「今一人の者が市場に虎がおりますといったら王はお信じになりますか」
魏王は言った。
「信じぬ」
「では、二人の者が市場に虎がいますと言ったら王はお信じになりますか」
「半信半疑であろう」
と魏王は答えた。
「それでは、三人の者が市場に虎がいますと言ったら王はお信じになりますか」
「わしは信じるであろう」
「そもそも、市場に虎などいないのはわかりきったことです。 しかし、三人の者が言えば虎がいることになってしまいます。 わたくしはこれから邯鄲へ参りますが、大梁(たいりょう)から邯鄲までの距離は、 王宮から市場までの距離よりはるかに遠く、また私のことを悪く言うものも三人にとどまりますまい。 王におかれては、なにとぞこの点をよくお考え下さいませ」
「わしは自分で判断するとしよう」
そこで、龐葱は出かけて行ったが、さっそく龐葱の讒言をする者が現れた。
後に太子が人質を解かれたが、龐葱は、結局王に目通りすることもかなわなかった。
どんなにあり得ぬことでも大勢の人が言うと信用されてしまう
一人が、町に虎が出たといっても信じられないが、 三人までがそう言うと、聞いた人は信じるようになるという嘘や噂も多くの人が言えば、本当のこととして信じられるようになってしまう
市虎三伝 市に虎あり(いちにとらあり)