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が用意されている

2023-03-10 23:31:44 | 日記

が用意されている。沖田は既に起床し、寝間着から着替えていた。

 

律儀に正座をして山南を待っている。

 

「やあ、お早うございます」

 

「お早うございます…」

 

沖田の表情は何処か暗かった。子宮環 起きた時に山南の姿が無かったため、思い直して去ったのかと少しだけ期待していたのである。

 

「これ総司の好きな甘煮ですよ。私の分もお食べなさい」

 

今日腹を切る人の態度とは思えないほど、山南は何時も通りだった。昨夜のは悪い夢でも見ていたのかと錯覚してしまう程に。

 

だが、そのように都合の良いことはある訳もなく。二人は宿から出た。

 

既に大通りには旅支度に身を包んだ旅人で溢れ返っている。

 

ふと、沖田はある事に気付く。山南は旅装束に身を包んではいるが、その荷物が無いのだ。

 

 

そして端から江戸へ帰る気など無かったのだと察する。来なければ延々と此処で待ち続けるつもりだったのだ。

 

そこまでして、法度破りで死にたかったのか。彼を死に急がせるものとは一体何なんだろう。

 

それを認識した途端に沖田は目頭が熱くなるのを感じる。

 

 

京へ向かって歩き出そうとする足を止めた。山南はそれに気付き、振り返る。

 

「山南さん…これが最後です。もう聞きません。……本当に、良いんですね?」

 

「ええ。一緒に壬生へ帰りましょう」

 

 

揺れる沖田の声に対して、登りかけの太陽に照らされた山南は穏やかに微笑んだ。それは江戸の頃から何ら変わらぬもので。

迷いのない真っ直ぐで静かな瞳に、沖田は目を細めて笑みを返すことしか出来なかった。

 

 

もうあの頃には戻れないのだと悟りつつ、馬を引く。

 

浪士組として上京する際に、期待と不安に胸を高鳴らせながら歩いた道を、山南と共に進んだ。沖田と山南が壬生の屯所の門を潜ったのは、昼のことである。

 

奇しくも、山南の脱走が公表された後の話だった。一番組頭と総長の双方が揃って居ないことに伊東が気付いたのである。

夜中に発覚したため、隊の混乱を抑える名目で日中の公表にする予定だったと説明された。

 

もう戻って来ないと、事情を知る幹部の確信を裏切るかのように山南は現れたのである。

 

「お恥ずかしながら、帰って参りました」

 

療養から戻った時と同じように穏やかな笑みを浮かべていた。

山南の後ろにいる沖田は顔色が悪い。

 

いの一番に駆け付けたのは土方と桜司郎だった。夜通し副長室で待っていたのである。

 

 

「山南……分かっていて戻ってきたんだな」

 

寝ていないこともあり、土方の目の下には大きな隈が出来ており、余計に凄みが増していた。

 

「はい。覚悟は出来ております」

 

土方は山南に背を向けると、着いて来いと言い広間へ向かう。

立ち尽くす沖田の元へ桜司郎は駆け寄った。「沖田先生…」

 

「私の留守の間、何事も有りませんでしたか?」

 

沖田は笑顔を浮かべた。それは明らかに痛々しいまでの作り笑いで、桜司郎は俯く。

 

「はい。何事もございませんでした…」

 

「そうですか。…恐らく今から山南さんの詮議が始まります。ィんだから、一緒に休んで来いよ。湯たんぽも運んでやる」

 

「原田さん、私は…」

 

 

「良いから良いからッ。鈴木は、総司が布団から逃げ出さねェように隣で寝てくれよ。夜な夜な土方さんの相手したんだって?お疲れさんだったな」