05/30の記事についてeg10goさんから御指摘をいただき検討したところ、「揚水発電所の多くは原子力発電とセットの蓄電設備として使われていて、これがないと需要の少ない時間帯に電力が余剰になるという問題がある」という記載にはかなり問題があると結論しました。
この記載は主に以下の2つの記事の主張をほぼそのまま述べたものです。
1. 原子力教育を考える会の記事電力を捨てる「発電所」(2008-10-28 更新)より
そもそも揚水式発電所は、必ず原子力発電所と対になって建設されているもので、揚水式発電所の建設費用は、原発建設の必要経費の一部といってもいい性格のものです。
2. 河野太郎のブログ記事、原発を増やさないために(2011/04/18)より
原発の設備容量70と最小 消費量50の差を埋めるために揚水発電所をつくり、夜間、原発の電気が余り始めたら、その電気を使って水をくみ上げる。
(中略)だから原発と揚水発電所はセットなのだ。
2での数値はあくまで説明のための仮定ですから御注意を!
なお、これらの主張を真っ向から否定するブログ記事がありました。
3. もけの日本観察録の揚水発電が余ってる原子力発電を使うためという河野太郎と飯田哲也のデタラメ(2011/04/17)より
現実は、深夜ですら電力は余っておらず、火力発電を動かして夜中に揚水して、昼や夜のピーク時に揚水発電を行って対応しているというのが事実である。
原子力発電による電力は現実として、夜中の一番少ない時ですら余剰はなく、揚水発電はわざわざコストの高い火力発電を使ってでも、ピーク時に供給が足らないという状況を作らないために、やむなくやっているというのが事実である。
さて「セットである」と言えば、いくつかの原子力発電所と揚水発電所が一群としてまとまってセットになっていると解釈できます。1-2の主張点から言えば、全ての原子力発電所には揚水発電所が併設されている、つまり全ての原子力発電所はどれかのセットに含まれています*1)。そして1のように「対」とまで言えば、普通の解釈では原子力発電所と揚水発電所が1対1に対応して2つで1セットを成しているというかなり強い主張になります。
日本の原子力発電所と揚水発電所のリストは以下の資料にあります。この中から具体的なセットが見いだせるでしょうか?
原子力発電所について
原子力白書2009年(PDF)のp12
JAIF(日本原子力産業協会)の「日本で運転中の原子力発電所」
原子力百科事典の日本の原子力発電所の現状(2005年)の表2-1~2-4
揚水発電所について
ウィキペディアの揚水発電の項
まあ主張する人が具体的に「これとこれとがセットだ」と挙げてくれれば検証可能なのですが、上記引用記事には具体的セットは述べられていません。そこで、どんな場合がセットと言えるのかと考えてみると、立地場所が近い、運用開始年代が近い、建設開始年代が近い、発電力が妥当な比率になっている、といった点がポイントになりそうです。うーん、私には見いだせません。
そもそも日本における電力*2)はひとつの電力会社の管轄範囲でひとつの電力系統を成し、それらが互いにつながって電力のやり取りもできるようにしています。少なくともひとつの電力会社の配電網(電力系統)の中では、どこで発電した電力であれ配電網に入ってしまえば、それがどこで消費されるかという区別はできないでしょう*3)。全体として発電量と消費量は常に一致しているというだけのことです。配電網でつながっていれば、原理的には原子力発電所などの電源と揚水発電所などの蓄電設備が近い立地である必要はありません。またひとつの配電網の中の電力の電源は区別できないということから、揚水発電所の夜間の充電がどこの発電所の電力を使っているのかということも区別はできないでしょう。となると、「夜間、原発の電気が余り始めたら、その電気を使って水をくみ上げる」という主張も、「火力発電を動かして夜中に揚水して」という主張も一面的に解釈しているだけだということになるのではないでしょうか?
これがもし、現在の火力を(地球温暖化防止のため等の理由で)すべて原子力に置き換えたとしたら、確かに夜間には原子力で揚水していることになります。そしてその場合は昼夜の電力需要差を埋めるために揚水発電所などの巨大蓄電設備がもっと必要になることは確かです。しかし、それを「余剰電力」と呼ぶのは不公平でしょう。あくまでも昼間の電力不足を補うための発電量を確保しているだけなのですから。ちょうど以下の図のb)の状態です。
図のc)のように昼間のピーク需要に相当する発電力を持てば、夜間には本当に電力が余ることになります。こうなると本当になんらかの方法で捨てなくてはなりません*4)。一方a)の状態では昼間に電力不足になります。そこでb)の状態で運用するのは必然なのですが、これは「夜間の過剰電力で揚水して昼間に使う」とも言えるし、「昼間の不足を補うために夜間に余分に発電して揚水している」とも言える??(^_^)。
なんだか言葉遊びになってしまったようで御容赦をm(__)m
100%原子力にした場合は昼夜の需要差の半分(効率100%!として)の蓄電能力が必要という意味では「原子力発電には揚水発電(または別の蓄電設備)が付随しなくてはならない」という主張なら正しいとは言えるでしょう。では火力や水力ならどうかと言えば、火力は電力調節速度が遅いしダム式水力は発電能力が雨任せですから揚水発電の必要性がゼロではないでしょうが、100%原子力の場合よりは少なくてすむでしょう。
自然エネルギーについては発電量調節ができにくいことは同様ですから、やはり蓄電設備は必要になります。太陽発電は必ず昼夜の差はありますし、風力や潮力も自然任せの変化があります。地熱は逆にベース供給力になるようです。
実際、以下の資料のp12-22で述べられているように、太陽光発電普及のためには揚水発電等で蓄電したり水力や火力で発電量を調整したりする必要があるのです。
http://www.itrco.jp/libraries/JSG4-5.pdf
低炭素電力供給システムにおける火力・水力発電等の役割と課題について
資源エネルギー庁(2009/01/26)
また経済産業省審議会での以下の資料にも述べられているように太陽発電と蓄電池をまさしくセットの商品として開発しようとしているのです。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80423b04j.pdf
新エネルギー分野における蓄電技術
パワーソーラーシステム 2008/03/14 GSユアサ
結論としては、いずれにせよ高効率で高容量の蓄電設備や蓄電装置は必要であり、それは電力インフラのコストに含まれる、ということになるかと思います。ゆえに従来の電力インフラ整備の歴史においても「火力・原子力の建設に呼応して揚水式が建設されるようになった」*5)というのが適切な表現なのでしょう(^_^)
なお、ドイツとフランスの電力輸出入についても実際の数値を見ずに書いていたところがありますので、また後ほど補足したいと思います。
------------
*1) セットに含まれない揚水発電所ならあってもいい。
*2) 日本でなくても原理は同じだろうが、複数の発電会社でほぼ1つの電力系統という場合も多いのではないだろうか。
*3) 測定できるのは各電源の発電量と各需要機器の消費量である。原理的にはある送電線の電流も測定できるが方向はわからない。このような商品を扱う電力市場で売買実績を計る技術にはちょっと興味がある。
*4) 物理的には需要者のもの以外の何らかの負荷を用意しておくことになる。その負荷を単に動かすだけならエネルギーの無駄遣いであり、例えば水素燃料を作るなどに利用するなら余剰エネルギーの有効利用となる。
*5) 原子力百科事典の水力発電 (01-03-05-01)より
この記載は主に以下の2つの記事の主張をほぼそのまま述べたものです。
1. 原子力教育を考える会の記事電力を捨てる「発電所」(2008-10-28 更新)より
そもそも揚水式発電所は、必ず原子力発電所と対になって建設されているもので、揚水式発電所の建設費用は、原発建設の必要経費の一部といってもいい性格のものです。
2. 河野太郎のブログ記事、原発を増やさないために(2011/04/18)より
原発の設備容量70と最小 消費量50の差を埋めるために揚水発電所をつくり、夜間、原発の電気が余り始めたら、その電気を使って水をくみ上げる。
(中略)だから原発と揚水発電所はセットなのだ。
2での数値はあくまで説明のための仮定ですから御注意を!
なお、これらの主張を真っ向から否定するブログ記事がありました。
3. もけの日本観察録の揚水発電が余ってる原子力発電を使うためという河野太郎と飯田哲也のデタラメ(2011/04/17)より
現実は、深夜ですら電力は余っておらず、火力発電を動かして夜中に揚水して、昼や夜のピーク時に揚水発電を行って対応しているというのが事実である。
原子力発電による電力は現実として、夜中の一番少ない時ですら余剰はなく、揚水発電はわざわざコストの高い火力発電を使ってでも、ピーク時に供給が足らないという状況を作らないために、やむなくやっているというのが事実である。
さて「セットである」と言えば、いくつかの原子力発電所と揚水発電所が一群としてまとまってセットになっていると解釈できます。1-2の主張点から言えば、全ての原子力発電所には揚水発電所が併設されている、つまり全ての原子力発電所はどれかのセットに含まれています*1)。そして1のように「対」とまで言えば、普通の解釈では原子力発電所と揚水発電所が1対1に対応して2つで1セットを成しているというかなり強い主張になります。
日本の原子力発電所と揚水発電所のリストは以下の資料にあります。この中から具体的なセットが見いだせるでしょうか?
原子力発電所について
原子力白書2009年(PDF)のp12
JAIF(日本原子力産業協会)の「日本で運転中の原子力発電所」
原子力百科事典の日本の原子力発電所の現状(2005年)の表2-1~2-4
揚水発電所について
ウィキペディアの揚水発電の項
まあ主張する人が具体的に「これとこれとがセットだ」と挙げてくれれば検証可能なのですが、上記引用記事には具体的セットは述べられていません。そこで、どんな場合がセットと言えるのかと考えてみると、立地場所が近い、運用開始年代が近い、建設開始年代が近い、発電力が妥当な比率になっている、といった点がポイントになりそうです。うーん、私には見いだせません。
そもそも日本における電力*2)はひとつの電力会社の管轄範囲でひとつの電力系統を成し、それらが互いにつながって電力のやり取りもできるようにしています。少なくともひとつの電力会社の配電網(電力系統)の中では、どこで発電した電力であれ配電網に入ってしまえば、それがどこで消費されるかという区別はできないでしょう*3)。全体として発電量と消費量は常に一致しているというだけのことです。配電網でつながっていれば、原理的には原子力発電所などの電源と揚水発電所などの蓄電設備が近い立地である必要はありません。またひとつの配電網の中の電力の電源は区別できないということから、揚水発電所の夜間の充電がどこの発電所の電力を使っているのかということも区別はできないでしょう。となると、「夜間、原発の電気が余り始めたら、その電気を使って水をくみ上げる」という主張も、「火力発電を動かして夜中に揚水して」という主張も一面的に解釈しているだけだということになるのではないでしょうか?
これがもし、現在の火力を(地球温暖化防止のため等の理由で)すべて原子力に置き換えたとしたら、確かに夜間には原子力で揚水していることになります。そしてその場合は昼夜の電力需要差を埋めるために揚水発電所などの巨大蓄電設備がもっと必要になることは確かです。しかし、それを「余剰電力」と呼ぶのは不公平でしょう。あくまでも昼間の電力不足を補うための発電量を確保しているだけなのですから。ちょうど以下の図のb)の状態です。
図のc)のように昼間のピーク需要に相当する発電力を持てば、夜間には本当に電力が余ることになります。こうなると本当になんらかの方法で捨てなくてはなりません*4)。一方a)の状態では昼間に電力不足になります。そこでb)の状態で運用するのは必然なのですが、これは「夜間の過剰電力で揚水して昼間に使う」とも言えるし、「昼間の不足を補うために夜間に余分に発電して揚水している」とも言える??(^_^)。
なんだか言葉遊びになってしまったようで御容赦をm(__)m
100%原子力にした場合は昼夜の需要差の半分(効率100%!として)の蓄電能力が必要という意味では「原子力発電には揚水発電(または別の蓄電設備)が付随しなくてはならない」という主張なら正しいとは言えるでしょう。では火力や水力ならどうかと言えば、火力は電力調節速度が遅いしダム式水力は発電能力が雨任せですから揚水発電の必要性がゼロではないでしょうが、100%原子力の場合よりは少なくてすむでしょう。
自然エネルギーについては発電量調節ができにくいことは同様ですから、やはり蓄電設備は必要になります。太陽発電は必ず昼夜の差はありますし、風力や潮力も自然任せの変化があります。地熱は逆にベース供給力になるようです。
実際、以下の資料のp12-22で述べられているように、太陽光発電普及のためには揚水発電等で蓄電したり水力や火力で発電量を調整したりする必要があるのです。
http://www.itrco.jp/libraries/JSG4-5.pdf
低炭素電力供給システムにおける火力・水力発電等の役割と課題について
資源エネルギー庁(2009/01/26)
また経済産業省審議会での以下の資料にも述べられているように太陽発電と蓄電池をまさしくセットの商品として開発しようとしているのです。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80423b04j.pdf
新エネルギー分野における蓄電技術
パワーソーラーシステム 2008/03/14 GSユアサ
結論としては、いずれにせよ高効率で高容量の蓄電設備や蓄電装置は必要であり、それは電力インフラのコストに含まれる、ということになるかと思います。ゆえに従来の電力インフラ整備の歴史においても「火力・原子力の建設に呼応して揚水式が建設されるようになった」*5)というのが適切な表現なのでしょう(^_^)
なお、ドイツとフランスの電力輸出入についても実際の数値を見ずに書いていたところがありますので、また後ほど補足したいと思います。
------------
*1) セットに含まれない揚水発電所ならあってもいい。
*2) 日本でなくても原理は同じだろうが、複数の発電会社でほぼ1つの電力系統という場合も多いのではないだろうか。
*3) 測定できるのは各電源の発電量と各需要機器の消費量である。原理的にはある送電線の電流も測定できるが方向はわからない。このような商品を扱う電力市場で売買実績を計る技術にはちょっと興味がある。
*4) 物理的には需要者のもの以外の何らかの負荷を用意しておくことになる。その負荷を単に動かすだけならエネルギーの無駄遣いであり、例えば水素燃料を作るなどに利用するなら余剰エネルギーの有効利用となる。
*5) 原子力百科事典の水力発電 (01-03-05-01)より
「調整役としての揚水発電は重要」は同意いたします。
従って、私の意見の「原子力がもしもこの世に無い場合は~」はちょっぴり引っ込めようと思っています。
しかし、「原発と揚水はセット」の部分はそのままにしておきたいと思います。
「効率60%」は言葉足らずでした。
現状の日本の状況は、原発と揚水と電力消費地は100km以上
離れているので、原発から揚水と、揚水から電力消費地の送電ロスの
5%づつを単純に足しました。
「火力にしたって出力を絞れば効率は揚水発電を下回ってしまいますから」は大変興味深いです。
電気自動車が大好きな方々は、コンパウンド?で火力発電所の効率は50%を超え、
ガソリン車の効率は13%ぐらいと主張します。
しかしガソリン車はアクセル弁で出力制御するので効率が悪化するわけで、
火力発電所のアクセル弁であるパーシャル領域での使用を考えて効率を
計算すべきと思っています。情報を探しているのですが、まだ検索できてません。
効率60%というのは次の記事とは若干ずれはありますが、
http://www.nuketext.org/mondaiten_yousui.html
それにしても、LEDの発光効率に比べても、その他の電気機器の仕事効率に比べても、決して低い数値ではないように思えます。
まあ効率だけ考えたら電気に変えること自体が不経済とも言えますが。
火力にしたって出力を絞れば効率は揚水発電を下回ってしまいますから、それなら周日運転の効率を維持できるように運用を工夫して当然だと考えます。
私は「原発と揚水はセット」と考えています。
理由は
「揚水の効率は60(%)」
「原子力は出力を調整でない」
「火力は出力を調整できる」です。
原子力がもしもこの世に無い場合は、効率の悪い「揚水」を使用する状況は発生しないからです。
フランスの電力輸出は生産比10.2%、輸入は1.8%なので、揚水発電の代わりに輸出入をしているわけでも無いようです。
原発も構造上は出力調整運転が可能で、フランスはそれをしているみたいですね。
日本は原発依存率が低いので、全ての原発が最大出力で運転しても、一日の裁定需要にも届かない気がします。