で見当違いの返答をしてきた。
「主計っ、おれの剣術のことを散々いいやがって」
「はああああ?なにもいっていませんってば」
「心のなかの叫びがもれまくっているんだよ」
「副長。かれは、副長の超絶マズい剣術をいつも嘲笑っているのです。ぼくはそんなことはないと思っているんですが、かれはそんなことを・・・・・・」
「ちょっ……。ぽち、衛衣穿搭 なにをいっているんだ?そんなこと、きみに一言だっていっていないだろう?」
「たしかにいっていないよ。でも、思っているじゃないか」
「まあ、な。って、思っていない。思っていないってば」
「主計ぃぃぃぃっ!」
またしても俊春にはめられた。
副長が拳固を喰らわせるために、こちらに向かってくるかと思いきや……。
まとわりつく市村をふりはらうようにし、いきなり方向転換し手おれたちの前から立ち去ろうとした。
まさかのフェイントである。
が、それを読んだ安富とお馬さんたちが、その副長のまえに並び立った。
「どいてくれ」
「いやだ」
上司の命令を、安富はソッコーで拒否った。
「さあ、わたしのかわいいお馬さんたち。頑固でかわいげのない男を笑ってやれ」
安富は、副長と睨み合いながら左右にいるお馬さんたちにいった。
「ブルルルルルルルル」
わおっ!お馬さんたちは、上唇を上げていっせいに笑ったではないか。
これってすごすぎないか?
この調子なら、終戦後にサーカス団を立ち上げ、世界をまわってもいいかもしれない。
いまこの時点で、お馬さんと犬がいる。俊冬と俊春なら、ひとっ走りして羆に鹿に狸に狐を捕まえてき、芸をするようお願いできるだろう。
って、やはりそれはダメか。動物愛護の精神上、そういうことはやっちゃいけないよな。
なら、鬼はどうだ?
しかも、イケメンの鬼だ。これだったら、世界中の女性の興味をひけるかもしれない。
「いたっ!いたたっ。相棒、やめてくれ。謝る。謝るから」
相棒がおれの脚を蹴りまくっている。
相棒は、おれが人類の叡智であるかれのことを、芸上手のわんちゃんにしてしまったことにたいして怒り狂っているようだ。
「くそっ!」
そんな相棒とおれの確執のなか、イケメンの鬼、もとい副長は舌打ちとともに回れ右をした。
「って、なにゆえ通せんぼをしやがる」
副長のまえに、つぎは蟻通と島田と伊庭と田村が並び立ったのである。
ついさきほど俊春がおれをはめたのは、副長の気をひくためであったらしい。
その間に、俊冬が市村のことをみんなにしらせたにちがいない。
副長は、前進とバックすることをあきらめたようらしい。不意に体ごと右を向き、そのままダッシュしようとした。
即座に、俊春とともにその進路を妨害してやった。
あきらめの悪すぎる副長は、またしてもくるりと体を反転しておれたちとは反対の方へと駆けだそうとした。
が、そこには俊冬と田村と相棒、それから市村本人が立ちはだかっている。
副長は、これでもう四面楚歌状態である。
もっとも、地面を掘るって「『な、なんだって?』とは、おかしなことを申されるのですね。鉄は、さきほどから用件をいっているではありませんか。それを歳さん、あなたがきこうとしないだけでしょう?」
伊庭は、副長を容赦なく責め立てはじめた。
ってか、伊庭ったらすっかりに馴染んじゃっているし。
「副長、せめて鉄の言の葉に耳朶を傾けてやって下さい」
「そうだそうだ。かわいくて愛おしいお馬さんたちでも、の言の葉に耳朶を傾け、元気づけてくれたり助言をしてくれたりするぞ」
伊庭につづき、島田と安富が責めた。
安富にいたっては、副長はお馬さん以下であるとすっきりはっきりきっちり断言をした。
「土方さん、逃げていないでしっかりきいてやれ」
さらには、蟻通までいいだした。
こういうときの団結力や連係プレーは、すっげぇっていっつも感心してしまう。
副長は、苦虫をかみつぶしたようなでだんまりをきめこんでいる。
都合が悪くなると、こうしてだんまり戦法でスルーしようとする根性がババ色すぎる。
「主計っ、てめぇっ!」
副長がなんかキャンキャン吠えているような気がするけど、気にしない気にしない。
「さぁ鉄、いまのうちに副長にきいてもらえ」
俊冬が市村の背を押すと、かれは一つうなずいて副長にちかづいた。
ちょっ……。
市村のやつ、またでかくなっていないか?
このたった一日か二日ほどで?
どんだけ育ちざかりなんだ?
隣に立つ俊春をこっそりみてみた。
かっこかわいいが真っ青になっているのは、昨夜の超絶ハードなアクションの疲れのせいだけではないはず。
「副長、ぜったいに嫌ですから」
市村は、副長の懐を脅かすっていうよりかは懐を脅かしまくり、ことさらおおきな声で拒否った。
副長も、自分の目線が市村のそれとおなじであることを、嫌でも気がついたようである。
眉間の皺が、深く濃く刻まれた。
「嫌ですからって、おれはなにもいっちゃいない……」
「わかっています。だから、いうまえに釘をさしているんです」
先手必勝ってわけか。
歯に衣着せぬいい方に、さすがの副長も面喰らっている。
たとえば、おれが市村のように迫ったとすればどうなるだろう?
よくてぶっ飛ばされるだろう。悪ければ、血祭りにあげられるだろう。
「い、いったい、なんのことだ?」
副長は、いまさらしらばっくれた。
市村の眉間に、副長よりも深くて濃い皺がよった。