(D/E)}
 例題 ROA:8% i:4% DEレシオ:120% t:40% なら
ROE=0.6×(8+4×1.2)=7.68%      
 (なお負債のコストは一般的に自己資本のコストより低いと考えられている。これは負債は自己資本に比べてリスクが抑えられているからで、したがって負債比率を高くした方が総資本コストは低下すると考えられる。資本コストを下げるためにも負債比率を増やすという考え方がここからでてくる。)
 負債には節税効果tax saving effectがある。これは利払い費用を経費とできることで、利払い額×税額の税金支払いが、企業の利益に役立つ支出に使われて、かつ節税になっているとみるものである。
 つまり負債を増やすことにはレバレッジ効果と節税効果という2つのプラスの効果(資本コストを入れると3つのプラスの効果)、あるいは企業経営者から見た誘因がある。
単純にdebt ratio 負債比率といったときはassetに占める比率を問題にしている。
 debt ratio = debt / asset 
 中国語では分母、分子の順に言うので言葉が逆転する。すなわち资产zi1chan3负债fu4zhai4比率

損益分岐点分析とscissors effect鋏効果
 負債比率が高い企業は、固定費である金利費用(負債費用)が高くなり、損益分岐点売上高が上昇して、金利費用が変化しないとしても景気の変動に耐えにくくなる(弱体化する)。このような負債比率の変化によるリスクは財務リスクfinancial riskと呼ばれることがある。
 なお金融費用を除外して(算入しない状態での)損益分岐点分析はoperating break-evenといいます。他方、金融費用まで考慮したものはtotal break-evenです。損益分岐点分析は昔の教科書では一つの章を与えるほど重視されていた項目です。
 損益分岐点は固定的なものでなく、景気循環の進行とともに可変費用(原料費用など)、固定費用の水準が変化して、変化してゆくものとして考察する必要があります。
 コストと収入との関係で、時間の経過とともにコストが上昇。粗利が減少する時の効果をsissors effectと呼ぶ。時間の経過とともにコストが上昇。販売価格を引き上げられないもとで企業は行き詰まります(企業が市場で価格支配力を持たない状況 そして費用を統制できない状況を示しています)。

 負債の増加は、金融機関や取引相手の対応に変化を生じさせ、取引条件の悪化。最悪の場合は事業継続の懸念から取引停止に至る。しかしそこに至る前に条件の変更や負債費用の上昇が生じるだろう。金利費用の上昇、あるいは借入条件の悪化(短期化 小額化 担保の追加の要求 さまざまな財務上の条件の追加など)が生じ拡大する。
 過度な負債を控えようとする意思は、この財務リスクへの考慮から生じるといえるだろう(この財務リスクは、債権者が企業経営のあり方について干渉する程度を高めてくる、経営の自立度が低下する、ということでもある)。
 逆にいえば、財務条件を改善することで、取引条件を改善してゆくこともできる。

●インタレストカバレッジレシオ=(営業利益+金融収益)/金融費用  5.18倍(全産業平均 大きいほど良い)
interest coverage ratios: how easy it willbe for the company to pay its interest
             : gets too close to 1 is obviously a bad sign
times interest-earned ratio= EBIT / interest
 times interest earnedとも呼ばれる数字は、interest coverage ratioと呼ばれる数字とほぼ同じである。 

有利子負債対キャッシュフロー倍率(=債務償還年数)  8.0年(全産業平均)この数値はちいさいほどよい。
 この逆数 キャッシュフロー対有利子負債比率も使う この数字は高いほどよい。キャッシュフローにもさまざまな定義があるが とりあえず 
  CF=当期純利益+減価償却費ー配当金
  CF=当期純利益ー社外流出+減価償却費

 負債それ自体は悪いことではない。ただ、負債の支払いに見合うだけの売上がないと問題だ。負債の多少を知る目安になるのは、資本総額に対する長期負債の割合で、・・・これが20%以上なら多いといえる。(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.198)
 負債の問題はどの程度を自己資本でまかなうかという問題と裏表である。つぎのように自己資本でまかなうべきとの議論がある。

△固定比率:純資産(あるいは自己資本)に対する固定資産の比率で100%以下が望ましい。固定資産が純資産(自己資本)でどの程度賄われているか。低い数値がよい。
△固定長期適合比率:純資産(あるいは自己資本)と固定負債の合計に対する固定資産の比率で100%以下が望ましい。固定資産が純資産と固定負債でどこまで賄われているか。低い数値がよい。固定資産/(固定資産+自己資本)
 株主資本比率 株主資本÷総資産×100    32.8%(全産業平均2000年度)
 業種により数字のばらつき大きい。飲食業・小売業は低い。

 別の個所でもお話していると思いますが、不良債権が発生した場合、一つは償却(直接償却)といって切り捨てる(損失として計上する)ことをします。それだけ資産が減ることになります。そのとき、債務(負債)が資産を超過してしまうことを債務超過といいます。これは財務の破たんを意味しています。つまり資産が減るときに、資本(自己資本)の厚みが問題になるのです。不良債権に対処するもう一つの方法は、不良化(予想される損失)に見合った貸倒引当金の計上です。こちらは間接償却といいます。

なお債務返済能力solvencyという概念がある
英語ではdebt paying ability: solvencyである。
solvency:the ability of a business to pay its liabilities when they come due (Tracey, p.102)
debt to capital ratio
debt to equity ratio
financial leverage
solvencyの逆はinsolvency:inability to meet financial obligationsであり支払い不能状態を意味する。そしてそのことを裁判所が認めた状態が法律的な意味での破産である。なお企業が破産した後には清算するか再生に入るかの選択(債権者にとりどちらが有利かが問題になる)がある。

 金利費用の増加が企業財務を圧迫することのとらえ方としては、カバレッジレシオの低下というとらえ方があります。もう一つのとらえ方としては、損益分岐点分析における固定費用の増加(損益分岐点売上高の上昇 後述)です。

liquidity ratios 流動性分析(すでにみたように流動性は安全性の一部とも考えられる)
● current ratio = current assets / current lib.
current assets are those can be converted into cash in less than a year
less than 1 is too low, going to run short of cash (B&K, 160)
The general expectation is that the current ratio for a business should be 2 to 1 or higher. Most businesses find that creditors expect them to maintain this minimum current ratio. (Tracey, 102-103)
 流動比率=流動資産÷流動負債×100          111%(上場製造業2000年度)
中国語でも流动liu2dong4比率bilv
 理想的には200%以上(two to one rule) 100%以上が必要 100%-120%が目安という言い方がある 
 流動資産額>流動負債額 これが崩れる時 つまり分母が増えるのは短期運転資金のための借入が増えているのでは?
 このように短期負債の増加は危険のシグナルになる
 なお固定資産は資金の回収に時間がかかるから、固定資産<(純資産+固定負債)となるべき。これが崩れているのは固定設備資金を長期資金で賄えていない?としてやはり要注意のシグナルになる。 

● acid test or quick ratio = ( current assets - inventories ) / current lib.
an indication of the customer's supply of ready cash compared with its current liabilities
quick ratio: shows how easy it would be for a company to pay off its short-term debt without waiting to sell off inventory or convert it into product (B&K, 160-161)
because only cash and assets quickly convertible into cash are included in the amount available for paying current liabilities (Tracey, 103)

●当座比率=当座資産÷流動負債×100  
 当座資産は英語ではacid testとかquick ratioと呼ばれる。
中国語では速动su4dong4资产zi1chan3比率
 80%以上が必要
 当座比率= 当座資産/流動資産
 当座資産= 現預金、受取手形、売掛金、一時保有有価証券
 100%を下回ったままでの当座比率の低下 → 危険
 一般的には100%以上とか 150%以上とされる
●cash ratio = ( quick assets - accounts receivables ) / current lib.
cash = cash + market securities
quick assets = cash + market securities + accounts receivables
△現金比率=現預金/流動負債 即時の支払能力 理想的には20%以上

 *1)自社株買いや2)有価証券など資産の評価換算差額、3)新株予約権(発行時の払い込み金額)さらに4)少数株主持分などがあり、自己資本概念は近年再定義されています。1)自社株買いで購入した自己株式を、資本金、資本剰余金、利益剰余金に加えたものが株主資本です。つまり自社株買いは市場に出回っている株数を減らしますが株主資本が減るわけではありません。この株主資本に評価換算差額を加えたものが自己資本です。保有している株式の時価変動が自己資本の変動につながるのは、この組み立てのゆえです。この自己資本に新株予約権(発行時の払い込み金額)と少数株主持分(50%以上出資の親会社が存在する場合に親会社以外の持分)を加えたものが、純資産になります。つまり親が存在するときは親から見た利益率を自己資本利益率などで測定することになります。鈴木芳徳「自己資本という問題」『証券市場と株式会社』白桃書房2007年3月, pp.44-59.
 ここでネット上の分析も参照すると、「企業の効率性・収益性」(N's Spirit投資学教室)や「収益性の分析」(アーク会計)は、利益率(収益性)と回転率(効率性)を組み合せている。また「収益性の分析」(会計屋さんのメモ帳)は、利益率等、回転率、損益分析に分けた上で、株式関連指標を別掲している。すなわち収益性の分析は、効率性の分析で補われるというのが一般的な認識だろう。
この効率性の数値が低下あるいは悪化していることは、企業の状況が悪化していることの判断に使うが、その点はあとで改めて述べる。

Ⅲ.効率性分析の時代 資産効率性から資金効率性へ
 現在の財務分析の主流は効率性分析である。積極的な設備投資に踏み切れないなか、企業は保有している資産の効率化を求められている。売上が伸びにくい中で、負債や在庫を削減(総資産を圧縮)して、資産回転率を上げることが財務の戦略として重視されるようになった。この点でサプライチェーンマネジメントシステムの意義が浮かびあがっている。それと同時に大震災などのリスク(日常的にも供給配給の途絶をもたらす、さまざまなリスク要因がある)への備えをどうするかも問われるようになっている。
 さらにその中でも、財務部門が戦略的に取り組める資金効率の改善が重視されるようになってきている。

●total asset turnover 総資産回転率
asset turnover ratio
it gauges efficiency in the use of all assets
 1に近い数値:relatively asset heavy
 年商と総資産との対比 中小企業 1.0(製造)-1.3(非製造)
 年商が総資産の何倍か
 数字が小さい:過剰な設備投資 資産(在庫)のかさ上げ
  ポイント:売上高(年商)とともに分母に注目する
 このほか固定資産回転率を用いることもある 総資産回転率や固定資産回転率は投下資本の長期効率性を評価している。この数値を改善するうえで、負債を削減したり資産の証券化(後述)を図ることで、資産の圧縮を図ることの意義が見えてくる。

2011年3月期 総資産回転率ランキング(上位の数字であることに注意)
1) トヨタ車体 3.49
2) 関東自動車工業 3.19
3) カルソカンセ 2.38
4) 日産車体 2.05
5) トヨタ紡織 1.95
6) コスモ石油 1.75
7) JT     1.73
8) 雪印メグ  1.73
9) 日野自動車 1.72
10) 日本ハム 1.67

活動の効率性 operating efficiency or activity ratiosの重要性
在庫 売掛債権 買掛債務 いずれも分母にするときは期首期末平均残高を用いる。サプライチェーンマネジメント(ジャストインタイム)の徹底で在庫を圧縮する意義が浮かびあがる。このような手法は、お金の面では運転資金の圧縮につながる。必要な資金の圧縮は、見方を変えれば資金を生み出している=資金の内製化ともいえる。
 他方でこの効率性分析は、売上が増えても資金回収が進まない現象(資金回収に遅れ)、在庫が増えて売上原価が改善して見かけ上は利益が増える現象、などを分析するのにも有効だ。

●inventory days(days in inventory:DII)
inventory turnover ratio(stock turnover)
inventory turnover days
在庫回転期間=(平均在庫×360)/仕入高
 在庫回転期間=(在庫×12)/仕入高     (何カ月分の在庫があるか)
 在庫回転期間の伸び → 売れ行き不振?

●days sales outstanding(average collection period, debtor days)
平均回収期間average collection period
accounts receivebale turnover ratio
accounts receivables turnover days
(期末の売掛債権×360)/売上高
 売掛債権回転期間=(売掛債権×12)/売上高 (何カ月分の売上債権があるか)
 売上債権回転期間の伸び → 資金回収の遅れ?
the lower the better
the person responsible for cash mangement likes to see debtors days much lower than creditor days

●days payable outstanding(creditor days)
 平均支払期間average payment period
accounts payable turnover days
(期末の買掛債務×360)/仕入高
買掛債務回転期間=(買掛債務×12)/仕入高 (何カ月分の買掛債務があるか)
 買掛債務回転期間の短縮 → 業務不振?

 売掛債権回転期間<買掛債務回転期間 となると資金的には余裕(回転差資金)が生まれるとされる。 

運転資本回転期間CCC(cash conversion cycle or working capital turnover)=在庫回転期間+売掛債権回転期間ー買掛債務回転期間 この日数が少ないほど現金を早く取り戻すこと(資金繰りが楽であること)を示します。財務セクションとしては在庫の圧縮を各事業部門に指示するとともに、売掛金の早期回収、買掛金の支払い延長(支払条件の変更)に取り組むことを意味しています。

利益管理 損益分岐点分析 break-even analysis
財務管理と重ねて理解されるのが利益管理という言葉である。損益の管理の問題、目標とする利益に向けて費用、現実の費用や売上はどうなっているか。そこから費用をどのように管理するか、売上目標をどのように設定するか。などが議論される。かつての教科書では、損益分岐点分析だけで一つの章が立てられるほど、重視されいた。
 よく考えてみれば、経費を賄える売上高を上げられるかは、どれだけの金利負担(負債)に耐えられるかという問題にとり大きな制約である。

損益分岐点分析(Office HIMI) 総計と個別費用とに分けて説明している。
損益分岐点分析(ITpro)固定費水準の違いが与える影響
 固定費を上回る売上高の大きさ
 総費用を上回る売上高の大きさ
 線形は成立するか 割引がない 規模の経済 規模による固定費の違い

鷲野健次さんの本から財務分析を拾う。財務分析を用いて、取引先企業の異常を検知、判断することがあるとのこと。 

 売上高の大幅な減少傾向⇒重大な事態の可能性 (減少要因の速やかな把握)
 売上高の大幅な増加(運転資金借り入れができているか)
 営業利益の赤字(=利息を支払えない状態にある 企業の存続条件を満たしていない 新規融資 新規取引は停止が必要)
(鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.70-71)
 経常収支比率が100%割れしている場合(⇒粉飾の可能性 100%越えている場合も回転期間が業界平均より高くないか確認)
 キャッシュフロー比率(運転資金を除く借入金を返済するの何年必要か)が10年を超える場合
 支払手形の増加 そして急減
 当座比率が80%を切る場合
 インタレストカバレッジレシオ(利払い能力)が1を切る場合
 デットカバレッジレシオ(資金調達力)の100%越え
 回転期間分析
 売上債権回転期間(業界平均に比べて長い:不良債権の内包の可能性 長期化:資金の固定化あるいは不良債権累積の可能性、無理な売上計上の可能性)
 棚卸資産回転期間(長期化:不良品、仕損じ品の資産への混入 仕掛品の過大計上 不良棚卸資産の増加 販売不振に対する生産調整の遅れ 返品の増加 逆に:期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースもある)
 買入債務回転期間(売上債権回転期間とほぼ同時に長期化したときは融通手形*操作の可能性あり 棚卸資産回転期間と同時に長期化する場合は棚卸回転期間の長期化は期末の大型受注、来期の売上のための仕入れなど良い兆候のケースと判断される)
 (鷲野健次『与信管理の達人』きんざい, 2011年, pp.151-160)

 企業の健全性を知りたい、という場合は棚卸資産と売掛金をみるのが一番だ。どちらかが売上高の伸び率より急カーブで増えていれば、何か問題が起きている。在庫が増えるということは、製造した製品がうれていないということだ。・・・売掛金の増え方が大きい場合には、顧客に商品を押し付けている可能性がある。(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.197)

収益性
profitability analysis
 消費者 経営者 投資家

 消費者にとっての価値
  ↓ 消費者余剰consumer surplus
 市場価格
  ↓   profit 
 生産費用


定性的分析の事例 SWOT分析
定性分析では、企業が置かれている環境 企業が採用している経営戦略 さらには企業がもっている人や技術など潜在的成長力に属する問題等を分析する。企業がとっている戦略、環境変化への対応力など、を総合的客観的に分析判断する必要がある。
思考の枠組みとして、よく使われるのはSWOT分析である。
SWOT analysis (valuebasedmanagementnet.com) SWOT分析は強みを生かす戦略、弱みを減らす戦略という次の手段の基礎になる。
inside-out戦略とoutside-in戦略とに分かれる。
定性的分析の事例 コアコンピタンスの分析:発見・強化

株式市場関連指標
 単純に発行済み株式数で計算した数値と潜在株式による希薄化効果を調整した数値 とがある。株式市場関連指標は、財務の数値に現れた企業業績と、株価との関係をみている。その意味で、財務分析の応用としての側面が強いのではないだろうか。

earnigns per share:EPS 1株あたり利益 
basic EPS
diluted EPS or fully diluted EPS 潜在株式調整後EPS
dividend yield:配当利回り:股息gu3xi1収益率shou1yi4lv
総合利回り:持有期chiyouqi1収益率shou1yi4lv
price-earnings ratio 株価収益率 PERの逆数は益回り:股东gudong权益quanyi报酬率baochoulvという
wether a company valued high or low in comparison with other stocks
 株価純資産倍率PBR
 株価キャッシュフロー倍率
 株価売上高比率
なお1980年代後半のバブル期以降、日本の上場企業の間ではPERやPBRの低下傾向が知られています。
 例 野間幹晴 本多俊毅『コーポレートファイナンス入門』共立出版, 2005年, pp.160-161(図7.2 図7.3 ともに1986-2004). 
 
参考

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
originally appeared in April 14, 2009
corrected and reposted in Feb.23, 2012 and February 2, 2013.

日本企業の業務の国際化について

2013-02-02 00:26:56 | Financial Management
 日本企業の業務は国際化(グローバル化)はどのような点に表れているだろうか。ここでは幾つかの指標で確認する。

①生産の拠点が海外に移されている。
 日本の自動車メーカーについてみると、2006年に遂に海外生産台数が国内生産台数を上回っている。
 ホンダはすでに1999年に、また日産は2003年にそれぞれ海外生産が国内生産を上回っている。スズキも2006年に海外が国内を上回る。
 日本メーカーは1950年代にトヨタがブラジル、日産が台湾で生産を開始したものの1990年代までは輸出が中心だった。しかし日米貿易摩擦が激しくなるとともに1995年以降は北米中心にさらに近年は中国、インドなどでも現地生産を開始。95年以降海外生産は倍増し、世界の生産台数の中で日本メーカーのシェアは2004年で32%に達する。N06/04/18
なおトヨタ自動車の売上高は2007年4-6月期についにGMを抜いたとみられる。6兆5226億円 GMは5兆5700億円 468億ドル 1ドル119円で換算。N07/08/04
07前半期でもダイハツ日野工業を含めた台数ではGMを上回ったとみられる。
N07/07/21

 以下は国際協力銀行の「海外直接投資に関するアンケート調査」(各年)による海外生産比率の推移である。このアンケートの対象は製造業で海外現地法人を3社以上もつ企業。
19901995200020052010
14.1%19.0%23.0%29.1%33.3%
 

 このほか経済産業省で行っている「海外事業活動基本調査」(各年)にも同様のデータがある。
 以下は内閣府の経済社会研究所の「企業行動に関するアンケート調査」(各年)による海外現地生産比率の推移である。これによると製造業(国内全法人)の中では加工型で現地生産比率が高い。
19901995200020062010
製造業全体3.4%8.1%11.1%16.1%17.9%
うち加工型6.5%12.2%15.9%23.2%24.7%
うち素材型2.8%6.4%9.2%11.6%14.9%

2012年度企業活動基本調査速報 製造業の海外子会社保有比率25.6% 1992年の調査開始以来最高。前年は24.9%。
 1企業当たりの海外子会社数は過去最高の7.4社。国内子会社は5.1社。調査対象は従業員50人以上 資本金3000万円以上の企業。

 2012年3月期現在で製造業で工場や機械など有形固定資産で海外が国内を上回る「内外逆転」となっている企業名
 ユニチャーム(65%) 日本電産(64%) 信越化学 日産(53%) トヨタ SMC

生産が海外に移る前に生じる現象は設備投資が海外で活発化すること(企業の海外資産が増えるということ)。あるいは海外の企業を買収する動きの活発化などである。つまり投資の海外シフトである。製造業は供給網の国際化(グローバルサプライチェーンの拡大)を進めている。大きな背景は円高(最近では東日本大震災以降、国内については電力不足の懸念も指摘されている)と国内市場の縮小だとされている。これには国内産業の空洞化につながる懸念(国内雇用そして税収減につながること)が指摘される一方、新興国需要にきめ細かく答えるプラス面がある(物流コスト面からは消費地の近くで生産することが合理的)。
 基幹部品の生産は国内に残すという考え方。あるいは開発と生産がともに国内に残り接触し合う法がイノベーションにつながりやすいとの考え方。東日本大震災を契機に、世界の顧客への安定供給を優先、基幹部品の生産をも海外に移す企業が増えたとされている。
 生産を海外企業などに委ねるファブレス型企業(自社は設計や販売に特化:生産設備への投資負担がなく経営資源を得意分野に集中できる)の増加がこれに輪をかけている。 
 小売りや外食など非製造業の場合は、海外での店舗展開の積極化がみられる。背景にあるのは国内市場の縮小傾向である。
 新興国と先進国ではビジネスの価値基準に違いがあるとされ、いかに価値基準の違いがあるビジネスを両立させるかが問われているという言い方がある。
 全体として新興国需要に対応した日本企業のグローバル化が、生産の海外への移転(海外投資の拡大)をもたらしている。
 このようにして企業活動が国際化するとともに問題になっているのは、海外で上がった収益を日本に戻すかどうかの判断。企業の立場からは法人税の低い国で利益が上がった形にすることが有利なので、法人税率の低い国の法人に特許、デザイン、ノウハウといった無形資産を片寄せしてその法人が利益をあげている形にする戦略が、大手IT企業では取られているとのこと。また国内の成長が頭打ちであれば、日本に戻さず現地で再投資することは経済的にも合理的だ。
 → 企業活動と税制(グローバルタックス・プランニング)
 法人税引き下げの議論が、企業優遇と単純に言い切れないのは、法人税を引き下げて、企業の海外流出を避けようとする動きが国際的にひろがっていることが大きい。
 
一般に生産拠点の海外移転により、海外で生産されるようになった製品が日本に輸入される逆輸入効果が知られている。海外からの輸入の少なくない部分は、海外の日本企業製品の輸入だということである。また海外現地法人の生産の拡大に伴って、日本の中間財の輸出が誘発される輸出誘発効果も知られている。
ノックダウン生産。部品を輸入して組み立てて生産することをノックダウン生産(knock-down production)。またその輸出をノックダウン輸出(knock-down export)と呼んでいる。海外に生産拠点を移しても、日本で基幹部品の生産を続けている場合、海外生産の増加が国内生産の減少に直結しないで、完成品生産は減少するものの部品生産の増加となり、さらには輸出を誘発する面がある。
 当然ながら、海外現地では現地調達比率local content rateを引き上げるように海外現地からは指摘や要望が出る(このような現地調達比率を求める法律はlocal content actという)。生産拠点の現地化が進み、中間財を海外で調達するようになると、輸出誘発効果は低下すると考えられる。
この場合のもう一つの着目点は、国をまたぐ分業の構造が垂直的なものverticalから、時間の経過とともに水平的なものhorizontalに変化するということだろう(水平的分業horizontal specialization)。
 国と国との間では国内産業保護のための輸入制限が知られる。その方法の一つは関税tariff or duty。とくに保護関税protective tariff。そして輸入制限import quota。現地政府や生産者や、ある商品の輸入量について、量的制限import quotaを設けることがある。そして保護主義protectionismのもう一つの現れが、現地調達比率の強制や、補助金などである。
embargo通商禁止
quota数量割当
tariff関税
import tax輸入税
voluntry restraint policy自発的抑制


②連結売上高での海外依存度が上がっている。
2006年9月中間決算で自動車大手6社で76% 電機大手6社で51% 上場企業全体で50.6% 5年前の02/03期は42% N06/11/17。なお対米比率とは海外売上高に占めるアメリカの比率。06年中間
社名02年3月期06年9月中間米州比率
トヨタ自動車63.1%74.6%37.9%
スズキ52.868.015.6
東芝38.151.114.6
リコー46.050.120.6
コマツ53.873.229.3
信越化学57.668.934.5


 主要企業600社の07年3月4期の数値では、海外売上高比率は自動車が65%近く、精密が56%、電機が49%など。全体では海外の比率は45.3%。3年前に比べ5.6%増加。内訳は米州が12.7%、アジアが10.3%、欧州が6.7%などとなっている。対アメリカの伸びが鈍化する中、アジア向け、欧州向けが伸びている。N07/06/07
 → 大事なアジアシフト
このような傾向はアメリカでも同じ。GEの売上高に占める米国外比率は2007年1-3月期に44%から49%に上昇。S&P500採用企業の売上高に占める米国外比率は2004年41%が2005年44%に拡大している。

 海外売上高比率の高い企業(2011年3月期)
 1位 TDK 87.3%
2位 ニコン 85.7%
3位 エルピーダ 85.2%
4位 村田製作所 84.3%
5位 任天堂 83.4%
6位 ホンダ 83.2%
7位 マキタ 83.1%
8位 アルパイン 82.5%
9位 コマツ 81.1%
10位 三菱自動車 80.1% 

なお内需型企業の海外売上高が急速に拡大している 2011年3月期 と2006年3月期
 資生堂    42.9%(29.4%)
ユニチャーム 42.4%(26.7%)
 キッコーマン 43.2%(26.2%)
急上昇した企業
 コマツ    81.1%(70.1%) 
 ファナック  75.2%(63.5%)

③営業利益の海外依存度が上がっている。2005年度決算。上場企業が海外で上げた営業利益。5兆677億円 21%増。依存度は29.5% 1.4%上昇。N06/07/12 2006年度決算。同前。5兆7390億円 21%増。依存度は30.9%。1.4%上昇。N07/08/20
2005年度決算
社名海外営業利益海外依存度
トヨタ自動車8,023億円43%
日産自動車5,11757%
ホンダ5,02458%
三井物産1,86170%
松下電器産業1,02722%
キャノン1,01313%
スズキ62851
東芝48320
リコー51634
コマツ87648
信越化学46025

④海外現地法人は現地で得た利益を再投資して、国内市場に比べて今後成長が見込まれる海外市場の開拓(設備投資・販売拠点増設など)に振り向ける傾向が顕著になっている。2006年の海外現地法人の内部留保金1兆9063億円。2007年上半期1兆355億円。前年同期比14%増。なお2006年末の対外直接投資残高(内部留保含む)53兆4760億円 前年比17%増加となっている。N07/08/16
 生産体制のグローバル化。

⑤雇用の国際化
 海外生産体制を整えた企業グループでは、すでに海外で働く人が国内で働く人を上回るようになっている。
 たとえば味の素グループは2007年3月31日現在の総従業員24,733名が、アジアに43%、日本に40%、米州に11%、欧州に8%の割合となっており、海外の従業員数の方が多くなっている。
 海外が上回らないまでも、海外従業員数がかなりの割合を占める企業は多い。たとえばシャープグループの2006年3月31日現在の総従業員55,731名の配置は、アジアに32%、日本に56%、米州に5%、欧州に7%の配置となっている。

 人員をはじめとする経営資源をグローバルに調達・配置することや、リスク管理をグローバルな視点で行うことが、企業にとって不可欠の課題になっている。

企業に対する税負担率の違いが国際化に影響している。たとえば日本より税負担率の低い海外に進出した企業が、海外子会社で得た利益を本社に還流させると親会社(日本)で追加課税が生じる。しかし現地で再投資すれば、連結でみた税負担率が低下する。日本の地方税を加えた実行税率は2007年春で39.54%。米国(39.3%)には近いも。ドイツも39.8%と高いGだったが2007年に消費税の税率を3%引き上げ法人勢税を引き下げる方針(29.8%へ)。イギリス、フランス、中国などでは30%台前半。アジアでは台湾は25%、シンガポールは18%だったが、2002年2月のうちには2月に18%引き下げる見込み。
 ということは相対的に高い法人税負担があると、企業は税負担軽減のためにも、生産消費の現地化を志向するのではないか。

以上を投資として考えると国内企業の海外向けの投資outbound investment(対外投資)とくに対外直接投資direct investmentといえる。なお一般に投資は、証券投資など間接投資indirect or portfolio investmentと、工場・店舗などの取得を目的とする直接投資とに分けられる。
 これに対して投資のもう一つの区分は、対内inboundか対外outboundかである。inboundとoutboundは、情報通信の世界でも受信inboundと発信outboundと使う。
 海外企業の国内向け投資、対内投資はinbound investmentである。
 海外企業の対内投資はファンドの動きのように短期的収益を目指すものと、たとえば長期的に国内に根付こうとする動きとがある。
たとえば米オフィスデポが、店舗販売をやめてネット通販に通販に特化するという動き(09年5月発表)は、通販のアスクルなどとの競争に対応したものにみえる。2002年に西友に5%出資して日本進出したウオルマートはその後も苦戦(連続赤字)しながら撤退せず、むしろ西友を完全子会社化して(2008年)、積極的に改装投資もするとしているのでこれも長期的定着を目指しているのだろう。
 これに対して短期的な収益確保を目指すファンドの動きもある。
 
 Written by Hiroshi Fukumistu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 Originally appeared in Feb.13, 2008. Corrected and reposted in May 28, 2009.
Corrected and reposted again in February 2, 2013

キヤノン:国内生産維持は可能か
KUKA robots spot welding
財務管理論 前期 財務管理論 後期 金融システム論 財務管理論教材



東日本大震災の地震保険制度への影響(2012年9月)

2012-09-08 15:31:50 | Financial Management
1966年スタート。火災保険にはいることが条件で
火災保険の保険金額の3割から5割が上限保険額。建物で5000万円。家財で1000万円が上限。
支払い額が1150億円を超えると政府と民間保険会社(日本地震再保険)が共同で支払う。官民の
支払い準備金は約2兆3000億円(2011年3月末 内訳は国が約1兆3000億円 民間が1兆円)
地震1回当たりの支払い限度額は2008年度に5兆5000億円に引き上げられた(この金額を超えると
保険金額を減額する仕組み)。2009年度末加入件数は1230万件(全国の平均加入率は23%)。
政府は2012年度に支払い限度額を6兆2000億円に引き上げる方針を2011年末に固めている。

今回の2011年3月11日の東日本大震災では
請求件数 2011年3月末で25万件 最終的に50万件 1兆円規模を予想が当初予想された(2011年3月末)。
後述するように金額は1兆2000億円規模の数字に膨らんだ。
阪神大震災では6万5427件 783億円の支払い(1994年度末の加入件数は397万件 全国平均の
加入率は9%)。

支払い金額と定義
全損:契約金の100% 主要構造部の損害額が時価の50%以上。または流出焼失した部分の延べ床面積が
建物の延べ床面積の70%以上
半壊:契約金の50% 前者20-50%未満 後者20%-70%未満
一部損:契約金の5% 前者3%-20%未満 または床上浸水 または地盤面より45cmを超える浸水で
損害が生じた場合

東日本大震災では損害保険協会では航空写真などをもとに津波被害が甚大な27地域を全損地域に認定。
査定の迅速化を図った。

2011年6月22日で支払い済み額は1兆5億9619万円。支払い件数は55万4005件。うち東北6県で6683億902万円。
29万8069件(契約件数の9割強の支払い終わる)

2011年6月末で 全損が5.9% 半損が26.6% 一部損が67.5% 7割が一部損と査定。この査定に
不満がでるとともに、1契約あたり平均で158万円という数字に少ないとの指摘があった。

2011年8月末で支払い済み額は1兆1343億円(岩手 宮城 福島の3県で7350億円 宮城だけで5328億円)。
この段階で最終的な見込み額1兆2000億円程度となった。

損害査定の方法の見直しについて
⇒ 緩和と細分化 ⇒ 査定業務が複雑になり保険金の支払いが遅れるとの意見もある
支払い保険金少なすぎるとの指摘
⇒ 保険金上限額引き上げ必要。
しかし支払い原資は半減。今後大型の地震あれば支払えない。
再積み立てが損害保険会社を今後長期間負担になる恐れ。
政府が再保険の責任をもつべきとの議論がある。
⇒ 政府と民間の役割分担、保険料の引き上げなどが検討課題に。
地域と建物の種類(地震の発生確率と住宅密集度合いなど)で差をつけている。
地域により3倍以上の差をつけているが4段階の料率で今回の岩手と福島は最も低い料率。宮城も下から2番目。
⇒ 料率の決定の仕方の見直し

政府は2011年末までに個人向け地震保険の支払い限度額を5兆5000億円から
2012年度から6兆2000億円に引き上げる方針を固めた。
背景には地震保険加入件数の増加がある。
2011年9月末で保険契約件数は1341万1066件。前年同月比7.9%増加。
2012年3月末では1408万8665件 前年度末比10.5%増。

なおここで述べてきたのは地震保険のうち、個人向けとされるもの。その制度としての
ポイントは支払い原資が用意され、まずはそこからの支払いになるということだろう。
具体的な政府と保険会社の支払い分担の仕組みは以下を参照。
関心高まる地震保険

これに対して工場、建物、店舗などについて企業向けの地震保険がある。
こちらのリスクを損害保険会社は海外の再保険会社に支払い総額の半額程度を
再保険に出している。東日本大震災を受けてこの再保険料が上昇。
2012年度に入って企業向け地震保険料の引き上げ交渉が生じている。

再保険料は、タイの洪水などほかの災害要因によっても上昇している。そこで、保険会社の間では
再保険以外の手段として大災害ボンドCat Bond(償還までに災害が起きると元本が減る仕組みの高利回り債券)による
支払いリスク軽減が注目を集めているとのこと(日本物Cat Bondが日本の災害のリスクの高さから敬遠されているとの指摘もある)。

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中小企業金融円滑化法の終了問題

2012-09-01 16:55:47 | Financial Management
中小企業金融円滑化法の終了の影響を危惧する声の拡大
 2009年10月、民主党政権のもとで債務返済猶予制度(当初、亀井静香郵政・金融相の独走のように伝えられたが、その後の展開を見ているとそうも言い切れないようだ。また亀井さんのやり方は、大枠を示してあとは事務方の調整を待つというスタイル。細かな調整で現実との妥協は図られた)が、中小企業金融対策として議論された。なお同制度の名称はその後、中小企業金融円滑法(2011年3月までの時限立法)となり成立した(2009年11月30日 2009年12月4日施行)。
 そして1年後の2010年12月14日、金融庁は緊急保証制度の打ち切りと、中小企業金融円滑法の延長を方針を発表した。しかし中小企業の要請が強かったものからまず1年延長(2012年3月末まで)。さらに2011年12月26日に金融庁は、再度の延長の方針を固め、1年延長の改正案が2012年3月に成立した。その結果、同法は2013年3月末までの措置となっている。そこで同法終了後の中小企業金融のあり方を懸念する声が高まっている。

 中小企業金融円滑化法は2009年12月4日施行 申込・実行(累計件数)および審査件数
 中小企業金融円滑化法は、金融機関に返済条件変更の要請に応じる努力義務を課した法律 金融機関には銀行は3ケ月、その他の金融機関は6ケ月ごとに実績開示義務 虚偽開示には罰則 要請の拒絶率が低いのが特徴 拒絶率の低さについては企業に対する事前の指導の有無が話題になっている。

 2009年12月末 申込   70,087 審査中44,219 実行 24,897 取り下げ 797 謝絶  174 
2010年12月末 申込  481,367 審査中91,191 実行368,074 取り下げ15,686 謝絶 6,417
 2009年12月ー2011年3月末 申し込み件数176万5000件 うち金利減免返済猶予に応じたのは158万7000件
 審査中等を除く実質的実行率は97%
 (2011年9月末で債権ベースで約228万件の円滑法による条件変更があった。これは企業数では30-40万件に相当:倒産を食い止めた
 評価と 経営悪化企業の実態は変わらないという評価とが交錯/2012/06/04追記)
 ちなみに日本企業数は420万とされ、その99.7%が中小企業(419万)。その1割が利用したことになる。この法律は後述するように2度の延長
 措置を経て、2012年8月末現在、2013年3月末に終了の見込み。2012年第二4半期に入って、金融機関が円滑化法期限切れを見込んで融資態度を変化させ始め、倒産が増え始めているとされる。

 実際には、同法を受けて金融検査マニュアル(検査指針)を変更して、融資条件を変更してもただちに不良債権扱いしなくて良いとしたことが、金融機関への対応を促すことになったとされる。マニュアルの変更は2008年11月に行われた。条件を変更しても最長で10年で経営を再建できると判断できれば(条件を変更すれば経営改善できるものを)不良債権と見なさなくて済む(不良債権に分類しなくてよい)とした。
 このようにマニュアルの改定により金融機関の姿勢の弾力化を促す手法は中小企業円滑化法施行前から 金融庁が採用しているテクニックであり、一見政治主導にみえる中小企業金融円滑法は、金融庁のアイデアだった可能性も否定できない。

 しかし同法制定の背景には信用保証制度の改革の問題がある。
信用保証の仕組み
 信用保証は、信用保証協会の審査を受けて保証料を支払い、信用保証を受けることで、中小企業は金融機関から融資を受けやすくなるというもの。またこれを基本に保証料や利子を地方自治体が補給する制度などが各地方自治体にある。そもそも信用保証の仕組みについては、金融機関がリスクを負わず、企業に信用保証というコストを上乗せで負担を求めるしかけになっている。リスクを負いたがらず、優良企業中小企業に対しても信用保証を求める金融機関に対して、中小企業には不満がもともとある。

信用保証制度
信用協会による保証付き銀行融資
融資制度(日本政策金融公庫) 旧国民金融公庫 旧中小企業金融公庫
東京都中小企業制度融資
起業ABC 設立手順
起業ABC 仕入先・取引先の決定など
起業ABC 債権回収の外部委託
起業ABC 販売仕入管理

自民党による信用保証制度「改革」による中小企業金融の混乱が発端ともいえる
 2008年8月に政府がまとめた総合経済対策のなかで、中小企業金融対策として信用保証協会に100%保証の緊急保証制度が設けられ10月31日から申し込みの受付を始めた。これは、一般の保証とは別に最大2億8000万円まで返済全額を保証するというもの。2008年10月の一次補正予算で政府は保証で6兆円、貸付で3兆円の財源を確保した。
 その後、政府は第二次補正予算で6兆円の緊急保証枠を20兆円に。また3兆円のセーフティネット貸付枠を10兆円にそれぞれ増やし30兆円に拡充する方針であった。ところが政府が予算案提出を先送りしたため(08年11月末)、枠の拡大は年明けに持ち越された。また中小企業金融対策と、国際的な協調を名目にして、自己資本比率規制を行う際の有価証券の含み損益の算入について、緩和措置が決定された(08年11月)。
 またこの10月末の申込受付開始に先立って経済産業省は、信用保証協会の保証対象となる業種を185から545に増やすことを決めている。
 緊急保証制度導入の背景には、自民党政権当時の2007年10月から信用保証協会の保証を80%保証(責任共有制度)に切り替えたところ、金融機関が信用保証協会保証付き融資に対して慎重になり、新規保証承諾額が08年4-9月に前年同期比で大幅に15%減少。80%保証に切り替えた結果として中小企業の資金繰りが悪化した。
 80%保証への切り替えの背景として、信用保証協会が近年、業務の見直しを進めてきたことを指摘できる。たとえば2006年度から保証料を05%から2.2%まで9段階に区分(従来は年1.35%のみ)また連帯保証人制度を廃止している。連帯保証人制度が、中小企業の自立を阻害し、連鎖倒産などが社会問題となっていることが廃止の理由とされている。また事業に失敗した人のための再挑戦支援金融(再チャレンジ支援策)も設けられた。倒産経験者への融資は避けられるのが普通。この支援金融では倒産企業向けの融資における上乗せ金利を免除。信用保証協会の破綻企業向け保証時の保証料引き下げるもの。ただし信用保証協会の損失負担割合も軽減するというもの(N06/10/03;N06/12/29)。
 こうした見直しの流れの中で保証協会は2007年10月からは80%保証に切り替えた。金融機関が安易に保証付き融資に乗るのではなく(つまり信用保証協会の審査に頼ることなく)、主体的に審査することを促したことは正しい。しかし8割保証への変更は無謀だった。予想できることだが、その結果、金融機関はリスクを嫌って審査を厳格化。中小企業融資が滞る事態となった。これは明らかに大失敗である。
 全国銀行ベースで08年9月末の中小企業向け貸出残高は179兆円で前年同月末比3.2%減。背景には株価下落で金融機関の自己資本の目減りも指摘される。切り替えが必要だとしても時期も悪かった。
 そこで政府は、信用保証協会の保証に100%保証の緊急保証制度を急遽導入した(08年10月末)。また金融機関が自己資本を計算するときに、含み損の一部を反映しなくてよい仕組みにした(08年11月7日中川大臣記者発表。国内基準行は、従来は含み損をTier 1に反映。今後は含み損・含み益とも算入しなくてよい。国際基準行は債券について今後は含み損・含み益ともに反映させないことができる。なお会計基準の方では有価証券の保有目的区分の変更が認められることになった。08年10月16日ASBJは見直しで一致。)。さらに公的資金注入で金融機関の自己資本を増強する体制も整えた(改正金融機能強化法08年12月16日公布12月17日施行)。
 全国の信用保証協会では緊急保証制度の申し込みが殺到し、12月24日までに13万8000件3兆2264億円の利用実績となった。一部の協会では審査が申込の増加に追いつかない状況にあり、申込ベースで08年12月24日段階ですでに当初枠の6兆円を超過しているとも噂されてる。
 ところで金融機関の間では、融資先中小企業に対して既存の融資をこの緊急保証付き融資(100%保証付き融資)に借り換えを強要する行為が広がった。そしてこの行為は金融庁により批判された。しかしこうした行為の一巡に加え、企業側の借入需要の低迷、中小企業金融円滑化法の効果もあり、緊急保証制度は2011年3月で終わろうとしている。しかし過去に緊急保証制度が導入された経緯をみると、再び中小企業金融の滞りが表面化することも懸念される。
 つまり金融円滑化法は、このように自民党が信用保証の仕組みをいじり、それが中小企業融資を混乱させたため、急遽、緊急保証制度を導入。その期限が切れるところで、いわば代替策として導入された面がある。
 そもそも中小企業を保護する仕組みとして、信用保証制度が機能していたのを、無理やり市場主義的な考え方を持ち込んで信用保証を8割保証に切り替えたことに基本的な間違いであったのではないか。

一度は緊急保証制度終了方針示される
 2010年12月14日 金融庁は緊急保証制度(市区町村長の認定を受けた中小企業に対し0.8%以下の低い保証料率かつ100%保証で信用保証協会が債務保証を行う 当初6兆円の枠でスタート最終的な枠は36兆円 一部例外業種除く全業種が対象にまで逐次拡大)の2011年3月末終了(2008年10月末開始 導入後2年弱2010年9月末で融資額は約22兆円 2011年1月13日までで約136万件 約24兆5700億円 代位弁済額は2010年8月末で約2600億円 2010年6月からは毎月200億円を超える代位弁済発生)と中小企業金融円滑化法の1年延長方針を発表(その後 円滑化法は再度延長されて2013年3月末まで)。
他方、中小企業金金融円滑化法は当初は2011年3月までの時限措置。しかし「中小企業」の声に押されて2010年12月に1年の延長を発表したもの(2012年3月末まで)。しかしなお強い延長の声に2012年3月、2013年3月末までの2度目の延長措置がきまった。

緊急保証制度は終了しなかった
 100%保証については
 金融機関がリスクを負わない貸し手のモラルハザード広げた(金融機関は既存融資の付け替えをした 中小企業向け貸出の1割程度まで)
 国民負担の増加懸念(信用保証協会による債務保証について日本政策金融公庫が保険引受 代位弁済額に応じ填補率を乗じた保険金を公庫は協会に支払う 公庫の保険収支が2005年度以降悪化 保険料率が0.15-1.59%に政策的に抑えられている 回収率が低下している 保険収支の赤字を補うために出資金が財政措置で支出されている)。競争環境をゆがめる、国民負担を回避するなどの観点から期限どおり終了する方針とのこと。一時的に貸出を伸ばす効果はあったが、制度開始(2008年8月自民党の総合経済対策で浮上 2008年10月末より実施 民主党政権下の追加経済対策2009年11月末で期限の1年延長)から2年経過して利用企業の一巡がみられる(ピークは2009年第2四半期 その後は減少 資金需要の低迷 2009年12月成立の中小企業金融円滑化法の効果も指摘されるが、緊急保証制度終了のショックを同法が和らげた面もある)。
 しかし実際にはまず業種をしぼって2011年9月末までの延長が決まり、その後、東日本大震災直後の経済対策の一つとして、緊急保証制度を全業種を対象に延長することが示された(2011年3月23日)。

中小企業金融円滑化法の問題点
 中小企業者の側からは、金融機関の姿勢を転換させた実効性の高い法律として(当面の倒産件数を減らした効果があったとして)評価する声がある反面、金融機関の間には返済に困ったら条件変更してもらえばいいという借り手のモラルハザード広げた(延命させただけ)との批判がある。
 金融機関の側からすれば、人材不足経営体力不足から経営改善計画が策定されない、また策定されたところでも仕事がない状況では再建計画の進捗が困難、あるいはさまざまな理由で(コスト削減 役員給与削減 資産売却など計画の項目が)実行されないなど、計画のモニタリングやフォローにも課題が残る。
 このほか 隠れ不良債権が増加した(区分を引き下げるべきものが正常債権に区分されている 不良債権比率の数字が下がり対策が遅れる 日銀による2010年3月期の推計では大手行で0.6ポイント 地方銀行で1.6ポイント低下 金額で4-5兆円 なお銀行全体の不良債権規模は11兆7000億円)。貸出条件緩和債権について金融機関が貸し倒れ引当金を積まないなどの問題も指摘されている→実際には金融機関の多くは保守的でこうしたモラルハザードは少なかったとされる しかし一部の金融機関では引当金の手当てをしていないとの指摘がある)。
 一度条件緩和に応じた企業からの、再度の条件緩和要請、追加の融資要請にどう対応するかも話題になっている(申し込む側の企業にとっては信用履歴に残り新規融資をうけにくくなることが心配材料になる 複数の金融機関から借り入れている場合の金融機関側の扱い、情報の共有なども懸念材料)。金融機関は再リスケに応じる一方、再生可能性をめぐってむつかしい判断にも迫られている。
 延命を施している間に倒産してしまえば、信用保証協会の肩代わり返済が増え、結果として国民負担が増えるとも。

民主党政権下での中小企業金融円滑化法と銀行の公共性
 中小企業円滑化法で持ち込まれた返済猶予の仕組みは大きくは2つの要素からなる。
 一つは、借り手(中小企業と住宅ローンを抱える個人)が財務的に破綻して返済が困難になった場合に、借り手の申請により、金融機関が審査して再生が可能な場合には、返済を最長3年猶予するなど貸付条件等の変更を行うよう努める(なお金融機関には実施状況を定期的に開示、虚偽の開示には罰則)という中小企業金融円滑化法案(原型は2008年末の「貸し渋り・貸しはがし対策法案」)(返済猶予制度の骨格発表は2009年10月9日、概要公表は2009年10月20日:金融庁 10月30日閣議決定)。この部分が、返済猶予法案とかモラトリアム**法案と俗称されている。
 そしてもう一つが信用保証制度の活用にかかわる部分で、これは、本人の申請により、政府保証つき(つまり信用保証制度の活用でただし保証割合は4割)の新たな融資に借り替える(最長で3年の返済猶予)条件変更対応保証(仮称)制度(概要公表は2009年10月21日:経済産業省  なお保証などを受けていない中小企業などについては、新たに保証割合を4割と低くした信用保証制度を設けて、制度をもうけることで金融機関や借り手が条件変更に応じやすくするとともに、保証割合は低くすることで貸し手のモラルハザードを防ぐというもの)も合わせて導入しようというもの。(法案は2011年3月までの時限立法 すでにみたように2度の延長措置で2013年3月末まで)
*金融検査マニュアルにおける不良債権の範囲の変更が一つの焦点。現状では貸出条件緩和債権は不良債権に区分され、引当金の計上が必要になる。貸出条件緩和債権については10年以内に経営改善の見込みがあれば不良債権と区分しないことができる(10年ルール 2008年11月改定 それまでの3年ルールを緩和)。そこで利払いが続いていれば不良債権としないなど、貸出条件緩和債権を正常債権と認定することが議論されている。
 **モラトリウムmoratoriumとは借り手が債務の返済不能を宣言すること。通常はモラトリアム宣言を出すのは債務に困窮した政府などで、貸し手の投資家との間で返済期間の延長など債務の調整reschedulingが続く。企業金融というよりは国際金融上の用語である。これを企業金融で使ってもいけないとはいえない。しかしモラトリアムは債務者側が宣言するものだから、これを金融機関側が、返済猶予を認めるという意味で使うのは言葉としては誤用かもしれない。

 この構想には、企業の法的破綻をを引き伸ばすだけだ、効率的資金配分を損なうとの批判が当初からある。申請が、実質的破綻として金融機関や取引先に認識されることへの危惧から、制度が設けられても利用が広がらないとの懸念も指摘された。しかしこの後者の点は杞憂でこの制度が活用されたことはすでに述べたとおり。
 他方で従来の金融制度の考え方は、再生する可能性のある企業を支援することを、金融機関の役割として明確には取り入れてなかったと思える。では金融機関はなぜ顧客の企業としての再生に協力すべきなのか。それは金融機関自身の債権をより多く回収することにつながるという意味で、金融機関にとっても長期的には利益になるからである。またそもそも金融機関自身の存在にそもそも公共性があり、金融機関は自らの短期的収益追及だけでなく、日本経済の再生にむけて公共的な役割も果たすべきだという考えかたもある。このような議論は、金融社会主義として揶揄されるところで、第二次世界大戦後、しばしば論争になってきたし、なお論議の残るところだ。
 金融機関の公益性public interestsはり否定できない。その公益性を法律がこのように強制するのではなく、金融機関が自発的に果たすことで、社会の信認を得ることが望ましいということである。
 金融機関の公共性についての通説は、決済業務のところについてのみ認めるというもの(多数派)。この通説によって、決済性預金についての全額保護が現実に行われている。これに対して現行銀行法も、資金配分についての公共性も要請しているとみるのは少数派である。
 返済猶予法案(後の円滑化法案)で出ているものは、短期的経済性を超えて返済の猶予を金融機関に求めるもの。その理由付けは、おそらく金融機関の公共性について、決済業務から踏み込んだ解釈を必要としている。この点で金融機関の検査において、金融機関が借り手の資金需要にしっかり対応しているかも、ポイントになるとされた点は示唆的である(2009年10月16日 金融検査官に対する亀井静香郵政・金融担当相の訓示)。
 中小企業金融円滑化法案の内容は、金融機関に対して、金融サービスの展開に公共性(具体的には個人や中小企業に対する融資で債務者側の事情に配慮する義務)を負わしているといえる。今後はその実施状況の開示をもとめ、それが金融検査のポイントになることが予想される。これは米国における地域社会再投資法Community Reinvestment Act of 1977を彷彿させるものだ。
 このように考えると中小企業円滑化法を時限立法とするのではなく、米国の地域社会再投資法にならって恒久立法として、金融機関に地域社会への融資をある程度義務付けることが、むしろ好ましかったのではないか。

 櫻川昌哉・星岳雄は、融資残高がほとんど減少していないことなどを根拠に、問題の核心は貸し渋り貸し剥がしではなく、事業の収益性の低下に問題があるとした。そして政府が既存の企業を保護することは、収益性の回復を妨げると批判した。櫻川昌哉・星岳雄「問題多い中小企業金融円滑化法案」『日本経済新聞』2009年11月13日
 村本孜は返済猶予の強制を法律で定めても、モラルハザードや新たな貸し渋りをうむだけだとする。また緊急信用保証制度については、これを使ってメガバンクが追加資金供与の実績を積み上げているが、企業経営の今後を考えれば債務の整理、返済猶予に進むべきと苦言を呈している。そして金融機関の融資では、財務情報主流の企業評価から、経営資源のソフト情報の評価が課題になっているとする。村本孜「厳しさ続く中小企業金融」『日本経済新聞』2009年10月2日

「金融円滑化法が2012年3月末まで延長に」『金融財政事情』2010年12月20日号, p.8
水野哲昭「緊急保証は中小企業金融の円滑化に貢献」『金融財政事情』2010年12月13日, pp.30-35
 内藤修「金融円滑法、期限延長もやむなし」『金融財政事情』2010年11月29日, pp.32-35
 植杉威一郎・渡辺和孝「中小企業金融 日本の特徴と問題点」『日本経済新聞』2010年9月14日
 家森信善「中小企業金融ー応急措置の次に」『日本経済新聞』2010年9月10日
 山岡勝照「中小企業円滑化法」『金融財政事情』2011年1月31日, pp.20-21

 銀行の社会的責任論については以下を参照
 福光寛 CRA(地域社会貢献法)について 立命館経済学42-1, Apr.1993, 1-20.
 福光寛 クリントンの銀行政策-地域社会開発銀行構想の展開- 立命館経済学42-3, Aug.1993, 1-30.
福光寛 銀行の社会貢献 立命館経済学43-4, Oct.1994, 1-15.
 福光寛 金融排除を超えてー金融機関と倫理 成城大学経済研究153号, July 2001, 153-184.

originally appeared in Dec.28, 2008.corrected and reposted again in Sept.1, 2012

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パナソニックによる三洋電機買収 完全子会社化 新体制(2012年1月)

2012-07-09 00:23:42 | Financial Management
Panasonic completd acquisition of Sanyo
松下電器産業(1918年に松下幸之助氏が創業 メーンバンクは三井住友銀行)は2008年10月1日社名をパナソニックに変更した(ナショナルブランドは1925年以来のもの パナソニックはAV機器のブランドとして55年から使用してきたもの)。社名とブランドを1本化することでブランドを浸透させ海外事業展開を加速する狙いがある(松下の弱さとしてブランド力の低さは有名 つまりパナソニックに変えてもパナソニックもブランド力が低い これに対して三洋は、携帯用電池をフィンランドのノキアに納め、自動車用電池でドイツ、フォルクスワーゲンと提携、アメリカではウオルマートでテレビを販売するなど、グローバル力ではパナソニックを上回っている。とくに新興国市場には傾注していた点はパナソニックにとって魅力的だった)。その1け月後 パナソニックは三洋電機買収の方針を固めた(08年11月7日協議開始を発表)。しかしその後、買収交渉は買収価格をめぐり難航したが、国際的な経済金融情勢の悪化もあり、08年12月17日にパナソニックと金融3社の交渉は妥結した。
 それからほぼ1年経った2009年11月5日。パナソニックによる三洋電機TOBが開始された。これで2009年内に子会社化が完了することになった。連結売上高は約9兆5300億円(09年3月期)で日立製作所の約10兆円に迫り、国内最大級の電機メーカーとなる。
国内外の競争法(独占禁止法)審査クリアに時間がかかった(弁護士費用や資料翻訳費用は100億円を超えた 両社合併後 リチウム電池事業で4割超 ニッケル水素電池で米国・中国では約8割)。審査を受けた国は11ケ国・地域に及んだ。

 パナソニック(松下)の強みは内製率の高さ(垂直統合モデル、自前主義)と総合力(あらゆる製品を提供できるソリューション型ビジネス)。08年3月で営業利益率5.7% ROE7.4%国内ではトップクラスだが海外の優良企業は2桁台で見劣り。2007年8月にはAV製品で重複するビクターを分離。ビクターはその後2008年10月にケンウッドと経営統合。
 2007年12月に松下は日立 キャノンと薄側パネルで提携。兵庫県姫路に液晶テレビ用パネル工場を新設(3000億円)。兵庫県尼崎市ではプラズマパネルの新工場を建設中(2800億円)。プラズマではパイオニア(08年度中撤退決定)、日立が松下からの調達を決め(40-50型で松下より外部調達)、国内メーカーは松下に集約され、松下は供給責任が背負う(プラズマ 2007世界シェアでは松下が34.5%で首位)。松下は大型でプラズマ、中小型で液晶のすみわけをはかり、海外では日立のチェコやメキシコの工場が松下から薄型テレビの組み立てを受託。
 ソニーや東芝は液晶パネルの調達先にシャープを加えた。この結果、国内の生産はプラズマはシャープ。液晶はシャープと松下に集約することに。
 次は有機ELとされる。光源が不要となるため薄くできる。ミリ単位。現在でも2-3ミリ。液晶、プラズマは1cm-2cm。省エネになる。高画質が可能。現在はコストや寿命に課題。07年12月ソニーが11型テレビを初めて販売。08年7月末には松下が大画面の有機EL商品化を計画していることがあきらかに。09年春に姫路工場に試作ライン。11年にも発売開始へ。
 このほか有機ELの利点はエネルギー効率がよいこと(LED=発光ダイオードも省電力それに長寿命が注目され普及が進んでいる 普及により低価格化が進むとも これは有機ELにも成り立つ法則となりそう なおLEDについては高速通信に応用する可能性が検討されており2009年中にも実現化するという。これが実現すると照明の光によって情報配信や高速通信が可能になる)。また有機物を使うので環境にやさしいことなどなど。テレビ、携帯画面のほか、照明に使う研究が進んでいる。
 有機EL中小型では2009年秋に東芝ー松下連合(6-4出資)が量産体制へ(携帯電話や車搭載モニターは画像が鮮明な有機ELへシフト)。すでに量産体制に入っているサムソンーSDIを追撃。このような薄型テレビへの投資は過大との懸念。それでも首位を目指すのはそれが電機メーカーの顔だからといわれていた。
 2008年暮れ当時、三洋電機を合わせたパナソニックの連結売上高は11兆2200億円(09年3月見通し)で、買収は日立の10兆9000億円を抜き国内最大の大手電機メーカー誕生を意味するとされた(なお09年3月期の実際は連結売上高は約9兆5300億円(09年3月期)、日立製作所も約10兆円にとどまった)。いずれにせよほぼ10兆円企業にパナソニックはなる。
 環境・エネルギー分野で出遅れているパナソニックスにとってリチウム電池1位の三洋は魅力的。三洋は、携帯用電池やバッテリーではグローバルなブランド力もあり、廉価型TVでは北米で一定のシェアをもつことが評価された。三洋は充電池や太陽電池で強みがある(リチウムで世界首位約28% 太陽電池で7位)。この分野はまさにパナソニックに不足しているところ(パナソニックのリチウムは5位10%弱)。統合によりリチウム電池でのシェアは40%近くに達し、生き 残りと高収益企業の必要条件である圧倒的シェアという条件に近付くことができる。
もともとトヨタ自動車とパナソニックは車載用電池で共同出資会社をもつなどトヨタとの関係が深い。トヨタは、ハイブリッド車用電池を三洋(現在はホンダとフォードにニッケル水素電池を納入、ドイツフォルクスワーゲンにリチウム電池を2009年度内に納入開始)から調達することを決めた(2009年8月19日日経報道 納入開始は2011年)。背景にはハイブリッド車の販売が爆発的に伸びていうこと、量産効果・安定調達に優れた1社調達、調達リスク削減・競争によるコスト削減効果・急成長時の安定調達にすぐれた複数購買の間の選択がある(三洋がパナソニックに買収される前提で考えると依然1社調達であるが)。なお電池事業については、日産はNECグループから調達、ホンダはGSユアサとそれぞれ組んでいる。
 その後、三洋はフランスのプジョー(PSA)ともハイブリッド車用電池(ニッケル水素電池)の供給で合意した(2011年供給開始)(2009年11月1日日経報道)。

買収価格をめぐる投資銀行とパナソニックの交渉
 この間、電機業界は世界経済減速の影響をまともに受けてきた(過当競争を背景にする供給過剰による価格低下)。その中で財務基盤の高い企業だけが、不況期にもM&Aを含め、投資を継続できる。三洋買収で国内電機メーカーの中でパナソニックのみが名乗りを上げたのは、パナソニックの財務体質が、国内のほかのメーカーに比べて堅固であることが背景になっている。MBAの教科書流の、余剰キャッシュを絞り、借入レバレッジ(債務)を効かした経営はここでは完全に否定された形だ。
 2008年暮れ当時、三洋電機(井植歳男氏が1947年創業)は三井住友銀行 大和SMBC ゴールドマンサックス3社主導下でリストラ推進中だった。3社の優先株保有割合は16.6%,41.7%,41.7%の順。
 3社のもつ優先株は普通株10株に転換することができる。転換すると優先株主は普通株の70%に達する。TOBでは金融商品取引法により買い付け側の保有比率が3分の2を超える場合、すべての株式を買い付け対象とする全部買付義務がある。この買収で争点になるのは、最初のTOB実施時に買付価格で優先株と普通株に差をつけるか。転換による希薄化をどうみるか。成長性をどうみるか。優先株主の金融機関は市場での現在の評価で買い付け価格の決定を望んでいる(GS側は過去3か月間の平均に3割程度の上乗せした200円台後半を要求)が、パナソニック側(アドバイザーはメリルリンチ証券)はそれでは高すぎるとした。優先株を普通株に転換した場合の希薄化が無視できないとした。

2008年11月24日(月)にパナソニックが提示した買収価格は1株120円(11月25日終値は156円)。算定の根拠は不明だが、多くのアナリストが予想した、優先株を普通株に転換したあとの理論価格である100円前後にプレミア2割を乗せた価格でまずは妥当なもの。しかし200円台後半主張するGSは25日に交渉打ち切りを通告した。パナソニックにとって120円なら全株買収コストは7389億円(金融3社に入るのは約5000億円)。これは同社の手元流動性の全額に近い。金融3社が望む200円台後半270円なら同じくは1兆7389億円(金融3社に入るのは約1兆2000億円)。買収価格には大きな差が生ずる。パナソニック側は、優先株を普通株に転換した場合の希薄化を問題にした。

2008年12月3日(水)に大和と三井住友銀に、また4日にGSに、パナソニックが席を分けて再提示した価格は130円とされる(3日の終値169円 4日の終値148円)。つまり理論価格にプレミア3割の線である。パナソニック側のロジックからはこれが限界だろう。GS側には選択肢として①単純に売却に応じない、②大和と三井住友銀の保有株を買い取って、パナソニックと交渉する、③前言を覆して売却に応じるなどがある。パナソニック側には、想定されるTOB後の出資比率についていくつかの選択肢があった。GS側があくまで売却に応じないのなら、過半数支配にとどめるのも選択肢であった。というのも買収コストはそれだけ小さくて済みGS側は資金を塩漬けにすることになる。そうすれば困るのはGSなど投資銀行の側のはずだった。

粘ったパナソニック リスク投資への十分な果実を得た金融3社
 金融3社側とくに投資のスタンスであるGSと大和SMBCプリンシパルインベストメンツは、提示価格に不満を示したがなかんずくGSは、強い不満を示した。ここで2008年11月27日にパナソニックは2009年3月期の業績見通し大幅に引き下げ、国内2工場を閉鎖し生産を集約する方針を明らかにした。電機業界の経営環境は急速に悪化していた。三洋電機買収の渦中での業績見通し下方修正発表については、パナソニック側が財布に余裕がないことを金融3社に対して明らかにしたものとの受け止められている(cf.『エコノミスト』2008/12/16, 15)。2008年12月17日 パナソニックは買取価格を1円上げて131円を提示。GS側もこれも譲歩と了解して、3社の交渉は決着した。3社分についての買収額は5600億円。他方、GS側には金融2社の株を買い取れる権利があり、株数を増やしてパナソニックと対峙することはできたが、その資金力はなかったようだ。
 優先株を普通株に転換して売却した場合、大和SMBC、GSは1089億円、三井住友は400億円強の売却益。普通株に換算した場合の取得価格は1株70円とのこと。2009年9月に三井住友と大和は合弁を解消を発表したものの、大和SMBCは共同出資のままであるため、大和の売却益の一部、4割が三井住友に帰属することになった。こうした調整後の三井住友の売却益は600億円、大和の売却益は560億円前後と2009年11月に報道された。金融3社は2006年のリスク投資の果実を3年後に得た格好だ
 その後のパナソニックに関する経緯は以下のとおり。合併に伴い、三洋電機のリストラにエネルギーをかけすぎ、急ぐべきだったパナソニック本体の切り込み、赤字のテレビ事業の見直しなど、が後手に回った印象が強い。

2009年
2009年5月 三洋電機HV用リチウム電池新工場を兵庫県加西事業所内に建設。ニッケル水素電池も今年度中に2.5倍に増産する。
2009年8月 三洋電機滋賀工場2太陽電池パネル組み立て新棟建設 2011年7月めどに生産能力を現在の2倍の年20万kwに。
2009年8月 トヨタ 三洋電機からリチウム電池(ニッケル電池より2倍以上 高出力大容量)調達へ(現在はパナソニックとの共同出資会社からニッケル電池)
2009年11月5日 TOB開始 11ケ国地域の競争法審査のため時間かかる
2009年11月 三洋電機 欧州での太陽電池パネル生産能力の引き上げ
2009年11月24日 米FTCが独占禁止法の審査終了
2009年11月 三洋電機 シリコン結晶を使った超薄型の太陽電池開発
2009年12月9日 パナソニックによるTOB終了 50%超の取得は確実 買い付けは1株131円4000億円超
2009年12月21日 三洋電機 パナソニック子会社になる(50.2%取得)その後 半導体事業・物流事業等低採算 非中核部門を相次ぎ売却
2009年12月24日 三洋電機佐野社長 記者会見で重複事業の整理に否定的姿勢示す
2009年12月25日 業界最大容量のリチウム電池生産を2011年度に開始する

2010年
2010年1月8日 リチウム電池などのエナジーシステム事業売上高を18年度に3兆円以上に高める  
2010年2月25日 三洋電機は物流子会社の三洋電機ロジステスティックスの売却方針を明らかにした。パナソニックの物流子会社との重複を解消するめの措置。
2010年4月26日 三洋電機が家庭用エアコンの開発生産から撤退方針をかためたことが明らかになる。白物家電など不採算事業の売却・撤退 リチウム電池 太陽電池等拡大
2010年5月 三洋電機 物流子会社の三洋電機ロジステイクスを投資ファンドのロングリーチに売却すると発表。
2010年5月31日 パナソニック 三洋電機の国内系列販売店1400店にパナソニックブランドの家電を供給
2010年6月 三洋電機 世界最高の発電性能を持つ次世代太陽電池(HIT太陽電池)を2013年度に商品化
2010年7月15日 三洋電機 半導体事業子会社の三洋半導体を米半導体メーカーのオン・セミコンダクターに約330億円で売却。三洋は三洋半導体の全株式と同社に対する590億円分の貸付債権を譲渡。代わりに現金約116億円と214億円分のオン社の株式を受け取る。
2010年7月29日 パナソニック 三洋電機とパナソニック電工の完全子会社化を発表(年内にもTOBや株式交換)最大8184億円のTOBを実施する。商品ブランドをパナソニックに統一する。2012年1月に ソリューション 消費者向け製品 デバイスの主要3部門に事業・販売を統合
2010年9月 インドネシアでリチウム電池増産へ(増産に向けて設備投資)
2010年10月6日 パナソニック TOB終了を発表 2社の株式とも3分の2超取得
2010年10月 グループの16事業部門を2012年1月に9部門に集約する組織再編を発表(環境革新企業への脱皮目指す 幅広い環境配慮型商材に特徴)環境エネルギーなどの新分野で稼ぐ計画
2010年11月 米テスラに3000万ドル(24億円)1.5%出資へ(すでにトヨタが5000万ドル出資)
2010年11月 タイで2011年3月から長寿命アルカリ電池生産始める

2011年
2011年2月 カーエレクトロニクス関連売上高を2015年度に2009年度比5割増しの1兆円に伸ばす計画発表 新興国向けに拡販
      テレビ販売台数伸びるが損益は価格低下で赤字 2次電池 半導体などデバイスは利益大幅減 白物家電好調
2011年4月 医療機器向け微小電子機械システムに参入へ
2011年4月 リチウム電池で中国への生産シフト進める 国内から設備を移す 2015年に中国での生産比率を5割に 製造コストは3割下げる
2011年4月28日 2010年3月末比で4万規模の人員削減発表(35万人以下) リチウム電池今後2年間で550億円投じて中国での生産一貫体制整備 薄型テレビ 新規投資凍結 生産の海外移管進め販売台数は前年度比2割増 2012年度黒字化 パナソニックとの合併検討 2011年4月に完全子会社化した2社の事業を2012年1月に統合 環境新エネルギー分野で2015年度に3000億円以上の新規事業創出
2011年6月 三洋電機 住宅事業から撤退 三洋ホームズへの出資分19.9%をすべて投資ファンドのアントキャピタルパートナーズに約5億円で売却へ
2011年6月15日 三洋電機 国内太陽電池生産能力を高め2009年度の2.4倍に 2010年度末までに年間29万kwに高める
2011年7月 ハイアールの三洋の白物家電売却で基本合意
2011年8月 デジカメ 新興国開拓 インド ブラジルなど
2011年9月 産業用太陽電池事業強化へ
2011年9月 調達物流の拠点をシンガポールに移しアジア・中国での調達増やす 11年3月に53%の調達比率を13年3月期には60%へ
2011年10月 プラズマテレビ用パネルの生産拠点尼崎第一工場 中国への生産移管 太陽電池の増産のいずれも撤回
2011年10月 11年度内に半導体事業縮小へ 外部への生産委託増やし 従業員は削減へ
2011年10月 不採算のテレビ、半導体事業縮小へ リチウム電池は2012年度中国に新工場完成 太陽電池はマレーシアに一貫生産体制
2011年10月18日 三洋電機 ハイアール(海爾集団)に白物家電事業売却で最終合意 売却額は100億円前後 グループ関連社員約3100人がハイアールに転籍。
2011年11月 パナソニック 約500億円抱えて2012年度にマレーシアの太陽電池の工場建設へ(海外で一貫生産へ)
2011年12月 電機各社 液晶パネルやシステムLSIなどで自社生産の維持困難に 外部調達に切り替え(トップシェアとれないまま巨額投資続く)

2012年
2012年1月 3社の事業を統合 新体制発足 コンシューマー ソリューション デバイス
2012年1月 中国ハイアール 三洋電機から白物事業買収
2012年1月12日 パナソニックの株627円 昨年来安値(12年3月4200億円の連結最終赤字 タイの洪水被害 三洋電機ののれん代減損の追加損失で赤字幅拡大観測)
2012年2月29日 パナソニック次期社長 海外売り上げ高50%を60%へ エコ&スマート
2012年5月 2012年3月最終赤字7700億円(日立製作所の09年3月期7873憶円並ぶ前 前期は740億円の黒字)テレビ事業のリストラ 三洋電機の採算悪化 円高 家電では音響より白物家電が好調 買収に伴うのれん代約2500億円の減損処理
2012年5月 本社の従業員7000人を半減する方向で調整 1933年事業部制導入 事業部間の壁 障害に 本社で意思決定 その結果 本社が聖域化 意思決定の遅れへ 2012年度内に携帯部門1000人削減へ 
2012年5月 ソニーとパナソニックが有機ELテレビ量産技術開発で提携交渉

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Dec.20, 2008.
corrected and reposted in July 9, 2012

三洋電機の再建 東芝とマツダ 企業研究:東芝・日立・パイオニア・シャープ 
経営戦略
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プロフォーマ利益とビッグバス

2012-03-06 23:42:50 | Financial Management

プロフォーマ利益とビッグバスpro forma earnings and big bath

Hiroshi Fukumitsu


試算利益 実質利益pro forma earnings
会計上の利益である粗利益gross profit(売上げrevenueから原価COGS or COS ;cost of goods or cost of salesを引いたもの) 営業利益operating profit(gross profit から営業経費operating costを引いたもの EBITとほぼ同じ) 純利益net profitに対して、参考数値として企業やアナリストが独自に試算して算出する利益を指す。
 これに入るものはEBIT(ebit: earnings before interest and tax) EBITDA(ebitda: earnings before interest tax and depreciation and amortization)など。pro formaは日本語になりにくい英語の一つ。「試算」のほか「仮の」「暫定の」「会計原則によらない」などの訳が考えられる。「予想上のprojection」「非日常的あるいは一時的経費をすべて除外した」という訳も考えられる。
 pro forma earnings算出の目的は企業の本来の収益力を求めるところにあるが、行き過ぎると仮想利益を都合よく算出しているだけの結果となる。正規の利益概念でないところからstreet earningsと揶揄されることもある。
 プロフォーマは現金支出を伴わないさまざまな費用(アモチや減価償却費など)や大規模費用(事業リストラ費用など)を除外して計算されている。1990年代に企業は脆弱な財務状態をごまかすためにプロフォーマを利用し始めた。会計基準による利益がわずかだったとすると、恣意的に費用を取捨選択して先にプロフォーマベースの利益を発表してしまう。(アーサーレビット 小川敏子訳『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.201, p.209)
 参考 街角の利益 プロフォーマ利益とIR 岡部考好

 在庫の減損処理をしない、あるいは売掛金の減損処理をしない、ことでプロフォーマ利益を高めることができる。(同前書, pp.216-220)

big bath
 アメリカの企業は大きな赤字が出そうになると、とたんに人員削減などリストラをする(事例→シティの拡大路線修正)。そして翌年なぜか急に回復する。これは不思議にみえる。だが実はそうではない。
赤字になりそうになると、不採算部門の売却、余剰人員のカットなど経費の支出をできるだけ前倒しに行う。つまりどうせなら大きな赤字をまず出してしまうのである。big bath charges from wikicfo
 もう一つのテクニックは収入をできるだけ次年度にまわすことである。こうしてお風呂にザブンと入るように、収益が大きく振れる。日本ではこれをV字回復という。
 このように、費用の前倒しと収入の先送り。両者を組み合わせることで企業はまず大赤字を出し、翌年は<不思議なことに>一転して一挙に黒字増益に転換する。アナリストはリストラ効果だと解説するが、これは後年の赤字要因を一挙に出し、あるいは固定費を圧縮して収入が後送りされるからで、翌年黒字回復するのは実は当然なのだが一見リストラ効果に見える。もちろんリストラ効果だともいえる。しかし本質は会計操作だとみるべきだ。
 CEO(chief executive officer最高経営責任者)の交代が絡むとさすがに新しいCEOはすばらしいといったりする。しかしそれほど不思議ではない。
そして前任のCEOは赤字化の汚名を着て辞めるだけでなく、次年度の黒字化の功績を後任にゆずるご褒美にたくさんの報酬を受けて辞めることになる。
 このような会計操作をbig bathという。
このようなbig bathを含めて、英米で、利益の数値を作り出したりする会計の在り方には批判も根強くある。
 これらをcreative accounting from Wisegreekとかaggressive accounting from Jamescoxと呼ぶとき明らかに批判的響きがある。

売上高の前倒し計上
 事務機器のサービス契約、ソフトウエアの提供など、売上計上時期を操作できる余地があるようだ。(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.162以下、p.199, pp.223-226)当然、前倒し計上することで業績はよく見える。
 他方、押し込み販売による売上高引き上げの場合は、支払い遅延などの反動が生じうる(同上, p.197, p.215) 

リストラ費用の前倒し計上
 2009年4月20日付け日本経済新聞は企業がリストラ費用を前倒しに計上して固定費を減らして今期以降のV字回復(急速な回復)を目指しているとしている。
 「減産が続く電機や素材業種を中心に、人員削減に伴う特別退職金や生産設備などの減損損失を積み増す企業が目立つ。費用は一時的に膨らむが、将来の人件費や減価償却費の軽減につながる。」

リストラ費用に営業費用を投げ込むことで業績を良く見せる
(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.209)
経常費用を特別、一時あるいは臨時といった勘定項目に押し込む方法(p.156)
あるいは諸費用を差し引かないプロフォーマ利益を示すこと(同上)

クッキージャーリザーブ
 将来の債務、貸し倒れ引当金、保証費用、売上返品等を意図的に多く見積もり、景気が悪くなったときに必要に応じて手をつける(アーサーレビット『ウオール街の大罪』日本経済新聞出版社, 2003年, p.156, p.214)。
cookie jar accounting

固定費膨張で不況抵抗力弱る
2008年12月27日付け日本経済新聞は前期までの増益局面で製造業を中心に海外市場を開拓し、生産・営業拠点を増やしてきたことが固定費の増加につながり損益分岐点が上昇、売上げ減少時の抵抗力が弱まっている。2008年10月以降の急激な需要縮小で膨らんだコストが重荷になっているとして、生産拠点の統廃合など事業再構築が必要になっているとしている。⇒営業店の統廃合。余剰人員の削減(正社員の削減)。投資(工場の建設)の延期・凍結・中止。

 big bathにおける数字の動きからも会計上の利益というのは「操作された数値」であることがよく分かる。しかしそうした操作された数値を私たちは、財務分析の基礎にせざるを得ないのである。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. 
Originally appeared in April 20, 2009
Corrected and reposted March 6, 2012

証券市場論 前期 証券市場論 後期 現代の証券市場 証券市場論教材
財務管理論 前期 財務管理論 後期 現代の金融システム 財務管理教材


リスクのコントロールとファイナンス

2012-02-07 08:52:38 | Financial Management

概論 CFM論とFCF論では主張は正反対 どちらが正しい仮説か
企業金融をどう理解するか。リスクをどのようにコントロールするかという観点から、企業金融を整理することが可能ではないか。企業が外部金融に依存せず内部金融で日常的な資金調達は済ませるように変化して、企業金融の中心的役割はリスクへの対応に変化しているのではないか。
近年、フリーキャッシュフローに関する議論はゆれている。近年のcash flow management(CFM)の考え方をみると、free cash flowを最大化し、新規投資をこのfree cash flowの範囲にとどめることで、外部資金に依存しないことが理想として語られている。これはこれまで主流だったFCF仮説(企業に対して、有効な投資先がなく過剰なFCFを自社株取得や増配で株主に返すことを求める考え方)という学説的命題と衝突する主張となっている。
 CFM(日本のキャノンがモデルとされる)とFCFでは外部資金・内部資金の受け止め方が逆になっている。まず、CFMでは外部資金に依存することで安易な研究開発投資が行われているから、自己資金の範囲内で投資することで規律の回復が必要と説く。またCFMでは内部資金は大事なもので、その使い方を経営者は真剣に考えるとする。これに対してFCFでは経営者は内部資金を安易に使い勝ちだと考える。経営者がどのように行動するかについても、想定がかなり違っている(参照 新原浩朗『日本の優秀企業研究』日本経済新聞社, 2003年, pp,192-195, 298-200)。

 仮にFCFではなくてCFMが経営のあり方として正しいとすると、外部資金調達の必要性は、まさに想定していなかったほどのCFが必要な事態(あるいはリスク)が表面化したときに現れるのではないか。
 これまでの企業金融論ではFCF不足を常態として、外部資金の日常的依存を前提としてさまざまな議論が組まれていたのではないか。成熟した資本主義国家において、企業は本来日常的には外部資金への依存を必要としていないというのがここでの思考の枠組みである。
最近、リスクファイナンスの議論が盛んであるが、これはファイナンスの役割が、経営上の様々なリスクへの対応に移行していることをあらわしているのではないか。
 従来、金融といえば、資金をどのように調達するか、あるいは余裕資金をどのように運用するかといった問題であった。確かにそうした問題は今日もあるわけだが、内部資金の範囲で投資を行うということが原則なら、資金調達の問題はなくなるわけではないが、企業経営の問題として比重は小さい。残るのが、経営上の様々なリスクに対応するお話。つまリスクファイナンスになる。
 昔から指摘されてきたことだが、研究開発投資など直接収益の改善に直結しない項目は、従来のファイナンス論では、どうしても付随的で節約の対象になりがちであった。しかし経営上のリスク、現在保有している商品・サービスへの需要が減少・衰退するリスクという視点を頭に置ければ、研究開発投資はリスク管理という視点からも重要だという視点がでてくる。
 ここでは企業が抱えるリスクを最小化するという視点をまず問題にする。それは結果としてその企業の資金調達コストを下げ最小化し、その企業の価値を最大化することになろう。ただこのようにリスクの役割を中心に置いた財務管理論は従来の財務管理論とは大きくかわってくる。
背景には、「内部統制ルールの導入」によりリスクマネジメントが普及強化された側面がある。
 なおすでにリスクマネジメントのところで、信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクなどのリスクの分類と、リスクの管理手法(保険、自家保険など)については議論している。

 必要なリスク管理
   いかにリスクそのものを減らすか
   リスクは発生時の対応 
 発生確率 発生した場合の被害額
   確率は高いが被害額は小さい 利益の積立から減損処理
   確率は低いが被害額は大きい 保険で処理 
 金融の機能として、従来は資金調達・資金運用という側面がとらえられていた。しかし近年は金融の機能として、リスクへの対応ということが重視されるようになった。

 需給の変動
 需要予測精度の向上。見込み生産(計画生産)から受注生産へ。
 
1.資金のリスク管理
 取引をして行く中で発生する債権の管理は、リスク管理の大きなテーマである。信用取引開始にあたっての信用調査、回収遅延時の督促などの対応が一般に議論される中身である。この場合のリスクは信用リスクであって、金融機関同様に事業会社にあっても信用リスクの管理が重要であることが浮かびあがる。
 
2.資金へのコントロール能力controllability
 外部資金への依存をへらしてゆくか。そのために企業はいかに努力しているか。まずは高い利益を上げて内部留保を積み上げ、外部資金に依存しないで経営できる状態を理想形として置いてみる。そこにいかにして近付くか。
 というのは外部資金に依存している間は、その資金コストの変化や、調達可能性の変化というリスクに経営は常にさらされる。
 運転資金を節約するさまざまな技術、あるいは資産から資金を生み出す様々な技術は、資金についての外部制約を減らす意味がある。在庫の管理圧縮は、在庫自体の圧縮であるとともに、運転資金の圧縮(在庫スペースの圧縮 保管コスト・運送コストの圧縮)につながることは従来から議論されてきた。
 最近の注目はCMSや資産証券化である。これらは資金の内製化として注目されている。
 CMS:大手企業はグループ内で必要な通貨資金をやりとりするようになった。グループ内の余剰資金を集めることで、グループ外からの借り入れを減らすということである。

融資枠契約commitment line コミラインは、融資枠の極度額の限度内で、金銭消費貸借を成立させる権利を付与されたことに対して、顧客が手数料を支払うことを約束した契約で、この手数料はオプション代のよう理解できる。借入ごとに審査がいらないので企業にすればリスク対策になる。機動的な短期資金の借り入れに適切。2007年3月末で26兆3290億円 約1万社強 前年同月比10.5%増(日銀調べ)。
 借入にあたり審査がいらないという点で当座貸越と似ている。申込手続が必要、返済期限があるといった点で当座貸越と差異がある。顧客は融資枠極度額(あるい極度額の空き枠)に対して手数料支払い義務があるが、金利は当座貸越より低い(参照 階猛・渡邊雅之『銀行の法律知識 第2版』2009年, p.128)。
金融機関はコミットメントフィーを融資枠の利用実績にかかわりなく受け取ることができる(当座貸越契約は利用実績に応じて利息を受け取るのみ)。企業とすれば、資金が必要になるたびに借入手続を経る手間が省け、・・・資金繰りが安定する。ただし特定融資枠契約に関する法律(1999平成11)で手数料は利息制限法の適用除外となった。ただしその対象は大会社や資本金3億円以上の株式会社等に限定されている。金融機関としては、対象企業は信用格付けが上位であり、原則として資本金が3億円以上の無担保融資に耐えられる企業に絞られる。高橋俊樹『融資の常識2版』きんざい, 2011, pp.100-101.

 なお以下も参照。企業買収資金の調達について

資産証券化:資産を証券化して現金化することは、そのコストの問題を置くと、企業にとっては資金調達の可能性を広げる意味がある。資産を切り離して証券化することは資産を圧縮して、資産利益率を改善を狙うことができる。あるいは新たな事業展開で本来負債が膨らむはずが、負債を増やさずに資金調達ができる。
 CMSに比べて証券化は、外部の投資家に依存している点で、内製化は不十分かもしれない。しかし証券化の技術をみると、従来、外部の投資家をひきつけなかったものをひきつけるようになった。そこが注目される。

 しかし証券化によって、従来は売却できなかったものが売却可能になるのはなぜだろうか。プーリングによる資産の集合により債権のリスクを大数の法則でつかめるものになる。本来の所有者から資産のキャッシュフローを切り離すオフバランスが実施される。純粋に対象資産を抜き出す技術=「倒産隔離」がなされている。さらに信用補完*、支払方法などでキャッシュフローの流れを組み替えて行く。
 *たとえば優先劣後構造(senior-subordinated structure)が使われる。通常、債権は債権者間は平等である。残った資産を債権者は債権額に応じて分け合うことが普通である。これをプロラタ(ラテン語で同じ割合という意味)方式とか、あるいはプロラタパリパス(パリパスはラテン語で等しい足並みという意味)という。返済順位が同位ということである。これに対して優先するものをシニア(senior)といい劣後するものをsubodinatedという。シニアより順位は落ちるがsubordinatedほどではないものは、メザニン(mezzanine中二階)と呼ばれる。優先劣後構造を使うということは、支払に優先順位付けを付けることで、優先順位の高い債券を作り出す意味がある。

 企業が資産を売却するスキームの場合、それは資産証券化商品を機関投資家に売ることで資金を調達し、それで負債を削減できれば財務構造の立て直しにもなる。
中小企業が売掛債権を流動化することで資金を入手できるスキームの場合、これまでの仕方では入手困難な資金が入手できたなら、これは資金調達の可能性を広げたことになる。
 証券化商品はどのような資産が対象になっているかで名称が異なっている。住宅ローン担保証券RMBS 商業用不動産ローン担保証券CMBS 社債やローンを集めた債務担保証券CDO ローン担保証券CLO リース料など金銭債権を担保にした資産担保証券ABS さらに最近では「事業の証券化」という手法も注目されている。
 ABS 364銘柄残高1兆5461億円(2003年3月末)
 ABCP 64件 発行枠20兆2394億円(実際の発行額は5兆円程度 ともに2003年3月末現在 03年内に発行残高6兆円超す 銀行はリスク資産かかえずに資金需要にこたえられる)2005年度は約9兆円。RMBSが5兆円超え。普通社債6兆9000億円。社債米国は1兆1500億ドル。06年度の発行額は05年度より18%増の10兆7000億円。RMBSが5兆円超え。CMBSが1兆7000億円。ボーダフォンやUSENの事業証券化。普通社債は7兆円弱。米国は1兆2231億ドル
 資産担保証券 買い手は生命保険など一部大手証券にかたより流動性は乏しい
 事例 2004/01 泉ガ-デンタワーの証券化 オフィス部分 740億円 2002年10月オープン時は空き室あり その後稼働率9割以上 この時点でオフィスビル証券化国内最大規模 住友不動産設立のSPCの借入資金の返済
 2005年度 品川三菱ビルの証券化(1250億円)
 1993年特定債権法(リース クレジットなどABS) 1998年SPC法施行(最低資本金 取締役 対象として不動産加えMBS可能に 不動産取得税・登録免許税軽減など) 2000年に証券化できる対象資産拡大
 資産担保融資を三井住友銀行が始めた 売掛金 貸付債権など営業資産を担保とするもの 営業資産を評価して一定額を差し引いて融資上限額を決める。融資と証券化の中間的手法。A04/05/07

3.リスクマネンジメントについてはデリバティブなどの代替的金融手段の活用がつぎの注目点である。

 企業戦略による対応もある 例 商品価格の変動に対して
 原材料価格の変動 先物を利用してリスクヘッジする。水平に拡大して価格交渉力を高める。素材生産部門を買収する(垂直的統合)。より単価の低い材料にシフトする

 資金コストの変動など市場価格の変動への対応
 金利の変化
   金利が上昇する 長期固定に乗り換える 長期固定を増やす
           市場金利連動型減らす
           借入そのものを減らす
           投資を自己資金の範囲にとどめる  
   金利が低下する 短期流動に乗り換える 短期流動を増やす
           市場金利連動型増やす
 例 為替の変動
 為替リスク回避手段 為替予約(リスクは回避できるが差益は得られない) 通貨オプション(為替波乱の局面では費用が高くなる)
 3ケ月から半年程度の実需の半分程度を為替予約する(TDK)。
 原則として輸出の半分は3-6ケ月先まで予約している(トヨタ自動車)。
 想定レート(予想の範囲で円高の進んだレート)。そこまでであれば収益に大きな影響はでない(対応が取れている)。
 輸入企業はドルで支払う。円安が進行するときは先物の円売り・ドル買い予約を入れて支払額を確定しようとする。長期予約を入れることで円安が加速される。
 円相場が下落が進行すると予約が解消する・・といった契約
 輸出企業はドルで受け取る。まだ円安が進行するとみればあわてない。しかし円高にて変わる不安があればその前にドル代金を円にする。将来の円高を心配するときは円安のうちに為替予約(先物をドル売り円買い)をいれる。予約を入れれば円での受取額は確定する。この動きにより円相場は固くなる。

 キャプティブ:企業自らが設立する、自らの保険リスクを再保険するための子会社をいう。
 代替的リスク移転(ART:alternative risk transfer):地震・気候の変化など新しいリスク、デリバテイブやキャプテイブなど新しい手法、機関投資家など新しいリスク引受先のいずれかの要素をふくむもの

 温暖化をはじめ異常気象が指摘されるなか、金融商品として天候デリバティブが企業から関心をもたれている。これは温度の上昇・下降とか、降雨量とかあらかじめ定めた事象が発生すると、が支払われる商品。
 天候デリバティブ:一定の事象で支払い 損害の有無とは無関係
 金融機関はこの環境問題にどう取り組もうとしているのか。
 環境問題に配慮した経営を行っている企業に対して、優遇金利を提供する動きがある。エクエーター原則:融資先の事業がきちんと環境に配慮しているかを点検する。世界の主要銀行がすでに採用。日本では2006年初めに三井住友銀行が採用。また、みずほとオリコは環境に配慮した企業に融資利率を引き下げる取り組み始める。みずほ銀のチェックリストに企業が回答することが条件で今後の努力目標をだせば、両社提携無担保ローン金利を通常の2-3%から1台半ば-2%台前半に引き下げる。(N05/12/20)
 なお温暖化がとまらないと2030年頃までに1度程度平均気温が上昇するとされる。熱帯夜の増加。洪水。暴風雨による損害拡大。欧州やオーストラリアで干ばつが懸念される。2050年頃までにサンゴは死滅。熱波や干ばつによる死者が増加。3割ほどの種の消滅するとされる。コストの高い風力発電、太陽光発電へのシフト、電気自動車への移行は不可避だとされ。科学者はCO2排出量の抑制ではなく削減が必要で、化石燃料からの脱却が必要だとしている。

4.想定外の事態に備える
 すでにみたように、この対応は内部統制ルールの法定義務化により促される側面がある。

 事業継続計画business continuity planning:BCPの作成 
これには、工場オフィスの耐震化、代替施設の確保、情報システムのバックアップ、社員の避難ルートや安否確認方法などの確認と表示。また災害時の中核事業の継続・早期復旧、人員・生産設備の代替手段確保などの項目がある。
 大地震のときの通信障害については、自家発電装置。予備拠点の設置 ビルを借り切り基本業務を継続させるなどの対応をしている企業もある。野村證券、日興シティG証券、モルガンスタンレーなど。N03/08/23 ゆうちょ銀行は最悪の場合に備えて人力処理の訓練も行ったとされる。07/09/13
 内閣府や経済産業省ではBCP策定指針公表。東京海上日動火災などが支援コンサルタント業務を行っている。もともとは2001年米同時テロを契機に注目されるようになった。
 この問題への金融機関の対応。BCP関連費用にBCP策定済みが今後策定予定を条件に金利優遇(京都銀行 2007/01-)。日本政策投資銀行―三菱UFJ信託―日興シティ(震災時発動型融資予約 2006/10-)。防災格付け融資制度で防災対策費用融資で優遇(日本政策投資銀行)。商工中金(防災対策に10年固定金利融資 2005-)。N07/04/02。
 つまりこのような天災については、耐震建築にするなど被害を小さくすること(そのための支出)と実際に天災が発生したときの資金の確保の2つの面で金融の役割がある。
 地震保険:保険料が高い。被害の補てん機能はある。しかし保険金査定に時間がかかり運転資金として当てにするには不安。
 なおCATボンドというものがある。これは災害発生時に受取額減額される債券で災害発生のリスクを保険会社が資本市場に転嫁する仕組みである。リスクを請け負う保険会社が発行している。
 なお2007年8月の新潟県中越沖地震でリケン(エンジン部品ピストンリングのシェア50% 計13万台の減産)の被災に際し自動車メーカ-12社を含む取引先30社以上と延べ1万人以上の支援を行ったことは、事業継続支援の企業間協力のモデルとして注目されている。

予定していなかった事態や判断に備える。金融の役割として従来考えられていたのは、以下に述べるような想定外の事態に対応して、必要となる資金をどのように調達するかという問題設定であった。こうした問題での対応は確かに企業の財務セクションの直接の問題ではない。しかし対応の仕方によっては、財務セクションが用意する資金量は全く異なった大きさになるだろう。
 つまりさまざまなビジネスリスクの問題への対応について、財務セクションはどのような対応が結果として企業のリスクを最小化するかという観点で発言する重要な役割を社内で担っているといえる。そしてそのとき様々な選択肢のコストを示すとともに、コンプライアンス=法律や社会的規範を重視した対応が最終的にはリスクを最小化するということを主張し続けることが財務セクションの役割だといえる。

 買収案件あるいは敵対的買収者の登場 戦争・天災・地震・風水害・火災・交通事故など。労働争議(ストライキ)。製品事故の発生、風評被害など。
 敵対的企業買収については、企業買収防衛策の策定などが、対応の一つになる。リスクへの対応の中で、金融的な方法は、対応のあくまで一つである。

 ネット取引における通信障害は、影響が大きいので避けるべきだが、このようなシステム部分を社内のカルチャーが違うなどの理由でアウトソース化しているとそこが社内でブラックボックスになり、実際の障害発生時に対応が遅れる。システム部分のアウトソース化とリスク管理には背反関係がある。このようなシステム系のアウトソース化には限界があり、障害発生率や復旧許容時間など品質管理目標をきめ改善をすすめるべきだ。なおこの限界をどうとらえるかの判断は、システム部分がその企業にとってどの程度コア業務であるかによっても分かれるところだ。
 みずほGは、2002年春の統合時に大規模システム障害を起こした。リストラのため行内で優秀なシステムエンジニアを育てる余裕がなかったことが一因とされ、コスト削減がシステム障害につながった事例。
 楽天証券は、通信障害の頻発に2度にわたり金融庁から業務改善命令を受けた。2度連続で受けた点が異例で、事業拡大にもかかわらず、あまりに少ないシステム担当者(わずかに30名)で行っている無理が、障害の頻発につながっているとされる。これもコスト削減が障害につながった。
 NTT東西では2007年5月23日に217万世帯に影響するIP電話障害を起こした。サーバのハードデイスクに書くコマンドを大文字で書くべきところ小文字で書いたためとされる。全日空では2007年5月27日に空前の大規模障害で130便が欠航、7万人に影響した。その原因はメモリー部品一つの故障。これは小さなミスが大きな結果を招いた事例といえる。

 製品事故 例
 2005/01 松下電器製のFF式(forced flue)石油温風暖房機 でCO2 中毒で死者 2005/04/21 松下は無償修理を決定 2005/11/21 長野で死亡事故 2005/11/29 経済産業省が回収命令 200512/02 再修理品で中毒事故 背景 古い製品(1985/10-1992/01製作)だが継続使用。松下側は要因の複合を想定し事故の再発を低く想定。全社的対応遅れる。しかし原因は吸排気管の材質と判明。全社対応に切り換える。
 2006/02 パロマ製 東京ガスへのOEM供給 ガス瞬間湯沸かし器で不完全燃焼 死者 不正改造が原因とのメーカー側主張に遺族が納得せず申し立て 調査の結果1985年以来 27件の事故20人の死者わかる 2006/08/26 経済産業省が回収命令 その後2007年2月7日にはリンナイ製でも事故 リンナイでも過去に死者を出す事故を出していることが判明
 2006/03 アイリスオーヤマ製シュレッダーで2歳女児の指欠損事故(静岡市 指9本) 2006/07 カール事務機シュレッダーで2歳男児の指欠損事故 調査の結果 過去から事故が多発 大人のケースも判明 背景:過去の事故情報が業界で共有されず
 2006/06/03 シンドラー社製エレベーターで圧死事故 メーカーと独立系保守点検業者との間の利害対立も背景とされる。ドイツ製品の事故をめぐって
 製品事故については、重大事故発生時には事実を公表し拡大防止措置をとることが必要とされる。すなわち情報の周知と、積極的な対応(製品回収・無償修理)など。あらかじめ対応マニュアルの作成も必要。同一製品については他社製品の事故についても自社製品にも生じうる事故と認識して対応(製品回収・無償修理)が必要。

リスクマネジメントの基礎

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author. Hiroshi Fukumitsu is a professor of financial management at Seijo University, Tokyo.
originally written in Feb.17, 2008.
corrected and reposted in Dec.14, 2009 and February 7, 2012.