弁護士川原俊明のブログ

川原総合法律事務所の弁護士活動日記

むちうちについて

2012-01-23 10:36:14 | 交通事故
 むち打ちは、交通事故の中では比較的軽い傷害として受け取られているうえに、他覚所見がないことが多いため、被害者救済が充分なされないことがあります。
 その上、注意してもらいたいのは、症状が軽いからと言って、被害者が受傷の初期段階で適切な治療を受けなかった場合には、後々、思いもよらず不利な結果を招くことがあります。
すなわち、被害者には、損害を拡大しないように適切に対応する信義則上の義務が課されていますので、被害者が事故後治療を怠り損害を拡大してしまい、加害者がその事実を立証した場合には、過失相殺されてしまうことがあります。
 たとえば、被害者が、事故直後に病院にいって医師からなんらかの指示があったにもかかわらず、その指示を無視して治療を続けなかったために治療期間が長引いた場合には、何割か過失相殺され、充分な賠償を受けられません。
もっとも、被害者が、医師から入院を勧められたにもかかわらず、家庭や家業の都合によって通院した事例において、治療期間が多少長引き後遺障害の程度に多少影響があっても、被害者に過失があったとは認められないと判断されています(福岡地裁判決昭和46年1月29日)。
したがって、合理的な理由があれば初期に適切な治療を受けなくても、加害者からきちんと満額の損害賠償を受けることができますが、不用意に医師の指示に従わなかったり、病院に行かなかったりすると、充分な賠償を受けられなくなってしまいます。
 交通事故に遭ったら、軽いむち打ちといった症状しか出ていなくても、きちんと病院に行って医師の指示に従いましょう。

弁護士法人 川原総合法律事務所   
弁護士 川 原 俊 明 
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PTSDの診断書と裁判所の認定基準

2011-12-07 17:20:31 | 交通事故
 近時、交通事故や事件の被害者が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を負ったとして、その損害の賠償を求める訴訟が増加しています。
 訴訟において、被害者はPTSDとの診断書を出すことになりますが、裁判所はそれをそのままPTSDと認定しないことがあります。その理由の1つとして、訴訟では、事実の有無が厳格に判断されるのに対し、臨床においては、治療の観点から、事実の真偽を追求せずに患者の主観的訴えを支持しているという点が指摘されています。
 京都地裁平成15年12月18日判決では、「精神医学的な、あるいは臨床の現場におけるPTSDの概念及び判断基準(例えば、ICD-10やDSM-Ⅳ)を満たしているか否かという観点のみで精神的打撃の大きさを測ることが適切かというと、必ずしもそうとはいえず、PTSDの判断基準を満たさないからといって直ちに何ら精神疾患に罹患していないということにもならない。」としたうえ、「損害の算定に当たっては、原告の症状がいかなるものであり、どのような精神的打撃を被ったかという事実を端的に考察することに重点を置くのが相当である。」としています。
 PTSDに該当しない場合でも、外傷性神経症として損害賠償を認められる場合もありますので、結局、被害者の精神状態、持続期間、発症原因(他原因の可能性)など、損害賠償請求の原則的な判断基準を意識することが肝要です。


高次脳機能障害と介護費用について

2011-11-30 15:05:49 | 交通事故
 通常の障害の場合、症状固定後に介護費用が出るケースは、後遺障害等級第3級以下であると認められないケースもあります。
交通事故によって、脳に障害を負ったケースで、幸いにも意識を回復し、リハビリで、一定の日常生活が出来るようになったケースで、高次脳機能障害が残るものがあります。
 その場合にいつも問題となるのが、将来の介護費用です。
 日常生活はある程度自分で出来るが、高次脳機能障害が残ったケースというのは、生命の維持に最低限必要な所作は自分でできるけど、火を消し忘れたり、、刃物に対して注意を払わなかったり、突然異常行動を起こしてしまうなど、近親者にとっては一人にしておくことが心配になるというケースも多くあります。
その場合の介護の形態は、いわゆる肉体的な介添えではなく、看視、声かけの程度にとどまり、そのような形態が、はたして介護といえるのかという議論があります。
 最近は、高次脳機能障害に対する理解が高まり、必要な介護費用の全額は認められなくても、一定の割合で将来の介護費用について裁判で認められることもありますが、全額が保障されるケースはまだまだ多くないと思います。
 しかし、高次脳機能障害の患者さんは、一定程度自分で行動が出来るために行動範囲も広く、現実に看視、声かけなどをするといっても、自宅で全身介護をする以上の負担がかかることもあります。
 そのため、障害の程度が全身介護が必要な人よりも軽く、自分である程度行動が出来るからといって、必ずしも介護の費用及び負担が、全身介護の人よりも安い(軽い)とは限らず、家族の負担、不安は図り知れないことを、もっと広く理解される必要があるのだと思います。







高次脳機能障害の「高次脳機能」とは何か

2011-11-22 17:52:03 | 交通事故
最近、交通事故などが原因で高次脳機能障害に陥っていると判断されることがありますが、この「高次脳機能」とは一体何でしょうか。
脳は、大きく分けて4つの部位に分けられます。①運動・意欲・思考を司る前頭葉、②記憶・聴覚・味覚・嗅覚を司る側頭葉、③知覚・連合野を司る頭頂葉、④視覚中枢を司る後頭葉の4つです。
例えば、あなたが、有能なテニス選手で、相手サーブを打ち返すときのことを考えましょう。
あなたは、まず、相手選手がサーブした際の打撃音を、耳で聞き取ります。その情報は側頭葉に伝わり、脳が打撃音を認識します。
同時に、あなたは、相手選手がサーブしたボールを目で追いかけるでしょう。あなたが目で見たその視覚情報は後頭葉に伝わり、脳がボールの位置を認識します。
これらの視覚情報や聴覚情報の認識は、脳が最初に認識する原初的な機能ですので、一次脳機能と呼ばれます。
次に、移りゆくボールの位置と打撃音の情報が、頭頂部にある連合野に伝わり、統合され、現在どのようなスピードでボールが動いているかを認識します。これが、脳の二次的機能です。
そして、現在のボールの位置やスピードの情報に加えて、過去何度も経験したボールの動きに関する記憶(情報)が連合野に伝わり、それぞれの情報が統合され、今後どこにボールが来るかを予測します。言うなれば、これが三次脳機能です。
このように脳の中では段階的に情報が集約され、高度な情報ができあがっていき、その全ての情報が最終的に前頭葉に伝わります。そして、前頭葉が、これらの情報(知覚、記憶、判断、感情、想像)を統合して、その人の人格を作り上げます。この脳の動きが高次脳機能と呼ばれるものです。
高次脳機能障害とは、この人格を作り上げる脳の機能に障害が起こるものですから、その症状も社会的行動障害や注意障害、人格障害等、知的で高度な行動に障害がでるのです。

自賠責保険の保険金等の請求権の消滅時効期間が2年から3年に変わりました

2011-11-18 17:08:00 | 交通事故
 旧商法に定められていた保険に関する法律が、商法から独立し、新しく「保険法」として独立して制定され、平成22年4月1日から施行されました。
 それに伴い、交通事故の際の自賠責保険の請求権について、2年の消滅時効の期間が設けられていたものについて、事故日が保険法の施行日以後に発生したものについては、3年に変更となりました。
 従来、自動車損害賠償保障法第19条において、被害者請求(同法16条1項)や仮渡金請求(17条1項)などの規定による請求権は、2年を経過したときは、時効によって消滅すると定められていました。
 他方で、いわゆる自賠責保険金の請求ではなく、加害者らに対して、直接損害賠償請求の裁判をする場合の時効期間は、民法724条で、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年で時効消滅するもの(但し、事故時から20年経過によって消滅する除斥期間という制度もあります。)と定められています。
 そのため、私達弁護士も、交通事故の損害賠償の依頼を受けたときには、被害者の代理人として自賠責保険の保険金請求をする場合には、2年で時効にかかるのに対し、加害者らを被告として、裁判所に直接損害賠償請求訴訟をする場合には、その請求権の時効期間は3年と、時効期間が異なるために注意が必要でした。
 しかし、今回、保険法の改正に伴い、自賠責保険金の請求権の根拠となる自動車損害賠償保障法も一部改正され、従来2年と定められていた時効消滅期間について、3年へ改められたため、損害賠償請求訴訟をする場合と時効期間を統一的に考えることが可能になりました(保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の第15条参照)。
 但し、交通事故の日が保険法の施行日(平成22年4月1日)より前の場合には、従前のとおり時効期間は2年のままですので、注意が必要です(保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の第16条第1項参照)。