杞憂

2010-03-30 23:11:20 | ジルコニア
「ジルコニアは湿潤環境において低温劣化が起こる、という話を聞いたが大丈夫なのか?」
と聞かれた事がありました。
現在、盛んに指摘されている事柄ですが、こういう記述があります。
「DrummondはY-TZP(イットリア安定化ジルコニア)を37℃の水溶液中(蒸留水、食塩水、リンゲル液)に保存した場合、140日後では曲げ強度の低下は認められなかったが、304日後では13%から22%の強度低下が認められたと報告した。
一方Simizuらは50℃および95℃での食塩水に3年間浸漬し、曲げ強さに著明な変化は認められなかったと報告している。
筆者らはY-TZP及びNANOZRを80℃の4%酢酸溶液に30日間浸漬、80℃の生理食塩水に540日間浸漬し、両者とも2軸曲げ強さに変化は認められなかったことを報告した。」 伴清治(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)「ジルコニアの材料特性」
歯科学報Vol.107 No.7 2007 より抜粋
 このように「劣化した」、とする研究者も「劣化しなかった。」とする研究者も存在します。でも結局のところ、すう勢は「劣化しない」。
 一口にY-TZPと言ってもその成分は千差万別で、安定化剤にはイットリア以外にもアルミナやハフニウムなどが添加されており、成分によって実験結果も変化するので一概に低温劣化が起こると断定することは難しいと思います。
ただ、Y-TZPをオートクレープの中(加圧下121℃)に200時間入れっぱなしなんて環境なら確かに劣化は起こるようです。上記論文でもそういう条件下で実験を行い、物性の劣化を確認したとの記載があります。ここで言う「低温劣化」は正確には「低温水熱劣化」というそうで、低温とはいうものの、湿潤環境にそこそこの温度と圧力が加わってこその劣化という解釈ができそうです。少なくとも補綴物が口腔内で遭遇する条件ではありません。
ジルコニアで世界的なシェアを持つ日本企業の技術者も異口同音に述べられており、歯科補綴物の口腔内での「低温劣化」は杞憂であると考えます。
 上記論文でも「口腔内でのジルコニアの使用で懸念されるのは、水分存在下における相転移に伴う強度劣化があげられる。しかし、上述したように通常の口腔内環境における低温劣化の危険性は低いと考えられる。」とし、ジルコニアの周辺技術・材料の進化が必要である旨を指摘されつつ稿を結んでおられます。
歯科応用ではそのほとんどを占めるY-TZPが口腔内で劣化するという話は考えにくい、と思います。
「低温劣化」は最近よく取り上げられているわけですが、はっきり確認もされていないというのに問題視されている、というのもおかしな話です。なぜか「水熱」という言葉も省かれてますし。ちょっと恣意的なものを感じますね。

さて、当ラボのHPは放置するのもいよいよ限界に達しまして、リニューアルにとりかかっております。削除前にとりあえずジルコニアの情報を仮にアップすることになりました。でも、リニューアルって大変・・・。

追記;

上記の「ジルコニアで世界的なシェアを持つ日本企業」に電話で問い合わせてみました。当ラボのジルコニアもこの会社から出ているものなので・・・。
「この種の質問にはウンザリしている。」と言いながらもしっかり答えてくれました。
Y-TZPの「低温水熱劣化」、研削による「相転移」、いずれも欧米では問題視されてはおらず、実際に口腔内や通常の技工工程ではまず起こりえないから全く心配ないとのことでした。



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