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が進行している

2023-04-18 19:12:32 | 日記
が進行している。いつかはこうなると分かっていたけれど。


「……困ったなぁ」

 ぽつりと呟いたその声には寂しさが滲んでいた。子宮腺肌症 そう遠くない死を感じる度に、人恋しくなるのだ。本能だろうか。誰かに抱き締めて欲しい、一人にはなりたくないと強く思ってしまう。


 誰かに知れれば、情けないと呆れられるだろう。故に新撰組の沖田総司は最後まで強くあらねばならぬのだ。
 また一方、桜司郎は土方と共に八坂を北へ過ぎたあたりにある小さな料亭へ来ていた。

 中庭の見える一室では、上品な立ち振る舞いの父親とその娘、そしてその向かいには土方と桜司郎が座っている。


「──この通り、私には許嫁がおります故。誠に恐縮ですが、お嬢様のご期待には添えかねます」

 土方は堂々とした居住まいで発言した。事前に、桜司郎に対しては一言も喋らなくて良いと打ち合わせている。ただ、背筋を伸ばして穏やかに微笑んでおけとのことだった。

は土方様をお慕い申しておりますのに……」

「こら。御相手がいる殿方に、かような事を申すでない。はしたない」

 今にも泣き出しそうな娘を、父親が諌める。気が強いのか、どうしても諦めきれないのか、娘は桜司郎を睨み付けた。

 江戸にて琴から受けた視線を思い出しては、肩が竦みそうになる。


「貴女は、土方様のどこをお慕いしているといいますの?先程から畳の目ばかり数えて、まるで気持ちを感じられませんわ」

 その言葉にドキリとした。一日だけの偽造許嫁なのだから、気持ちが無くて当然である。


──お琴さんの時は何も言い返せなかった。けれど、私はもうあの時のように弱くなんかない。それに、女と分かっていても隊に置いてくれた副長へ恩を返さねば……。

 そう思った桜司郎は小さく深呼吸をすると、今一度背筋を正した。

 そして遠い昔に愛した吉田と、胸の中に芽生えかけた蕾を咲かせようとしている人物の顔を思い浮かべる。

 その表情のまま、土方をそっと見やった。


「……私は。己の事よりも仲間を思い、隊を思い、そして向きにご公儀へ忠義を尽くす。そのような歳三様を……」

 髪に挿してもらった簪に付いている、銀細工がシャンと揺れる。


「心よりお慕いしています」


 穏やかに、けれども心を込めてそう言えば室内はシン……と静まり返る。


 その言葉があまりにも予想外だったのか、土方はポカンとしていた。


「は、ははは!これはこれは。こちらまで照れ臭くなるほどの熱い思いでござるな。……分かったろう、お前に入る隙は無いのだ。諦めなさい」

 言葉を失った娘は、唇を噛みながら俯く。はい、と呟くと立ち上がり、隣の部屋へ行ってしまった。



 上手く務めを果たすことが出来たのだろうか、と思いつつ土方へ再度視線を移すと、真面目な表情ながらも目元と耳を真っ赤に染めていた。 あれ以来、便りは一切無かった。だがもしそれが来るとすれば良くないものだろう。


 湿っぽい気持ちになりそうだからと、それ以上考えることを止めて歩き始めた。


 すると、前に小さな人だかりが見える。何かあるのだろうかと人垣の間から覗き込む。


「こちらの飴さんは、よう痰が切れます。こちらは喉を枯らした時に効きますえ」

 そこは飴屋のようで、看板娘と思われるとびきりの美人が案内をしていた。飴目的の子どもから、娘目的の男たちが大勢いる。



 その反響ぶりを見て感心していると、ふと視界の端に背丈の高い二本差しの侍が歩いてくる姿が見えた。 

 どきりと鼓動が高鳴る。


──あれは。沖田先生……!?



 予想外の人物がこちらへ向かって歩いてくるではないか。その刹那、飴を切らしたと言っていたことを思い出す。

 慌てた桜司郎はそっと人垣から離れると、何とかやり過ごすために小路へ身を隠した。
「……そんな。

 翌日の早朝に桜司

2023-04-17 01:56:48 | 日記
 翌日の早朝に桜司郎は旅立つ。何度か長旅をしているからか、支度は随分と慣れたものだ。

 仲が良い山野と馬越には隊務と嘘を吐き、本来の目的を知る沖田だけがその背中を見送った。

 桜司郎へ与えられた刻限はひと月である。事後避孕藥 頭に被った菅笠のつばに手をかけると、深く被り、目を細めた。懐には、"留魂録"が入っている。


 伏見から舟に乗り、大坂まで向かうと早駕籠へ乗った。岩国の近くまでそれで向かい、後は慎重に歩く算段である。そこまでの早駕籠と言うと、その料金も酷く嵩むものだが、彼女には臨時収入があった。旅立つ前に沖田から多額の金子を貰ったのだ。

 その出処は以前近藤から沖田へと渡された、殆ど手付かずの旅の支度金である。一日でも多くの時間を過ごせるようにという配慮だった。



 幾日も揺られ、やがて岩国へと到着する。以前の記憶も頼りに道を進めば、一番の難所といえる関所へと辿り着いた。

 偽の通行手形を手に、その中身を詳しく改められないように、幾許かのをこっそりと握らせれば存外容易に通過出来た。

 それに安堵しつつ、ひたすらに高杉らのいる馬関を目指す。

 道すがら所々に先日の長州征討の痕が残っており、痛ましさすら覚えた。



 日が暮れる頃には、山口にて旅籠を取り、布団の上へ横になる。明日の昼過ぎには馬関へ入ることが出来るだろうというところまで来ていた。

 だが、桜司郎の表情は何処か浮かない。


「…………何だろう、この感じ」

 その脳裏には歩いてきた道や光景が浮かんでは消えた。昨年に坂本らと通った道とはいえ、既視感があまりにも強い。恐らくこれも"桜之丞"の記憶なのだろうか。

 そのようなことを思いつつ桜司郎はおもむろに"留魂録"を取り出すと、頭上へ掲げる。それを持ち出した記憶が全く無いのにも関わらず、何故か懐へ入っていた。

 まるでそこだけ意識が乗っ取られたような、切り取られたような気味の悪い感覚だけが残されている。


「……桜之丞は、私に何を求めているのだろう。貴方は……一体、何がしたいの……」


 そう呟くと、旅の疲労もあってか、うとうとと瞼が重くなった。本を落とさぬように顔の横へ置くと、力尽きたように規則的な寝息を立て始める── たわわに実った薄紅色の桜の花びらが目の前を横切る。前髪がふわりと優しく暖かな風に揺られ、"桜花"は誘われるように目を開けた。


『──ここは、何処?』

 辺りを見渡せば、一面に草原が広がっている。風と共に草花がそよいでいた。

 足元が寒いと思い、下を見遣る。すると、たちまち桜花は目を丸くした。


『ぅ、わッ!な、な、何?この破廉恥な格好!』

 気付けば自身は膝の見える短い袴のような物を履き、半袖の薄い洋装を纏っている。それに赤面しながら、両手で肩を掻き抱いた。


 その時、一際強い風が吹く。すると、目の前にはいつの間にか人が立っていた。

 漆黒の髪を後ろで結い、折り目の正しい仙台平の袴に柿渋色の着物。色白の肌に、やや彫りの深いスッとした顔立ち。くっきりとした目元には、琥珀色の瞳が覗いていた。それでいて、ガッシリとした肩幅に上背がある。

 体格を除けば、まるでその容姿は──


『……あ、あ……。わ、わ……私?』

 桜花は目玉がこぼれ落ちそうな程に目を見開き、自然と震え出す指を前へ向ける。


 鏡で映したようによく似た男は、薄く笑みを浮かべた。


『私は……


それはまさに脅しだった

2023-04-17 01:43:51 | 日記
それはまさに脅しだった。共に隊を出ねば、高杉や坂本との繋がりをバラすというのだ。


「それはそれは怒り悲しむでしょうね……。切腹は免れません。まさか、誰もから好かれている桜司郎君が、經血過多 長州や土佐の大物との繋がりがあるとは夢にも思わぬでしょうから」

「そのようなこと……。誰も信じな、」

「火のないところに煙は立たぬものですよ……。それに、貴殿は嘘が下手ですからね。そのように怯えた目をしていては、肯定していると同義です」


 そのように言われ、桜司郎は思わず視線を逸らす。何度も瞬きをし、眉を顰めた。


「ひと月以上は戻らぬつもりです。その間にゆるりと考えておいてください。……我々の心はひとつであると信じていますよ」


 伊東は掴んでいた肩をぽんと叩くと、去っていく。


「──ッ」

 桜司郎は青い顔をしながらその場に座り込んだ。「伊東……参謀」

 まさかあの酒の席で言ったことを覚えていたのかと驚いていると、伊東は更に言葉を続ける。

「しかし。の描く未来に貴殿は必要なのです。どうでしょう、共に隊を出ませんか」

 その言葉に、桜司郎は更に驚愕の表情を浮かべた。ごくりと息を呑む。

「それは、」

「出来ない……と仰るのでしょう?端から答えは分かっていました。ですが、そこを曲げて来て頂きたいのです」


 伊東は更に一歩踏み出すと、桜司郎の肩を掴んだ。今までの彼とは違う雰囲気に、恐怖に近い感情が込み上げる。だが、怯んではならないと己を奮い立たせ、視線を合わせた。

「参謀。わ、私は新撰組に尽くすと決めたのです。ですから、」

「断ると言うなら。桜司郎君の不思議な交友関係について調べるよう、局長や副長へご進言するしかありません」

 ぴしゃりと言われては、桜司郎は言葉を失う。 伊東が九州へ旅立ってから数日が経つ。悩みの種の人物が居なくなったというのに、依然として桜司郎は浮かない心地でいた。

──人に脅される経験など、今まで無かった。ああ、きっと忠さんはこんな心持ちだったのだろうな。

 強いて言うなれば武田先生にやられたくらいか、とそのような事を思いながら、桜司郎は欄干に身体を預けて空を見上げた。

 まるで膿を持ったようにじくじくと胸の奥が痛み、血の気が引く。

 だが、これは伊東だけのせいではない。付け込まれるような弱みを持っている、どっちつかずなことをしている自分が悪いという自覚はあった。

 思えばあまりに秘密を抱えすぎている。これではいつ何処からこぼれ出してもおかしくはないだろう。性別、高杉に吉田や坂本との関係、桜之丞……。


 今宵も眠れそうにないと思った桜司郎は、せめて身体を動かして気分を少しでも晴らそうと、刀を取りに部屋へ入った。雑魚寝している仲間達を起こさぬように、忍び込むように進む。

 そして自身の枕元に置いてある太刀をそっと手に取った。その隣には沖田が規則正しい寝息を立てている。

 桜司郎は暫くの間、その姿を見詰めていた。


──沖田先生、また痩せた気がする。もし参謀と共に隊を出るようなことになれば、共に居ることは叶わない。

 無意識のうちに"一緒に居たい"と口にしかけてハッとした。気付けば目の前がぼんやりと滲んでいる。 目の前には不甲斐ない己の幻影が見える。


──何もかも中途半端な自分が憎い。


「……このッ、」


──私が男であれば、己の正体を忘れなければ。このような時代でなければ……!



 一心不乱にそれを斬り上げるが、当たり前のようにまるで手応えが無かった。それがより虚しさを助長させる。

 完全に塞がっているとはいえ、背の傷がちりっと痛んだ。


 厚い雪雲の隙間から垣間見える満月が、刀を鈍色に照らす。


「……ッ、ああ、ふっ、」

 悔しげに噛んだ唇からは嗚咽が漏れた。動作と共に頬から溢れた涙が淡い煌めきをはらんで宙に舞う。


 胸元から一通の文がカサリと落ちた。


 それに気付いた桜司郎はピタリと動きを止め、乱暴に目元を拭いながら屈んでそれを拾う

を拗らせている気

2023-04-17 01:32:47 | 日記
を拗らせている気がした。

 原田は瞳を伏せると、そっとその場から離れる。


「……どうなってんだ、皆」

 苦々しい呟きは、誰に届くこともなく静かに冬の空へ消えていった。 そのまま屯所を飛び出した藤堂は、月經量多 そのまま北へ足を進める。そしていつしかある寺の門の前に立っていた。

「……御免」

 そう言いながら門の横にある小さな出入口の戸を潜ると、境内を進んでいく。そこには疎らに墓石が並んでおり、どれも雪が積もっていた。


「……来ちゃった。ご無沙汰しちゃってすみません」

 山南敬助、と書かれた小さなそれの前に屈むと藤堂はにこりと笑う。袖を手繰り寄せ、墓の頭に積もった雪をさっと払った。


 無機質な石の下に眠るのは、偶然にも同じ剣術を収め、共に試衛館の門を潜った兄貴分である。そしてその仲間たちの中でも、一番近しい思想を持つ者同士だった。

「……山南さん。おれ、どうすれば良いのか分からないよ……」

 ぽつりと呟いたその声音には、寂しさの色が滲む。

 藤堂はただ家族同然の仲間がやることだからと、特段何も考えずに江戸から京まで着いてきた。手柄を立てれば賞賛され、より厚い信頼を向けられる。それが嬉しくて、命じられるままに不逞浪士を捕縛し、時には敵だけでなく味方すらも斬り捨ててきた。

 純粋に磨いてきた筈の剣が血に汚れていく。ふとそれに気付いた時には、もう引き返せないところにいた。

 同い年の斎藤はそのようなことは歯牙にもかけないと言わんばかりに飄々としているし、仲の良い永倉や原田、沖田もそれぞれの夢や目標を持って適応している。

 自分だけがおかしいのか、と悩んだ日々を支えてくれたのが山南だった。悩むのはおかしい事では無いと、むしろ人生は悩み続けなければならないものなのだと言ってくれた。

 それにより心を軽くした藤堂は、気分転換も含めて江戸へ隊士の募集へ向かうことになる。どうせなら、新撰組により益になる人を連れていこうと思い、かつての師だった伊東へ声を掛けた。


 しかし、山南はその間にこの世から消えた。それも自分の手の届かないところで、自分が連れてきた師のせいで。

「……苦しいんだ。こんなことになるなんて、思わなかった。こんな、こんな……ッ」


 土方と何となく顔を合わせづらかったというのと、伊東を連れてきた責任を強く感じていたというのもあり、自然と行動を伊東らとするようになっていた。すると、元々薄らと尊皇攘夷派だったこともあり、伊東からその考えを肯定されるようになる。それが嬉しかった。

 自分が頑張れば頑張るほど、伊東は隊に馴染むことが出来、そして褒められると思った。 だが。先日、伊東から呼び出された。そこで近々隊を離隊することになるから共に来るようにと言われたのである。

『伊東先生……、いま、なんて?』

『ですから、新撰組を離れようと思います。分離という形を取れば、法度違反にはなりませんからね。藤堂君は勿論、共に来て下さいますでしょう?』

 伊東は新撰組に居て辛かったことを何度も述べていた。残虐な壬生狼の名が、崇高な勤王活動へ悪影響を及ぼしている。今度こそ志を果たすために活動するのだと。そして熱心に講義を広げた成果もあり、何人ものの隊士も共に離隊する予定でいると。


 頭を金槌で殴られたような気がした。良かれと思って、近藤と繋げたことがこの人にとっては辛いことだったのだ。そして伊東の良さを知ってもらいたいと、講義へ誘った結果が新撰組から離隊する者を増やす結果になってしまった。


 ふと、冷たい風が強く吹き付ける。それが責められているようにも感じられた。

「……分かっている、分かっているんだ。俺が今後何をすべきかって。男として、責任を取るべきなんだ」


 分離後の伊東らと、新撰組の関係がこれ以上拗れないように、橋渡しにならなければならない。


「……でも」

 そのためには伊東へ着いていかなくてはならない。

「…………でも、」


 藤堂は小さな背を丸め、小刻みに揺らした。その頭や肩にはふわふわとした雪がそっと積もっていく。

「離れたくない……」

「……こんな事

2023-04-16 19:36:16 | 日記
「……こんな事、お前にしか頼めないからだ」

 斎藤一という男は、新撰組屈指の剣豪であり、その真面目さと多くを語らぬ姿勢から、多くの暗殺や斬り込みを任せられてきた。故に土方からの信頼は厚い。その上、藤堂とも同い年という共通点の元、懇意であるからあれば何とかしてくれるだろうという期待があった。

 それを聞いた斎藤は微かに目元を動かす。子宮內膜增生

 断られても仕方がないことだと思いながら、土方は腕を組んだ。


 だが。

「ああ。引き受けよう」

 斎藤は迷うことなく即答した。頼んだ本人すら驚くくらいに何の迷いすら見せない。


「……本当に、良いのか」

 思わず土方は確認の言葉を漏らした。

 斎藤は長い睫毛を伏せると口元を緩める。

「良いのかって……、あんたが頼んだんだろう。俺はここに入る時、が命はあんたに託すと決めたのだ」

 それを聞いた土方は胸の奥にグッと込み上げる何かを感じた。鉄の仮面が剥がれ落ちそうになるのを必死に堪える。


「……すまねえ。まだ分離の件は正式に決まった訳では無いからな。だが、そう遠くない筈だ。徐々にに取り入ってくれ」

「承知。……時に土方さん。一体どうして参謀は事を急ぐようになった」

「さあな。大方、長州との戦に幕府が敗北したような形になっちまったから、尻込みしたんだろう」

 その言葉に、斎藤はふむと声を漏らす。

 土方は文机の引き出しから煙管を取り出すと、吸っていいかと尋ねた。斎藤が頷くのを確認すると、手際良く火を付けては煙を燻らせる。

 ふう、と紫煙を吐き出すと舌で乾いた唇を舐めた。

「あの野郎が接触してんのは、薩摩だ。……あれもいけ好かねえ。ついぞこの間までは先陣切って長州と戦っていた癖に、此度の戦では何やら理由を付けては断っちまったそうじゃねえか」


 近頃、悩みの種が多すぎて口を開けば愚痴になってしまう。それが信頼にたる男の前ならば尚更だ。

「成程。薩摩か……」

「薩摩も伊東も。大方、勝ち馬に乗りたくて仕方ねえんだろうよ。……男たるもの、一度行くと決めた道を違えることはあっちゃならねえんだ」


 土方の、新撰組の主君は会津である。引いては幕府だと信じて止まなかった。故に多少思いがけない敗北があったとしても、コロコロと手のひらを返すような情けない真似は出来ないと云う。


 それを聞きながら、斎藤は薄く笑みを口元へ浮かべた。農民の生まれながら、そこらの武士よりも遥かに武士らしい信念を持った目の前の男が眩しく見える。


「それでこそ、土方歳三だ」

──あんたがあんたで居てくれる限り、俺は何処までも着いていく。


 斎藤はそう思いながら、目を細めた。 一方で夜も更けた頃。伊東は実弟の三木三郎、腹心の篠原泰之進を自室へ集めていた。

 出来るだけ灯りを暗くし、廊下へそれが漏れないように細心の注意を払う。

「……ようやっと、分離の話しを局長と副長へ上げました。局長からは待って欲しいと言われましたがね」

「これで甲子太郎さんの道が開けるのですね。おめでとうございます」

 伊東を下の名で呼ぶのは篠原だ。何を考えているか分からない程、感情が顔に出ない男である。江戸からの付き合いであり、伊東へ心酔していることだけは間違いがなかった。


「待って欲しいと言われて、はいそうですかと従う阿呆がいると思ってんのかね?ボケてやがんなァ……」

 三木は呆れたように舌打ちをすると、片膝を立ててその上に腕を置く。

「……三郎、言葉遣いが悪いですよ。確かにもう一押し出来る口実が欲しいのも事実ではあります。ですが、ここまで殆どが上手くいっていますから。天は我々に味方して下さることでしょう」

 伊東は聖人のような笑みを浮かべると、それにしてもと言葉を続けた。

「ここまで近藤局長に時流を見る目が無いとは、思いも寄りませんでした。はっきり申しまして、失望です」

 伊東は薩摩人と深く交流するようになってから、この時の流れが幕府にはもう無いことを知っていた。

 ついぞ最近酒の席で聞き出したのは、年明けくらいに