横綱部屋

よこづなへや

それもまたいい話じゃないか

2010-07-04 23:38:09 | おえかき
この前の財布の話で思い出したのが、友達のはなし。


もう10年以上も前になるだろうか。
そう、もう10年以上も前になるのだ。
月日の経つのはほんとうに早いものだとぞっとしながらも、づなはその昔話に思いを馳せる。
当時、毎日のお昼に弁当を持参していた同じ職場の友人S。
その日もいつもと同じように家を出て、車で会社へ向かっていたときの出来事だった。

通いなれた道を走っていると、後続車がパッシングをしてきた。

なんだ?

辺りを見回すがこれといって変わった風な様子はない。
ちょうど通勤時間帯でそれなりに車は多く、煽られるほど友人Sだけがのろのろと
走っているわけでもない。こっちだってもう少し早く進んでほしいところだ。
ルームミラーで見た限りではパッシングしてきた後続車に乗っているのは
自分と同じ、ごく普通のサラリーマンといった感じの男性。
知り合いでもないし、手元を誤ったのだろうという程度の認識に留めて運転を続ける。
やがて赤信号の交差点にさしかかり、Sは停車。後続車も停車。

するとまたもやのパッシング。

一体何なのだ、とやや不快感を覚えながらSは運転席側の窓を開け、顔をのぞかせた。
やはり知らない男性である。

男性はSに向かって、














やはり意味が分からない。珍しい鳥やいっそUFOでも飛んでいるのかと再び辺りを見回し
上空にも目をやるが、やはり何もない。
曇り空を指して「見ろよ、空が泣きだしそうだぜ」というわけでもないだろう。

もう一度振り返ってみる。







今度は車の屋根をばんばんと叩いている。





???
ますます意味が分からない。




??



・・・



・・・ふと思いついたSは、身を乗りだして自分の車の屋根を見上げた。








屋根の上には、Sの弁当箱が鎮座していた。
あわてて掴んで助手席に座らせ、Sは知らせてくれた男性に頭を下げる。
男性は笑っていた。Sも思わず笑ってしまった。
と、信号が青になり車がゆっくりと流れはじめる。
慌しい朝の、心和む一幕。



S曰く「なんであんなとこに置いたんか自分でもわからん」。
人は往往にして自分でもよく分からない行動をとるものさ、
とにかく弁当が無事でよかったじゃないかと朝からひとしきり笑ったところで
づな達は仕事にかかるのだった。