木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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ご贔屓さんを増やす、かっこいい下請け

2020年10月31日 | 生きのびるための中小企業デザイン



◆ご贔屓さんを増やす、かっこいい下請け
 【生きのびるための中小企業デザイン】


 こんにちは!中小企業のデザインコンサルタントの木全(キマタ)です。
 中小企業の方々に向けて工業デザインのエッセンスについてお知らせしています。

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 2014年から2年間、日経BP社サイト「小さな組織の未来学」で「生きのびるための中小企業デザイン」というコラムを担当していました。

 そのサイトは閉鎖されてしまいましたが、サイト編集の方と相談しながら考えた、中小企業の方々に役立つデザイン情報は今でも有効だと考えています。そのコラムの内容を、隔週で発信しています。

 今回は「ご贔屓さんを増やす、かっこいい下請け」です。B2B下請けメーカーのままでも「かっこいい物語」は可能です。




 前回、中小製造業におけるB2C商品開発の「かっこいい物語」は、「私にはこれしかできない」「私はこれが得意だ」という宣言から始まるとお伝えしました。しかし、B2B下請けメーカーのままでも「かっこいい物語」は可能です。



老舗として生き残る

 長年頑張ってきて高い技術力を持っているにもかかわらず、最近業績の振るわない下請けメーカーA社が新しい道を模索しているという例で考えてみましょう。このとき、大きく二つの選択肢がありそうです。

 一つはオリジナル商品を開発してB2Cの販路を開拓する道であり、もう一つは下請け部品メーカーとしてさらに技術に磨きをかけ、B2Bの新規顧客を開拓する道です。前回はB2C商品開発についてお話ししましたが、業績が振るわなくなったA社がこれからオリジナル商品開発に取り組むには勇気が要るでしょう。

 商品開発にはそれなりの予算と時間がかかり、その先には数年に及ぶ顧客開拓の苦難が待ち受けていますから、簡単に決断できることではありません。場合によっては、下請けメーカーとして生き残る道を選ぶのも潔い決断です。

 下請けメーカーとして技術を磨き、B2Bで新規顧客開拓をするために有効なのが、自らの技術を信じて「老舗」になる道です。老舗とは、「あの技術ならA社だ」「この部品ならA社がいい」という「信頼感」とともに、顧客の心に記憶され、思い出してもらえる企業のことです。これも中小企業の「かっこいい物語」の始まりです。

 もちろん、A社が老舗として生き残るには、老舗に相応しい技術を持っていることが必須です。下請けメーカーにとっては、その技術力が「私にはこれしかできない」「私はこれが得意だ」という「物語」の核になるからです。しかし、これから営業をかける新規顧客には、A社が老舗であることは分かりませんし、既存客にも再度、A社が老舗であることをアピールする必要があります。企業の高い技術力が顧客の「信頼感」に結びついたとき、初めてその企業は老舗として認識されるのです。



老舗の信頼感は「きれい」に宿る

 B2C市場においては、三越や高島屋といった店でなくとも、料亭や菓子店などの老舗と言われる店は周りにある店と一線を画しています。店構えが立派で、さりげなく主張している看板のロゴマークには品があり、ロゴマーク・パッケージ・包装紙・紙袋だけでなく、落ち着いた店舗内装は統一感があり、社員教育が感じられる店員の対応も安心感があります。そのような老舗の演出がリピーターを育てていきます。老舗にとって店構えは大切です。

 そして、そのような演出はB2CでもB2Bでも変わりはありません。工作機械メーカーのDMG森精機やアマダ、そしてセンサー・測定器メーカーのキーエンスなどは完全なB2Bメーカーですが、老舗の演出をしっかりしているため、信頼感があります。

 つまり、もともと技術力の高い企業であれば、ロゴマーク・名刺・封筒・伝票帳票類など、日々顧客が目にする営業ツールを少し「きれい」にするだけでも、技術力が「信頼感」に結び付き、育まれていくのです。

 ここでいう「きれい」とは、企業理念うんぬんというような難しいことではなく、「部屋を片づけてきれいにする」というときの「きれいさ」、すなわち「手抜きをしていない」「ちゃんとしている」という意味です。人が信頼を寄せるのは「ちゃんとしている」人や組織に対してなのです。

 そういう意味では、ここでお伝えしているのは「みなさんの会社のロゴマーク・名刺・封筒・伝票帳票類はちゃんとしていますか? 手抜きをしていませんか?」という問いかけでもあります。

 実際、ある中小メーカーのブランドリニューアルのお手伝いをしたとき、伝票や見積書を「きれい」にしただけで、取引先の大企業の役員から「企業の格が上がった」と言われたことがあります。「企業の格」とは「信頼」そのものでしょう。



老舗の店構えが育てる従業員の「心意気」

 企業にちゃんとした店構えができると、従業員に「老舗の心意気」が生まれることがあります。例えば、東日本大震災時の臨機応変な顧客対応が注目を集めた東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドでは、社員の86%にあたる約19,000人が準社員です。(オリエンタルランドグループの会社概要より)。

 準社員(アルバイト)という立場であるにもかかわらず、彼らはいつも笑顔で親切に対応してくれます。徹底した社員教育もあるのでしょうが、ディズニーランドでキャスト(このネーミングも効果的です)として働いているというステータスから、ある種の心意気が生まれているのだと思います。

 人は意外と簡単に環境に馴染んでしまいます。「地位が人をつくる」という言葉がありますが、ステータスの高い状況に置かれると、人は立場にふさわしい振る舞いをするようになります。A社の場合も、老舗の店構えができて「あの技術ならA社だ」と言われるような「かっこいい下請け」になれば、そのような環境が従業員に心意気を育み、新規顧客開拓にも弾みがつくようになるかもしれません。

 私はデザインコンサルタントとして、いくつかの中小企業のブランドリニューアルのお手伝いをさせていただきました。その中で、リニューアルによって社員の意識が変わる実例を目にしています。技術力のある小さなメーカーが老舗と呼ばれる「かっこいい下請け」になることは、決してあり得ない話ではありません。



著作のご紹介

 「デザインにひそむ<美しさ>の法則」(ソフトバンククリエイティブ新書)
 「売れる商品デザインの法則」(日本能率協会)
 「中小企業のデザイン戦略 」(PHPビジネス新書)
 「売れるデザインの発想法」(ソフトバンククリエイティブ新書)
 「マインドマップ デザイン思考の仕事術」(PHP新書)
 「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)




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