伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

独裁少女サヨ子ちゃん 議案4 『民事特例法301条』

2019年05月29日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案4 『民事特例法301条』



「面倒だな」
「先祖伝来の土地とか何とか…面倒臭い」


市寮の設置を巡り土地収用が難航しており市長室にも担当者からその情報が上がってきていた。 
最新の改正法に明記されているのだと公寮には福祉寮、隣保寮、国際寮と他がありこの案件だと国際寮だ。 何故本件がこじれたのかと言うとそこの土地所有者の過去の深い私怨があった。

ヘイト。 外国人嫌い。 簡単に言えばこの一点だ。 ここの家主、地主のオッサンの祖父の代に日本の敗戦に乗じて 「俺達は戦勝国民だ」 と勢いづいた外国人に他の土地を残らず奪われ最後に残った土地が家族親戚の男衆が交代で番をし守り通したこの家と土地だというのだ。
お上に逆らうほど買値はますます下がるぞと脅しても梃子でも動こうとしない。


「千日手…ですね。 市長」
「あら。 『手詰まり』 より大分玄人っぽい言い方をするじゃない。 加戸尾」


実際、事態は正に千日手に陥っていた。 家主はこの種のトラブルには慣れっこで一種争い事のヴェテランと言って良かった。
都市整備部でも精鋭の強面なのを集めて多少手荒にやるにも過去ボイスレコーダー回されてカードにされるわ市が手を汚さない形で街の愚連隊、今回は色賊でも赤賊を使って特上寿司30人前やLLピザ20枚を勝手に注文してやろうにもサービス区域内の店には事前に全部手が回っていて、家主と店側の合言葉まで決めてあった。 何なの畜生!


「土着の日本人中心なのは赤賊だけだったのに…出前の悪戯注文するのに訛りの無い日本語OKなのはここだけだったのにカードをまた一つ浪費したわ」
「あの…市長。 自分も先祖代々土着の日本人なんですけどね」

「それ、嫌味? 私を新植民地主義の悪い白人とでも言いたいの? まぁ…貴男に次の悪戯電話や悪戯注文の作戦させる訳じゃないわ。 古巣と登記とか占有とかの絡みで交渉はできる?」
「それが明らかに公序良俗に反していても、違法ではありません」

「相変わらずね。 加戸尾。 手配するから明日にも法務省側の代表と話をまとめてもらうわ」
「…? 古巣にスプレー落書きや生卵投法の名手が居た記憶は自分にはありませんが」

「まあ、会えばわかるわ♪」


翌日朝、市長専用車の黒塗りの防弾キャデラックで加戸尾を法務省側代表との折衝に行かせた。
封筒を開け命令書を読めばきっと驚くかさもなくば怒るだろう。


「…折衝は杉並区高円寺駅南口の喫茶店 『サンスーシ』 で10時半から。 で法務省側代表は人権擁護局の古館、って古館先輩って何だ! てゆーか民事局じゃないって嫌な予感してきた」
「副市長、お顔の色が優れないようですが」

「まあ…ね」


昭和時代の高度成長期を思わせる重々しいえんじ色の大きな看板を掲げた古風な喫茶店で、私や加戸尾の大学時代からの先輩だった法務省の古館氏は待っていた。


「古館先輩、お久し振りです」
「おお加戸尾。♬ 元気にしてたか。 随分な仕事を回されたもんだな。 でもさ、三鷹市役所勤務っていうと何年振りだかお前も家族揃って暮らせるのは良い事じゃないか」

「言われるとそうですね…。 まあ今回の案件で先輩が省側の代表だったのは助かりましたよ」
「まあ、これも本来なら民事局の案件だけど都市計画法も土地収用法も国土法も駄目で手詰まりだと…この時代は俺等の仕事さ。 これを見な。 もう大臣印まで全部押してある」

「これは………! ふぅ…。 嫌な予感はしていましたがこれですか。 民事特例法301条って」
「だよ! 土民弾圧法さ! 敗戦の焼け跡の生き地獄にこの時代になって法的根拠が出来たのさ!」

「なるべく血を流さない形で地権者さんには明け渡しを求めますがね… 駄目かもしれません」
「だろうよ! 代執行実施者証の団体用と個人用の用紙も70枚持ってきた。 反吐が出るぜ!」


現役法務官僚からここまで史上最悪法と蛇蝎の如く忌み嫌われる 「民事特例法301条」 とは一体何か。 簡単に言えば 「平和」 「人権」 「多様性」 「国際友好」 といった公共性の高い目的があれば日本国民の動産、不動産を極めて簡単な手続きで収用できる最強法だ。 
特に当該財産の所有者等が人種差別主義、民族差別主義といった誤った思想を強固に保持し憎悪犯罪に繋がる虞があれば通告のみで本人の同意も相応の補償も無く代執行が可能となっている。

翌週、当該用地は釘バット、金属バット他様々な武器で武装し胸や袖口から和彫を覗かせた者や同様武装した日本語以外の言語話者、更にその周囲を機動隊装備の人員により包囲されていた。


「あと五分で人権代執行を行います。 どうか出てきて土地と建物の明け渡しをお願いします」


都市計画課職員のスピーカーによる家主への通告も、あくまで形式的な手続きでしかなかった。
計った時間の五分きっかりで、代執行は行われた。 以降は命じた私自身も言うのが嫌になる。
公権力の名の下の圧倒的な有形力の行使を前に家主の思い出、誇りは打ち砕かれ消去された。


「遺体はどうするよ」
「放っときゃいいじゃん。 汚いし」


大量の人員と重機を用い小一時間で用地は更地にされ代執行への抵抗の結果絶命した家主と妻の遺体はその場に打ち捨てられた。
市は遺体の火葬埋葬許可証発行を許さず遺体は十日以上カラスと野犬に喰われるままにされた。


「市長、何故ああされたのですか」
「解らないの? あの家主は家をこれ以上無く愛していたのよ。 そこで土に帰してあげたの」


三ヶ月後、その場所には異国の匂いを漂わせる新築の国際寮が完成し既に入居が始まっていた。


「先日落成した三鷹市の三鷹東国際寮を取材中の真生記者から中継です。 真生さん、どうぞ」
「はい。 三鷹の三鷹東国際寮から真生です。 では、住民の方にインタビューしてみます」

「学生さん。 この三鷹東寮の住み心地はいかがでしょうか。 困ったこと等はありますか?」
「いやいや。 凄く快適ですよ。 国費留学生は家賃光熱費はかからないし家具とか消耗品とか全部最初から揃っていていつでも無料で補充してくれるし呼び寄せた家族と住むのもできますからね。♪ それに心配していたお化けも出ない。 後は僕は大柄なので多少狭い程度ですかね」

「いや~、 『お化け』 ですか。 それは意外なご感想ですねェ。 現場からは以上です」
                
                          議案4 『民事特例法301条』 完  

次回予告

「私は能力よりも忠誠を重視するから」 こら。そこの低能。 「潰れる会社の特徴」 と小声で言ったわね。 そんな会社にすら入れないくせにしばくわよ。
でも、認めたくないけど…そうしなきゃいけない、組織を動かす上でおぞましい舞台設定も充分起こり得るの。 無い頭ならない頭なりに理解しなさい。  以上よ。


次回 議案5 『能力か忠誠か』

あなたは、私にどちらを差し出せるというの?

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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2 コメント

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Unknown (kitakaze)
2019-10-20 17:38:18
>民事特例法301条

酷い法案ですねぇ。国民財産の国による私物化。
返信する
川崎市… そのまま。 (伊澤忍(本人))
2019-12-23 22:03:33
コメントに変身大変遅れ失礼。

>民事特例法301条

ですが、これより後可決成立した川崎市ヘイト条例とそっくりそのままで作者ながら噴きました。
サヨ子は、準備期間を置いて来年の3月4日、彼女の誕生日に再開の予定です。
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