いつの間にか眠っていたようだ。
目を覚まして自分が寝入っていたことに気づく。
出発前に「ちょっとちょっとトミちゃーん、なんとかモードってどうやんの?」
と携帯電話を友人に渡していた斜め前の席のマダム達は相変わらずおしゃべりに余念がない。
マナーモードじゃなくて電源切れよ、計器に影響すんだろうがとひったくってやりたくなったが
理由が「だってそれで飛行機落ちたらいややもん」では三十路半ばの女として
少々大人気ないかとぐっと我慢していたのだ。
あの携帯電話は今もマナーモードのままなのだろうか。
ああ、みかんの香りがする。
マダム達と飛行機やバス、電車等に乗り合わせると必ずといっていいほどに漂うこの香り。
そんなみかん処を飛び立ってからどのくらい経ったのだろうか。
携帯電話は勿論電源を切っており、腕時計をする習慣もない津菜には時間を確認する術はない。
しかしながら心配していた機体の揺れはさほどでもなく(というか覚えていないのだが)、
やがて間もなく羽田に到着する旨の機内アナウンスが穏やかに流れた。
よしよし、いいぞいいぞ。
前回、前々回の東京旅行では長距離移動を9割方夜行バスで行い、胸膜炎になった原因の
一因はそこにあるのではないかと津菜は睨んでいる。小型のバスは確かに安いがやはりしんどい。
旅行会社が提案する航空券とのホテルパックだと、バスとあまり値段が変わらないことが判明し
いっちょ今回は飛ぶかとチケットを取ったもののやはり飛行機はこわい。
が、津菜は今回の旅行で確信した。たぶんもうそんなにこわくない。いける。あたし飛べる。
かくして機体はスムーズに着陸。逆噴射の爆音ですら心地よい。
帰りの便は出発時刻が早いため、先に実家等へのお土産を買い求める。
それらを宅急便で送る手続きを済ませると、京急線乗り場へのエスカレーターを下る。
今日これから向かう板橋区ときわ台は津菜にとっては未開の地。
だがしかし、ここでこれまでに幾度となく駅で迷い路線を間違え電車を間違え
方向を間違え下車駅を間違えてきた経験が物を言った。
京急線で品川、山手線で池袋、東武東上線でときわ台。
乗り換えもスムーズ、改札口で「ぴんぽーん」と通せんぼされてオロオロになることもない。
予想外、というか忘れていたのは今日が金曜とはいえ平日だったということ。
丁度ひと仕事終えてマイホームへ帰る者や週末の夜へ飛び出す者であふれ返りそうな
すし詰めの満員電車に辟易した。いやはや、相変わらず東京は人が多い。
明らかに「いまさっき片田舎から出てきました」的な様相で呆然と立つ津菜であった。
そんなこんなで電車はときわ台に到着。
友人笑子の住むマンションへの道のりを、メールで確認しながら線路沿いの道をひた進む。
見えた!目印の青い庇のケーキ屋さんだ!
喜び勇んで笑子に電話し、そこからはもうマンションは目と鼻の先だった。
「久しぶり~!! でもないか!」
2か月ぶりに見る笑子の笑顔。変わっていない。津菜はうれしくなる。
荷物を置いてひとときの休息をとったあと、駅近のショットバー、Eへと向かう。
笑子がよく行っていたという店で、どうやら男前の店長がいるとの事。
何度か話には聞いており、その店長がいるなら今夜は更に楽しい酒が飲めるであろうことが
予想される。
店に入ると津菜達のほかにまだ客はおらず、赤ちゃんのような肌をした若い男性スタッフが
カウンターで2人を迎える。子供がいるのかと思った。若!
男性の肌を見て「赤ちゃんみたい」・・いつからこんなことを思うようになったのだろう。
私も歳をとった。だけど、重ねてきた年齢のぶんだけ楽しいことも随分と増えた。
何の話だっけ。
店長は?と聞く笑子に、苦笑いするスタッフ。成程、まだ出勤されてないご様子。
まあそのうち来るでしょ、ととりあえずフードをいくつか頼み、ひとまずビアで乾杯。
黄色いクリアな水が、五臓六腑に心地よく染み渡る。
しばらくは2対2でなんやかやと会話するが、やはりいまひとつ物足りない。
店長さん、今日は休みなんだろうか・・と思っていたその時。
笑子の顔に、小さな驚きと大きな喜びが広がった。
その視線の先を振り返ると、カウンターの壁から体半分を出した色黒(ゴルフ焼けであることが
後に直に判明)の男性がこちらを見てにやりと笑っている。
成程男前である。ザッツ東京の人!といった風貌である。
時間が経つにつれ客も増え、店内が賑やかになってきた。
津菜達の酒もすすみ、店長も交えて話が弾みに弾む。フードもまた旨い。安いし。
Eでの夜を満喫した。
笑子のマンションへ帰った頃にはとうに日付も変わっており、交代でシャワーを浴びて
布団に入るも、暗闇の中でガールズトークは続く。
こうして1日目、ときわ台での夜は楽しく更けゆくのであっ
なっが!!
いやー、すいませんね。確かにこれでまだ半日分なんですよね
目を覚まして自分が寝入っていたことに気づく。
出発前に「ちょっとちょっとトミちゃーん、なんとかモードってどうやんの?」
と携帯電話を友人に渡していた斜め前の席のマダム達は相変わらずおしゃべりに余念がない。
マナーモードじゃなくて電源切れよ、計器に影響すんだろうがとひったくってやりたくなったが
理由が「だってそれで飛行機落ちたらいややもん」では三十路半ばの女として
少々大人気ないかとぐっと我慢していたのだ。
あの携帯電話は今もマナーモードのままなのだろうか。
ああ、みかんの香りがする。
マダム達と飛行機やバス、電車等に乗り合わせると必ずといっていいほどに漂うこの香り。
そんなみかん処を飛び立ってからどのくらい経ったのだろうか。
携帯電話は勿論電源を切っており、腕時計をする習慣もない津菜には時間を確認する術はない。
しかしながら心配していた機体の揺れはさほどでもなく(というか覚えていないのだが)、
やがて間もなく羽田に到着する旨の機内アナウンスが穏やかに流れた。
よしよし、いいぞいいぞ。
前回、前々回の東京旅行では長距離移動を9割方夜行バスで行い、胸膜炎になった原因の
一因はそこにあるのではないかと津菜は睨んでいる。小型のバスは確かに安いがやはりしんどい。
旅行会社が提案する航空券とのホテルパックだと、バスとあまり値段が変わらないことが判明し
いっちょ今回は飛ぶかとチケットを取ったもののやはり飛行機はこわい。
が、津菜は今回の旅行で確信した。たぶんもうそんなにこわくない。いける。あたし飛べる。
かくして機体はスムーズに着陸。逆噴射の爆音ですら心地よい。
帰りの便は出発時刻が早いため、先に実家等へのお土産を買い求める。
それらを宅急便で送る手続きを済ませると、京急線乗り場へのエスカレーターを下る。
今日これから向かう板橋区ときわ台は津菜にとっては未開の地。
だがしかし、ここでこれまでに幾度となく駅で迷い路線を間違え電車を間違え
方向を間違え下車駅を間違えてきた経験が物を言った。
京急線で品川、山手線で池袋、東武東上線でときわ台。
乗り換えもスムーズ、改札口で「ぴんぽーん」と通せんぼされてオロオロになることもない。
予想外、というか忘れていたのは今日が金曜とはいえ平日だったということ。
丁度ひと仕事終えてマイホームへ帰る者や週末の夜へ飛び出す者であふれ返りそうな
すし詰めの満員電車に辟易した。いやはや、相変わらず東京は人が多い。
明らかに「いまさっき片田舎から出てきました」的な様相で呆然と立つ津菜であった。
そんなこんなで電車はときわ台に到着。
友人笑子の住むマンションへの道のりを、メールで確認しながら線路沿いの道をひた進む。
見えた!目印の青い庇のケーキ屋さんだ!
喜び勇んで笑子に電話し、そこからはもうマンションは目と鼻の先だった。
「久しぶり~!! でもないか!」
2か月ぶりに見る笑子の笑顔。変わっていない。津菜はうれしくなる。
荷物を置いてひとときの休息をとったあと、駅近のショットバー、Eへと向かう。
笑子がよく行っていたという店で、どうやら男前の店長がいるとの事。
何度か話には聞いており、その店長がいるなら今夜は更に楽しい酒が飲めるであろうことが
予想される。
店に入ると津菜達のほかにまだ客はおらず、赤ちゃんのような肌をした若い男性スタッフが
カウンターで2人を迎える。子供がいるのかと思った。若!
男性の肌を見て「赤ちゃんみたい」・・いつからこんなことを思うようになったのだろう。
私も歳をとった。だけど、重ねてきた年齢のぶんだけ楽しいことも随分と増えた。
何の話だっけ。
店長は?と聞く笑子に、苦笑いするスタッフ。成程、まだ出勤されてないご様子。
まあそのうち来るでしょ、ととりあえずフードをいくつか頼み、ひとまずビアで乾杯。
黄色いクリアな水が、五臓六腑に心地よく染み渡る。
しばらくは2対2でなんやかやと会話するが、やはりいまひとつ物足りない。
店長さん、今日は休みなんだろうか・・と思っていたその時。
笑子の顔に、小さな驚きと大きな喜びが広がった。
その視線の先を振り返ると、カウンターの壁から体半分を出した色黒(ゴルフ焼けであることが
後に直に判明)の男性がこちらを見てにやりと笑っている。
成程男前である。ザッツ東京の人!といった風貌である。
時間が経つにつれ客も増え、店内が賑やかになってきた。
津菜達の酒もすすみ、店長も交えて話が弾みに弾む。フードもまた旨い。安いし。
Eでの夜を満喫した。
笑子のマンションへ帰った頃にはとうに日付も変わっており、交代でシャワーを浴びて
布団に入るも、暗闇の中でガールズトークは続く。
こうして1日目、ときわ台での夜は楽しく更けゆくのであっ
なっが!!
いやー、すいませんね。確かにこれでまだ半日分なんですよね