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その様なことを考えつつ

2023-11-30 22:57:14 | 日記
その様なことを考えつつ、桜司郎は沖田へ掛ける言葉を見付けられないまま、促されて部屋に戻っていった。

沖田はもう少し此処にいます、と言った。


サア…とそよ風が、經痛 原因 桜司郎の背を見送る沖田の前髪を撫でる。土の香りが鼻腔を掠めた。

不意に沖田は口元に手を当てて、何度も咳き込む。山南の介錯をした日から、幾度もこの様に空咳や微熱が出ていた。

寒空の下に居たものだから、風邪でも引いたのだろうかと胸元を摩る。


何度か深呼吸をして呼吸を整え、少し時間を潰してから沖田も部屋へ向かった。
既に寝ている隊士を踏まないように奥の布団へ踏み入る。

隣には既に規則正しく寝息を立てる桜司郎の姿があった。その隣には山野、馬越の姿がある。



桜司郎は眉を顰めて寝返りをうった。その頭の中ではある夢を見ていた──


家屋が轟々と燃え盛る炎に包まれ、その中をひたすら桜司郎の意志とは関係無しに走っている。まるで誰かの身体に憑依したような光景だった。


『誰ぞ逃げ遅れた者はおりませぬかッ』

口からはそのような言葉が発せられる。

視線の先には一人の女性が複数の風体の悪い男に絡まれていた。火事や地震といった災害に乗じて狼藉を働く輩は多い。


そこへ走って駆け付け、女性へ逃げるように促す。その瞬間だった。背中に焼け付くような痛みと共に視界に火花が散る。

倒れかかりそうになるが、何とか足で踏ん張って手にした刀で男達を斬り捨てた。

そして膝を付く。


『はは、うえ……』

ポツリとそう呟いた瞬間、背後の家屋が崩れてきては身体を押し潰した。

重い、熱い、苦しい、痛い。そのような感情と共に目には涙が浮かぶ。

母を一人遺して逝く事の切なさ、志半ばで倒れることの無念さ。死んでも死にきれない、まだ死ねないと手を伸ばす。その先には薄緑があった。

柄を掴んだ瞬間、視界が真っ暗になった。その刹那、桜司郎は弾かれるようにパチリと目を開けた。すると目の前には木造の天井が広がっている。

直ぐに夢だと云うことに気付き、目元を覆うように腕を置くと深く深呼吸をした。
顔を横に向けて外を見ると、夜明けを示すようにほんのりと明るくなってきている。

同室の隊士達は布団を蹴飛ばしたり、いびきをかいたりとそれぞれまだ夢の中にいた。

桜司郎はそれらを起こさないように、枕元の着替えを取ると近くの衝立で着替える。

結紐を片手に髪は下ろしたまま、寝ている隊士を踏まないようにこっそりと部屋から出た。


ひんやりと肌に纏わりつくような涼しさと、薄明の美しさに目を細めつつ、草履を履く。口に結紐を咥え、歩きながら髪を結った。

そのまま井戸の前に行き水を汲むと、何度も顔を洗う。ポタリポタリと顔の輪郭に沿って雫が地面に落ちた。


その脳裏には夢の中の出来事がやけに鮮明に浮かんでいる。焦げ付く不快な臭い、斬られた背中の痛み、最期の瞬間に感じた無念さ。そして人の肉を斬る感触すらも。
それらの全てがまるで自分が経験したかのように残っていた。
桜司郎は両手を見つめると、強く握る。


思えば、前にも似たような夢を見たことを思い出す。確かその時は武士になるかどうか迷っている時だった。
そして今回は江戸へ行くかどうか迷っている最中でのこれだ。
何かの暗示なのだろうか。

と同じ敷地におるなんて。

2023-11-30 20:08:20 | 日記
「俺は、二人を大切にするぜ。この世の中だ、いつかは別れる時が来るだろうよ。それでも、楽しかった思い出はその時の活力になるんだ」

山野はそう言うと、顔に袖を当てて泣く馬越と桜司郎のそれぞれの肩に腕を回して引き寄せた。

「俺らはだ。何があっても信じてやるし、助けてやるからな」


桜司郎はその言葉に胸が暖かくなる。そして笑みを浮かべて頷いた。

まるで酔っ払いのように肩を組みながら坊城通を歩く三人の後ろ姿を、風が優しく押す。




──いつか、別れる日が来たとしても。思い出が傍に居るから寂しくない。だから、お願いします。私から記憶を奪っていかないで。やがて壬生についた三人は、それぞれ寄宿していた八木邸と前川邸の二手に分かれた。

桜司郎が八木邸の門を潜れば、為三郎と勇之助が駆け寄ってくる。二人を軽く抱き締めるようにして受け止め顔を上げると、まさが切なげに眉を顰めて此方を見ていた。


「桜司郎はん……いや、桜花はん。少しだけええ?」

その複雑そうな顔付きに、桜司郎は小さく頷く。
まさは子どもたちを他に遊びに行かせると、桜司郎を奥の部屋へ通した。

優しいそよ風が桜司郎の前髪を揺らす。対面するように二人は座った。


「……桜花はん、ほんまにお西さんへ行ってしまうん?うち、前も言うたと思うけど……桜花はんの事をほんまの娘のように思うとるんよ」

まさはそう言うと、桜司郎の手を取る。女性ならではの柔らかさの中に、マメやら剣だこやら赤切れやらがいくつも出来ていた。

水仕事をする為に赤切れは仕方ない。だが、マメや剣だこはこの細い指には似合わないと瞳を伏せた。


「おまささん……」

「うちの娘になって欲しいんや。新撰組やのうて、八木家の娘として生きてくれへんやろか……」

握った桜司郎の手をまさは何度も摩る。

思えば、此処に来て一年の月日が経った。何処の誰かも分からない男装女を、まさは常に慈しんで接してくれた。
記憶を失い、帰る家も身分も無い桜司郎にそれを与えようとしてくれている。

桜司郎はそれを純粋に嬉しいと思った。


「本当に嬉しいです……。私も出来ることなら、此処に居たい」

なら、とまさは顔を上げる。

だが桜司郎はゆっくりと首を横に振った。
武士として生きることの鮮やかさを、命の切なさを、敬愛する人の背を任される喜びを知ってしまった今はもう後戻りは出来ない。そう思った。


「私は、新撰組の隊士ですから。娘にはなれないけれど、何かあれば直ぐに駆け付けます」

穏やかな笑みを浮かべる桜司郎を見て、まさは決意の固さを悟る。
涙が溢れそうになるのをグッと堪え、笑みを返した。

「やっぱ駄目やったなぁ。断られるとは分かっとったんやけどね……。よっしゃ、気張ってお勤めしはり」

まさはそう言うと桜司郎の手を強く握る。そして言葉を続けた。


「桜司郎はんがどんだけ強いかは、うちには分からへんけど……それでもな事には変わりはあらへん。無理だけはせんといておくれやす」

約束え、と声を震わせる。桜司郎はその肩に手を当てると、はいと頷いた。



それから二階へ向かうと、荷物を纏め始める。
の蓋を開けると、まさに貰ってからは一度も袖を通していない女物の浴衣やら着物やらが出て来た。

「これは……持っていけないな」

桜司郎は悲しげにポツリと呟くと、子宮環 蓋を締める。
次に文机の引き出しを開けた。

すると、そこからは手拭いに包まれた

──あの日、皆と見た京で身を

2023-11-30 18:59:37 | 日記
──あの日、皆と見た京で身を立てる夢。

私は先に降りてしまうけれど

悔いはないのです。

決して楽な人生ではなかったけれど

悔いはないのです。


藥性子宮環 心残りがあるとすれば

おさと、貴女を遺していってしまうこと

勝手な男で済みませんでした。

我儘を一つだけ申しても良いのなら

最期の夢は貴女と笑い合う夢が見たい───




まるで椿の花が風に揺れて落ちるように、介錯人の沖田は山南の首を寸分の狂いも無く落とす。
それは見ていた誰もが涙するような、立派な切腹だった。

啜り泣く声が何処からともなく聞こえてくる。

山南の最期の表情は柔和に微笑んでいた。まるで幸せな夢を見ているかのようなそれだったという。



山南敬助齢三十二脱走の罪により切腹。山南の首を落とした後、沖田は呆然と立ち尽くしていた。
まるで時が止まってしまったかのように、息をすることも忘れてその首を見詰める。


「……沖田さん」

介添人として控えていた斎藤が沖田の肩をそっと叩いた。その瞬間、沖田は気付くように息を吸った。
胸元に手を当てて大きく咳き込む。乾いた嫌な咳だった。

斎藤が背を摩ろうとするのを手で制し、血の付いた刀を押し付けると部屋から走って出て行く。

誰かの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、全く気に止める余裕は無かった。


弔うように静かに降り続く雪の中を、裸足で庭に降りる。心を堰き止めていた思いが、腹の底から掻き立てるようにせり上がってきた。

手で口元を覆い、ふらふらと門を潜る。


とにかく一人になりたかった。足先の体温が奪われていくことなんて気にもならない。


沖田はそのまま壬生寺の前まで歩いた。雪化粧に包まれているが、顔を上げれば優しい兄と子どもたちと共に遊んだ記憶が次々と浮かぶ。

顔を歪めて肩を揺らした。込み上げてきたのは、と熱い涙である。

「山南、さん…。山南さん……ッ」


名を呼ぶが、もう山南はこの世には居ない。
先程自分で首を切り落としたのだ。

ぽろぽろと涙が首元まで伝い、冷気に晒されたそれは沖田の体温を奪っていく。


沖田は初めて人を斬って泣いた。新撰組の為、近藤の為だからと感情を殺して人を殺めてきた。そしてこれからもそうすることでしか生きられないのだろう。

人を斬るということがこの様にも苦しく、重たいということに今更気付いた自分が嫌になった。


雪を踏み締め、式台まで歩く。足の裏は霜焼けになってしまうのでは無いかと言う程、真っ赤になっていた。その頃、桜司郎は山野や馬越らのいる平隊士の部屋にいた。

「山南総長…何故脱走なんてしたんだろうな」

山野は天井を仰ぎながら呟く。
平隊士は切腹に立ち会えず、脱走の理由すら知らされていない。その為、憶測だけが走っていた。


「土方副長の陰謀説もあるんやろ?」

「仲悪そうだったからな。昔からの仲間だというのに、腹を切らせんのかよ…。容赦ないよな。まさに鬼副長だ」

そこへ比較的最近入隊したばかりの隊士数名が話に入ってくる。根も葉もない噂話に花だけが咲いていく。

土方がと山南の立場を悪くしたとか、山南の人徳に嫉妬したとか。沖田も優しそうに見えて、冷酷だとか。

「や、止めましょうよ…。根拠の無い話は」

「そうだぜ。俺らには分からない事だってあるだろうよ」

馬越と山野が隊士達を諌めるが、全く聞く耳を持っていない。
それを黙って聞いていた桜司郎だったが、やがて我慢が出来ずに立ち上がった。
それに驚いたように山野と馬越が桜司郎を見上げる。

「副長は、沖田先生はその様な方では無いです…。昔からの仲間が切腹するんですよ、悲しくない訳が無いじゃないですか!」

その脳裏には苦悩に苛まれる土方や、脱走を知った時の呆然とした沖田の表情が浮かんだ。

彼らはそれを知らないとは云え、その覚悟が馬鹿にされた気がして嫌だった。

あれ程賑わいを見せていた大

2023-11-30 18:22:35 | 日記
あれ程賑わいを見せていた大通りからは、すっかり人も居なくなった。
一層の事、もう見付かりませんでしたと言って帰ってしまおうか。

そう思い、馬の手綱を引こうとしたその時だった。

目の前から見慣れた人物が行灯を片手に歩いてくる。


「やあ、総司」

まるで市中でばったり出会したかのような、yaz避孕藥 その朗らかさに沖田は目を丸くした。

言いたいこと、聞きたいことは沢山あった。だがそれよりも早く連れて帰りたい。

「さ、山南さん……。早く屯所へ帰りますよッ。今日中なら脱走にはならないと、土方さんも…!」

沖田は山南へ詰め寄るように、捲し立てた。山南はそのような沖田の気持ちを知ってか知らずか、微笑む。

「…総司、山は見ましたか」 

「…山?」

「ええ、近江の山です」


要領を得ないその質問に、沖田は眉を顰めた。山南は欄干へ手をかけると、目を細めて暗くなった山を見詰める。そうしているうちに、冷たい風と共に大粒の雪がチラついて来た。空を見上げてみると、雪雲が運命を嘲笑うかのように覆い尽くしている。


「…今宵は多く降りそうですね。総司、私のしている宿へ行きましょう」

「駄目です。今すぐに帰りましょう…ッ。今日じゃないと駄目なんですってば…!」

駄々っ子のように顔を歪める沖田の頭を山南はポンポンと撫でた。

「大雪では馬も走れません。大丈夫です、明日になれば帰りますから。総司を風邪引かせたとなれば、若先生に合わせる顔がありませんよ」


山南はと近藤を局長ではなく、若先生と呼んだ。それはまるで試衛館時代のように。


そうしている間にも雪は吹雪いてきていた。ヒヒンと馬の鳴き声が鼓膜に張り付く。


「ほら、宿へ行きましょう」

山南は沖田の腕を優しく掴み、自身の宿へと誘った。沖田はれたまま、山南に着いて行く。

女将へ事情を説明し、布団をもう一組用意してもらった。


「ほら、ですよ。寒かったでしょう、暖まって下さい」

そう促すが、沖田は部屋の入り口から一歩も動かない。山南は笑みを浮かべると、沖田の腕を引いた。
そして無理やり座らせる。

窓に目をやると、案の定遠くが見えない程に吹雪き始めていた。

「総司を追っ手に選んだのは、土方君ですか」

山南の質問に、沖田は小さく頷く。それを見た山南は面白そうにくすりと笑った。


「流石は土方君だ。私が総司に甘いことを見抜いている。総司相手に私は抵抗など出来ないし、そもそも勝てませんからね」

「山南さん…。土方さんが何故私を追っ手にしたと思いますか」


どうしても諦めたく無かった沖田は、情に訴えかけるように話す。山南はそれを黙って聞いた。

「貴方のことを大好きな私が、どうするかなんてあの人にはお見通しな筈だ…!!それでも私を、たった一人で行かせた理由を貴方が分からない訳がないでしょうに!」

静寂を切るような沖田の声は、悲鳴に近い。どうすれば、この大好きな兄が死ななくて済むか。逃げてくれるか。その事だけを考えていた。


「貴方は私に、江戸へ帰りたいと言った!ならば、このまま江戸へ行けば良いじゃないですか……ッ。私は明日になれば一人で帰りますから……、お願い、します…」

沖田は炬燵から出ると身を乗り出し、山南の両腕を掴む。を垂れ、縋り付いた。

肩を震わせる沖田を見ながら、山南は酷く心を痛める。

数日後。

2023-11-30 18:09:09 | 日記
数日後。山南は宣言通りに隊へ戻った。

決して長くは無い休暇だったが、隊の雰囲気が異なっていることに気付く。

あまりにも伊東を慕う声が大きいのだ。これが土方の危惧していた事か、と眉を顰めた。


「…私とした事が、mirena 子宮 環 していましたね。こうなる危険性を見抜けないなんて」

心の何処かで伊東甲子太郎という人物を侮っていたのかも知れない。もしくは買い被りすぎたのだ。
調和をもたらしてくれると思っていたが、蓋を開けてみれば、破滅へ近付いているではないか。


山南が廊下を歩いていると、前から伊東が来るのが見えた。その後ろには取り巻きを従えている。
随分と数が増えた、と山南は眉を僅かに動かした。


「山南君では無いですか。もう身体は大丈夫なのでしょうか」

「ええ、お陰様で」

伊東はにっこりと笑みを浮かべると、山南の耳元に顔を近付ける。

「…山南君が無理だと言っていた、局中法度。局長へ嘆願したら、割にあっさりと覆りましたよ。やはり大切なのは真心です」

「そうですか。それは良かった」


山南は土方から聞いていたからか、動揺の欠片すら見せずに淡々と伊東の話を受け流した。

伊東はその態度にムッとしつつも、更に話を続ける。

「山南君、私は心の底から貴方の快癒を願っていましたよ。北辰一刀流の同門、そして同じ尊王を目指す者同士、もっと結託すべきだと思うのです」


血なまぐさい法度を誇りだという山南は理解出来ないが、それでも共通点も多く頭の切れる山南のことを伊東は欲した。

所詮、法度はは無くしてみせる。心を込めて説得すれば、きっと山南も納得してくれる。

伊東はそう信じて止まなかった。


だが、伊東にとって誤算があった。既に山南がそんな伊東の心中を察しているということである。


「有難うございます。やはり伊東君は偉大なお人だ。それでは、私はこれにて」

山南は恭しく笑みを浮かべると、伊東の横を通り抜けていった。を縛り付けて締め付けるための脅しに過ぎない。そして、幹部にとって都合の悪い者を粛清するためのモノだろう。

自分が来たからには、月が厚い雲に覆われ、光のない夜の事。
前川邸にある道場にて桜司郎は一人で竹刀を振るっていた。
冬の間は寒い上に足場が悪いため、壬生寺では無く此処を使用しているのだ。

油代節約の為に、小さな行灯一つだけを部屋の片隅に置き、仄かな明かりだけで稽古を重ねる。

慣れてくれば、柱や足元くらいなら見えた。

柱に凭れかかりつつ一休みしていると、ひた…ひた…と足音のような物が聞こえる。

桜司郎は耳を澄ましつつ、身体を硬直させた。
この様な夜更けに道場へ向かってくるなんて、誰だろう。

「だ、誰ですか?」

幽霊の類いだろうかと顔を引き攣らせた。行灯を取りに行こうと、足音に背を向けないように後ずさりをする。

目を凝らしていると、影が道場へ入ってくるのが見えた。その時、影から発される殺気に似た気が桜司郎を包む。

ぞくりと背に粟立つのを感じつつ、竹刀を握る手に力を込めた。

「桜司郎君、行きますよ。竹刀を構えなさい」

聞き覚えのある声である。山南だと分かった瞬間、桜司郎の気は緩んだ。