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それはまさに脅しだった

2023-04-17 01:43:51 | 日記
それはまさに脅しだった。共に隊を出ねば、高杉や坂本との繋がりをバラすというのだ。


「それはそれは怒り悲しむでしょうね……。切腹は免れません。まさか、誰もから好かれている桜司郎君が、經血過多 長州や土佐の大物との繋がりがあるとは夢にも思わぬでしょうから」

「そのようなこと……。誰も信じな、」

「火のないところに煙は立たぬものですよ……。それに、貴殿は嘘が下手ですからね。そのように怯えた目をしていては、肯定していると同義です」


 そのように言われ、桜司郎は思わず視線を逸らす。何度も瞬きをし、眉を顰めた。


「ひと月以上は戻らぬつもりです。その間にゆるりと考えておいてください。……我々の心はひとつであると信じていますよ」


 伊東は掴んでいた肩をぽんと叩くと、去っていく。


「──ッ」

 桜司郎は青い顔をしながらその場に座り込んだ。「伊東……参謀」

 まさかあの酒の席で言ったことを覚えていたのかと驚いていると、伊東は更に言葉を続ける。

「しかし。の描く未来に貴殿は必要なのです。どうでしょう、共に隊を出ませんか」

 その言葉に、桜司郎は更に驚愕の表情を浮かべた。ごくりと息を呑む。

「それは、」

「出来ない……と仰るのでしょう?端から答えは分かっていました。ですが、そこを曲げて来て頂きたいのです」


 伊東は更に一歩踏み出すと、桜司郎の肩を掴んだ。今までの彼とは違う雰囲気に、恐怖に近い感情が込み上げる。だが、怯んではならないと己を奮い立たせ、視線を合わせた。

「参謀。わ、私は新撰組に尽くすと決めたのです。ですから、」

「断ると言うなら。桜司郎君の不思議な交友関係について調べるよう、局長や副長へご進言するしかありません」

 ぴしゃりと言われては、桜司郎は言葉を失う。 伊東が九州へ旅立ってから数日が経つ。悩みの種の人物が居なくなったというのに、依然として桜司郎は浮かない心地でいた。

──人に脅される経験など、今まで無かった。ああ、きっと忠さんはこんな心持ちだったのだろうな。

 強いて言うなれば武田先生にやられたくらいか、とそのような事を思いながら、桜司郎は欄干に身体を預けて空を見上げた。

 まるで膿を持ったようにじくじくと胸の奥が痛み、血の気が引く。

 だが、これは伊東だけのせいではない。付け込まれるような弱みを持っている、どっちつかずなことをしている自分が悪いという自覚はあった。

 思えばあまりに秘密を抱えすぎている。これではいつ何処からこぼれ出してもおかしくはないだろう。性別、高杉に吉田や坂本との関係、桜之丞……。


 今宵も眠れそうにないと思った桜司郎は、せめて身体を動かして気分を少しでも晴らそうと、刀を取りに部屋へ入った。雑魚寝している仲間達を起こさぬように、忍び込むように進む。

 そして自身の枕元に置いてある太刀をそっと手に取った。その隣には沖田が規則正しい寝息を立てている。

 桜司郎は暫くの間、その姿を見詰めていた。


──沖田先生、また痩せた気がする。もし参謀と共に隊を出るようなことになれば、共に居ることは叶わない。

 無意識のうちに"一緒に居たい"と口にしかけてハッとした。気付けば目の前がぼんやりと滲んでいる。 目の前には不甲斐ない己の幻影が見える。


──何もかも中途半端な自分が憎い。


「……このッ、」


──私が男であれば、己の正体を忘れなければ。このような時代でなければ……!



 一心不乱にそれを斬り上げるが、当たり前のようにまるで手応えが無かった。それがより虚しさを助長させる。

 完全に塞がっているとはいえ、背の傷がちりっと痛んだ。


 厚い雪雲の隙間から垣間見える満月が、刀を鈍色に照らす。


「……ッ、ああ、ふっ、」

 悔しげに噛んだ唇からは嗚咽が漏れた。動作と共に頬から溢れた涙が淡い煌めきをはらんで宙に舞う。


 胸元から一通の文がカサリと落ちた。


 それに気付いた桜司郎はピタリと動きを止め、乱暴に目元を拭いながら屈んでそれを拾う

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