■父との思い出■
(40代男性)
私の父はすでに他界していますが、いろいろな思い出がある中で、ずっと心に引っかかっていた言葉がありました。それは次のような何気ない言葉です。「お前がいくら大きくなって立派になったとしても、父さんの胸の中ではお前は5歳の姿のままだ」
この言葉を高校生のころくらいからちょくちょく耳にしてきましたが、私にはピンと来ませんでした。むしろ内心は「成長することを期待していないのかな?」などと思っていたくらいです。
父もその言葉のあとには特に何も語りませんでした。「だからがんばれ」とか、「だから父さんのことを忘れるな」という言葉はなく、ただ独り言のようにぼそっと口にしていただけでした。
父が他界した後も、その言葉がよく思い出されました。しかし、最近、自分の子供が大きくなってきて、不思議と同じような思いが湧いてきました。それは漠 然と、ただ意味もなく心から湧き出るような思いでしかありません。でも、私にとってその思いが、さらに父との絆を深めてくれました。
今になってはその思いを直接父に伝えることもできないのですが、今でも見守ってくれていると思うので、毎年父の日にはその思いを伝えようと思います。「親」と「子」の間には誰も知りえない二人だけの世界があるんだと強く感じています。