我が親愛なる本村洋

　現在、国内最強のテロリストは誰かと聞かれれば、私は間違いなく本村洋さんと答える。彼はテレビでこう言った。
「司法が彼を死刑にしないのなら、今すぐ彼を釈放してほしい。私がこの手で殺す。」
　公共の電波での殺人宣告。かの中原誠先生が「突入します」と言ったのは留守番電話に対してで、それが流出しただけだった。だけど本村さんはテレビで言ったんだ。「私が殺す」と。家族を奪われた恨みは、犯人の命をもって晴らすしかないと。私は感動した。テレビで、日本中の人に殺人予告をした。この人は最高レベルのテロリストに違いない。だから応援しようと決めた。
　しかし、なぜか彼はテレビでもてはやされた。犯罪被害者の権利増大と厳罰化、重罰化の時流に乗って、彼の被害者意識は同情の対象となった。裁判が開かれる度、彼の発言は重く取り上げられ、時代のヒーローとなってしまった。そして被告人の発言は非難の対象として大きく報道された。だけど記者会見で涙を見せた弁護士のブログを読んで、少し違うかもと思った。
　裁判で死刑を求刑されて、被害者遺族は出てきたら殺すとまで言ってる。テレビじゃその遺族を持ち上げて、世論は自分に死ねと言ってる、最高裁も言外に死刑を考えているようだ。そんな状況に追いやられたとき、自分ならどう考えるだろうかって思った。生き残るためには何だってやるだろう。恥も外聞もなく、ドラえもんだって持ち出す、どこまでもやる。生きたい、生きたい、生きたい。死刑の刃を突きつけられた若者が、多少理性的でない発言をしても仕方ないだろう。本村さんはこの８年間の裁判で、本当に苦しんだんだと思う。だけど被告人も苦しいはず。自業自得ではあるんだけど、世論がここまで関心をもち、そのほとんどが死刑を望んでいる状態は異常だ。そんなプレッシャーに耐えられるのは常人じゃない。私くらいだ。
　それはともかく、我が親愛なるテロリスト本村同志、あなたの目的は被告人を殺すことのはずだ。裁判で死刑になるか、釈放されてあなたが殺すか。そしておそらく裁判では、死刑という結論が出るだろう。ここまで世論が動いてしまい、被告人の弁護団も有効な手は打てていないから。だからもう少し冷静になって、命乞いをする若者を生暖かい眼で見ていて欲しい。挑発に乗って感情的になったり、相手を「君」と呼んで蔑んだりするのはもうおしまいにしよう。あなたは勝ったのだ。憎むべき相手を殺したいという純粋な気持ちを大切にして欲しい。その気持ちを押し込めて、相手の人格を攻撃するルサンチマンの表出はもう見たくない。
　最強のテロリストゴルゴ１３は、何も語らず敵の頭を打ち抜く。現役最強のテロリスト本村同志、あなたはそれができる人だ。だから１０万人のアジテーターがあなたを挑発しても、あなたは冷静に被告人を死刑に追い込んで欲しい。Ｍ１６の引き金が引かれるのはもうすぐだ。そのときあなたは、そして私は、何も感じないだろう。