邪馬台国・奇跡の解法

古代中国の知見と価値観で読む『倭人伝』解読の新境地

8・卑弥呼の死とその後

2011-07-28 | ●『倭人伝』通読
●卑弥呼の死とその後
 「卑弥呼がすでに死亡したので、大いに冢(封り土の墓)を作った。径しが100歩。殉じて葬られたが100余人。卑弥呼の後任に男王を立てたが、その男王に国中が従わず、さらに誅殺し合った。このとき、まさに1000人余りを殺した。
 また同じように、卑弥呼の一族の女性で、13歳になる臺與を立てて王とした。これでやっと、国中の騒乱が治まった。張政らは、文書をもって壹與に告げ諭した。
 壹與は、倭の大夫・率善中郎将の掖邪狗を団長に20人の送迎団を結成し、帰国する張政たちを送って魏本国まで同行させた。掖邪狗たちはその足で洛陽の臺(宮城)に赴き、男女生口30人、白珠5千孔、青の大句珠2枚、異文雑の錦20匹を貢す」。
 

●卑弥呼以死
 先の任晏東氏によれば、「卑弥呼以死」の「以」は、中国の古語用法で「すでに」と読むとのことである。さらに、「已に」と同じで「残念ながら」という意味合いの用法だという。これを受けて、正始8年のいきさつを整理しておこう。
 張政らが倭国に到着したときは、卑弥呼はすでに死亡していた。そこで張政は卑弥呼あての詔書を、倭国ナンバー2の難升米に渡した。つまり、「張政らが倭国に到着したときは残念ながら卑弥呼は死んでいた」という解釈になる。


●卑弥呼の墓
 「大作冢」は、「大きな墓を作った」というのではなく、「大いに・大々的に作った」という意味である。魏の介入によって狗奴国との紛争が決着したあと、国をあげて墓づくりをしたというのだろう。
 墓の寸法の径は「さしわたし」である。これは一般には円の直径をいう。中国では円墳の寸法は径または周で現し、方墳の寸法をいうときは「長」や「東西南北の長さ」で現す。卑弥呼の墓が不定形をした前方後円墳だったとすれば、長または東西南北の寸法で記録したものと考えなければならない。
 『三国志』の韓伝と『倭人伝』に使われている陸路里程数値は、『三国志』帝紀に使われている魏の公式距離尺度の6倍の数値で書かれていた。のちほど述べることだが、尺度というものは分・寸・尺・丈・歩・里と、一つの単位の積み重ねによって成立している。『倭人伝』に使われている陸路里程数値が魏の公式尺度の約6倍で書かれているのだから、卑弥呼の墓の径100余歩も同じく約6倍の尺度で書かれている理屈になる。
 この径100余歩を魏の公式尺度に換算すれば20歩弱になり、現代の尺度でいえば直径25メートル前後の円墳ということになる。縄文晩期から継続して小さな土まんじゅう形の墳丘墓を築いていた時代のことだから、直径25メートル前後の円墳はそれでも大きいほうだったろうと私は思う。


●臺與への檄と告諭
 臺與への檄は、難升米たちのときの「檄をなして(作成して)」とは違って、「檄をもって」になっている。これには、当時の事情がからんでいるようである。王都にいるのは、親衛隊と王都警備の精鋭部隊で、王の近親血族をはじめとした信頼のおける人材で構成される。一方の軍人や軍隊は明確に性格分けされ、許可なくして王都へ入ることは許されない。したがって、臺與への檄による告諭は、軍事基地からの文書による告諭だった可能性も考えられる。 
 その張政たちも、倭国へやってきてから帰国するまでの時間的経過が分からない。特筆すべきなのは、彼らが帰国するときの送迎団が20人(帯同した生口が30人)と異例にも多いことである。そこから判断すると、総勢で何人だったろうか。『倭人伝』は細かく記録していないが、援軍につぐ援軍で張政らの人数も相当な数にのぼっていた節がある。


●狗奴国との抗争期間

 記録として現れている限りをみても、狗奴国と女王国勢との確執は、景初2年から正始8年までの10年間にわたる。卑弥呼が女王になる前の内紛も「倭国乱れ...年を歴る」とあるように、かなり長く続いたようである。弓を主力兵器とした局地戦をくり返していたのだろうから、狗奴国との紛争も魏に支援を求める以前から長く続ていたものと思われる。これが、魏が軍事介入するほどに本格的な戦争へと拡大する。
 そうした狗奴国との戦争が継続している最中に、狗奴国そっちのけで王位継承の内輪もめや、人手と時間を要する墓づくりを展開するとは考えられない。そうしたことから、後継争いの内紛と臺與の共立と墓づくりは、狗奴国との決着がついた後のことだろう。
 魏は超大国であり対外的には大人の国である。『倭人伝』もさすがは大人の国の歴史書らしく、「何かをやってあげました」というニュアンスは控えているが、魏の介入によって狗奴国は滅びたか女王国側の軍門にくだったものと思われる。
 『倭人伝』は、読む者に確かにそう判断させる「静かな結び方」をしている。

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