こちらは伝統的な「日本水仙」。端正な花だ。副花冠は黄色で高杯形なのもクラシック。春一番に咲き始めて、わたしたちの目を和ませてくれる。古来からある花だけに俳句の例句も多い。「水仙にもつとも欲しき人ひとり 中村汀女」。子規が病の床から読んだと思われる水仙の句に秀句が多い。「水仙や朝日のあたる庭の隅 正岡子規」。
(2021年早春 川崎市)
■早春の花シリーズ
「チロリアンデージー」(早春の花 001)
「クリスマスローズ」(早春の花002)
「ツルニチニチソウ」(早春の花 003)
「ペーパーホワイト」(早春の花 004)
「日本水仙」
和名 ニホンズイセン(日本水仙)
学名 Narcissus tazetta var. chinensis
科名・属名 ヒガンバナ科 スイセン属
分布 原産地は地中海沿岸で、日本へは中国から伝来したと思われ、本州の関東地方以西、四国、九州の海岸に野生化している
花期 12~4月
特徴
古くから日本で親しまれてきた房咲きスイセン。地域によって12月~2月に開花。芳香があり、日本に野生化していてなじみ深い水仙です。
観賞用として栽培され、高さ20~40㎝。
葉は晩秋にのびだし、粉白を帯びた緑色で、葉の中心~高さ20~40cmの花茎をのばし、芳香のある花を5~7個横向きに開く。花被片はわずかにクリーム色を帯びた白色で、平開します。
のどの部分にある副花冠は黄色で高杯。花径3~4cm。
伊豆、紀州、越前岬などに群落を作って咲いていると聞きます。
水仙の例句
あがりゐる井水の息や水仙花 石田勝彦 秋興以後
うづたかき書物の中に水仙花 山口青邨
かたまって水仙の黄が喚ぶか神 楠本憲吉 方壺集
この寺は三鱗の紋水仙花 山口青邨
つぼみ向きむき水仙の花屏風 鷹羽狩行
なかなかに墨濃くならず水仙花 右城暮石 上下
むらがれる水仙の芽に荷を解かん 中村汀女
むろん供花にも 野水仙季の海難碑 伊丹三樹彦
もの鎮む雪に咲きたち水仙花 石川桂郎 四温
やすやすと家得しにあらず水仙花 藤田湘子 途上
やはらかき水仙粽御所好み 後藤夜半 底紅
よく目立つ春水仙の花の苞 右城暮石 句集外 昭和十三年
よぢれゐて水仙の葉の美しく 上村占魚 鮎
よれよれに吹かれ吹かるる野水仙 清崎敏郎
らつぱ水仙芽吹くよあれは葬りの喇叭 三橋鷹女
ユニフォームにて水仙の囁ける 橋間石 微光
一巌を押しつつみたる野水仙 石田勝彦 百千
一線の抜身水仙寂として 渡邊水巴 富士
一茎の水仙一塊の冬菜かな 山口青邨
三体の観音残る水仙花 河東碧梧桐
仄と咲く水仙 背信ばかりの世 楠本憲吉 方壺集
仏壇の供華の水仙年の暮 清崎敏郎
何も彼も水仙の水も新しき 正岡子規 水仙
何焼きし灰黒々と水仙花 右城暮石 散歩圏 補遺 頑張れよ
佛壇に水仙活けし冬至哉 正岡子規 冬至
凪の日のひかりまつすぐ野水仙 星野麥丘人
切り立ての水仙包む新萱菰(越前岬十九句) 細見綾子
切る時の匂ひほのかに水仙花 右城暮石 句集外 大正十年
初凪や水仙ばかりつんつんと 鈴木真砂女 居待月
別の葉を切つて水仙活けにけり 右城暮石 句集外 昭和五十八年
北朗作るところの壺の水仙みなひらいた 種田山頭火 自画像 落穂集
古寺や大日如來水仙花 正岡子規 水仙
古書幾巻水仙もなし床の上 正岡子規 水仙
句碑の径水仙咲けり野のごとく 山口青邨
只呉れぬ桶一杯の水仙を 星野麥丘人
君見よやむらがる水仙青莟 山口青邨
吹雪く中水仙なほも花かかぐ 山口青邨
呼吸は吐くことが大事や水仙花 石田波郷
和蘭水仙筑後川辺を恋ひ慕ひ 川端茅舎
咲き出でて日向水仙みな白痴 三橋鷹女
唐筆の安きを賣るや水仙花 正岡子規 水仙
喇叭水仙田舎の朝の終りけり 藤田湘子 神楽
園荒るる一茎の水仙咲けるのみ 山口青邨
壺や 瓶や 野水仙挿しまどうほど 伊丹三樹彦
夕雲の水仙を呼ぶひかりなり 藤田湘子てんてん
外套の裾水仙にふちどらる(鎌倉瑞泉寺) 細見綾子
夜の園の水仙に誰が神かをる 上野泰 佐介
大き花圃水仙のみとなりにける 水原秋櫻子 葛飾
大凪とあれば花あげ野水仙 岸田稚魚 紅葉山
宗匠が床の水仙咲きにけり 正岡子規 水仙
寝ることのおそろしき妻水仙花 石田勝彦 百千
小娘の機嫌の会釈水仙花 飯田龍太
小鳥来るほどに晴れたり水仙花 村山故郷
少き日が復り水仙足蹴にす 下村槐太 天涯
岬まで歩くつもりや水仙花 雨滴集 星野麥丘人
島水仙と化したか 戦没少年兵 伊丹三樹彦
島離るとき水仙の香のありき 岸田稚魚 紅葉山
崖の上の雪曼陀羅や野水仙 星野麥丘人
崖ゆする浪の荒れざま野水仙 上村占魚
年の瀬の水仙咲ける仮泊かな 角川源義
強風の野に水仙の花欲しき 右城暮石 句集外 昭和十六年
御儉徳を水仙にたとへ申さんか 正岡子規 水仙
怒濤隔てはガラス一枚 水仙風呂 伊丹三樹彦
成人の日や水仙の青莟 山口青邨
房州の波音庭に水仙花 山口青邨
抱かねば水仙の揺れやまざるよ 岡本眸
描き了へし水仙の壺床わきに 上村占魚 球磨
政子の墓水仙をさす松の内 山口青邨
敵艦を弔す水仙挿しゝばかり 渡邊水巴 富士
文机や水仙の芽の一二寸 内藤鳴雪
断崖に水仙一向宗の国 右城暮石 虻峠
日あたりや馬場のあとなる水仙花 正岡子規 水仙
明るさは海よりのもの野水仙 稲畑汀子
春寒き寒暖計や水仙花 正岡子規 春寒し
春立つや水仙と壁と久しきに 細見綾子 桃は八重
昼過ぎて元日の閑水仙に 森澄雄
暮れて遊ぶや水仙の華胥の国 上田五千石『森林』補遺
更けて酔い戻り水仙の頸整す 楠本憲吉 孤客
月落ちたり水仙白き庭の隅 正岡子規 水仙
有明の水仙剪るや庭の霜 正岡子規 水仙
朝晩のくるしい水仙ふところに 飯島晴子
枯れつくすまで水仙を卓の上 安住敦
枯れはてしおどろが下や水仙花 正岡子規 水仙
枯山を焼きて育てし水仙よ(越前岬十九句) 細見綾子
枯菊を折りて捨てけり水仙花 正岡子規 水仙
枯蓮は阿羅漢水仙は文珠かな 飯田蛇笏 山廬集
梅 水仙 鎌倉の階どこも減る 伊丹三樹彦
棄つるほかなし水仙のすがれしは 安住敦
次の間といふうすやみの水仙花 鷲谷七菜子 天鼓
正月の水仙夫が買ふ慣らひ 細見綾子
正月を水仙の花のさかり哉 正岡子規 正月
母には海の日の出贈らむ水仙花 藤田湘子
母の居間父の墓前に水仙花 星野立子
水かへて水仙影を正しけり 日野草城
水仙、水は池に入る湯は油槽に入る 荻原井泉水
水仙、障子にふるる音が雪らしく 荻原井泉水
水仙がすなほな花をつけにけり 右城暮石 句集外 昭和十年
水仙が人を訓ふるにはあらず 後藤比奈夫
水仙しゃっきり 艀子地蔵 艀に向き 伊丹三樹彦
水仙と唐筆と売る小店かな 河東碧梧桐
水仙と炭取と竝ぶ夜市哉 正岡子規 水仙
水仙と石あり石に海の鳥 水原秋櫻子 殉教
水仙に 二日の入日と 夕月と 伊丹三樹彦
水仙にかかる埃も五日かな 松本たかし
水仙にさはらぬ雲の高さ哉 正岡子規 水仙
水仙にはたきかけたる粉炭かな 正岡子規 炭
水仙にひとりの涙みられけり 日野草城
水仙にもつとも欲しき人ひとり 中村汀女
水仙にわびて味噌燒く火桶哉 正岡子規 水仙
水仙に今樣の男住めりけり 正岡子規 水仙
水仙に写真のライト年忘れ 百合山羽公 寒雁
水仙に十重に二十重に浦の波 高野素十
水仙に取りあはすべきものもなし 正岡子規 水仙
水仙に古書画商ふ小家かな 内藤鳴雪
水仙に年の行き来のありし白 森澄雄
水仙に年ゆきてまだ何も来ず 森澄雄
水仙に手相をたれて観世音 野見山朱鳥 曼珠沙華
水仙に星辰めぐりはじめけり 阿波野青畝
水仙に時計のねぢをきりきり巻く 細見綾子 雉子
水仙に武家門ばかり残りたる 清崎敏郎
水仙に水やる夜の女の手 大野林火 冬青集 雨夜抄
水仙に氷のごとき光塵かな 赤尾兜子 稚年記
水仙に波寄する情ありにけり 安住敦
水仙に湯をいでて穿く毛足袋かな 飯田蛇笏 山廬集
水仙に煤のり初めし瓦窯 飴山實 次の花
水仙に臥すや死神あなどりて 上田五千石『田園』補遺
水仙に花神や来れ城ヶ島 亭午 星野麥丘人
水仙に蒔繪はいやし硯箱 正岡子規 水仙
水仙に軸の渓山奇峭なり 日野草城
水仙に風見えそめて佇めり 高野素十
水仙に黄檗の僧老いにけり 正岡子規 水仙
水仙に黒潮の香の及ぶべし 高浜年尾
水仙に鼬隱るゝ明家かな 正岡子規 水仙
水仙のあひだをとほり竹箒 石田勝彦 秋興
水仙のいつまでかくて莟かな 正岡子規 水仙
水仙のうしろ向きなる沖つ濤 古舘曹人 砂の音
水仙のかなつぼ眼なこ黄なりけり 阿波野青畝
水仙のこち向く花の香をもらふ 中村汀女
水仙のしづけさをいまおのれとす 森澄雄
水仙のはてに倶利迦羅落かな 古舘曹人 樹下石上
水仙の一壺の花に稿をつぐ 高野素十
水仙の一壺凍らせ癒えずあり 小林康治 玄霜
水仙の一花誰か刈り落とし 高野素十
水仙の一茎一花挿しにけり 能村登四郎
水仙の三連星はいさぎよし 山口青邨
水仙の三連星や枯るる中 山口青邨
水仙の三連星を雪間草 山口青邨
水仙の僅に咲て年くれぬ 正岡子規 水仙
水仙の光輪の座も暮れにけり 上田五千石『田園』補遺
水仙の冬にならんで福壽草 正岡子規 福寿草
水仙の切り時といふよかりけり(越前岬十九句) 細見綾子
水仙の吹かるゝ影のもつれけり 清崎敏郎
水仙の喇吼と影の喇吼かな 阿波野青畝
水仙の夕ベまばたく花の数 飯田龍太
水仙の夜は荒星のつぶて打ち 岡本眸
水仙の岬に夜明けを待つことも 稲畑汀子
水仙の峠を越えて来りけり 燕雀 星野麥丘人
水仙の島にひとつの真水井戸 福田蓼汀 秋風挽歌
水仙の島みち不意に海に落つ 阿波野青畝
水仙の影卓に落ち風邪ごこち 古沢太穂 古沢太穂句集
水仙の日向に坐して寫眞哉 正岡子規 水仙
水仙の映り池心に塔一基 福田蓼汀 秋風挽歌
水仙の束とくや花ふるへつゝ 渡邊水巴 白日
水仙の枯れゆく花にしたがふ葉 安住敦
水仙の水かえて朝の炭火匂う 飴山實 おりいぶ
水仙の水替へ海綿の水も替ふ 安住敦
水仙の百枚書きや春寒し 尾崎放哉 大学時代
水仙の瞳をかんじゐて偽れり 橋間石 雪
水仙の群落に山焼くが見ゆ 松村蒼石 雪
水仙の芯自らを囲ひたる 中村草田男
水仙の花うながして土をかく 右城暮石 散歩圏
水仙の花に水音ばかりして 右城暮石 句集外 平成二年
水仙の花のうしろの蕾かな 星野立子
水仙の花の伏したる雪の上 高野素十
水仙の花の日なたも冱ての中 長谷川素逝 暦日
水仙の花の盞うつ雫 山口青邨
水仙の花の黄凍ててこちこちに 右城暮石 句集外 平成五年
水仙の花ばかりなる入日かな 桂信子 花影
水仙の花を暮らしの糧として(越前岬十九句) 細見綾子
水仙の花を貫く緑かな 阿波野青畝
水仙の花を重しと雪の中 山口青邨
水仙の花咲くことを忘れたり 正岡子規 水仙
水仙の花採りしあと葉の乱れ 右城暮石 散歩圏
水仙の花空白にかこまるる 藤田湘子 神楽
水仙の花萎みたる接木哉 正岡子規 接木
水仙の花触るゝ顔笑ふべし 渡邊水巴 白日
水仙の花釵や洛の神 正岡子規 水仙
水仙の芽のはるかより鶸のこゑ 飯田龍太
水仙の芽のほのぼのと年迫る 飯田龍太
水仙の莟に星の露を孕む 正岡子規 水仙
水仙の莟は雪にうもれけり 正岡子規 水仙
水仙の莟ばかりの庭もよし 山口青邨
水仙の莟隆々苞の中 山口青邨
水仙の葉のおのづから天地人 鷹羽狩行
水仙の葉のまづ寒にいたみけり 安住敦
水仙の葉の野放途に海寂し 飯島晴子
水仙の葉ばかりなるがいさぎよし 右城暮石 散歩圏
水仙の身をもてゆるるかすかにも 清崎敏郎
水仙の雪となりけり爪木崎 石塚友二 玉縄抄
水仙の露に眼の塵を洗はんか 正岡子規 水仙
水仙の青深き葉の花かこむ(鎌倉瑞泉寺) 細見綾子
水仙の頷き合える余命かな 橋間石 橋間石俳句選集 『和栲』以後
水仙の香にちと動悸したりけり 岸田稚魚 紅葉山
水仙の香も潮の香も路地のもの 稲畑汀子
水仙の黄にさく頃や御見拭 正岡子規 水仙
水仙の黄変したる書院かな 阿波野青畝
水仙は只竹藪に老いぬべし 正岡子規 水仙
水仙は咲かでやみけり霜柱 正岡子規 霜柱
水仙は垣根に青し初しくれ 正岡子規 時雨
水仙は水吸ふ石からも寒旱 山口青邨
水仙は畑三反の主かな 正岡子規 水仙
水仙は英霊に咲きし花にこそ 渡邊水巴 富士
水仙ほのと藪凪げる真昼歩く鳥 種田山頭火 自画像 層雲集
水仙も紅梅も供華母の手に 三橋鷹女
水仙も處を得たり庭の隅 正岡子規 水仙
水仙やいま夢の尾の僧をにくみ 飯島晴子
水仙やおろそかならぬ竹囲ひ 石田勝彦 秋興以後
水仙やおん母まつるいくとせぞ 水原秋櫻子 蓬壺
水仙やかりそめに挿す一瓶子 日野草城
水仙やこゑ密々と仏たち 上田五千石 天路
水仙やすでに東風吹く波がしら 水原秋櫻子 晩華
水仙やたまらず老いし膝がしら 小林康治 四季貧窮
水仙やばてれん墓の十あまり 角川源義
水仙やひそかに厳と昇給差 草間時彦 中年
水仙やものもあげさる藪の神 正岡子規 水仙
水仙やゆかしがらるゝ白拍子 正岡子規 水仙
水仙やよく眠りたりよく晴れたり 星野立子
水仙やカンテラに似て灯はともり 飴山實 おりいぶ
水仙やバネのよく利く花鋏 阿波野青畝
水仙や一族島に住み古りて 鈴木真砂女 居待月
水仙や一碧をなす御座の海 深見けん二
水仙や乗雲の徒の散りぢりに 永田耕衣
水仙や亡命客の七言詩 阿波野青畝
水仙や何より寒き日がかなし 百合山羽公 故園
水仙や冷たかりし名の紅晶女 渡邊水巴 富士
水仙や古鏡の如く花をかかぐ 松本たかし
水仙や土塀に見こす雪の山 正岡子規 水仙
水仙や土塀の上に雪の山 正岡子規 水仙
水仙や子の代に譲るリリシズム 林翔 和紙
水仙や寧き日待てる病家族 石田波郷
水仙や島裏は日の尖りがち 上田五千石 森林
水仙や師へおとづれは墨もてかく 富安風生
水仙や愛すは花鳥諷詠詩 高田風人子
水仙や才を恃みて三十路過ぐ 草間時彦 中年
水仙や明日の晩といふ期待 藤田湘子 てんてん
水仙や晉山の僧黄衣なり 正岡子規 水仙
水仙や更に一句を成さんとし 中村汀女
水仙や朝日のあたる庭の隅 正岡子規 水仙
水仙や来る日来る日も海荒れて 鈴木真砂女 居待月
水仙や根から花さく鉢の中 正岡子規 水仙
水仙や残像として闇に冱つ 下村槐太 天涯
水仙や母の鏡は母の丈 鷹羽狩行
水仙や波大島へこぞり飛ぶ 水原秋櫻子 霜林
水仙や海に鍛へし声忘れず 水原秋櫻子 蘆雁以後
水仙や海老の軟骨ほぐし食ふ 右城暮石 散歩圏 補遺 頑張れよ
水仙や灯影はせめて加ふべし 中村汀女
水仙や玄海曇る風の垣 角川源義
水仙や瑞渓の硯紫檀の卓 内藤鳴雪
水仙や看護婦に腋拭はるる 石川桂郎 四温
水仙や祗園にひとり女弟子 藤田湘子
水仙や紙につゝんで馬の鞍 正岡子規 水仙
水仙や紫袱紗黒茶碗 正岡子規 水仙
水仙や老母庭はく朝まだき 正岡子規 水仙
水仙や荒れつつかすむ沖津波 水原秋櫻子 梅下抄
水仙や衣づれ音に時が過ぐ 能村登四郎
水仙や袴はかすも作務のうち 飴山實 次の花
水仙や貧乏徳利缺茶碗 正岡子規 水仙
水仙や貨車通過音揺曳す 藤田湘子 途上
水仙や贏弱の身にこの寒さ 日野草城
水仙や起承転結ととのはず 阿波野青畝
水仙や非情非非情十七字 阿波野青畝
水仙や風の名残の濤の声 水原秋櫻子 殉教
水仙より母の白髪の白かりき 石田波郷
水仙をうつすや庵の鍬始 正岡子規 鍬初
水仙をきびきび活けて一礼す 中村苑子
水仙をちりばむ裳裾燈台あり(越前岬十九句) 細見綾子
水仙をまはり水底へ行く如し 藤田湘子
水仙をよくよく見たる机かな 桂信子 樹影
水仙を供華とせしこと両三年 燕雀 星野麥丘人
水仙を八咫の鏡と見しけふぞ 山口青邨
水仙を出荷するとて賑ひぬ 細見綾子
水仙を切り出すに雨あたたかき(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を刈り捨て焚ける一事件 星野立子
水仙を剣のごとくに活けし庵 山口青邨
水仙を剪つてこと足る誕生日 飴山實 句集外
水仙を剪つて青年母に詫ぶ 三橋鷹女
水仙を剪る雲嶺の暮れぎはに 百合山羽公 故園
水仙を咄嗟に買ひぬ何処へ行かむ 星野麥丘人
水仙を尋め来りしが荒磯雨(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を手に大仏ををろがめり 飴山實 花浴び
水仙を持ちてあるけり都府楼址 飴山實 辛酉小雪
水仙を捨てたる雪が少し凹む 安住敦
水仙を活けて濡れたる手を洗ふ 岡本眸
水仙を活けて萎みし迄の日日 上野泰 佐介
水仙を生くる今日より明日へ向け 後藤比奈夫
水仙を生けしこころに習ひけり 後藤夜半 底紅
水仙を生けても心定まらず 深見けん二
水仙を生けて心に月雪花 後藤比奈夫
水仙を生けて日脚を顧みる 後藤比奈夫
水仙を背負ひて海に降り来たる(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を背負ふ籠にて目の粗き(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を見にゆく旅の赤鉛筆(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を見に丹生山の雪を越え(越前岬十九句) 細見綾子
水仙を買ひ風塵にまぎれ行き 中村汀女
水仙を過ぐると口調かはりゐる 加藤秋邨
水仙を遠ざかるとき近づく香 稲畑汀子
水仙切る出稼ぎ夫を遠ちに置き(越前岬十九句) 細見綾子
水仙咲き啄木はゐず世を経し家 村山故郷
水仙売りし銭ふところに年を越す(越前岬) 細見綾子
水仙売りの髪のかはきの風邪気なる 大野林火 冬青集 雨夜抄
水仙段丘 のぼる 裾長マントの緋 伊丹三樹彦
水仙結ふ腰藁しごきしごきけり(越前岬十九句) 細見綾子
水仙羨し風を聴く黄の耳持つ故 楠本憲吉 方壺集
水仙花いくたび入院することよ 石田波郷
水仙花三年病めども我等若し 石田波郷
水仙花九曜の星をつらねけり 三橋鷹女
水仙花伏樋を畑の境とす 福田蓼汀 山火
水仙花切字あるごと匂ひけり 阿波野青畝
水仙花刹那のひかり花に満つ 日野草城
水仙花咲きたけて鰤うまきころ 三橋鷹女
水仙花校了の朱筆おきにけり 渡邊水巴 富士
水仙花深くなりゆく波の音 亭午 星野麥丘人
水仙花眼にて安死を希はれ居り 平畑静塔
水仙花睡りの末の息くるし 石田波郷
水仙花行更へて文さやかなる 渡邊水巴 富士
水仙買ひし母はだまつて闇に入る 大野林火 冬青集 雨夜抄
水仙頸長子の恋人が遊びに来 安住敦
水仙黒くまた今日を返却す 永田耕衣
沼島まで海が眩しき野水仙 岸田稚魚 紅葉山
波音の今日は届かず野水仙 稲畑汀子
浪寄せて水仙の花白きかな 山口青邨
火ぶくれの葉水仙かざりつけ 飯島晴子
烏賊裂きてくれし女も水仙摘む(越前岬十九句) 細見綾子
病室の八隅のひとつ水仙凍つ 石田波郷
百両の石は小さし水仙花 正岡子規 水仙
百茎の水仙花を君のため 山口青邨
眄に水仙の葉や熱のぼる 石田波郷
真つ直ぐに蕾む水仙葉と共に 右城暮石 句集外 平成元年
眦に水仙一花読初め 上野泰
石塊に水仙挿して嗚呼わが墓 三橋鷹女
祭神は天鈿女や水仙花 燕雀 星野麥丘人
禿倉暗く水仙咲きぬ藪の中 正岡子規 水仙
禿倉暗く水仙白し庭の隅 正岡子規 水仙
空棺を供えたりけり水仙に 永田耕衣
窓はたかく鎖されて水仙咲けり 種田山頭火 自画像 層雲集
筆洗の水こほしけり水仙花 正岡子規 水仙
筆立の筆新しや水仙花 上野泰
素顔よし水仙の香の娘の香 松崎鉄之介
群落の水仙砂に風音して 古舘曹人 能登の蛙
肖像は僧一遍や水仙花 燕雀 星野麥丘人
芋の跡水仙植ゑてまばらなり 正岡子規 水仙
荒磯に雨しぶく日の水仙花(越前岬十九句) 細見綾子
落葉の、水仙の芽かよ 種田山頭火 草木塔
蕾また咲くと水仙長く切る(越前岬十九句) 細見綾子
薄氷の中に水仙咲きにけり 正岡子規 水仙
藁と鎌腰に水仙山のぼる(越前岬十九句) 細見綾子
蛸壺に水仙を活けおほせたり 正岡子規 水仙
赤ん坊の嚏がとんで野水仙 石田勝彦 秋興
赤インキこぼし茫然水仙花 山口青邨
跫音が跫音を聞く寺の水仙 飯島晴子
軸の前支那水仙の鉢もなし 正岡子規 水仙
過ぎし日も水仙はその折々に(十年回顧) 細見綾子
道具車水仙提げて通りけり 飯田蛇笏 山廬集
都恋ふるさまに打ち伏し野水仙(紀貫之邸跡) 鷹羽狩行
野水仙ここに香を溜め香を放ち 稲畑汀子
野水仙てのひら燃えて戻り来し 石田勝彦 百千
野水仙ときに鋭き目を烈風裡 飯田龍太
野水仙岬径絶ゆるなくつづき 清崎敏郎
野水仙波先よりも賑々し 鈴木真砂女 居待月
野水仙風に耐ふるはなかりけり 石田勝彦 百千
針供養水仙ねぢれ梅曲り 百合山羽公 寒雁
鉢浅く水仙の根の氷りつく 河東碧梧桐
長き葉の水仙何となくまとめ 能村登四郎
長け水仙ばかり 徒雪囲いばかり 伊丹三樹彦
降りすぎて水仙まつりなかりけり 星野麥丘人
雁過ぎて水仙に水さしにけり 渡邊水巴 白日
雪かかる六たび七たび水仙に 山口青邨
雪ふりつもる水仙のほのかにも 種田山頭火 自画像 落穂集
雪中の水仙雪の香とにほふ 山口青邨
雪降るや霏々と水仙埋むべく 山口青邨
風におろおろ水仙の一家族 岡本眸
風を聞きをり水仙の香ほのかなる 種田山頭火 自画像 層雲集
風邪熱の冷めて夜深し水仙花 松本たかし
風雲に水仙の葉のみな勝気 藤田湘子 神楽