制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

「年金通帳」の導入に向けた検討を開始

2009年10月16日 10時05分31秒 | その他
マニフェストに掲げた「年金記録問題」の方法として、民主党はかねてから「年金通帳」を導入する方針を明らかにしていた。今回の概算要求に、数百億円の単位で「年金通帳」導入に向けた関連予算を盛り込む方針を固めたことから、一気に検討が進むものと思われる。

具体的には、必要となるITシステムの改修・開発費、記帳用端末(ATM)の開発と設置など。ITシステムの概要も決まっていないため、あくまで概算で、これから実現可能性を含め、検討を進めることになる。
大きな構想としては、国民1人ずつに「年金通帳」を交付(正確には、年金加入者=被保険者に)。全国の銀行などに設置された記帳用端末(ATM)を使って、いつでも、年金の納付記録や支払われる年金額などを印字できるというもの。
この構想を実現するためには、社会保険庁(1月から日本年金機構)と全国銀行データ通信システム(全銀ネット)のITシステムを接続し、相互にデータ通信できるようにしなければならない。全銀ネットは、全国銀行協会(民間)が運用しているものなので、厚生労働省からは「依頼」しかできない。また、かなりの大規模システムとなることから、限られた予算のなかで何ができるかを考えていくことになるだろう。

例えば、大きな構想を見越して、通帳と同じ仕様の「年金通帳」を用意し、社会保険庁で、基本情報を印字したうえで被保険者に送付する(多少のリスクがあるか)。社会保険庁の支所(社会保険事務所)に専用の記帳用端末を置き、その「年金通帳」を使えば、必要な項目を印字できるようにする。このように運用している間に、全銀ネットとの接続についての検討と準備を進めるという2段階の方式が考えられるが、いかがだろうか。
ゆうちょ銀行が全銀ネットと接続した時にもトラブルが発生した。今回は、通常の銀行業務にないデータをその中に流そうというものであり、接続と試験は簡単ではない。確かに利便性は向上するだろうが、必要な費用を考えると、やりすぎ感がある。それならば、厚生労働省と社会保険庁が自力でできること=現実的な方法から着手することを考えてはどうだろうか。

厚労相、「年金通帳」導入の方針 10年度概算要求に数百億円
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2009101401000903.html?C=S

年金記録、ATMで確認 厚労相、「通帳」検討
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009101003690.html?C=S

概算要求圧縮のための9項目の方針

2009年10月12日 10時01分37秒 | その他
省内でも概算要求を乗り越えることが最優先事項、制度改正の検討は後回しになっていると思われる。そのため、ここ数日は、「制度改正Watch」よりも「厚生労働省~長妻大臣Watch」になっているような気がする。
まず、10月9日の閣議の後の記者会見で明らかになったことは、

・事務方トップの水田邦雄事務次官を本部長とする対策本部が立ち上げられたこと
・9項目の方針を盛り込んだ指示文書を省内に出していること
・優先順位を付けて民間の発想でコストカットに取り組むこと
・社会保障のレベルを下げないこと

注目の「9項目の方針」は、内部文書だけに外に出てくることはないと思うが、わかっていることとしては、

・国家公務員OBが在籍する公益法人、認可法人への補助金2割削減
 →雇用・能力開発機構や国民健康保険中央会、日本医師会、日本看護協会など85法人、4512億円
・5代以上続けて理事長や理事に就いている法人向けの補助金を原則禁止
 →中央職業能力開発協会や全国社会保険協会連合会など13法人、640億円
・物品調達費、システム経費を2割削減

「2割削減」の方針を今年度の予算規模から単純に計算すると、約1500億円。
兆の単位で圧縮が求められているので、2割では足りない。1~2割は査定されることを前提に、上乗せして積み上げていると思われるので、さらに2割ほど削減しないと「痛みを伴った予算削減」とは言えない。しかし、あまりにも圧縮してしまうと国民生活に影響が出るし、補助金の削減で立ち行かなくなる法人も出てくるだろう。10月15日までの間にどこまで調整できるか。
これからも漏れ聞こえてくる情報を整理していきたい。


長妻厚労相、予算圧縮へ対策本部 本部長に次官
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091011AT3S0902T09102009.html

厚労省の天下り先、補助金5000億円超 98団体、厚労相は抑制急ぐ
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091012AT3S1100Y11102009.html

年金記録対応と年金制度改革

2009年10月11日 15時50分46秒 | その他
ここ数日は、「宙に浮いた年金記録問題」の解決に向けて来年度の概算要求に2000億円を上乗せできるか、が話題になっている。これまで厚生労働省は、「7000人を投入しても10年はかかる」と説明してきた。マニフェストで約束したように2年間で解決するためには、膨大な人員を集中的に投入する必要がある。
紙の台帳が8億5000万件あり、コンピュータで管理しているデータと照合していく。「宙に浮いた記録」は、被保険者に紐づける情報が欠けた記録であり、被保険者本人や雇用主を探し出して1件ずつ確認していくしかない。探し出すのは大変だし、ほとんどの人は、そんな昔のことは覚えていないと言うだろう。要は、コンピュータでできる照合作業は何とかやった。後は、人手をどれほど投入すれば解決できるのかという、先の見えない、やっかいな記録が残っている状況である。
また、この記録とデータの照合は、単純作業ではない。国民皆保険の制度をつくりあげる過程でパッチワーク的に年金制度をつくりあげてきた結果として、非常に複雑になっている。過去の条文や通知の内容まで熟知しているベテラン職員は、引退しつつある。急場しのぎで雇ったアルバイトにできる作業ではない。

「ミスター年金」こと、長妻大臣としては、まさしく正念場である。

これまでは、「どうなっているんだ!」と社会保険庁の職員や政府を追及していればよかった。正論だが非現実的な方法を示し、「このとうりにやれ!」と言うこともできた。しかし、今は、その追及を受ける立場である。理想論者から現実論者へ。長妻大臣は変われるだろうか。
早くも、「すべての省庁が09年度当初予算を下回る要求をすべきだ」「どの省庁も例外なく守ってもらう」などと政府からの「牽制」が入っている。このブログでも書いてきたように、厚生労働省が抱える問題は根深く、「選挙対策」で上乗せされたマニフェストの実現には膨大な費用が必要になる。加えて、社会保障費の伸びを抑制する方針を転換したために、自然増分をどこかで吸収しなければならない。

しかも、厚生労働省の予算の大半は「義務的経費」であり、簡単にカットできるものはない(例えば、法改正して国の負担割合を減らさないと)。国土交通省のように、不要不急の事業を凍結し、何とか捻出しようとしている姿勢を示さないと、政府内での対立の火種になりかねない。

不要不急の事業、2~3年は止めても大丈夫な事業には何があるのだろうか。休みを返上して、「乾いた雑巾」を何度も絞って1円1円を積み上げる作業をしている最中だと思うが(民と比べると、まだまだ甘い)。


政権公約の財源確保、長妻厚労相が四苦八苦
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091011-567-OYT1T00361.html