私の父は大正4年生まれ。91歳の天寿を全うした。農家の三男として生まれ兵役後そのまま軍隊に残り職業軍人として終戦まで満州に駐留した。中学出の父だったが准尉まで出世し下士官となった。終戦時ソ連軍の捕虜となりシベリアに抑留され昭和24年に帰国。
戦争のことはあまり話したがらない父だったが私(現在64歳)が子供の頃に時々話してくれたいくつかの戦争の話を書き留めておきたい。
戦争体験者が少なくなってきている日本で貴重な体験談を受け継ぎ次の世代に伝えていくことは私達子供の役目ではないかと思う。私は平和主義を蔑(ないがし)ろにする今の日本の風潮に危機感を持っている。
「戦争は絶対してはならない」の立場から父が話してくれた戦争の話をお伝えしようと思う。
【父の戦争体験⑧】
アヒル事件。
これは父がシベリヤから帰国してからの話。
アメリカ人はクリスマスに七面鳥を食べるという話を聞いた父は一儲けしようと考えた。七面鳥は手に入らないので代わりにアヒルを売ったら駐留軍のアメリカ兵に飛ぶように売れるのではないかと思った。
早速、父は子供のアヒルをたくさん買ってきてクリスマスまでに大きく育てて売ることにした。東京の田舎のことである。アヒルを育てるには場所も餌も困らなかった。
クリスマスが近づきいよいよ市場に持って行こうとした或る日。
父がアヒルの飼い場に行ってみるとアヒルがみんな倒れていた。父の言葉を借りると「虫の息でグロッキーになっていた」そうだ。
父は言った。
「イタチにみんな血を吸われてしまったんだ」
当時はここ東京の江戸川区にもイタチが普通にいたのだ。
父の儲けの企みはこうして見事に失敗した。アヒルは売れず損しただけ。
生き物を飼うのが好きな父だった。
犬、ネコ、鶏、キジ、うさぎ、熱帯魚、鶯等々。私達子供もよく世話をさせられた。
私が動物に愛着があるのは父の影響だ。
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