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『ここに来てから下の話しか聞いてへん……。』

2024-03-30 18:54:25 | 日記
『ここに来てから下の話しか聞いてへん……。』


これは奇兵隊の屯所に来た者が受ける洗礼か何かなのか?


「なぁ三津さん俺のは桂さんと比べて勝ってるか見てくれや。」 顯赫植髮


性懲りもなく高杉が近付いてきた。三津はにっこり笑うと肌身離さず背負っていた風呂敷の結び目を解いた。


「高杉さん,見せれるもんなら見せて下さい。その代わり大した事ないと判断したら使うまでもないモノなんで斬り落とさせていただきます。」


何の感情もこもってない笑みで脇差を抜いて見せた。まさか肌身離さず持っていた物が脇差などと思わない男共は震え上がった。なんせそれでブツを斬り落とすと笑顔で言うのだから。


「三津さん三津さん稔麿の使い方間違ってます。」


「あ!?それ稔麿の脇差か!?」


「入江さんこれは私の身を守る為に託されたので使い方は合ってます!」


怯む高杉にお前が来ないならこっちから行くぞと立ち上がる三津。それを見ていた赤禰が豪快な笑い声を上げた。


「大事に背負っちょるけぇ何か気になっとったけどそうか吉田やったか。大事に持っちょってくれてありがとな。」


赤禰は心底嬉しそうなくしゃっとした笑顔で三津の頭を撫でた。


「触らしてもらってもええか?」


赤禰の申し出を断る理由がない。三津はこくこく頷いて脇差を差し出した。


「よう戻ったな吉田。こんな可愛いお嬢ちゃんに四六時中背負われて極楽やろ。まだお前の役目は終わっとらんみたいやな,しっかり三津さん守れや。」


話し終えた赤禰はありがとうにっと笑ってまた三津の頭を撫でた。
その笑顔にさっきまでの穢らわしさが一気に吹き飛んだ。


「三津さん俺もええか ?」


さっきとは違って真剣な顔をした高杉が三津の前に立った。


「どうぞ。私より皆さんの方が吉田さんとの縁が深いので。」


高杉は脇差を手に取ってじっと見つめた。


「おかえり!後は任せろ!」


「えっ短っ!」


「男はこれぐらいさっぱりしとる方が良いほっちゃ。」


高杉はふいっと三津から目を逸らして脇差を突き返した。


「そうだな。そうじゃないとお前泣くもんな。」


入江が見透かしたような笑みで高杉を見ていた。


「当たり前やろが!ここの誰が欠けても俺は泣く!三津さん今日の晩は九一と三津さん歓迎の宴開くけんな!」


「どの時分で報告してるの?」


三津は今言う事か?と呆れつつも歓迎してもらえるのは嬉しかった。その晩歓迎される事を喜んだ自分が馬鹿だったと三津は思い知る。


「もぉやだ!そんな要らんし!」


「主役やろがもっと呑めや!」


忘れていたが高杉は強制的に大量の酒を流し込んでくる奴だった。


「高杉,三津さんには三津さんの呑む配分があるほっちゃ。無理に呑ますのやめり。」


やはりこの中で一番まともで話が通じるのは赤禰のようだ。三津は庇ってくれる赤禰の傍に逃げた。


「三津さん少しだけでいいけお酌してもいい?」


赤禰は遠慮がちに徳利を傾けた。


「はい!喜んで。」


「何でや!何で武人はいいんじゃ!顔か!?顔なんか!?」


酒の入った高杉はより煩い。三津は無視して赤禰に注いでもらったお酒を有難くちびちび呑んだ。


「なぁ!顔か!?」


「そうだな野良犬みたいな顔の晋作より武人さんのがいいだろうな。」


「誰が野良犬じゃ俊輔。飲み比べで勝負すっか?あ?」


「酒癖悪い高杉君の後始末面倒だからやめてよ〜。入江君も笑って見てないで止めて?」


白石は呑むなら楽しく平穏に呑ませてくれと入江に懇願した。


「大量に呑ませて潰した方が静かでいいんじゃないですか?まぁ潰れるまでに時間かかるけど。」


そして潰すまでに誰かしらが飲み比べの餌食となり犠牲になる。

『生きたい……生きたい……生きたい……。』

2024-03-29 00:56:02 | 日記
『生きたい……生きたい……生きたい……。』


飛び交う銃弾。止まない砲撃の中を入江は走った。出来るだけ遠くへ。この場から離れなければ。
必死に走りながら体に熱い痛みを感じた。流れ弾に当たったらしい。




足を動かしながらその途中で入江の意識は途切れた。







「報告します!蛤御門前で会津と衝突の後に御所に向かって発砲!会津側に薩摩が加勢し不利な状況です!」


連絡役に寄越していた藩士が藩邸に駆け込み現状を報告した。
その内容に桂と乃美は絶句した。


「禁裏に向かって発砲?馬鹿がっ!やってくれたな来島!!もはや不利どころの問題ではない!!」


乃美は怒りに震え畳に拳を突き立てた。それから一気に精魂抜けたような顔になりがっくり肩を落とした。


「これで我々は完全に逆賊だ……。もう取り返しがつかん……。」


「何を言ってるんです乃美さん。これからです。汚名を着せられたまま終わらすつもりですか?そんな事はさせない。
あの二人に言われたでしょうが!この尻拭いを出来るのは我々だけだと!
しっかりしてください!乃美さんは大阪に下り長州へ戻ってください。」


乃美の両肩を持って体を揺らした。桂の怒りにも火がついた。好き勝手やった挙句に長州をどん底に落とされた。全てを水の泡にされた。大切な仲間の想いを踏みにじられた。


「生きていれば先がある。その先は変えられる。
ここに居るもの全員に告ぐ。潔く死にたい奴は勝手に死ね。
まだ長州の雪辱を果たす意志のある者は今すぐ逃げよ!どんなに不様でもいい!生きてさえいれば先は変えられる!逃げて生き延びよ!!」


「桂,お前はどうする。」


「私はここに残りいつもの如く逃げ回りながら手を尽くします。」


桂は心配ご無用とにっと口角を上げた。


「分かった。必ずや雪辱を果たそう。皆の者!幕府軍が来る前に証拠を残さぬよう火をつける!早急に逃げよ!」


こうして長州藩邸に火を放ち散り散りに逃げた。幕府軍も御所付近の長州の敗走者が逃げ込んだと思われる箇所に火を放った。鷹司邸にも放たれた。それらが風に煽られ京の町に燃え広がった。


その火は三日三晩燃え続けて京の町を焼き尽くし,何の罪もない多くの町民達が命を落とした。


三津は桂の無事を信じて家で帰りを待ち続けた。そしてようやく火がおさまった頃に外に出て,目の前に広がる光景に膝から崩れ落ちた。そこに三津の知っている町の姿はなかった。


「小五郎さん……探さな……。おじちゃんおばちゃんも……宗……宗は……。」


三津はゆっくり立ち上がり歩き始めた。
もしもの事が起きたら,桂が家に戻らなかったらどうしたらいいか。


『まず藩邸行ってそれから……。あの橋まで……。でも藩邸は多分もう……。』


町が炎に包まれた時,その焦げた臭いに外へ飛び出した。同じように様子を見に出て来ていた住民達が火種は屋敷からだと言っていた。
だとしたら藩邸には行ってももう誰もいないだろう。


三津は家から一番近い鴨川の河原まで出てそこから四条まで下った。河原にはこの火事で焼けだされた人たちがいた。


その中に知ってる顔はないか注意深く見ながら歩いた。功助やトキも逃げて来てはいないか。桂には会えるだろうか。
不安と心配で胸が押しつぶされそうだ。


きょろきょろしながら歩いていたら後ろから右腕を捕まれて引っ張られた。


「きゃっ!?」


「しっ!私だよ。」

「ごめん,それ聞いてた。

2024-03-29 00:52:40 | 日記
「ごめん,それ聞いてた。桂さんも一緒に。二人でちょっと傷心してた。
確かに女子には理解出来ないだろうなぁ……。
亡くした恋仲にもっと生きて欲しかった三津さんには命を懸ける場所を間違ってると思われてるんだろうなぁ。」


「まず土方との喧嘩の元って言ってたけどそれであの鬼と喧嘩するって三津さん凄すぎると思わん?」


「確かに……もう三津さんが恋しい?」


久坂の試すような言い方に入江は笑って首を横に振って否定した。


「三津さんは桂さんの為に生きるんだよ。結果は最初から見えてた。それにこの進軍の結果も見えてる……。だったら私のやりたいようにやる。」


「……そうか。結果は見えてるがせいぜい悪足掻きしてみるかね。」


その翌日,来島と真木は予定通り御所へ進軍した。約二千の兵を率いて。
御所の警備にあたる会津が易易と通す訳もなく衝突した。


「こんな奴ら大したことないわ!我らの力を見せてやれ!」


真木に奮い立たされた長州軍は会津相手に優勢だった。そこで久坂達が予期せぬ事態が起きた。


「我らの地位回復を邪魔する者は力で分からせるまで!撃て!」


あろうことか御所に向かって発砲したのだ。


「な!?馬鹿か!!昨日語ってた七生滅賊は何だったんだこのクソ親父!!」


会津との戦だけならまだしも忠誠を誓う天皇に向けて発砲するなど完全に逆賊だ。「玄瑞……これはまずい……。」


「あぁまずいってもんじゃない……。長州は完全に堕ちた……。」


こんな暴挙は赦されない。どうにか他の道筋を。久坂が知恵を絞り出そうとしている所に凄まじい砲撃音が轟いた。


「っ!!あれは薩摩かっ!!」


会津に薩摩が加勢した。兵の数からしても圧倒的に不利なのに薩摩の武器を前になす術がない。まともに戦って勝てるはずがない。


「……鷹司様だ。九一,鷹司輔熙様に頼むしかない。」


状況的に厳しいのは分かっている。だが事情を説明し,被害を最小限に止める為の一縷の望みとして,砲撃をかい潜り公卿鷹司輔熙邸に駆け込んだ。


しかし逆賊の言葉など聞いてもらえる筈もなく,それも失敗に終わり道は絶たれてしまった。
結果は見えていた。だが待ち受けていたのはそれ以上の最悪の結果。


「九一……巻き込んで本当にすまなかった。俺はここで自刃する。」


畳に座り込み項垂れた久坂は甲冑を脱いだ。


「謝るな己で選んだ道だ。言ったろう,付き合うって。」


入江も甲冑を脱いで切腹の決意を固めた。


「馬鹿か,切腹にまで付き合ってんじゃないよ。九一お前は逃げろ。今ならまだ間に合う。
付き合うって言ったから腹を割く?ふざけるな。ちゃんとお前の本心に従えよ。生きたいんだろ?三津さんの傍に居たいんだろ?だったら逃げろよ!」


「玄瑞……。…………ならお前も一緒に。」


「断る。俺は面倒臭いと思われようが最期はこうすると決めていた。妹には怒られると思う。でも文は分かってくれる。死に場所くらい選ばせてくれよ。」


久坂は“そんな誇り面倒臭い!”と怒る三津の顔を想像して笑みを浮かべた。


「私は……。」


「九一,いいんだ。お前がしたいようにすればいいんだ。
頼む。泣き虫で甘えたで頑固な妹の傍に居てやってくれないか?」


諭すような久坂の口調に入江の頬に涙が伝った。


「私は……生きたい……。あの娘の傍で生きたい……。」


ここで武士として死ぬより女の為に生きたいと思った自分がおぞましく思えた。
でもそんな入江を久坂は穏やかな目で見つめた。


「そうだ。それでいい。ここまで一緒に来てくれてありがとう。
手遅れになる前に行けっ!」


入江は最期に久坂に向かって頭を下げ鷹司邸を後にした。


「文……ごめん。」 顯赫植髮


散る時は潔く。それだけは譲れなかった。



久坂玄瑞,鷹司邸にて自刃。享年二十五歳。

二人が去った後,三津は家に帰された

2024-03-29 00:51:33 | 日記
二人が去った後,三津は家に帰された。そして桂と乃美はサヤとアヤメを呼び出した。
屋敷の重鎮二人を前にアヤメは表情を硬くした。


「二人には大変世話になった。このような形で君達の役目を解くのは不本意だが,ここに居ては害が及ぶ。どうか分かって欲しい。」


桂からの労いの言葉にアヤメの目は既に潤みだしていた。easycorp


「これは今回の給金だ。受け取ってくれ。」


乃美は二人に給金の入った巾着ともう一つ包みを差し出した。


「これはもしかして……。」


包みを手にしたアヤメの言葉に乃美は照れ臭そうに笑った。


「すまんな,子供のお駄賃のような物で。」


それは乃美がいつも懐に忍ばせていた落雁だった。サヤとアヤメそれぞれにたんまりと包んであった。


「お心遣いありがとうございます。私共はここで働けて幸せでございました。」


特に三津が屋敷にやって来てからの日々がとても有意義で,もう桂達をからかえないのかと思うと残念だ。……とは口にしないが残念さを漂わせた表情で頭を下げた。


「それで……申し訳ないが最後の最後で一つだけ頼まれ事をしてくれないか?」


申し訳なさそうに笑みを浮かべる桂を見てサヤはきゅっと口角を上げた。既に頼みの内容の察しがついた。
アヤメはそれは私もですか?とぽかんとした顔で桂と乃美を交互に見ていた。


「桂様に頼られるのは大変光栄で喜ばしい事です。何なりとお申し付けくださいませ。」


忠誠心の塊のようなサヤに桂は穏やかに笑みを浮かべた。不安が一つ払拭出来ると。







来島の元に到着した久坂と入江は最後の望みをかけて対峙した。


「しつこいと思われるでしょうが言わせていただきます。朝廷に陳情を申し入れるだけならばこのような兵は要りません。謀反と思われる方がさらに長州の地位を貶めます。」


「武力をもって我らの強さを見せつけるのだ。」


「脅すなど以ての外です。あの政変後に長州の名誉回復の為吉田や久坂や桂さんがどれほど尽力したとお思いですか。あれも急進派が先走って起こった事でしょう。また繰り返すのですか。」


入江に八一八の政変を持ち出され来島の体が苛立ちで震えた。あの時舐めた苦汁を思い出した。


「どうした若造共。ここに来て怖気付いたか。」


『出たな……。』


来島と共に急進派を引っ張る男,真木和泉。生きてきた年数が違う上に久坂達とは比べ物にならない程修羅場を潜ってきた。故により説得が難しい男だ。「力でねじ伏せるなど言っておらんぞ?七生滅賊!松陰も感銘したこの言葉を忘れたか?
我々は七回生まれ変わろうと朝敵,逆賊を討つと天子様への忠誠を誓ってる!その忠誠心をもって御所へ参り嘆願を申し上げるのだ。
兵を率いるのは戦う為ではない。天子様の為に命を懸ける忠義を示すためだ。
命を懸ける事は武士の誇り。明日はその誇りを胸に尽力するのだ若造共。」


真木は言いたい事を言い終えると来島と共に部屋を出た。何も言わせてもらえなかった二人は大きく息を吐いた。


「真木さんが楠木正成公に陶酔してたの知ってたけど厄介だわぁ……。」


久坂は両手で顔を覆って脱力した。若造と言われた事も悔しい。確かにとうに齢四十を越してる二人からすれば若造に間違いないがこちらとて何も知らない童ではない。


「ねぇこんな時に言うのもなんだけど……。
真木さんって三津さんが思う面倒臭い男そのものなんだよね。この前言われた,武士の誇りは面倒臭いって。」


入江はこんな時に悪いと言いながら喉を鳴らして笑った。