Re:SALOON & VBA

サヨナラ

じゃあ・・・・・・と言って
言葉を切った

サヨナラという
小さな言葉が

あなたとの間で
これほど重いものだったとは


塚原将『消せない時間』より

コメント一覧

Unknown
夢だけが戻れる路
夢だけが戻っていける

路の明るさは

過ぎてきた日が遠のくほどに

明るさをましていく



秋のうしろには

すぐに春が覗いているし

哀しみは

澄んだ風のなかに

頬杖をついている



それにもまして

忘れてしまいたいほどのあの日が

花を抱いているではないか



塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
遠い憧れ
神様のいたずらですか

わたしの淋しさが

いちばん深くなったときに

あなたに出逢ったなんて



あなたは変わってしまったと言うが

わたしは遠い日と同じように

あなたをみつめている



思い出話はいりません

わたしの思い出が着飾っていくだけだ



遠い日のように

本の話や旅の話など

何気なくしてください



はるか彼方から

あなたの肩を抱いた

わたしが歩いてくる



ああ

まるで本当のことだったように



塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
黄昏の池
少年がいた

少女がいた



池のむこう側から

日は暮れはじめていた



淋しさはなかった

むしろ黄昏が

早く二人を包みこむのを

希んででもいるように



時は

風強い日の風車のように

その日を色鮮やかにまわしたまま

素早く流れていった



そしていま

私は孤り目を細めて

黄昏によりかかって池をみつめている



遠く耳をそばだてて……



塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
思いを告げた場所
たしかにここだ

わたしが思いを告げたのは



その日から

少女はすこしずつ

わたしを離れていった



わたしを傷つけないように

言葉の片隅にまで

微笑みを含ませながら



たしかにここだ



町並みは

すっかり変わってしまっているものの



遠い日の哀しみが

少女の肩を抱きしめた姿で

透きとおっている





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
ひとむれの雲
ひとむれの白い馬が駆け去るように

速い風にのって

次から次へと雲がとび去った



残された青いだけの空に

心を投げ上げてみると

一枚のうすい紙のように

風にまきこまれてちぎれてしまい

小さな雪が降った



ひとむれの雲の残した

明るいひづめの音が

雪に驚いて

なびいている草原にこぼれおちた





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
晴れ渡った空
晴れ渡った空を

美しいと思うのに

振り向く歳月のなかにたちどまるのは

何時も雨のきそうな空の下だ



悲しいことは

それほどなかったのに



たったひとつの別れが

知りたくなかったわたしを

わたしにまざまざとみせつけたので



晴れ渡った空に

思いっきり心を奪われるには

どこか恥ずかしくてしかたがないのだ





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
振りむく路
振りむくことが好きなのに

本当は振りむいていない



本当に振りむいたならば

わたしのつけてきた路の

あまりのか細さに

もう歩けなくなってしまう



わたしはやや斜め後を

振りむいている

それはわたしの憧憬がつけてきた路



明るい部分も 影の部分も

ひとつの色彩のなかに

ふっくらと浮かんでいて



疲れた心が時折

乳呑み児のように

まるまって眠りこみ

すました顔で戻ってくる





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown

なんということなく

微笑えるようになったわたしに



ちりしきる枯葉のなかに眠る

夢がふさわしくなった



疲れているのに

途中で帰ることもなくなって



よどんだ水に浮かぶ

夢がふさわしくなった



走り去るヨットを追いかけて

泳ぎつづける夢は



心の一番奥にあいた

小さな孔をすり抜けて

遠い日にとけこんでしまった





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
駄々っ児
わたしのなかに

いやだいやだと駄々をこねている

ものがいる



透明な少女を

しっかりと抱きしめて

わたしとともに歳月をくぐるのを

いやだいやだと駄々をこねている

ものがいる



そしてわたしは

長い長い竿のついた綱を持って

散らばってしまった夢を

追いつづけている





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
心のための杖
たしかにわたしの心は

俊足だった

季節を抜けていって

木枯らしのなかにまばゆい潮騒を持ちかえった



たしかにわたしの心は

はりつめていた

なんの悔いもなしに

湧きでる夢をその日に包んで捨てて歩いた

それはいつの日のことだったか



わたしは無造作に

歳月を通りすぎてしまい

流れゆく時間と同じ速さにしか歩けない

わたしの心のために

一本の杖を作りはじめている



せめて夏の日の

まぶしさを彫りこみながら





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
夏の別れ
おそい夏の停車場にたって

わたしは遥か小さくなってしまった汽車を見送っていた



帰ってゆく日を知らせてくれなかった

ということで

少女の心がはっきりとわかっていた



かんなの赤い色彩は

まだ十分に夏を含んでいたが

わたしにとって

夏はもう遠い想い出になってしまっていた



わたしはかぶっていた麦わら帽子を

かんなにかぶせると

秋の方向に力いっぱいに押しやった





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
瞳の中に
あなたが

わたしの瞳のなかにたちどまった



花が風車になって

あなたの微笑を回している



あんなにも探し出しておいた

言葉がひとつも思い出せず



ひどく疲れ切った心が

それでもかすかに甘く香っているので



不甲斐ない今日を封筒におしこめて



明日またあなたが

わたしの瞳にたちどまる時を

想っている





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
告白
あなたの姿を

遠くから目で追っているだけで

幸せだなんて



どうして言ってしまったのだろう



本当は

激しく砕ける波をかぶるように

あなたの想いを

受けとめてみたいのに





塚原将『閉ざされた愛』より
Unknown
手紙
あなたの

想いだけをこめた

手紙をください



わたしは

それで風船を折り

大事に息をふきこんで

もうすぐひらく花のように

ふくらませよう





塚原将『閉ざされた愛』より
はっちん
恥じらい
あなたの恥じらいは



ペパーミントのようだ



わたしの心をすっきりさせて



その後とても暖かくする





塚原将『閉ざされた愛』より
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