Entrance for Studies in Finance

Case Study on Canon

キヤノン :カメラとプリンターで世界1 しかし次の成長の芽をつかまえているか?

インクジェットプリンター市場:キヤノンとセイコーエプソンが競り合う状況続く(2009-2014年)
事務機は回復基調 キヤノン リコー エプソン 富士フィルム コニカミノルタ ブラザー
 スマホに対応した家庭用プリンターの発売(2014年9月) 3Dプリンター事業に参入(米国の2者で世界の7割 3Dシステムとストラタシス) キャノン セイコーリコーなど大手 3Dシステムは米グーグルと提携 またリコーがオフィス用複合印刷機では世界1位 カメラメーカーから複写機、インクジェットプリンターへとシフト。オフィス機器の総合メーカーに躍進した。しかし今成長の限界が指摘されている。
 キヤノンの収益源はインクカートリッジだという言い方がある。プリンターを安値で普及サセテカートリッジで儲ける。これはカミソリのジレットが、ヒゲソリのホルダーを安値で販売して、専用のブレードを高値で売って儲けるビジネスモデルとよく似ている。しかし電子化の波、タブレットの普及で紙の消費が落ちると、このビジネスは限界にあたっているようにも見える

2015年~2016年:事業構造の転換に連続の巨額買収

 そのキャノン(年間売上4兆円規模 売上54%が事務機器 32%がカメラ 産業向け14%)は2つのことで最近注目された。一つは2016年3月17日に発表された。東芝メデイカルTMSC(CTで世界シェア20%台で3位 1位シーメンス 2位GEヘルスケア 国内では50%;MRIでは世界4位 シーメンス GEヘルスケア フィリップスの次)の買収である。買収金額は6655億円。富士フィルム(内視鏡で世界2位 1位はオリンパス 3位がHOYA)やコニカミノルタに競り勝ったものの高額買収(市場では5000億程度が妥当とされていた)、キャノンの医療機器が小さくシナジーが小さい、手元現預金をすべてこの買収で失うことなどに批判がある。さらにSPCを使って独禁法の審査を回避したことは、東芝側の事情(売買益を16年3月期に計上して債務懲戒を回避)によるものとはいえ、不透明な行為に加担した印象も残した。

 2015年2月にはネットワーク監視カメラ(遠隔で街頭や工場内を監視するもの)で世界首位のスウェーデンのアクシスコミュニケーションズを3300億円で買収とすると発表している。(背景:主力の事務機とデジカメは市場雅成熟。8400億円の手元資金をいかに生かすか)

 買収するものの、買収先の自主性を生かす「連邦経営」が方針とされるが、その方針が適用されるとのこと。

 もう一つは2017年1月15日に行われた小型ロケット打ち上げである。これはミニロケットで小型衛星を打ち上げるもので、ミニロケットによる低コスト化という点や、小型の高機能衛星の打ち上げという点が多いに注目されたが、2段目の着火に失敗し、キャノンの宇宙ビジネスへの参入は最初の成果を出せなかった。

カメラメーカーそしてプリンターメーカーとして世界1
 国内ではキヤノン ニコン ソニー 富士フィルム パンソニック オリンパス カシオ。世界ではキヤノン ニコン、ソニーのつぎはサムソン電子と世界1。

 もともとカメラメーカー(ライカに挑む)。またX腺間接カメラメーカーとしては国内で独占的立場であるほか、1970年代に発売が始まった眼底カメラでも当初はシェア100%。その後も医療用器具でも実績を重ねている。

 電卓に乗り出したのは1960年代後半。1967年多角化宣言 エレクトロニクス)。複写機(1970年代 トナーやインク等化学)。半導体製造装置(1970年代半ば)1977年事業部制(責任分担制)導入。ファックス(1980年代 通信技術)の製造と時代の要請に合わせて新たな製品を作ることで生き残ってきた。

 1980年代に事業部制が制度疲労を起こし、過大な債務の返済が問題になり、制度改革が行われた。社長を勤めた御手洗富士夫氏によれば、メーカーの資本の回転率は遅いから自己資本で長期資本を調達しないと経営は安定しない。連結決算で販売会社と本社の関係を改善 販売に事業部と販売会社が協力で在庫日数も減少。資金に余裕ができ借金返済へ。売上げではなく利益を重視して不採算部門の閉鎖を断行CFMの導入で会計を透明に。

 純利益-配当、減価償却、経営努力(在庫や経費の圧縮) 以上が会社に入るお金

 出るお金をこの入るお金の範囲にすることで財務の健全性を保つ。減価償却はあまりコントロールできない(ほかに資産を圧縮で資金を捻出する方法がある)。

 利益を上げる。値上げは競争があるのでしにくい。原価を下げるのが自社で出来る方法。そこで取り組んだのが1998年セル方式の導入工員の多能工化促す 習熟度による生産性の改善が目に見えるとのこと コンベア方式はコンベアのスピード以上にはあがらないと。また仕掛品在庫が減少したと)。

 最近では3次元CADにより設計段階で精度を上げ他方で設計スピードも上げた。設計品質の向上(設計ミスによる損失の減少)、設計期間の短縮。設計段階でCAD活用し不具合検査を設計段階で実施 歩留りを改善 余計な仕掛品減少 在庫回転日数改善。開発期間短縮により新製品投入が早くなり価格競争に巻き込まれなくなり利益率改善した。

 キヤノンは円安をいかして国内生産へ回帰 国内比率を42%から50%へ(稼働率引き上げ その工場は自動化進んでいる)。生産効率化 ロボットの活用=自動化でも有名。
 2014年3月 中国ではニコンのデジタル一眼レフD600について欠陥報道。複数の黒い粒子が映り込むとのこと。無償交換するとのこと。D600について販売停止命令。この中国の措置は日本製カメラの強さをけん制する動きともとれる。ミラーレスでは 富士フィルム ソニー パナソニック 。キャノン ニコンはレンジ交換式ヘシフト レンズの種類増やしたり磨きサービス提供している。なおコンパクトデジカメ(スマホの普及で市場が縮小 2010年のピーク時の3分の1程度)で2013年世界で1位に。2011年2012年はソニーが1位 ソニーは高級機シフト ミラーレス一眼(反射式ミラーが存在しないデジカメを指す]に集中へ(2013) デジカメ市場ピークは2010年 2014年の出荷計画はピークの半分で4814万台
カートリッジ再生品をめぐる最高裁判決当時と現在(2013年5月)とで比較して新たな収益源を見つけたといえるか。 インクカートリッジ再生品をめぐる最高裁判決(2007年11月8日)当時と比較してどうか。依然としてデジタルカメラとレーザープリンターで世界1位のシェア(2012年で前者は24% 後者は44%)消耗品で儲けるビジネススタイルで高収益が有名 ⇒電子化により紙の消費が増えなくなるなどの問題はこの訴訟当時から見えている。
 キヤノン製インクカートリッジの再生品をめぐる訴訟で最高裁は2007年11月8日に特許権侵害を認定、キャノンの勝訴が確定した。リサイクル業者(リサイクルアシスト 中国でインクを再注入したものを輸入して販売)側は依然販売を続ける構え。争点は使用済み製品にインクを注入する行為が、特許権の及ばない修理であるのか、あるいは特許製品の新たな製造にあたるのか。最高裁は、再生工程で穴を開け、洗浄の上、インクを注入していたことで、インク漏れ防止のための内部の特許機能が消失・回復していると認定。これに対し再生業者は栓を落としただけで穴をあけておらず、洗浄はすでにしていないとして販売を継続。他方で2007年10月9日。セイコーエプソンによるインクカートリッジ再生品(相手はエコリカ)をめぐる訴訟で、最高裁はエプソンの特許の新規性を認めず、エプソンの敗訴が確定。

 メーカー側がこれらの訴訟に力を入れる背景に交換用カートリッジがプリンターメーカーの大きな収益源になっていることがある。消費者の立場からはリサイクル品が純正品より2-3割安い。消費者の立場からは安い方がよいという意見、リサイクルは環境保全にもなるという意見もある。学者の中には、リサイクル業者もライセンス:技術革新コストを負担するべきとの意見もある。なおこうした国内再生品業者は、再生品であることを示しているが、中国などで粗悪な偽造品が製造され、国内で流通しているとの指摘もある。
 模倣品(模造品、偽ブランド品、コピー商品)は知的財産権の侵害にあたるので、模倣品は取り締まるべきであろう。2005年には特許法や著作権法などでの刑罰の上限を引き上げる方針が政府の「知的財産推進計画」の中でも確認されている。
 キャノンは国内プリンター市場でセイコーエプソンと2強であり、首位争いを続けている。2006年のシェアはキャノン38.8%、エプソン37.2%、日本HP7.4%、ブラザー4.1%、リコー2.9%、その他9.6%となっており、オフィス用カラーレーザープリンターを伸ばしたキャノンが首位を奪還した。市場は成熟状態にあり、出荷台数は前年比2.1%減の851万4千台だった。キャノンのもう一つの収益の柱はデジカメ。そしてここで問題にしているプリンタートナーなど採算のよい消耗品は収益の大きな柱となっている。消耗品は競争の激しい機器本体に比べ値引きせずに売れる。しかも特許技術を駆使したカートリッジを内製化。複写機、プリンター機の稼動台数が伸びれば消耗品も増え、利益をグループ企業にとどめられる仕組みとなっている
カートリッジなど消耗品ビジネスは ジレットモデルと類似

 キャノンのインクカートリッジで儲ける方法は、ジレット社のジレットモデルとよく似ている。ヒゲソリブレードのジレット社の戦略はホルダーをともかく安く販売普及させる。ホルダーはブレードの付け口が、ジレッドの特定のブレードとだけ対応しており、この交換ブレードの販売で高い利益を確保できるというもの。キャノンの場合も高性能プリンターを安値で販売。むしろカートリッジの販売で儲けるというもの。大変よく似ている。

デジカメ、プリンターで優位だが次の商品への不安は深い
 そのほかカンバン方式・セル方式の導入、在庫管理の徹底、新製品投入の迅速化、資材調達の絞込み、生産の自動化(工業用ロボットの導入 完全無人化工場の実現2010年頃めど)、主力製品の内製化、技術取得のためのM&A戦略など生産性改善手法の導入でもキャノンは日本企業の先頭に立ってきた。最近ではグループ内情報システムを2010年までに統合するとしている(2007年10月)。
 国内プリンター市場で強いほか、世界的にもキャノンはデジカメのトップメーカー。2位は意外にもソニー。ともに2007年度の世界生産予定台数は2000万台を超える(キャノン2500万台、ソニー2200万台)。このほか1000万台のメーカーに、オリンパス、松下電器産業、ニコンがある。しかし海外メーカーの参入もありデジカメの価格は下落気味。コストダウンと数量増で補う展開に下位メーカーの収益率はとくに低下している。
 本業のデジカメ、プリンター機で世界でトップ(デジカメで2割 レーザープリンターで6割)だが、将来の成長の機軸をなおさぐりあてていないように見える。1990年代にパソコンなどの多角化で失敗。本業回帰した経験がある。最近もSED(表面電解DP)の開発を東芝と進めていたが、東芝が方針を転換し事実上撤退、これにより東芝のテレビ技術を用いた量産化が困難になったとされ、また米社との訴訟難航もあり2007年5月には2007年内商品化も見送っている。他方、2007年11月に有機EL生産のトッキを買収したことで、有機ELへのシフトにはずみがついたが有機ELの商品化にも困難がある。

先が見えない中、市場はつみあがるキャッシュフロー対策として大幅な自社株買いなどの期待をはやしている
注目される半導体露光装置⇒ 2014年2月 露光装置の技術開発を手掛ける米社を買収で注目される。2008年6月中間期 円高 景気の変調 原材料費や輸送費の高騰 デジタルカメラ、プリンターなど個人向けは好調。業務用品は低調。複写機、レーザープリンター、半導体露光装置(ステッパー)などは販売・市況低迷。輸出伸び悩む。現在(2008)の利益はデジカメに4割を依存半導体露光装置とは、カメラの原理を使い回路パターンをシリコンウエハー上に書き込む技術のこと(ナノテク=微細加工技術の典型 ナノは10億分の1)。半導体メモリーの大容量化・消費電力低下のカギになる技術。世界トップはオランダのASML。ニコンが2位。キャノンがこの2社を追っている。導入するのは東芝、サムソン電子など半導体メーカー。
普及品は現地生産 高級品は国内一貫生産というポリシー
 なおデジカメトップのキャノンは基幹部品を内製化。中高級機は組み立てまで国内で一貫生産している。国内で生産したほうが生産調整はスムーズだとして生産拠点を海外に移転した他メーカーと異なる路線をとる(HOYA 富士フィルムは海外に移転)。2000年以降 新規工場を国内で建設して国内回帰の流れを作った。2008年7月に長崎に新工場建設を発表した(投資額150億円以上)。これは大分工場がフル操業のため。従業員1000人以上。生産能力400万台。09年12月操業予定。既存は大分に2工場。長崎に1工場。
輸送コストを背景にグローバル生産に切り替えを模索(2008)
 2008年5月。輸送費の上昇を背景に高級品国内集中生産の方針を変更。交換用トナーカートリッジの最新鋭工場(無人組立自動ライン導入)を米国で建設(投資額600億円)。需要地で生産するグローバル生産体制にシフト。今後は先端工場を海外に建設する方向に転換か。これまでもコスト競争力を求められる普及機では海外に工場をシフト。しかし高級品については技術流出を恐れて国内集中生産してきた。その意味で近年の円安ハプラスに、他方新興国の景気低迷はマイナスに働くことが予想できる。
採算をみて国内生産から国外へ移管 国外にも自動化された最先端工場建設で人件費リスクに備える(2010)  円高を背景にキャノンはインクジェットプリンターの生産のうち国内の福島工場分(上級機)を2010年にタイに全面移管(半自動化工場 複雑な組みたてを自動化 24時間操業可能 人手不足解消 品質安定 人件費リスクを減らせる 安定稼動 コスト低下目指せる)。福島工場は、プリンタヘッドやインクタンクなど高付加価値の部品・消耗品の生産能力拡張へ。海外で普及品を生産。日本国内は付加価値の高い製品・部品の生産に集中・特化する分業をキャノンは進めてきた。他方で最近はグローバルな最適生産の観点から生産のあり方を見直し、国内の上級機生産を海外に移す面も出ている
 キャノンは一度延期した長崎のデジタルカメラ工場(2009年1月着工予定を延期)について、投資額を縮小した上で2009年7月着工を決めた。

2012年から2015年へ 円高から円安へ(1ドル80円から120円へ)

 キャノンは新製品の生産を高価格帯を中心に原則国内に切り替える方針。低価格の量産品は海外拠点での生産を継続。2年以内をめどに現在4割の国内生産比率を5割超に引き上げる方針(2015年1月)

Hiroshi FUKUMITSU©2017  Appeared in Aug.18, 2008. reposted in June 7, 2009. 

Corrected in Aug.7, 2014  Recorected in Feb.7, 2017

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