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「主計……」

2023-09-22 23:17:56 | 日記
「主計……」

 そうつぶやくように呼びかけてきた蟻通もまた、声が震えている。

「この大馬鹿野郎っ!なにゆえ、新八っつあんと左之さんを連れ戻さなかったんだ?」

 おおきな声ではない。顯赫植髮 むしろ、他の者たちにきこえぬようにささやかれた。
 が、そのささやきは、感動の波を一瞬にして霧消させた。

 はい?もしかして、おれってば怒られている?

 二人は、副長か島田におおまかな事情を耳打ちされたのであろう。

 ホワイ?なにゆえ、おれが怒られなければならないんだ?

「ったく、つかえぬやつなだ、おぬし」

 中島もまた、ささやいてきた。

 しかも、力いっぱい役立たず認定されてしまった。

「兼定」

 二人は呆然とするおれの横をすり抜け、相棒のまえに両膝を折った。それから、相棒を抱きしめたりなでたりする。

「ぽち」

 そして、同時に立ち上がると俊春と向き合う。

「おかえり」
「よくやってくれた」

 それから、交代で俊春の頭をごしごしなでる。

 ちょっ…‥‥。

 このあまりの格差は、いったいなんだっていうんだ?

「ははは。主計、おまえはよほど愛されているようだな」

 ショック大どころのさわぎではないおれの横に立ち、そういってきたのは島田である。

「はい?愛されって、おれにはいじめられてるようにしか感じられませんが」

 かれの謎解釈にはついていけない。

「だからこそ、だ。愛されているからこそ、ああ申しているのだ。誠にうらやましいかぎり」
「どうやったら、そんなにポジティブな解釈ができるんですかね?」

 嫌味をいうつもりはないが、つい皮肉ってしまう。

「局長のことを責められなくてよかった」

 島田はおれの皮肉をスルーし、そうつぶやいた。は、俊春の頭をいまだになでつづけている蟻通と中島へと向けられている。

 そのつぶやきに、そのときになってようやく、そうだったと思いいたった。

 局長が斬首されたことを、みな、しっていたんだろうか。

 たしかに、現代のようにあらゆるネットワークですぐさましれわたるわけではない。それこそ、夕方のニュースで報道されるはずもない。じっさいに見物しただれかが、TwitterなどのSNSで写真を投稿したりつぶやいたりするわけでもない。ゆえに、どうしても情報が拡散するのは遅れてしまう。

 それでも、会津藩にはいちはやく伝わったのかもしれない。

 そうであったら、新撰組にも急報として伝えられていてもおかしくはない。

 局長のことをしっていてそれを責められなかったのは、島田のいうとおりである。

 せめてもの救いかもしれない。

 そうか……。

 やり場のない怒りや口惜しさをせめてもの形であらわしたのが、さきほどのおれへのいわれなき非難だったのかもしれない。

 そう推測すると、かえって申し訳なくなってしまう。



 これではまるで、同窓会会場であるホテルのまえで担任をまじえて懐かしむおっさん集団みたいである。

 ひとしきり再会をよろこんだ後、とりあえずは宿に入った。

「清水屋」も、さぞかし迷惑なことであろう。
 もっとも、客はだけのようである。

 いまにも戦火にみまわれそうなときに、わざわざ訪れる者はいないだろう。行商人やなんらかの事情で旅をしている旅人も、あえて避けるにちがいない。

 泊まるとすれば、おれたちのような旧幕府軍や会津関係の者なのかもしれない。

「お噂はかねがねうかがっております」
は如才ない。営業用スマイルとともに、仲居さんや小者に旅塵を落とすよう命じる。

 玄関先で軍靴を脱ぐまえに、俊春にもつきあってもらって相棒の居場所はあるかと尋ねてみた。

「狭いですが、裏に庭がございます。そちらをお使いください」

 イヤな顔をされなかったのが救いである。しかも、すっかりおそくなっているにもかかわらず、晩飯を同様に相棒の分も準備してくれるという。

 おれが連れてゆこうとすると、俊春が連れてゆくという。

 ふと、先日の永倉の言葉を思いだしてしまった。

 俊春は、一つ屋根の下におれたちと一緒にいるのが怖いのではないかという推測である。

 いまの心のなかのかんがえもダダもれしているのであろうが、できるだけ平静を装い相棒を託した。

 相棒は、と連れだってゆくのに異存があるわけもない。

「ぽち、みなに話すことがある。兼定の様子をみて、部屋にきてくれ」

 玄関先から裏へまわろうとする俊春と相棒の背に、副長がいった。それは、命じているといってもいいだろう。

「承知いたしました」

 俊春は、体ごと副長に向き直ると一礼して了承した。それから、路地へと姿を消した。

「清水屋」は、けっこうなおおきさの宿屋である。とはいえ、おれたちの人数もすくなくはない。収容人数ぎりぎりの状態である。

 すでにみな、夕飯はおわっている。

 おれたちの分は、すぐに準備してくれた。
 ありがたい話である。

 きけば、温泉ではないものの、けっこうな広さの風呂があるらしい。
 ここで何日すごすことになるのかはしれないが、湯船にゆっくりつかれるだろう。そう思うと、テンションが上がってしまう。

 日本人だなぁ、なんて実感してしまう一瞬である。
 でむかえてくれた「清水屋」の

のことで

2023-09-04 16:15:34 | 日記
のことで、原田の十番組の伍長の林と区別するため、そう略して呼んでいるわけである。

 林は、靖兵隊として水戸で戦い、死ぬはずだ。
 かれらが新撰組からでてゆく際、永倉と原田にそれを告げておいたのである。

 その林と矢田、が、永倉と原田とともに、新撰組からでていったのである。

「このまま丹波にいって、

総司や平助のをみ、それから今後のことをかんがえるつもりだ。とりあえずは、林信と矢田の無事が先決だろう?」

 原田は、そう話をしめくくる。<a href=https://www.hk01.com/%E5%81%A5%E5%BA%B7Easy/849859/%E9%A4%8A%E5%92%8C%E8%A9%B1%E4%BD%A0%E7%9F%A5-10%E5%80%8B%E5%A5%B3%E5%A3%AB9%E5%80%8B%E7%B6%93%E8%A1%80%E5%80%92%E6%B5%81-%E9%86%AB%E7%94%9F-%E5%B8%B8%E7%B6%93%E7%97%9B%E6%88%96%E6%82%A3%E5%AD%90%E5%AE%AE%E5%85%A7%E8%86%9C%E7%95%B0%E4%BD%8D style=color:#222222;text-decoration:none;>子宮內膜異位症</a>

 永倉とがあうと、かれは一つうなずく。が独特の嗅覚で戦闘を避けまくってるからな。だが、敵も江戸城をとり、幕府の牙城を奪ったからには、討伐もきびしくなるだろう。避けたり逃げたりするのも困難になる。おれ一人なら、あるいは左之といっしょなら、なんなりと対処できるが、矢田らがいてはそうもゆかぬ。腐りきった靖兵隊のために、あいつらを死なすわけにはゆかん」
に反感をもっている。永倉が京で活躍したのが気に入らなかったのか、すっかりかわってしまったようだ。そんな市川と昔のようにつるむなど、ある意味まっすぐな性格の永倉ができるわけがない。
 ゆえに、新撰組からでていって靖兵隊にくわわるのも不承不承だった。

 真面目なかれは、おれが後世に伝わるを伝えたばかりに、それに縛られているのだ。

「おいっ、主計。それはなしだ」でツッコまれてしまう。

「すみません」

 史実に縛ってしまっていることと、そのことをいついつまでもくよくよしている双方にたいして、詫びる。

「詫びるな、馬鹿」

 向かいで胡坐をかいている永倉が、掌を伸ばしてきておれの頭をがしがしする。
 
 言葉はきついが、その掌はあたたかい。

「それで、土方さん。あんた、その脚は大丈夫なのか?」

 雰囲気をかえようとでもいうのか、原田のすらりとした指が胡坐をかく副長の足先をさす。
 
 包帯に覆われた足首からさきは、ずいぶんと痛々しそうにうかがえる。

「ああ?これか?こんなもの、なんともねぇ。抜けるための方便だ。一石二鳥だろうが、ええ?超絶カッコよくって頭脳明晰で腕の立つ参謀土方歳三が、宇都宮城攻略で脚を負傷するっていう既成事実をつくり、史実にそった。で、その治療のため、ひそかに江戸へ戻るっていういいわけもできたわけだ」

 なるほど・・・・・・。

「はぁ?いまのほとんどが、ぽちたまの貢献だろうが。あんたのは、最後の悪知恵だけだろう?」

 永倉と原田が、いっせいにツッコんでくれた。

 思わず、全員で笑ってしまう。

「よかった」

 笑いがおさまってくうると、思わずつぶやいていた。またしても涙があふれだし、今度はそれをとどめることができない。

「すみません」をこする。
 やはり、緊張の糸がきれたことで、感情があらわになっている。

「泣きたいだけ泣け。わたしも、暗くなるまで涙がとまらなかった」

 永倉の隣で胡坐をかいている島田が、涙声でいってきた。
 
 かれならきっと、大号泣しまくったのだろう。想像に難くない。剣豪の付き人か小者かはわからないが、かれの粗末な木綿の着物に尻端折りっていう恰好は、四人のなかではまだましなほうだ。

 島田だけではない。そこまで大号泣でなくとも、副長も永倉も原田も暗くなるまで、ここで涙を流したにちがいない。






 みんなにみえないよう、うつむいて二の腕でごしごし

 またしてもよまれてしまった。ソッコー、怖い
 永倉は、何年かぶりに再会した幼馴染の おれの左隣で、利三郎が鼻をすすりあげた。かれも、ずいぶんとがんばってくれた。さんざんからかわれたりいじられたりいびられたりしたが、かれがいなければ精神的に折れてしまっただろう。

 そして、右隣の俊春は・・・・・・。

「申し訳ございません。謝罪ですませられることではありませぬが、どうか兄を赦してやってください。わたしが悪いのです」

 かれはいきなり叩頭し、泣きながら謝罪しはじめた。
 自分が悪いのであって、兄はわるくない。かれは、おなじことを何度も繰り返す。

 俊冬もつらいだろうが、かれのつらさも半端ないのがわかる。

「俊春殿、やめてください」

 かれのおかげで涙がとまった。両腕をかれの華奢な両肩へと伸ばし、上半身を起こそうと試みた。が、びくともしない。

 いまにも崩れ落ちそうな床の上で握りしめられた拳は、真っ白になっている。かれの震える拳の上で、蝋燭の灯のゆらめきがダンスをしている。

「副長、あなたが護りたいものを護り抜くと、約定、したにも・・・・・・かかわらず・・・・・・、護るどころか・・・・・・掌にかけて・・・・・・」

 かれの嗚咽まじりの言葉が床を這う。拳だけではなく、華奢な体が震えている。

 どこかからか、「ホーホー」ときこえてくる。コノハズクだろうか。呑気な鳴き声をきいていると、眼前で泣いている俊春の苦悩がよりいっそうこの身にこたえる。

 いつの間にか、相棒が起き上がっていて、伏せの姿勢で俊春ににじりより、鼻先をかれの右の脇腹におしつけている。