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で見当違いの返答をしてきた。

2023-10-26 15:44:32 | 日記
で見当違いの返答をしてきた。

「主計っ、おれの剣術のことを散々いいやがって」
「はああああ?なにもいっていませんってば」
「心のなかの叫びがもれまくっているんだよ」
「副長。かれは、副長の超絶マズい剣術をいつも嘲笑っているのです。ぼくはそんなことはないと思っているんですが、かれはそんなことを・・・・・・」
「ちょっ……。ぽち、衛衣穿搭 なにをいっているんだ?そんなこと、きみに一言だっていっていないだろう?」
「たしかにいっていないよ。でも、思っているじゃないか」
「まあ、な。って、思っていない。思っていないってば」
「主計ぃぃぃぃっ!」

 またしても俊春にはめられた。

 副長が拳固を喰らわせるために、こちらに向かってくるかと思いきや……。

 まとわりつく市村をふりはらうようにし、いきなり方向転換し手おれたちの前から立ち去ろうとした。

 まさかのフェイントである。

 が、それを読んだ安富とお馬さんたちが、その副長のまえに並び立った。

「どいてくれ」
「いやだ」

 上司の命令を、安富はソッコーで拒否った。

「さあ、わたしのかわいいお馬さんたち。頑固でかわいげのない男を笑ってやれ」

 安富は、副長と睨み合いながら左右にいるお馬さんたちにいった。

「ブルルルルルルルル」

 わおっ!お馬さんたちは、上唇を上げていっせいに笑ったではないか。

 これってすごすぎないか?

 この調子なら、終戦後にサーカス団を立ち上げ、世界をまわってもいいかもしれない。

 いまこの時点で、お馬さんと犬がいる。俊冬と俊春なら、ひとっ走りして羆に鹿に狸に狐を捕まえてき、芸をするようお願いできるだろう。

 って、やはりそれはダメか。動物愛護の精神上、そういうことはやっちゃいけないよな。

 なら、鬼はどうだ?

 しかも、イケメンの鬼だ。これだったら、世界中の女性の興味をひけるかもしれない。

「いたっ!いたたっ。相棒、やめてくれ。謝る。謝るから」

 相棒がおれの脚を蹴りまくっている。

 相棒は、おれが人類の叡智であるかれのことを、芸上手のわんちゃんにしてしまったことにたいして怒り狂っているようだ。

「くそっ!」

 そんな相棒とおれの確執のなか、イケメンの鬼、もとい副長は舌打ちとともに回れ右をした。

「って、なにゆえ通せんぼをしやがる」

 副長のまえに、つぎは蟻通と島田と伊庭と田村が並び立ったのである。

 ついさきほど俊春がおれをはめたのは、副長の気をひくためであったらしい。
 
 その間に、俊冬が市村のことをみんなにしらせたにちがいない。

 副長は、前進とバックすることをあきらめたようらしい。不意に体ごと右を向き、そのままダッシュしようとした。

 即座に、俊春とともにその進路を妨害してやった。

 あきらめの悪すぎる副長は、またしてもくるりと体を反転しておれたちとは反対の方へと駆けだそうとした。

 が、そこには俊冬と田村と相棒、それから市村本人が立ちはだかっている。

 副長は、これでもう四面楚歌状態である。

 もっとも、地面を掘るって「『な、なんだって?』とは、おかしなことを申されるのですね。鉄は、さきほどから用件をいっているではありませんか。それを歳さん、あなたがきこうとしないだけでしょう?」

 伊庭は、副長を容赦なく責め立てはじめた。

 ってか、伊庭ったらすっかりに馴染んじゃっているし。

「副長、せめて鉄の言の葉に耳朶を傾けてやって下さい」
「そうだそうだ。かわいくて愛おしいお馬さんたちでも、の言の葉に耳朶を傾け、元気づけてくれたり助言をしてくれたりするぞ」

 伊庭につづき、島田と安富が責めた。

 安富にいたっては、副長はお馬さん以下であるとすっきりはっきりきっちり断言をした。

「土方さん、逃げていないでしっかりきいてやれ」

 さらには、蟻通までいいだした。

 こういうときの団結力や連係プレーは、すっげぇっていっつも感心してしまう。

 副長は、苦虫をかみつぶしたようなでだんまりをきめこんでいる。

 都合が悪くなると、こうしてだんまり戦法でスルーしようとする根性がババ色すぎる。

「主計っ、てめぇっ!」

 副長がなんかキャンキャン吠えているような気がするけど、気にしない気にしない。

「さぁ鉄、いまのうちに副長にきいてもらえ」

 俊冬が市村の背を押すと、かれは一つうなずいて副長にちかづいた。

 ちょっ……。

 市村のやつ、またでかくなっていないか?

 このたった一日か二日ほどで?

 どんだけ育ちざかりなんだ?

 隣に立つ俊春をこっそりみてみた。

 かっこかわいいが真っ青になっているのは、昨夜の超絶ハードなアクションの疲れのせいだけではないはず。

「副長、ぜったいに嫌ですから」

 市村は、副長の懐を脅かすっていうよりかは懐を脅かしまくり、ことさらおおきな声で拒否った。

 副長も、自分の目線が市村のそれとおなじであることを、嫌でも気がついたようである。

 眉間の皺が、深く濃く刻まれた。

「嫌ですからって、おれはなにもいっちゃいない……」
「わかっています。だから、いうまえに釘をさしているんです」

 先手必勝ってわけか。

 歯に衣着せぬいい方に、さすがの副長も面喰らっている。

 たとえば、おれが市村のように迫ったとすればどうなるだろう?

 よくてぶっ飛ばされるだろう。悪ければ、血祭りにあげられるだろう。

「い、いったい、なんのことだ?」

 副長は、いまさらしらばっくれた。

 市村の眉間に、副長よりも深くて濃い皺がよった。

「残念だけど

2023-10-21 23:25:02 | 日記
「残念だけど、ぼくには熊のかんがえていることはわからない。とりあえず、怖いのできみにくっついてみた」

 大鳥のしれっとすぎる返答に、副長の眉間の皺がめっちゃ濃く刻まれたのはいうまでもない。

「いまはそんなこと、月經量多 どうでもいいじゃないですか。とりあえず逃げませんか?」

 熊は前脚を板張りの床につけ、頭部をさげている。

 熊を刺激せぬよう、小声で直属の上司とそのまた上司にツッコんだ。

 ツッコみながら、ドアのほうへとじりじりと後退する。

「なにゆえ熊がおれの部屋にいるんだ」
「だから、それはわからないよ。熊にきいたほうがいいのではないかい?」
「あんたに尋ねたんじゃな……」

 大鳥の呑気な声音に、副長がキレた。
 
 副長は、怒りのあまり室内だけでなく建物中に響き渡るほどの大声をだしてしまったのである。

 と同時に、熊の頭部があがった。そればかりか、前脚を床からあげて立ち上がった。

 で、でかっ!

 縦にも横にも斜めにもでかすぎだろっ!

「副長がデカい声で刺激するからですよ」
「かようなことはどうでもいい。逃げろ」

 って怒鳴りあってはいるものの、脚はちゃんと動きだしている。

 副長と大鳥と三人でドアに殺到した。

「どきやがれ」
「副長こそ、どいてください」
「熊がすぐうしろにーーーーっ!」

 だれかの掌がドアノブにあたったのか、はたまたつかんだのかはわからない。兎に角、唐突にドアがひらいた。団子状態で廊下にでた。それから、倒けつ転びつ廊下を駆けだした。

 だれもいない廊下を駆けているが、餓鬼のときにみた「なにかに追われている」ときの夢のように、ちゃんと脚を動かすことができない。しかも、廊下がムダに長い気がする。

 いますぐにでも、熊の掌が背中の肉をえぐりそうだ。
 そんな恐怖心と戦いながらも駆けに駆けた。

「ちょっとまって」

 急に大鳥がおれの軍服の裾をひっぱった。つんのめってしまったのを、まえに倒れないようかろうじてもちこたえた。

「追いかけてこない」

 おそるおそる振り向くと、大鳥のいうとおり廊下は無人である。熊ももいない。

「くそっ!なら、おれの部屋にいるってことであろう?」

 副長もとまって振り返っている。

「おかしいですね。獣って、フツー逃げるものを追いかけると思うんですけど」
「追いかけられなくってよかったじゃないか、主計君。さて、どうする?」
「おれの部屋が占拠されているんだ。取り返すにきまっているだろうが」
「きみはたしか、松前城だけでなく宇都宮城も占拠しなかったかい?」
「あ、ああ。宇都宮城にいたっては、すぐに奪還されたが……」
「「鬼の副長」の矜持にかけて、ぜひとも奪還すべきだよ」
「ああああああ?あんた、他人事だと思ってよくもかようなすっとぼけたことをいえるな」
「当然さ。占拠されているのはぼくの部屋じゃないからね」

 大鳥さん、そういう問題じゃないですよね。熊がこの建物内にいるってことがマズいでしょう?

 と、そのとき、耳に息を吹きかけられた。

「ぎゃああああああっ!」
「ひいいいいいっ!」
「ひえええええええっ!」

 悲鳴をあげてしまった。
 そのおれの悲鳴に驚いた副長と大鳥も、思いっきり悲鳴をあげた。

 いまの悲鳴三重奏に気がついたらしい。各部屋のドアがつぎからつぎへとひらいてゆく。

「ちょちょちょちょ……。たま、なにをするんだ?」

 いつの間にか、俊冬がすぐうしろに立っていた。
 いつものいじりってやつだ。おれの耳に「ふっ」と息を吹きかけたのである。

「『なにをするんだ?』だって?あまりにもきみの耳が無防備だったので、つい「ふっ」ってやりたくなっただけさ」
「あ、あのなあ、フツーするか?ってか、なんでここに?」

 心臓のどきどきがおさまったので、あらためて振り返ってかれらをみた。
 俊冬も俊春もずぶ濡れになっている。相棒もいる。相棒も黒色の毛皮が濡れまくっている。

「鍛錬をしようと山に向かったら、アイヌの人たちに出会ったんだ。穴持たずの熊を探しているというんでね。かなり凶暴で、仕留めることができないらしい。それで、で尋ねた。

「いや、大鳥先生。そこじゃないですよね?」

 副長のことを非難できない。
 上司のそのまた上司である大鳥に、またしてもツッコんでしまった。

「いいときにきてくれた。さすがは「主計を護りし者」たちだ。護るべき対象とはくらべものにならぬほど頼りになる」
「副長、こんなときに嫌味ですか?だいたい、おれに熊を倒せるだけの力があれば、かれらに護ってもらう必要なんてこれっぽっちもありません」

 副長ののまえで、親指のさきっちょに人差し指をつけて「ちょっぴり」を示しながら嫌味返しをした。「あ……」

 そのとき、腰に「之定」だけでなくもぶら下げていることを思いだした。

 熊に「之定」で斬りかかり、斬ったり突いたりすることはむずかしいかもしれない。しかし、

らが作戦をたて

2023-10-21 23:06:53 | 日記
らが作戦をたて、ブリュネと榎本が承認をしたことで、宮古湾海戦と呼ばれることになる世界レベルでみれば数すくないアボルダージュ、すなわち接舷攻撃が実現されることになった。

 出撃するのは、回天、蟠竜丸、第二回天こと高雄丸の三艦である。

 海軍奉行の荒井はもちろんのこと、子宮腺肌症 ブリュネやニコールと仏軍海軍、彰義隊や神木隊、遊撃隊、それから新撰組がそれぞれの艦にわかれて乗船する。

 史実では、新撰組は蟠竜に乗船することになっている。

「なんだと?神木隊とかえろ?」
「ええ、副長。史実では、蟠竜は天候のせいではぐれてしまい、待機することになります。つまり、戦場にいきつくことすらできないのです。いまのところ蟠竜と高雄が主力で甲鉄を奪うことになっていますが、結局は回天が甲鉄にぶつかり、おれたちが斬りこむことになります」
「なるほど。でっ、利三郎が死ぬんだな?」
「はい。神木隊や彰義隊のだれかも同様です。名前まではわかりませんが、利三郎同様何人かは甲鉄に取り残されるわけです」

 旗艦である回天に、彰義隊や神木隊とともに副長と利三郎とおれが乗船する。

「ならば、彰義隊もちがうという淡路島出身で箱館の殖産興業におおいに献身した豪商とその一族の墓がある。

 本堂、それから観音像のある観音堂もある。
 驚くほどでかいわけではないが、立派な山門もあったりして古式ゆかしい寺院である。

 もっとも、現代では新撰組の屯所となったということが、この寺院の名を有名にしているのかもしれない。

 本堂は、そこそこにひろい。が、の数は増加している。いろんな藩や隊から、移籍したり入隊しなおしている。ゆえに、本堂だけではひろさがたりない。そこに無理矢理詰め込まれているわけだから、雑魚寝状態ですごしているのが実情である。

 食事は、基本的には当番制ではある。
 
 俊冬と俊春が蝦夷にいるときには、時間のゆるすかぎり松前からわざわざここまできてつくっている。

 古株の隊士たちは、以前から俊冬と俊春の手伝いをしたり、テクニックを盗み見しているため、そこそこのスキルがある。

 ゆえに、ほかの隊と比較すると、かなりレベルの高い食事がでている。

 ちなみに、この日は俊冬と俊春と相棒が山に狩りにゆき、たぬきを相当数仕留めてきた。
 蝦夷たぬき、ってやつである。

 しかも、喰うだけではない。その毛皮で防寒具をつくるという。

 人類の叡智は、利用できるものはくまなく利用するしっかりさんでもある。

 かれらの正体をしらされた直後、思わず『ターミ○ーター』系のアンドロイドを思い浮かべてしまった。
 が、あれはあくまでも映画の世界の出来事である。
 リアルの世界にいるかれらは、もっともっとすごいのである。

 それは兎も角、鬼寒いこんな夜のたぬき汁は、体をあたためてくれるだけでなく、テンションをあげてくれる。

 副長が酒をふるまってくれた。
 常日頃の新撰組の働きに報いるためである。

 そのため、全員のテンションはマックス状態になっている。

 ちなみに、安富と久吉と沢は、馬たちとともに通常は松前城にいる。馬はもちろんのこと、安富らは厩の一画を改造し、そこで寝泊まりしているらしい。

 今宵は、かれらもきている。

 たぬき汁は、称名寺の僧たちにもふるまわれた。

 じつは、最初は肉をいれなかった。
 明治時代にはいって肉食妻帯をゆるすという布告はでるだろうが、いまはまだダメなのかと思ったからである。でささやいた。

「本日、われわれの神は休まれております。本日は、伴天連の神が見張る番。伴天連の神は許し給う」

 マジかよ。

 というわけで、かれらにも肉入りのたぬき汁と酒がふるまわれた。

 いいのかよ、法然?
 つい問いたくなってしまった。

 もっとも、このおれに僧の倫理を問う資格などないことはいうまでもない。

 美味いものに酒までくわわり、全員が夕餉を堪能した。

 後片づけもおわり、いよいよミーティングの開始である。

 とはいえ、出陣の概要を伝えて参加者を募るだけのごく単純な内容である。

「いきたい」
「そうだそうだ。

をなんだと思ってやがる

2023-10-21 22:51:45 | 日記
をなんだと思ってやがる?はやい話が、かような貧乏くじはにひかせりゃいいってわけだろうが。鼻もちならぬ幕臣どもが、かようなことできるわけねぇからな」

 副長のいうとおりである。

 榎本も大鳥も、この厳寒に海にはいれなどといえる相手など一人もいるわけないだろうから。だからこそ、朱古力瘤 をつかおうというわけだ。

 だが、結局はうけることになる。
 こんなくだらぬでも、一応は事実上のトップとその補佐役からのなのだから。

 拒否れば、今後の新撰組および副長自身の立ち位置とあつかいがビミョーなものになってしまうかもしれない。

「わかったよ、わかった。これは貸しだ。話はそれだけか?」
「ありがたいこった。さすがだね、土方君。頼んだぞ」
「さすがはぼくの土方君」

 榎本も大鳥も上機嫌である。

「ありがとう。期待しています」

 そして、澤もホッとしたになっている。

「失礼する。このクッソ寒いなか、海にはいらにゃならんからな。いくぞ」

 副長は嫌味をぶちかますと、とっとと部屋からでていってしまった。

 俊冬と俊春とおれは、一礼してからあわてて副長の後を追った。

「ちょちょちょ、副長。まさか、マジで海に入るつもりなんですか?」

 廊下をずかずかあるきつづける副長の背に、問いかけた。

 すると、副長はこちらを振り返ることなく右の人差し指と中指を立て、それからくいくいと曲げた。

 ちかづけ、という合図らしい。

 俊冬と俊春とをみあわせてから、脚をはやめて副長の左右にわかれてならんだ。

 廊下はムダにひろく、こうして大人が四人並んでもあゆむことができるのである。

 もっとも、距離をとってラジオ体操をするだけのひろさはないが。「主計。おまえ、おれに死んでこいっていうのか?」

 肩を並べた瞬間、副長ににらまれた。そして、難癖つけられた。

「そんなわけありませんよ。だってさっき、『海にはいらにゃならんからな』っておっしゃったでしょう?」
「ふんっ!かようなこと、いちいち間にうけるんじゃない。あれは売り言葉、否、買い言葉か?兎に角、なにゆえおれがこのクソほど寒いなか、くだらぬことをせねばならぬ。すくなくとも、おれはせぬ」
「はああああ?だったら、あんなホラふく必要ないじゃないですか。どうせ、隊士のだれかにやらせるんでしょう?だったら、なにゆえ『にやらせる』って正直にいわないんですか。ったく、副長はすぐにいいカッコしたがるんですから」
「くそったれ。くだらぬことにをつかえるか?どいつも大切なんだぞ。戦闘でというなら別だが……。ったく、馬鹿馬鹿しい。というわけで主計、おまえにやらせてやる。ありがたく思え」
「はいいいいいいいい?」

 思わず、でかい声をだしてしまった。

 幸運なことに、廊下にいるのはおれたちだけである。
 ゆえに、だれかに白い眼でみられたり驚かれるということはない。

「ちょっ、ちょっとまってください。ついいま、『くだらぬことにをつかえるか?どいつも大切なんだぞ』っておっしゃいましたよね?それなのに、その直後におれにやれって。しかもありがたく思えって、そんな矛盾しまくったことよくいえるものですね。『どの口がいうんだ?』って、ツッコまさせてください。おれだって、大切なでしょう?」

 この人は、なにをいっているんだか?

 思わずひかえめに、それでいてオブラートに包むようにして注意をしてしまった。

「そうなのか?」

 不意に副長の脚がとまった。

 それをよんだ俊冬と俊春の脚もとまった。が、おれだけがそれに気がつかなかった。ゆえに、二、三歩すすんでから急停止しなければならなかった。

「そうなのかって、なにがそうなのかなんです?」
「きまってるだろうが。おまえが大切なってところだ。一度だってかように思ったことはない。というわけで、おれのいったことに嘘はない」
「ちょちょちょ、副長。やっぱり素直じゃないですよね。それに、副長って意外と照れ屋さんなところがありますから。面と向かって『大切な』っていえないなんて、かわいらしいところあるじゃないですか……。いだっ!」

 いきなり頭に拳固を喰らった。

「ちょっと、いまのパワハラですよ。なぁ二人とも、いまのみたよな?これは、かんぺきアウトだ。すぐに左遷させられるか訴えられる事案だ」

 いまのパワハラの目撃者である俊冬と俊春に訴えた。

「にゴミがはいってみえなかった」
「片方のが網膜剥離だから、よくみえなかった」

 なんだって?そんなわけないやろ!

 二人とも、『見て見ぬふり、長いものに巻かれよ』ってわけだ。
 組織内で無難にすごすための安全策的な発言が、ソッコーでかえってきた。

 そうだった。

 俊冬と俊春は、副長とはある意味では身内っていうか親子みたいなものだ。

 副長をかばうのは、当然といえば当然のことかもしれない。

 だめだ。負けた。

 というわけで、結局おれが海に入ることになった。

 出発するまえに澤に確認したところ、タコノマクラというのがヒトデだということがわかった。

 絵にかいてもらったのである。

は、ヒトデの古語なのかもしれない。

 とりあえずは、これでイメージはついた。

 だからといって、海が常夏のおだやかで透明度のある海にかわるわけはなく、結局は極寒の蝦夷の海なのである。

 カニやらホタテやらその他もろもろの美味い海の幸が豊富な北海道の海ではない。

 荒々しく、それでいて冷たすぎる

です。しかも、理心流の

2023-10-21 22:45:34 | 日記
です。しかも、理心流の宗家って……」

 伊庭は、かなり頭にきているようだ。鼻で笑ってからつづけた。

「勇さんが草葉の蔭で泣いていますよ。なんなら、総司君とやらせてください。經血過多 話はそれからです」

 伊庭の副長へのきっぱりはっきりした非難に、ふいてしまった。俊冬と俊春、それから向こうのテーブルの島田と蟻通、子どもらも大笑いしている。

 一度目の勝負は、伊庭がまだ子どものからはなにもわからない。なにもよむことができない。

「主計、江戸で剣術の勝負をつけようと約定したのを覚えているかい?」

 かれは、唐突に尋ねてきた。

 ぜったいに、忘れるものか。

 江戸のかれの道場で、かれと勝負をした。
 本来なら、かれにかなうわけがない。しかし、やさしいかれはおれに花をもたせてくれた。つまり、引き分けにおわった。
 ゆえに、またいつか勝負をして決着をつけようと約束をしたわけである。

 だが、なにゆえこのタイミングでその話をするのか?
 まさか、話をそらそうとでもいうのだろうか。

「覚えているとも。つぎこそは、つけてやる。心形刀流宗家と天然理心流宗家の勝負の決着をな」
「って、なにゆえ副長がこたえるのです?そこ、おれが応じるところですよね?しかも、おれは天然理心流じゃないですし」

 カッコよく応じようと口を開きかけたタイミングで、副長が寝とぼけたボケをかましてきた。

 そこはやはり、上司といえどしっかりツッコまねばならない。
 
 それが、おれの役割だから。
 山があったら登るのと同様の心理である。

「歳さん。悪いですが、あなたとはもう二度と、もう二度と勝負はしません。あなたには、二度してやられています。それがちゃんとした勝負で、力の差をみせつけられたのでしたらまだいいです。しかし、どちらも剣術とはかけ離れた汚いがまたこちらを向いていた。

 伊庭にもおれの心の声は届いている。
 ってか、だだもれしているのをきいている。
の話らしい。
 伊庭が練習中に鼻を折ってしまった。副長は、その鼻が完治しきっていないのをいいことに、その鼻だけを狙いまくって攻撃したらしい。
 
 二度目の勝負は、さきほどの江戸のかれの道場である。

 副長は、こともあろうに伊庭の道場の床に油をまき散らかしたのである。
 あのとき、掃除が大変であった。

 これで、伊庭の非難もうなずけるであろう。

「いついつまでも昔のことを振り返るんじゃない」

 つぎは、副長が鼻を鳴らした。

 いや、なんかちがわないか?

 副長、『昔のことを振り返るんじゃない』って、どの口がそんなこというんですか?

 って、めっちゃにらまれた。「わたしは、執念深いのです。それ以前に、歳さんはこれからさきもおなじようなをつかってくるでしょう?せっかく『死ぬぞ』って忠告をもらっても、そのまえに歳さんに殺されてしまいます」
「おいおい、八郎。誠にひどいことを申すな。いくらなんでも、おまえを殺ることはない。まぁ、そうだな。半殺しってやつか?」

 めっちゃひく。おれだけじゃない。この場にいる全員がひいている。

 相棒までひいている。

「歳さん、歳さん。勇さんもだけど、先生も泣いていますよ」

 周斎先生というのは、天然理心流三代目宗家にして近藤局長の養父である。

 ちなみに副長の目録は、その周斎先生が副長にちょっとでもヤル気をださせようとお情けで与えたらしい。

 その真実を副長自身がしったのは、つい最近のことである。

 副長は真実をしるまで、実力であたえられたと勘違いしていたというわけだ。

 まぁ副長の場合、型にしばられないかぎりはめっちゃ強い。
 流派という型にがんじがらめに縛られているから、鍛錬もヤル気がでないのかもしれない。

 いずれにしろ、副長は「胡椒爆弾」とか「油をまく」とか、きったないでも許されるような喧嘩のほうが、性に合うということだ。

「ぜひ、やりましょう。どうせ、もうすこしさきでないと敵味方ともに動けないのです。なまった体にカツをいれるためにもやりましょう」

 おれが提案すると、伊庭はにっこり笑って了承してくれた。

「ぽちたまといい八郎といい、勝負を避けやがって」
「勝負?だから、歳さんのは剣術の勝負ではなく喧嘩なんです」
「寝とぼけたことを。喧嘩も勝負だ」

 たしかにそうかもしれないが、副長がいうとチートっぽくしかきこえない。

 そこで一瞬、しんと静まり返った。

 その静けさのまま、数分が経過した。

「戦のあとは?この世のなかはどうなるんだい?」

 そしてやっと、沈黙を破ったのは伊庭である。

 そのかれの問いに、どう答えるか躊躇してしまった。

 賊軍、つまりおれたちのおおくが裁かれ、謹慎や投獄、島流しにあう。そして、しばらくするとそのほとんどが赦され、それぞれの人生をあゆむことになる。

 そこまではいい。

 しかし、そこからである。

 徳川の世は完全におわる。いや、極端な話、それもいい。すでにそうなっているからである。

 それ以上に、
 が、おれにはかれのその