伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

独裁少女サヨ子ちゃん 議案4 『民事特例法301条』

2019年05月29日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案4 『民事特例法301条』



「面倒だな」
「先祖伝来の土地とか何とか…面倒臭い」


市寮の設置を巡り土地収用が難航しており市長室にも担当者からその情報が上がってきていた。 
最新の改正法に明記されているのだと公寮には福祉寮、隣保寮、国際寮と他がありこの案件だと国際寮だ。 何故本件がこじれたのかと言うとそこの土地所有者の過去の深い私怨があった。

ヘイト。 外国人嫌い。 簡単に言えばこの一点だ。 ここの家主、地主のオッサンの祖父の代に日本の敗戦に乗じて 「俺達は戦勝国民だ」 と勢いづいた外国人に他の土地を残らず奪われ最後に残った土地が家族親戚の男衆が交代で番をし守り通したこの家と土地だというのだ。
お上に逆らうほど買値はますます下がるぞと脅しても梃子でも動こうとしない。


「千日手…ですね。 市長」
「あら。 『手詰まり』 より大分玄人っぽい言い方をするじゃない。 加戸尾」


実際、事態は正に千日手に陥っていた。 家主はこの種のトラブルには慣れっこで一種争い事のヴェテランと言って良かった。
都市整備部でも精鋭の強面なのを集めて多少手荒にやるにも過去ボイスレコーダー回されてカードにされるわ市が手を汚さない形で街の愚連隊、今回は色賊でも赤賊を使って特上寿司30人前やLLピザ20枚を勝手に注文してやろうにもサービス区域内の店には事前に全部手が回っていて、家主と店側の合言葉まで決めてあった。 何なの畜生!


「土着の日本人中心なのは赤賊だけだったのに…出前の悪戯注文するのに訛りの無い日本語OKなのはここだけだったのにカードをまた一つ浪費したわ」
「あの…市長。 自分も先祖代々土着の日本人なんですけどね」

「それ、嫌味? 私を新植民地主義の悪い白人とでも言いたいの? まぁ…貴男に次の悪戯電話や悪戯注文の作戦させる訳じゃないわ。 古巣と登記とか占有とかの絡みで交渉はできる?」
「それが明らかに公序良俗に反していても、違法ではありません」

「相変わらずね。 加戸尾。 手配するから明日にも法務省側の代表と話をまとめてもらうわ」
「…? 古巣にスプレー落書きや生卵投法の名手が居た記憶は自分にはありませんが」

「まあ、会えばわかるわ♪」


翌日朝、市長専用車の黒塗りの防弾キャデラックで加戸尾を法務省側代表との折衝に行かせた。
封筒を開け命令書を読めばきっと驚くかさもなくば怒るだろう。


「…折衝は杉並区高円寺駅南口の喫茶店 『サンスーシ』 で10時半から。 で法務省側代表は人権擁護局の古館、って古館先輩って何だ! てゆーか民事局じゃないって嫌な予感してきた」
「副市長、お顔の色が優れないようですが」

「まあ…ね」


昭和時代の高度成長期を思わせる重々しいえんじ色の大きな看板を掲げた古風な喫茶店で、私や加戸尾の大学時代からの先輩だった法務省の古館氏は待っていた。


「古館先輩、お久し振りです」
「おお加戸尾。♬ 元気にしてたか。 随分な仕事を回されたもんだな。 でもさ、三鷹市役所勤務っていうと何年振りだかお前も家族揃って暮らせるのは良い事じゃないか」

「言われるとそうですね…。 まあ今回の案件で先輩が省側の代表だったのは助かりましたよ」
「まあ、これも本来なら民事局の案件だけど都市計画法も土地収用法も国土法も駄目で手詰まりだと…この時代は俺等の仕事さ。 これを見な。 もう大臣印まで全部押してある」

「これは………! ふぅ…。 嫌な予感はしていましたがこれですか。 民事特例法301条って」
「だよ! 土民弾圧法さ! 敗戦の焼け跡の生き地獄にこの時代になって法的根拠が出来たのさ!」

「なるべく血を流さない形で地権者さんには明け渡しを求めますがね… 駄目かもしれません」
「だろうよ! 代執行実施者証の団体用と個人用の用紙も70枚持ってきた。 反吐が出るぜ!」


現役法務官僚からここまで史上最悪法と蛇蝎の如く忌み嫌われる 「民事特例法301条」 とは一体何か。 簡単に言えば 「平和」 「人権」 「多様性」 「国際友好」 といった公共性の高い目的があれば日本国民の動産、不動産を極めて簡単な手続きで収用できる最強法だ。 
特に当該財産の所有者等が人種差別主義、民族差別主義といった誤った思想を強固に保持し憎悪犯罪に繋がる虞があれば通告のみで本人の同意も相応の補償も無く代執行が可能となっている。

翌週、当該用地は釘バット、金属バット他様々な武器で武装し胸や袖口から和彫を覗かせた者や同様武装した日本語以外の言語話者、更にその周囲を機動隊装備の人員により包囲されていた。


「あと五分で人権代執行を行います。 どうか出てきて土地と建物の明け渡しをお願いします」


都市計画課職員のスピーカーによる家主への通告も、あくまで形式的な手続きでしかなかった。
計った時間の五分きっかりで、代執行は行われた。 以降は命じた私自身も言うのが嫌になる。
公権力の名の下の圧倒的な有形力の行使を前に家主の思い出、誇りは打ち砕かれ消去された。


「遺体はどうするよ」
「放っときゃいいじゃん。 汚いし」


大量の人員と重機を用い小一時間で用地は更地にされ代執行への抵抗の結果絶命した家主と妻の遺体はその場に打ち捨てられた。
市は遺体の火葬埋葬許可証発行を許さず遺体は十日以上カラスと野犬に喰われるままにされた。


「市長、何故ああされたのですか」
「解らないの? あの家主は家をこれ以上無く愛していたのよ。 そこで土に帰してあげたの」


三ヶ月後、その場所には異国の匂いを漂わせる新築の国際寮が完成し既に入居が始まっていた。


「先日落成した三鷹市の三鷹東国際寮を取材中の真生記者から中継です。 真生さん、どうぞ」
「はい。 三鷹の三鷹東国際寮から真生です。 では、住民の方にインタビューしてみます」

「学生さん。 この三鷹東寮の住み心地はいかがでしょうか。 困ったこと等はありますか?」
「いやいや。 凄く快適ですよ。 国費留学生は家賃光熱費はかからないし家具とか消耗品とか全部最初から揃っていていつでも無料で補充してくれるし呼び寄せた家族と住むのもできますからね。♪ それに心配していたお化けも出ない。 後は僕は大柄なので多少狭い程度ですかね」

「いや~、 『お化け』 ですか。 それは意外なご感想ですねェ。 現場からは以上です」
                
                          議案4 『民事特例法301条』 完  

次回予告

「私は能力よりも忠誠を重視するから」 こら。そこの低能。 「潰れる会社の特徴」 と小声で言ったわね。 そんな会社にすら入れないくせにしばくわよ。
でも、認めたくないけど…そうしなきゃいけない、組織を動かす上でおぞましい舞台設定も充分起こり得るの。 無い頭ならない頭なりに理解しなさい。  以上よ。


次回 議案5 『能力か忠誠か』

あなたは、私にどちらを差し出せるというの?

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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独裁少女サヨ子ちゃん 議案3 『その男、ベルナール』

2019年05月22日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案3  『その男、ベルナール』



 三鷹市のどこか 理辺家。


「…はい。 僕はブン屋には向きませんので。 ええ、お父さんもお元気で。 はい。じゃあ」 
「お父さん。 またベルナールから? しつこいったらありゃしないんだから…」

「人の電話を盗み聞きとは感心しないな!! 全くッ…お母さんやお兄ちゃんと違ってサヨ子の前じゃ英語で内緒話もできやしない。 もう仕事は終わったのか。色んな所への挨拶は済んだか」
「うん。 党のこっちの代議士と議会の古株と各部長と外郭団体の人達とかとは大体会ったわ」


多少説明が要るだろう。ベルナールとは血縁上私の父方の祖父だ。 アメリカ一のメディア王で日本人の祖母との間に生まれた父は同様に日本人の女、母と結婚した為私と兄はクォーターだ。
私がこの男をおじいちゃんとかじいじとかグランパとかと決して呼ばない背景を以下話そう。

ベルナール・アンリ・サンジェルマン。 1947年生まれ。 79歳。
アメリカとカナダで新聞・出版・放送・ウェブ・エンターテインメントといった各分野でアナログ・デジタルを問わず絶大な影響力を誇るサンジェルマン・グループの会長だ。
父のアルバムの中に中年期から初老辺りと思われる奴の写真があったのを見たがとにかく陰湿、狡猾そうで虫酸が涌くような凄く嫌な顔が普通の経営者じゃないのを如実に判らせてくれた。
いきなり結論を言ってしまうとこのベルナールという男は祖母と離婚した後に再婚した妻と何人かの子を設けたがそれらの子たちが皆暗愚で到底会社を継がせられる状態に無く父に帰国し会社を継げとここ数年位何度も連絡を取ってきていたのだ。 アメリカが離婚超大国なのは知っているがこれは幾ら何でも虫が良過ぎるだろう。 私が奴を祖父と見ないのはその為だ。
なので理辺というのは祖母の実家の名字だ。 祖母も父もきっと 「せいせいした」 と思う。

画像

だが何故かこの男はとにかく謎が多い。著名人でしかも20世紀から21世紀という正に 「記録の時代」 を生きた者としては余りに情報が少な過ぎるのだ。 カナダでフランス語圏のケベック州で1947年に生まれたとする経歴も決定打ではない。 生年だけでも20通りくらいの説があって最大47年もの開きがあるのだ。 血の上でもフランス系、白系ロシア人他諸説入り乱れている。
どれが真実かはもう永久に検証不可能だとすら言われている。


「ネット配信や交流サイトの創始者は皆必ずサンジェルマンに臣下の礼を取らねばならない」
「1990年『原油まみれの水鳥』写真でフセインを悪魔化し湾岸戦争開戦にゴーサインを出した」
「中学生で単身アメリカに移住しNYの地下鉄車内の新聞売りから身を立てた」
「1968年ニクソンに北爆停止を命じ無条件降伏5分前だった北ベトナムを瞬く間に蘇生させた」
「禁酒法時代アル・カポネに心の師と崇められその見返りに官に圧力をかけ法的庇護を与えた」


他都市伝説めいた逸話には事欠かないが「NYの地下鉄車内の新聞売りから…」については本人が

「儂をモデルにしたTVドラマの脚本家が話を盛り過ぎたので完全に創作上の物語に過ぎん」

と明確に否定しているしニクソンに北爆停止を命じ…も学生か新入社員くらいの歳の若造がそんな発言力、影響力を持っていたら化け物だ。禁酒法時代のカポネの心の師云々…などに至っては大体140歳かそれ以上の年齢でないと計算が合わず殆ど場末の安酒場で交わされる与太話の水準と言って良い。

だがそれだけ妖怪視されてもおかしくない米言論界最大のタブーでい続けている事は明らかだ。
現に自らに反抗する者とその家族親戚合わせて全米で延べ80万人以上を殺害し、それを報道各社及び司法省に隠蔽させた事実が後の時代の歴史学者達の調査で明らかにされている。
それ故各国で付いた仇名は

「言論の妖怪」 「黒い皇帝」 「ペンの死神」 「悪と偽善の唯一神」 「全人類最大の敵」

他全部挙げれば両手両足の指の数では利かない。 


「ねぇ、お父さん。 …ベルナールって一体どんな奴だったの? やっぱり凄い嫌な奴だった?」
「またその話か。 おばあちゃんとベルナールが離婚してもう三十年近く経つし家にも殆ど帰ってこなかったからお父さんもあんまり記憶に残っていないな。 ただお父さんが小学3年生の時だったかな。全米一のメディア王で誰も逆らえないとんでもない人だって知った後は1週間以上気分が悪くなってごはんも食べられなかった。それまでずっとよく似た顔と声の同姓同名の他人だとお父さんも友達もみんな思っていたのにまさか本人だったなんてな。あんまり気分が悪いから学校でも近所でも誰にも言わなかったけどそれで良かったよ。 ベルナールの威光を借りて立身出世なんてしていたらお父さんも奴と一緒に親子揃って筋金入りの社会の屑になっていたさ」

「それ聞いて、安心した。 お父さんはベルナールとは違うんだってわかる」
「そうか。 寝る前に歯磨けよ。♪」

「それ私じゃなくてお兄ちゃんに言ってよ! もう!!」

「呼んだかァ? 市長」
「このクソ兄貴ッ! しばかれたいの? 今度こそ本当に留年にされたいの!?」

「怒るなよォ。♪ 市長」
「畜生ォ、畜生……ッ! しばく! 絶対にしばいてやる!! 今から永遠に後悔させてやる!!」

「もう! 二人ともそれくらいにしておけ。 でもな…サヨ子は顔も性格も若い頃のベルナールに一番そっくりだ。 いつも思うけど血は争えないな」
「誉め言葉と、受け取っておくわ♪」


父はいつも初め必ず嫌々そうな態度を取りながら結局は実父たるベルナールの事を饒舌に話す。
心の中でまだどこか、仲直りできるんじゃないかという気持ちが残っているみたいだった。
もっとも二人が仲直りしても良い結果などもたらさないという事だけはちゃんと判っている。


                          議案3 『その男、ベルナール』 完



次回予告
 
「統治には必ず最後に有形力行使の機能が伴う」 中学高校水準の政治経済でも教える。 人々の自由権、財産権、そして何よりも、尊厳。
私は支配する為なら最も大切な「尊厳」も力でねじ伏せその上で踏みにじる。人権の為にする。


次回 議案4 『民事特例法301条』

銃剣とブルドーザーよりも恐ろしい物を、これからその目で見る事になる。

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。


(え・伊澤 忍)



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独裁少女サヨ子ちゃん 議案2 『これが政治だ!』

2019年05月15日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案2  『これが政治だ!』



「あ~あ…」

「清々しくなるくらい盛大に負けましたね。 吉田先生」
「ああ、お通夜だ。 大河原、お前が受かったのは不幸中の幸いだったけどな」

「今日が通夜で明日が告別式、って所ですか…」
「上手い事言うじゃん! だけどな、都連が押し付けてきたバカボン一人受からせるのにそいつが六千票も集めたせいでそのあおりで五人落選で三議席減で野党落ちだもんな。 自業自得って言う以外言い様が無いわな」

「ま…、石原の子飼いの新人だから絶対落とさせちゃいけないのは解ってても、こっちは白石先生まで落とされたし、しかもあの市長ではもうこれから状況は悪くなるばかりですよ」
「だよ… 現状やるだけの事はやるけどもう駄目かもな。 あの金髪の小娘に命綱を握られた」

 

TELLL… TELLL… 旧与党の議員控室の電話が鳴る。



「吉田先生。 …理辺サヨ子さんからお電話です。 吉田先生に直々にと」
「おお、出るわ! 噂をすれば…だな。 早速刑の言い渡しかな。 あ~あ、胃が痛くなるぜ」

「もしもし、理辺サヨ子です。 吉田先生、御当選本当におめでとうございます」
「はい… ありがとうございます。 こんな老いぼれの方が当選してしまって落選した若手達に申し訳無く思っていたんですけどね。 いや、理辺市長こそ初当選誠におめでとうございます」

「いえ市長はまだなっておりませんので。 吉田先生がお気に病む御必要は全くありませんわ。 今回御連絡差し上げたのは与党幹事長の吉田先生に直にでないといけない事でしたので」
「それを仰るなら『旧』与党と仰って下さらないと。 どうやら吉報ではなさそうですね」

「いかにも! 議会運営で… これまで慣例として議長は与党第一党、副議長は野党第一党から選出していましたが副議長を与党第二党からに変更します。 宜しくお願い致します」
「ええ…承知しました。 今回の結果だと新しい副議長は公徳党からですね。 わかりました。 はい。 会派に伝えておきます」

画像


「ふぅ………  諸君、状況は更に悪化したぞ!!」


一先ず、旧与党のドンは黙らせた。 今頃旧与党の議員控室はソ連の対日宣戦布告直後の関東軍状態に違いない。 令和9年4月26日月曜日。 昨日結果が出た市長選、市議選の直後に二度目の敗戦を味あわせて敵の出鼻は挫いた。

それからは週内に現市長からの引継ぎ(そもそも、同じ立進民主党だから当選を見越して事前に殆ど終わっているが)を済ませ、翌週には小3から中、高、大学で同窓だった加戸尾を法務省から2年の期限で出向させた上で副市長に任命し脇はがっちり固めた。

日付は前後するが市長選立候補以前から既に調整し決めていた事項で当選後に発表する計画で既に前年度に成立していた市予算の大幅な組み換え、一般会計予算約700億円のうち1割の70億円は 「過去の歴史を償う」 意味で大使館ルートを通じてアメリカへの思いやり予算として専決処分で支出。(これはさすがにアメリカ大使館も当惑し最終的に約半額の38億円で妥結した) 

次に元祖外国人歌手で日本ユニメコ協会親善大使のアイリス・ミンと市参与・市公式イメージキャラクター任命の4年の長期契約を締結し同様に専決処分で年6億円、4年分で計24億円を支出。 

体育館、市民センター他施設管理の市指定管理者の入れ替えで日本任侠道本庁さくら組(日侠組)を指名競争入札で落札手続完了。 暴走族、舊車會、全グレ、白賊、緑賊といった色賊やその他反社集団に根拠法となる条例制定を待たずに市からの助成金を支給。 新聞協会と警察省任侠局に事前に伝え報道管制を敷かせた。 

私と新与党のあまりの電光石火の早技に旧与党も他叛徒も何もできなかったのはこれ以降非常に有用に作用した。 後で容易に覆せない既成事実を大量に積み重ねる手法は実に効果的だった。
これら案件処理は市長当選後初の議会となる6月の第2回定例会までに全てが終わった。


「加戸尾。 来月の第2回定例会初日に取材の報道は何社? 報道席の確保はもう終わって?」
「はい。 全国紙と在京キー局計17社です。 傍聴席の最前列全部を専用に取っておきました」


私は選ばれた。 選ばれたからには選んだ者も選ばなかった者も嫌でも完全に服従してもらう。
私は調整するのでなくあくまで支配する。 その支配は極めて厳しく過酷なものとなるだろう。  

                           議案2 『これが政治だ!』 完   

次回予告

血の繋がりだけが家族じゃない。 至極正論じゃないの。 逆に幾ら完全に血が繋がっていてもこいつは家族や親戚と到底認めてはいけない奴がこの世には確実に、いる。
わかる? 克服するんじゃなくて殲滅、尽滅するのよ。 それが世界の為、だから。


次回 議案3 『その男 ベルナール』

おぞましきその血ですらも、我が糧とせん。

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。


(え・伊澤 忍)



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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独裁少女サヨ子ちゃん 議案1 『当選の赤い薔薇は鮮血の色』

2019年05月08日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案1  『当選の赤い薔薇は鮮血の色』



 ピピッ、 ピッ。
無機質だが強い、開票速報の当確の音が選挙事務所のTVから響き名前の左に赤い薔薇が咲く。


「ふぅ。 意外と遅かったわね」


令和9年4月25日(日)午後9時24分 東京都三鷹市。 当確を得た当の私が顔色一つ変えないのを周りがかえって慌てる。
当選は当然として、それを伝えるのが 「番組開始と同時」 でなかったのだけがどうも不足で満点は与えられない。


「はい。三鷹市長選今当確出ました。 無所属の新人で新護憲三派連合三党の推薦を受けた理辺サヨ子候補当確です。現場の真生さん、そちらの様子はいかがでしょう。万歳や拍手とかは?」
「真生です。 護憲三党の中でも移民党は外国人党員が多く今回選挙スタッフにも外国人が多いので日本独特な『万歳三唱』はありませんが…日本人スタッフが『ワッショイ』これは珍しい。  ソランさん、今三鷹市長選の開票率はどうなっているでしょうか。 得票率で言うと、数字的にはどうでしょうか?」

「はい。スタジオより繰り返します。今回注目選挙区の三鷹市長選挙、今開票率5%でうち8割強、2100票余りで理辺サヨ子候補当確です。ある程度予想されていましたが圧勝でしたね。」
「スタジオのソランさん、今カメラズームしていますが理辺候補が共に戦った運動員達を回り労をねぎらっています。 でもやはり16歳だけあって若いですよね。去年公職選挙法が大改正されてから今回は初の統一地方選になりましたが標準学年なら高校2年での当選は快挙ですね」

Etiqueta #モザイクカオリ al Twitter


「従来市町村長選挙の被選挙権は25歳以上でしたが去年の法改正で四年制大学卒業以上の資格があればそれ未満の年齢でも立候補できるようになりましたから…でも驚きました」
「理辺候補は去年15歳で東大法学部を卒業して僅か1年ででしたからね。 立進民主党も最高の新人を獲得したと私も思いますよ。 ではソランさん、スタジオにマイク戻します」


「はい。現場の真生さん、お疲れ様でした。 開票速報まだ長いので次の現場中継まで良く休憩取られて下さい じゃあ」


「記者さんは元気ね」
「いやぁお嬢、これが仕事ですから。 次は隣の杉並区で中継ですけどやっぱり立進党の区長が確実に受かるだろうから社の上層部も今頃酒と飯が旨いと思いますよ」

「それは良かったわ。 再来月の議会の第2回定例会もどうか来られて。帰りご飯をおごるわ」
「勿体無いお言葉です。 うちらTVが終わったら次は新聞社とネット配信でしたよね。 私もお嬢のその人徳にあやかりたいもんですよ。 んじゃ♪」


調子の良い男だ。 でもこの真生という男は利用価値がある。 第四権力だ。 価値も無いくせに調子だけいい奴ならとうにしばいている。


「大報の李斬です。 選挙中のマニフェストで市長就任後最初に実現させたい物は?」
「エイジャンパシフィック・イヴニングポストのイチェノヴォー・ジンです。 最大の懸案の都アイリス条例は市長としてはやはり厳守ですか?」 

「ええ…マニフェスト項目で最優先で実現はやはり、私にとって一丁目一番地の 『多様性と寛容さの尊重』 ですね。これが無いと私ではなくなってしまいますから。 金髪で青い目の市長を昭和世代や平成一桁のおじ様方はお認めにはなりたがらないとは私自身痛い程存じ上げておりましたが民意は正直でしたからね。 ふふ。♬  都アイリス条例、アイリス原則は国際公約の為当然厳守です。 市内でのヘイトも俗悪行事も 『ダメなものはダメッ!』 の姿勢で厳罰に処しますわ」


ピッ、ピッ…。
選挙事務所のTVから再び当確音が流れた。 9時37分だった。


「前回選挙から1年足らずで今回は議会と同日出直し選挙になった杉並区長選、開票率10%… 無所属の現職で立進民主党、移民党、公徳党の推薦を受けた田中麗候補、今当確出ました。」
「はい。 杉並区の現場から真生です。 スタジオのソランさん、田中区長の選挙事務所では今シャンペン空けてみんなで乾杯です」

「あ~、 真生さん美味しそうですね~~!」
「勝利の美酒ですね♬ いやぁ美味しい! ソランさんも来れば良かったのに!」


「…あの記者さん、さっきまでウチで取材しててもう隣の杉並区長の当選取材って早過ぎない? 科学忍法でも使えるの?」
「お嬢、ギョーカイじゃ 『飛ばしの真生』 って言えばあの人ですよ。連続取材の為なら信号無視でも飲酒運転でも轢き逃げでも何でもして次の現場に向かう鬼です」

「そう…飛ばし記事書かれて足を引っ張られたくはないわね」


でも毎度思うのは選挙の開票速報で局により違うが当確、当選の度画面に踊る薔薇は何故こうも皆血の様な赤なのか。報道は自分達が受からせた政治家なのだから逆らえばやはり自分達が葬ってやるという警告の目的で棺に入れる花の意味も込め最も鮮やかな赤を選ぶのか。悪趣味な。


「どうしたの?」
「はい。…市長。 ああ記者さん達からの質問が全社終えられてからでも結構なのですが」

「まだ市長じゃないわよ。 一体何かしら? 言って」
「お兄様が部活のお友達とお誕生祝いにとバーボンを呑み過ぎて救急搬送されました」

「あの馬鹿は18歳にもなって何やってるの!? 構わないわ。酔いが醒めれば自分で勝手に帰ってくるだろうし放っておきなさい!!」
「承知致しました」


同日午前8時39分、ニューヨーク  サンジェルマン家。


「おはようございます、旦那様」
「おはよう、ファブリさん。 いかんな、寝過ぎた」

「先程10分ほど前に確認しましたが、サヨ子様が市長選挙で当選されました」
「別にこちらで調べるのでも良かったのにな。 いつも貴女はお給金以上の仕事をしてくれる」

「お祝いの書状の用意は?」
「不要だろう。 あちらも読むまい」


                       議案1 『当選の赤い薔薇は鮮血の色』 完

次回予告

いけないよ。 どうも世界中で 「政治ごっこ」 が普通になって本物の 「政治」 がとうに忘れられた、絶えたカンジがしていけない。必要なのはごっこじゃなくて本物の政治だ。
当然みんなのしあわせ♡ なんて甘い理想なんて実現できないしそもそも私はそんなのは絶対にさせない。 政治とは恐怖と苦痛と絶望をカードにして行う知的なゲームに他ならない。
さあ、キックオフ。♪ 


次回 議案2  『これが政治だ!』

来週もサヨ子と、再び悪夢を見てもらう。

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。


(え・伊澤 忍)



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679
 

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独裁少女サヨ子ちゃん 序  『反抗者はしばけ!』

2019年05月01日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


序  『反抗者はしばけ!』

 

 今から私に挑戦しようと試みている小太りの脂ぎった中年の入り口くらいの男は、何とも自信に満ちた表情で私を睨みつけ机上の資料の最終確認に余念が無い。 とにかく幸せそうだ。  奴の出番が回ってきた。 さあ、お手並み拝見といこうか。 ♪

モザイクカオリ hashtag on Twitter


「休憩前に引き続き会議を再開致します。 次の通告者。 7番 櫻井治君 登壇願います」
「宜しくお願いします。 議会閉会中に行われた市長による専決処分についてお伺いします。 所謂都アイリス条例、東京都言論表現良化条例を根拠とした市内国公立及び民間施設での同人誌即売会等開催の禁止についてこの憲法上の可否についての市長の所見をお伺いすると共にこれが憲法違反ならば取り消されるのか市長の所見をお伺いします。 ご答弁宜しくお願い致します」

「市長 理辺サヨ子さん」
「はい。 それでは只今頂きました、都言論表現良化条例が根拠の市内国公立及び民間施設での同人誌即売会禁止の専決処分に関するご質問にお答えします。 良化条例は憲法に違反しない為処分を取り消すことはありません。 以上になります」

「7番 櫻井治君」
「今の市長のお話では答に全くなっていません。 何故これが憲法に違反しないのかという点がすっぽりと抜け落ちています」

「市長 理辺サヨ子さん」
「低俗で青少年に有害な同人誌が憲法21条における表現の自由の保護を受ける対象などではない事は誰の目にも明らかであり、合わせて一定のキャパシティを持つ施設は人権活動、途上国支援といったあるべき用途に用いられるべきであり結局それが無くても何人も困りはしない、所詮は趣味に過ぎない同人誌即売会などに用いるべきでないと市は認識しております」

「7番 櫻井治君」
「市長は今… 『趣味』 と仰いましたか? 所詮は趣味、たかが趣味というのは明らかな差別ではありませんか!? 私も現役の同人作家ですが私は趣味やお道楽で同人誌を出しているのではありません! 私は日本の為に戦っているんです! 日本が経済力も技術力も著しく低下した今同人誌産業は残された数少ない貴重な得意分野です。 それを市長は 『たかが趣味』 などと仰るのですか!?」

「市長 理辺サヨ子さん」
「悪趣味です。 汚らわしい! 質問として扱う価値も無いので打ち切ります。 議長、今すぐそのオタウヨのデブに退場を命じなさい」

「櫻井君の退場を命じます」
「??? 何だと? 何が退場だ!? 俺の質問時間はまだ残ってるんだ! 理辺市長、何故俺の質問に答えない!? 同人誌排除が合憲だっていうのか!? 答えられないのか? もう負けを認めたって事か?」

「無駄に吠えていないで、早く議場から出ていきなさい。 どうせ恥の上塗りになるだけだからあくまで善意で言って差し上げているのよ。 耳が悪いんだったら良い耳鼻科を紹介するわよ」
「何が耳鼻科だ! 人の話を聞いてないか聞こえてないのはお前だろ! 戦勝国民気取りかッ!?」

「質問に答えろ! 理辺パヨ子!!」


それから瞬時だ。 一秒以下だったか。 私は演壇の足元からキャベツを取り出し、櫻井の脳天めがけて投げ付けていた。 中がぎっしり詰まった大玉のキャベツは思いの他質量があり硬い。
次の瞬間奴の頭部に命中したキャベツか頭蓋骨かどちらかが 「グシャッ」 という音を発し、奴は声も出さずにそのまま議場の床に崩れ落ちた。


「それがキャベツだと、言ってるんだ…。 私は人種キャベツも民族キャベツも絶対許さない。 する奴はしばく」


ばた、ばた、ばた…  どや、どや、どや…


「はい。真生です。 デスク? 今日撮影の画は使えません。 ええ…さっきのです。 はい」
「ああ。 生中継観てたけど市議会公式サイトのアーカイブ無しなのが不幸中の幸いだったな」

「こいつぁ… ウチだけじゃなくて在京キー局全部完全に箝口令ですよ。 まず過ぎます」
「だよ! もう今日は収穫無しで構わんからさ。 ストックの画とナレーションで繋ごうぜ」

 
奴が、櫻井が再び立ち上がる事は無かった。

令和9年6月。 東京都三鷹市。 初夏の日差しはどこまでも透き通り何も気にならなくなる様な青空の日だった。

                             序 『反抗者はしばけ!』 完
 
次回予告

「受かる」「落ちる」 点数でも票数でもほんのタッチの差で受かれば喜びひとしおでも逆ならその場で自ら命を絶ちたくなる。 それが人間。
だから私は敵を、どんなに価値の無い屑でも人生に絶望させないように圧倒的な差で落とすの。 どう? 私って優しいでしょう?


次回 議案1  『当選の赤い薔薇は鮮血の色』

これが血の色でなければ、何の色だというの?

From now on I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。


(え・モザイクカオリ)



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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