「彩」という字とは、さすがに無縁で、今の気持ちを載せるには無理がある。
無理を承知で、記憶を漁って、無理に作った。
そんなんもありだろうか、短歌。
場面は、学校の廊下。少し薄暗い・
季節は初夏、ちょうど今ぐらい・・・(としておこう)。
振り向いたのは、少女ではなく、僕の方だった。
何の気なしに、歩いていて、後方に数人の足音が聞こえたので、
ふと、振り向いた。そこに少女がいた。
勿論、瞳に色がついている訳ではない。
色彩は一切ない。
ただ、僕の心には、そのとき、少女の瞳しかなかった。
少女の瞳は逃げずにこちらを見ていた。
それは僕が不自然に振り向いたからかも知れないし、
彼女の視線が僕を振り向かせたのかも知れない。
多分、僕もまっすぐに見返していたのだろうと思う。
記憶はない、何も考えてはいなかった。
僕が逃げずにまっすぐ見ていたのは、時が止まっていたからだ。
僕は、ネジが解き放たれたように、前を向き直った。
そして、残像で少女の瞳がそこにあったことを知ったのだ。
向きなおしたのと同時に、僕は前を向いて歩き出したのだ。
何事もなかったように・・・。
実際には、立ち止まってはいなかったのだろう。
残像の中で、モノクロームの写真に口紅で赤い色をつけた様に、
少女の瞳だけが、彩られていた。
実は、あの一瞬に、僕は自分の半分を置いてきてしまった。
その半身は、たぶん、あの廊下で、今も少女の瞳を見つめ続けているだろう。
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