独裁少女サヨ子ちゃん
議案1 『当選の赤い薔薇は鮮血の色』
ピピッ、 ピッ。
無機質だが強い、開票速報の当確の音が選挙事務所のTVから響き名前の左に赤い薔薇が咲く。
「ふぅ。 意外と遅かったわね」
令和9年4月25日(日)午後9時24分 東京都三鷹市。 当確を得た当の私が顔色一つ変えないのを周りがかえって慌てる。
当選は当然として、それを伝えるのが 「番組開始と同時」 でなかったのだけがどうも不足で満点は与えられない。
「はい。三鷹市長選今当確出ました。 無所属の新人で新護憲三派連合三党の推薦を受けた理辺サヨ子候補当確です。現場の真生さん、そちらの様子はいかがでしょう。万歳や拍手とかは?」
「真生です。 護憲三党の中でも移民党は外国人党員が多く今回選挙スタッフにも外国人が多いので日本独特な『万歳三唱』はありませんが…日本人スタッフが『ワッショイ』これは珍しい。 ソランさん、今三鷹市長選の開票率はどうなっているでしょうか。 得票率で言うと、数字的にはどうでしょうか?」
「はい。スタジオより繰り返します。今回注目選挙区の三鷹市長選挙、今開票率5%でうち8割強、2100票余りで理辺サヨ子候補当確です。ある程度予想されていましたが圧勝でしたね。」
「スタジオのソランさん、今カメラズームしていますが理辺候補が共に戦った運動員達を回り労をねぎらっています。 でもやはり16歳だけあって若いですよね。去年公職選挙法が大改正されてから今回は初の統一地方選になりましたが標準学年なら高校2年での当選は快挙ですね」
「従来市町村長選挙の被選挙権は25歳以上でしたが去年の法改正で四年制大学卒業以上の資格があればそれ未満の年齢でも立候補できるようになりましたから…でも驚きました」
「理辺候補は去年15歳で東大法学部を卒業して僅か1年ででしたからね。 立進民主党も最高の新人を獲得したと私も思いますよ。 ではソランさん、スタジオにマイク戻します」
「はい。現場の真生さん、お疲れ様でした。 開票速報まだ長いので次の現場中継まで良く休憩取られて下さい じゃあ」
「記者さんは元気ね」
「いやぁお嬢、これが仕事ですから。 次は隣の杉並区で中継ですけどやっぱり立進党の区長が確実に受かるだろうから社の上層部も今頃酒と飯が旨いと思いますよ」
「それは良かったわ。 再来月の議会の第2回定例会もどうか来られて。帰りご飯をおごるわ」
「勿体無いお言葉です。 うちらTVが終わったら次は新聞社とネット配信でしたよね。 私もお嬢のその人徳にあやかりたいもんですよ。 んじゃ♪」
調子の良い男だ。 でもこの真生という男は利用価値がある。 第四権力だ。 価値も無いくせに調子だけいい奴ならとうにしばいている。
「大報の李斬です。 選挙中のマニフェストで市長就任後最初に実現させたい物は?」
「エイジャンパシフィック・イヴニングポストのイチェノヴォー・ジンです。 最大の懸案の都アイリス条例は市長としてはやはり厳守ですか?」
「ええ…マニフェスト項目で最優先で実現はやはり、私にとって一丁目一番地の 『多様性と寛容さの尊重』 ですね。これが無いと私ではなくなってしまいますから。 金髪で青い目の市長を昭和世代や平成一桁のおじ様方はお認めにはなりたがらないとは私自身痛い程存じ上げておりましたが民意は正直でしたからね。 ふふ。♬ 都アイリス条例、アイリス原則は国際公約の為当然厳守です。 市内でのヘイトも俗悪行事も 『ダメなものはダメッ!』 の姿勢で厳罰に処しますわ」
ピッ、ピッ…。
選挙事務所のTVから再び当確音が流れた。 9時37分だった。
「前回選挙から1年足らずで今回は議会と同日出直し選挙になった杉並区長選、開票率10%… 無所属の現職で立進民主党、移民党、公徳党の推薦を受けた田中麗候補、今当確出ました。」
「はい。 杉並区の現場から真生です。 スタジオのソランさん、田中区長の選挙事務所では今シャンペン空けてみんなで乾杯です」
「あ~、 真生さん美味しそうですね~~!」
「勝利の美酒ですね♬ いやぁ美味しい! ソランさんも来れば良かったのに!」
「…あの記者さん、さっきまでウチで取材しててもう隣の杉並区長の当選取材って早過ぎない? 科学忍法でも使えるの?」
「お嬢、ギョーカイじゃ 『飛ばしの真生』 って言えばあの人ですよ。連続取材の為なら信号無視でも飲酒運転でも轢き逃げでも何でもして次の現場に向かう鬼です」
「そう…飛ばし記事書かれて足を引っ張られたくはないわね」
でも毎度思うのは選挙の開票速報で局により違うが当確、当選の度画面に踊る薔薇は何故こうも皆血の様な赤なのか。報道は自分達が受からせた政治家なのだから逆らえばやはり自分達が葬ってやるという警告の目的で棺に入れる花の意味も込め最も鮮やかな赤を選ぶのか。悪趣味な。
「どうしたの?」
「はい。…市長。 ああ記者さん達からの質問が全社終えられてからでも結構なのですが」
「まだ市長じゃないわよ。 一体何かしら? 言って」
「お兄様が部活のお友達とお誕生祝いにとバーボンを呑み過ぎて救急搬送されました」
「あの馬鹿は18歳にもなって何やってるの!? 構わないわ。酔いが醒めれば自分で勝手に帰ってくるだろうし放っておきなさい!!」
「承知致しました」
同日午前8時39分、ニューヨーク サンジェルマン家。
「おはようございます、旦那様」
「おはよう、ファブリさん。 いかんな、寝過ぎた」
「先程10分ほど前に確認しましたが、サヨ子様が市長選挙で当選されました」
「別にこちらで調べるのでも良かったのにな。 いつも貴女はお給金以上の仕事をしてくれる」
「お祝いの書状の用意は?」
「不要だろう。 あちらも読むまい」
議案1 『当選の赤い薔薇は鮮血の色』 完
次回予告
いけないよ。 どうも世界中で 「政治ごっこ」 が普通になって本物の 「政治」 がとうに忘れられた、絶えたカンジがしていけない。必要なのはごっこじゃなくて本物の政治だ。
当然みんなのしあわせ♡ なんて甘い理想なんて実現できないしそもそも私はそんなのは絶対にさせない。 政治とは恐怖と苦痛と絶望をカードにして行う知的なゲームに他ならない。
さあ、キックオフ。♪
次回 議案2 『これが政治だ!』
来週もサヨ子と、再び悪夢を見てもらう。
From now on I want to leave it to Judgement of future historians.
真実を直視せよ。
(え・伊澤 忍)
©小林 拓己/伊澤 忍 2679
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