伊澤屋

軍事・歴史系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

ジオン第八連隊記  報告書5 『セコく汚く浅ましく』

2011年11月20日 19時30分00秒 | Weblog
機動戦士ガンダム0079 ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮


報告書5  『セコく汚く浅ましく』



「10クールって何ですか?募金なんだから最低一口5ハイト以上は下さい」
「…ヤープトハイトでなく連邦ハイトで払って下さい」


そんな、恐ろしく強引で迷惑な 「募金」 の事例を憲兵隊の防犯教育で聞いた。

嫌な時代だ。

余りにも多くの苦情が殺到したせいかその迷惑集団は程無くして一網打尽にされたがその後更におぞましい事実の数々が白日の下に晒された。

その自称「ボランティア団体」は実際には反ヤープト・反スペースノイドの狂信的なアースノイド至上主義集団で、まんまと金を騙し取られた被害者達共通の証言によれば各地の街頭で…こう言って問題は無いのだろうか。健常者と軽度の障害者の境界線上くらいの微妙~~~~な若者達を洗脳、脅して労奴同然に募金詐欺に酷使して暴利を貪っていた事が判った。
その上騙し取った金の殆どは当然被災地の救援などには使われず皆党派上層部の小悪党の懐に納まり、残りの金も暫定州や都府県ではなく何とよりによって連邦政府に送金されていた。 旧世紀にもしょっちゅう似たような詐欺があったという。


「詐欺だ」


そう憤っても仕方が無い。 今日の任務は航空軍の建制に加わっての避難所での給食業務、炊き出しだ。

実は震災発生後暫くしてから航空軍は救援活動や遺体捜索など最前線での任務からは外れ主に後方支援任務に当たる事となっていた。
地上兵に比べ血生臭い任務に慣れていない航空兵では食欲減退他健康被害で「救援するこちらの側が被災者になりかねない」と上層部から判断されたからだ。
後方支援任務は大体給食、入浴、医療等々。季節的にかインテリな若手下士官兵たちによる 「軍隊塾」 は父母たちから好評だったという。

今回の指揮官アリマ大尉はガウ輸送機の機長。定期便の無い日はこうやって糧食班長だ。ロゴと部隊マーク入りの白いエプロンが恐ろしく似合う。


「俺等、あんまり信用されてないのかな。これだけ呼びかけていい匂いさせても全然人来ないぞ。おい、シモムラ。何かいい案は無いのか」
「…被災された民間人の皆様ァ、連邦の自販機のハンバーガーがございます。先着で20名様になります!どうかお早目にィ!」

「いいのかよ。そんなに持ってこなかったぞ?」
「在庫は10ヶですけどね。お子様優先で半分に切って配ります。きっと喜んでもらえますよ」


見る見るうちに人が集まって用意した卓、椅子が足りなくなる位の盛況となった。嬉しいね。
俺はそもそも僧侶だから接客とか人心掌握なんては十八番なんだ。気持ちの良い仕事だ。

本当に気持ちの良い仕事の  …最中、想定内だったが何とも香ばしい伏兵が姿を現した。
これは後世の為に記録しておかねばならないな、と感じさせてくれる程香ばしい♪

その鼻息は荒く目の瞳孔は完全に開いてしまっており視線の焦点は終始合っていないが声だけは異常に張りのある過激派の女闘士を思わせる神がかった老女が炊き出しの現場に降臨した。



「憲法違反のジオン軍からは食糧や衣類を絶対に受け取らないで下さい!!」



舞台女優然とした通る声にその場の軍民皆が嫌でも注目させられた。演説でアジるだけでなく如何にジオニズムや各サイドの主権獲得が有害か、ヤープト人も同じアースノイド、同胞に他ならず全人類の地球連邦による統治と世界市民主義が如何に素晴らしいかを主張するちらしも配布し始めてもう「主演女優賞」ものだ。
悲しいね。ババアの気迫を前に文学青年、文学少女揃いの航空兵達は目が点で為す術が無い。


「この飯に毒なんざ入ってねえぞ!作ってくれた兵隊さん達に失礼じゃねえか!」
「オマエどこの精神病院から逃げてきた!?ふん捕まえて緑の救急車に放り込んだれ!」
「引っ込め連邦ババア!!顔洗って出直しやがれ!」


場は騒然とし、楽しいお食事タイムに緊張が走った。そんな中アリマ大尉は柔和な笑顔を浮かべ到底会話が通じそうもない老女に歩み寄りこう話した。

「おっしゃる通り地元の者でもない私達が出過ぎた行動を取りました。すぐに中止し引き上げます」

連邦・アースノイド至上主義者の老女は肩透かしを喰らったのかきょとん……とした表情を浮かべるだけだった。


「よしおめーら、用具を納めろ。引き上げるぞ」
「…了」


「班長、本当に良かったのですか?民間人達も不満プンプンでしたしああいったババアとかを野放しにするのは地上軍としても…」
「アホか。あれは敵じゃない。連邦の評判を墜とす為に味方にすら正体を明かさずに暗躍するのが任務のペーネミュンデ機関員のお姉さんだ」

「!  なるほど…ね」


結論から言うとこの時のアリマ大尉の情報は間違いだった。 ババアは「ガチで」反ヤープト、反ジオンに凝り固まったアースノイド至上主義の活動家で「迫真の名演技」ではなく本当に狂っていたというのが真相だった。

人ってこうもセコく卑しく汚く浅ましくジコチューになれるもんなのかなあ。災害だの非常事態だのっていうのは人の持つ高潔さと卑しさが同時に交錯して火花を散らす。それを嫌でも学習させられる。
何か明るい材料は無いのかよ!?

帰り道、全損した冷凍倉庫に目をやるとその脇で配線図やら納品書やらとにらめっこしている白髪で碧眼のジジイの姿がある。


「あれっ、キョージュじゃねえか。交換船で引揚げたんじゃなかったのか」
「おぉ、シモムラ和尚。御坊も元気そうで何よりさね。学生ども置いて逃げられんわな」


キョージュ。 別に本名とか知らないが地元の水産高専の教授だ。ヤープト系ではなくアングロ系でどちらかというと連邦の人間と言った方が良さそうなのだが、震災発生後にサイド6の用意した交換船で連邦側に引揚げる筈が直前になって乗船せず勝手に戻ってきたのだと。


「今年はもう遠洋航海は無理かな…何とかして3年生と5年生を連れてってやりたかったんだが」
「連邦海軍から捕獲した上陸用舟艇使って、近くで日帰りとかならできるんじゃね?」


瓦礫と残骸を前にしても、キョージュは少年のように目を輝かせながら話す。


「キョージュって、もう本ッ当にどうしようもねーくれぇヤープだよな。 ったくよ!」
「褒め言葉と受け取っておくよ」



                                      報告書5  『セコく卑しく逞しく』 完 



次回予告

棺。死者の魂と生前の思い出を早いところ押し込んで二度と出てこないように厳重に閉じる入れ物。考えたら一生に一度しか使わないんだよなあ。繰り返し何度も使うのは映画の中のドラキュラくらいか。 …ん?俺はもしかして一度も使わずに終わるかも知れない、なんてな。 嫌になる。

         
次回 報告書6 『棺』

空の棺でなく中身が有るというのは見方によっては幸せだ。仏さんにとっても家族にとってもな。



注)ハイト、クール
  宇宙世紀の通貨単位。初出はOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』。ハイトの下に補助単位としてクールがあり1ハイト=100クールである。1ハイトが現在の日本の物価に換算して100円程度と想定される。



                                        (C)伊澤屋/伊澤 忍  2671    
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ジオン第八連隊記  報告書4 『家畜人ヤープ』

2011年11月06日 19時30分00秒 | Weblog
機動戦士ガンダム0079 ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮


報告書4 『家畜人ヤープ』



「シモムラ、親父になったんだってな。おめでとう」
「まさかぁ!親っていっても名付け親ですよ。軍医長こそ昨日は本ッ当お疲れ様でした」
「…よく言うぜ。こうなったのも全部お前のせいだぞ」

結論から言うと俺は昨日の遺体回収の任務の最中遺体でなく「まだ生きている」妊婦と出会って
しまい、母さんその場で産気づいた。軍医長と次席軍医を呼んでしっちゃかめっちゃかの大騒ぎ
になった。 母さんよくやった。死産でなく男の子一人出産。

ただ俺はその後、夜になって物干場で軍医長にボッカスカに殴られた。と言っても
「余計な仕事を増やしやがって」
という意味ではなく遺体だと早合点してぞんざいに扱った為骨折していた両足の治りが遅くなっ
たという事でだった。


ハジメ・ニワビト少佐。軍医長。 漢揃いの八連隊にあっても更に漢の中の漢。
一週間戦争、ルウム戦役、ビルマ撤退戦に続いてこれでまた一つ武勇伝が加わった。
まあ「武勇伝」なんてそれこそ軽口叩いたらまた盛大に気合入れられるだろうけどな。

うちらと、血の上では大体同じな訳だよなぁ…  母子共に健康。とは行かないがヤープト人2人の
命を救った。気持ちの良い仕事をした。と考えるべきなんだろうか。

だが俺は、ここだけの話だが当初ヤープト人たちに必ずしも良い印象を持ってはいなかった。
一言で言ってしまえば気合入ってねえ、ヘボい奴等としか感じられなかった。
同じ東洋系だったら、むしろ捕虜に取った大陸系の連邦軍人達の方が俺としては共感できる部分
が大きかった。敵の手に落ち捕らえられた身でもなお眼光の鋭さを失わず、今にもこちらの喉笛
を喰いちぎるんじゃないかというくらいの「殺気」があった。

比べてヤープト人どもは何だ。かつて200年くらい前まで存在した、歴史的に「ニッテ・イ時代」
とか「第二帝政」とか呼ばれていた時代の独立ヤープトはその武力で他を畏怖させた。
その後不幸にも列強全てからコテンパンの袋叩きにされ敗戦。武力と政治力は失ったが代わりに
経済力と技術力、文化力でブイブイ云わせて数十年の間爛熟した繁栄を謳歌した。

…が、丁度学校で言う 「おいテメー、最近チョーシ乗ってるだろ」と周辺の新興国から様々な難癖
を付けられ再度容赦無くボコボコにされた。
二度と立ち上がれないほどの凄惨な暴力の末、国は文字通り息絶えた。その姿を前に人々は

「リンチより非道ぇや…」

と恐怖した。まァ国なり民族なりってのは最終的にそうやってツブされるんだろうな。
ヤープト人特に最も劣位に格付けされた土着ヤープト人は連邦側から「ヤープト人」「ネイティブヤ
ープト人」よりもっぱら蔑称で


「ヤープ」、


更に気の利いた形容詞を冠して


「家畜人ヤープ」


と呼ばれ嘲笑される以外の何物でもなかったしそれだけの存在だった。
職場や学校でうっかり 「純粋ヤープト人」 なんて言葉を口に出したらそれは即歪んだ優越感、
連邦の世界市民主義に反抗する偏狭なナショナリズムと周囲から激しい糾弾を受ける結果に繋がった。
ただ、ヘボで弱虫でいじめられっ子のヤープであっても幾つかの分野で他に無い優れていると
考えられる部分が存在した。


例を挙げよう。かつてヤープトは合衆国の一部だっただけありビジネスは時間厳守だ。
特に民間は俺の係わった範囲でも遅刻などは絶無でもし少しでも遅れそうなものなら必ず事前に
連絡をよこしてきた。
唯一例外はコーヤコーヤ山の坊主くらいだった。アイツラは時間にルーズなのが「御利益」だとよ。
連隊で僧侶は俺一人でしかも同じ学派?らしいのだが調整に散々苦労させられ嫌になる。

また教育、研究開発、技術とかは覇権復活と連邦への反抗の芽になるのを防ぐ為長年徹底的に
弾圧を受け根絶やしにされた筈なのに、何だかんだ言って職人魂が遺伝子レベルで生きている。
どこから持ってきたのか旧世紀のスイスの軍用ヘルメットを巧く曲げたり切削したり加工を施し
ジオン軍のヘルメットの完全品を造ってしまったくらいだ。その品質に本国の調達は驚愕し
「M79鉄帽」
と命名、制式化している。

 
我々の地元ナ・ンバコロニーもそうだがこの地も笑いと趣味道に重きを置く文化と感じさせる。
伊達と道楽の美学が行き着くところまで行き着いた姿がここにはあった。

百数十年前に程近くのカ・ンベで同様な大地震が起きた際にも自治会から当時の模擬軍に


「食糧よりもシャンプーとリンスが欲しい」


と要望が殺到したという偉い土地柄、伊達っぷりなのだが今回我々が見聞きするのも相変わらず

「非常食にナ・ンバ名物の『沢庵の缶詰』はないか。希望が多い」
「ジオンの非常食の外箱の注意書きの文章、書体が芸術的だ。空き箱を譲ってもらえないか」


とたまげさせられる声が多く採取できた。この「沢庵の缶詰」は連邦の経済制裁時代にメーカーが
倒産し「幻の美食」と語り継がれていたらしいが現職の俺もその存在を知らなかった。
非常食の外箱の注意書きに芸術だの美学だのを感じさせるというもの初めて聞いた。
何故そういった他民族に無い発想が出来るのか。ある意味凄過ぎる。


「災害ナショナリズム」とでも命名すれば良いのか。大災害、非常事態という舞台装置は死と
生、別れと出会い、悲しみと希望が交錯し良くも悪くも愛国心と国家意識を燃え上がらせる。
ヤープトでも地震発生から暫くして街角のいたる所で

「2800」

もしくは漢数字で

「二八〇〇」 

 同じ意味だな。この数字が書かれた横断幕、垂れ幕をよく目にするようになった。
この地での宗教上の数秘学?でいう縁起の良い数字か、若しくはヤープト人の誇りに訴えかける
必勝のナニかとかなのだろうか。

あまりオツムの良くない俺にはよくわからないけどな。

現実苦しみや不満、劣等感とかを背景にした愛国心ってのはメッチャ怖いもんだ。
都内さらにはヤープトでも有数の移民の街と呼ばれていたイ・クノ区では「優等民族」の区長や区議
といった政治家達が根こそぎ公職追放と財産没収で丸裸にされた上投獄され、残ったのはただ一人の
ヤープト人で旧領土のホッカ・イドウから引揚げた祖父母と父を持つラヴマシーン・イオシダ区議だけ
だった。
彼女は独立戦争の開戦と連邦勢力の排除に前後していち早く不満層のヤープト人達を束ねて
叛乱を指揮し元夫で地球連邦軍憲兵少佐のルメイ・ムーンを捕縛し半殺しの制裁を加えた上で
ジオン軍憲兵隊に引き渡した。その時の様子にヤープト人だけでなくジオン兵もが拍手喝采の
気持ちなど忘れその凄惨さに恐怖し蒼褪めたという。
ヤープト民族主義者の硬骨漢で通る我が軍のジュウシロウ・ナンブ憲兵大尉でさえ開口一番に

「イオシダ議員。この男をどれだけ怨んでいたのか知らんがこれは幾ら何でもやり過ぎだ!ヤープト人で貴女ほど残忍で酷薄で容赦無い人がいたというのか!」

と苦言を呈し顔を歪めたほどだからその度合いが自ずから分かる。


スペースノイドとアースノイド同様「狩る者と狩られる者の逆転」はかくも残虐だ。



「で、何て名前にしたんだ」
「え?」

「えじゃない。お前が名付け親になった息子の名前だよ」
「はい、 …タカシ。と」

「タカシって、題材的にいうと偉い政治家とか学者なんかの名前から取ったのか?」
「いいえ。あの両足複雑骨折で死にかけてたお母さんの名前がタカコっていうもんだから、
それで決めました」


「…お前、今夜もう一回物干場に来い。もっと愛情が必要だ」



                                        報告書4 『家畜人ヤープ』 完



次回予告

災害。人の持つ最も高潔な貴い部分と最低で恥ずべき汚点が同時に交錯し人は時として怒り、
傷付き、悶え苦しむ。その幕間に僅かであっても笑顔はあるというのか。あるという保証は無い。
それでも、アテにならなくても?未来を夢見て人はなおも生きる。 笑うかい?


次回 報告書5 『セコく汚く浅ましく』

 「清く正しく美しく」 と。そうおっしゃるのなら身を以って示されて御覧になっては如何か。


                                        (C)伊澤屋/伊澤 忍  2671
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