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「この度は御婚礼の儀

2024-06-27 20:15:20 | 日記
「この度は御婚礼の儀、恙無のう相済みましたる由、心よりお喜び申し上げます。
この同盟によって、織田家の繁栄もますますもって揺るぎなく──」


翌日の昼四つ(午前10時頃)。

婚礼三日目のこの日、那古屋城・表御殿の大広間では「御披露目の儀」が執り行われていた。脫髮先兆

親族や一門が主だった昨日とは打って変わり、広間の下段には織田家の家臣たちがズラッと居並んでいる。

新郎新婦たる信長と濃姫を上段に迎えて相対し、家臣一同から婚姻の祝いを夫妻に申し上げるのである。


濃姫は、桐と鳳凰が刺繍された美しい萌黄色の打掛を纏って、上段の左側に控えていたが、

右側の信長の席は、いつものことながら空いていた。

婚礼最後の儀式も見事にすっぽかされたのである。


幸い儀式の間、家臣たちは顔を上げることが許されない為、昨日ほど大きな騒ぎにはならなかったが、

濃姫や信秀、政秀を始めとする家老たちは、『またしてもか…』と、皆呆れ切った顔で儀式に臨んでいた。
この日をもって長々しい婚礼の儀は一通り終わり、濃姫は名実共に信長の妻となった。

三保野などは相変わらず濃姫を“姫様”と呼んだが、他の者たちは通例に従って『お方様』と呼称を改め、

まだ十五歳の若き姫を、那古屋城の奥向きを一手に束ねる女主人として、更にも増して重んじたのである。

濃姫自身も奥方となった自覚が湧いて来たのか、以後は皆々同様に信長のことを“殿”と呼び、

美濃に送る手紙にも自分の名を“帰蝶”ではなく、必ず“濃”と署名するように心掛けた。

これは単に自覚だけの問題ではなく、自分はもはや美濃にいた頃の幼き姫ではなくなり、

今や立派な大人の女性になったのだという、自身の成長ぶりを道三や小見の方に伝える為の、密かな見栄であった。






「姫様、この衣など如何でございましょう?お色も華やかで上品にございます」

「いや、もっと地味な色の方が良い。出来る限り質素な物が」

「地味で質素にございますか?」
「そうじゃ。…三保野、そっちの反物も見せてたもれ」

「は、はい」


婚儀から数日後のある麗らかな日。

濃姫は御座所の居間に大量の反物を運び込ませて、三保野と共にそれらを一つ一つ広げて眺めていた。

しかしどうも姫が気に入るような物は見当たらないようである。


「これも駄目じゃ。どれもこれも美し過ぎる」

「当たり前でございます。ここにある反物は全て、お輿入れに際して美濃のお方様が持たせて下された物ですから」

嫁入りの持参品に質素な物など選ぶはずはないと、三保野は真面目顔で言った。

「それもそうよのう…。やはり新たに用意させるしかないか」

「あの──失礼ながら姫様」

「何じゃ?」

「急に反物など広げて、いったい何をなされたいのでございます?私には皆目検討が付かぬのですが」

三保野が当惑しているのを見て、濃姫はやれやれと首を横に振った。

信長はそれを見て“やはり”と思ったが

2024-06-27 20:13:03 | 日記
信長はそれを見て“やはり”と思ったが

「いや、答えるには及ばぬ。蝮殿でなくとも、この乱戦の世を生き抜く武将ならば誰でもそうするであろうからな」

微笑を浮かべ、理解のあるところを見せた。激光生髮帽

「じゃがそちは、刃はおろか針一本も持ち込まなんだ。
大うつけと呼ばれるこの儂に、身一つで挑むつもりだったのか?」

濃姫は答えず、ただ気まずそうに俯いた。

「答えとうないか。はははは、まぁ良い。どちらにしろそなたは大したおなごじゃ」

愉快そうに笑う信長を見て、濃姫は顔を強張らせながらも、密かに溜飲を下ろしていた。


もしも短刀を忘れずにこの場に持って来ていたら…

もしも信長の訪れが遅れ、短刀を取りに戻る時間があったら…

きっと自分は間違いなく美濃の諜者と警戒され、最悪命の危険に曝されていたであろう。


とても運が良かった──

と、濃姫は改めて短刀が手元にないことに感謝していた。
すると、信長は寝間着の裾を捌いて立ち上がり

「今宵はよう休め」

と姫に告げ、そのまま寝所の出入口へと歩を進めた。

濃姫は驚いて「もし!」と、信長の背に向かって叫んだ。

「どちらに参られるのです!?」

「儂は別で休む。そちはここで寝よ」

「何を申されまする!今宵は…」

「そなた、何か勘違いをしておるようじゃな」

信長は踵を返し、姫の言葉を遮るように言った。

「確かに儂は、そなたの度胸と覚悟は認めた。だがそれだけじゃ。
そなたに心を許した訳ではない」

濃姫は思わず眉をひそめた。

「儂と閨を共にしたくば、儂が信ずるに値するおなごになれ、お濃。
儂が気を許せると思えるおなごにな」

「…信長様…」

「それまで儂らは真の夫婦(めおと)ではない。よう覚えておけ」

そう言い置くと、信長はドタドタと足音を響かせながら寝所から出て行った。
濃姫はそれを唖然とした表情で見送ると、へなへなとその場に座り込んだ。


「──殿!いずこへ参られまする!?」

「──今宵は独りで寝る!付いて来るでない!」

「──なりませぬ殿、今宵は初夜なのですよ! …お待ち下さいませ!殿!」


部屋の外から信長を止める侍女たちの声が聞こえてくる。

暫し濃姫はそれに黙って耳を傾けていた。

が、ややあって目を見開くと、何かに突き動かされるように自身も寝所から出て行った。


前を見据え、足早に廊下を行く濃姫に

「まあ!姫君様までどちらへ」

「お戻り下さいませ!」

と、控えていた女たちが口々に叫んだが、姫はまるで聞かなかった。

濃姫はそのまま自分の御座所へ戻ると、居間の襖を開き、スルリと中に身を滑らせた。


「──姫様!まぁまぁ、いったいどうなされたのです!?」

居間の隅で調度品の整理をしていた三保野が、何事かといった風情で主人の帰宅を出迎える。
「信長殿が寝所から出て行かれた故、私も戻って参った」

「何と…!」

「夫の居ぬ夫婦の寝所に、私だけが居続けても仕方がないからのう」


濃姫は軽く息を吐(つ)くと、部屋の上座に進み、金襴縁取りの茵の上に腰を下ろした。


「しかし、信長様は何故の理由でご退出を !?」

訊きながら三保野は、足早に姫の御前に控える。

「私がまだ、信ずるに値するおなごではないからじゃそうな」

「 ? 」

「私があのお方にとって、気の許せるおなごになれば同衾して下さると言うておった」

淡々と語る姫の前で、三保野は戸惑いがちに首を傾げた。

「三保野には皆目わかりませぬ。信長様は何故にそのようなことを?」

「さぁのう。…なれど、敵の多いお方じゃ。おなごでもおのこでも、信頼の置ける者でなければ寄せ付けぬお人なのやもしれぬ」

「大うつけと呼ばれるあなたに嫁

2024-06-27 20:09:54 | 日記
「大うつけと呼ばれるあなたに嫁ぐことが決まってから、私は、しとうもない覚悟を何度も何度もさせられて参ったのです!

その時の苦労を無にするような真似など、私には出来ませぬ!覚悟を踏みにじられるくらいなら、死んだ方がましでございます!」


まるで、今まで溜まりに溜まっていた濃姫の心の中の鬱憤が、全て吹き出したかのようだった。FUE植髮

自身でも不思議なくらい頭中に言葉が溢れてきて、これまた不思議なくらい口がよく動いた。

人前で、それも男性に長々と叫び続けたのが初めてだった濃姫には、暫し、全身に痺れるような感覚が走っていた。


顔を真っ赤にして、肩で荒く息をしていた濃姫だったが、目の前の信長のきょとんとした顔を見て

「……ぁ」

思わず自身の口を両手で覆った。
身体中の熱がどんどん冷えていくのに従って、濃姫は冷静さを取り戻していった。

が、同時に自分がしたことの危うさに気付き、まるで血液が一気に外に流れ出たかのように、濃姫の顔面は真っ青になった。


何てことをしてしまったのだろう。

仮にも自分の夫に対して、不作法かつ品性に欠けるような真似を──。

貴人の姫君としてあるまじき振る舞いである。

濃姫の口からは、もはや形ばかりの詫びの言葉すら出なかった。


「……あの…」

何か言おうと努めてはみたが、先程の反動からなのか、上手く口を動かすことが出来ない。


二人の間に数秒、妙な沈黙が流れた。


非常に短い沈黙ではあったが、濃姫はその数秒の間に

『 殺される… 』

『 逃げなければ 』

『 いや、ここは素直に詫びて、勘気を解いた方が良いのでは? 』

『 だが、相手は尾張の大うつけ。まともに話を聞いてくれるかどうか… 』

と、様々なことを瞬きの如く考えていた。
「──そなた」

ふいに信長が沈黙を破った。

その静かな呼びかけが、濃姫には怒っているように聞こえたのか、慌てて平伏の姿勢をとった。


叱咤されるか…

はたまた手打ちにされるか…


濃姫が震えながら頭を垂れ続けていると

「宴の席でも思うたが、そなた、見かけによらず大きな声が出るのじゃな」

信長が揚々とした声で言った。

思わず鎌首をもたげる濃姫の顔面に、驚きと戸惑いの色が滲む。


「奥のおなごたちは常にヒソヒソヒソヒソと、まるで囁くかの如き声量で話す故、聞き取り辛うて敵わぬのじゃ」

「……」

「儂は上品ぶったのは好かんでのう。これよりはそちも、今のようにはっきりと物を言うように致せ。良いな?」

そう告げれて、濃姫は躊躇いながらもコクリと頷いた。
「それとそなた、“自分は父とは違う”と申しておったが、

いやはや先程のそなたは、まるで武将の如き凄まじさであった。

やはりそなたは蝮殿の娘じゃ。その荒々しさは父親譲りと見ゆる」


言うなり信長は、いつもの豪快な笑い声を上げた。

一人で語り、一人で納得している信長を、暫し唖然として眺めていた濃姫だったが

「お、畏れながら!」

ややあって畳に手をつかえ、声を張った。

「お怒りでは…ないのですか?」

「何がじゃ」

「立場を弁えず、無礼なことを数々申しました故……お気に障られたのではないかと」

「ああ、気に障った。特に信勝云々のところは大いにな」

「申し訳ござい…」

「謝るな。儂がそちと蝮殿を比べた故、ああ申したのであろう?」

「──」

「ならば相子じゃ。気に致すな」

思いがけない優しい言葉に、濃姫は呆気に取られたような顔で相手を見やった。
一瞬 死をも覚悟していただけに、後からやって来る安堵感はとても大きなものだった。

濃姫がほっと胸を撫で下ろしていると

「お濃」

「…はい」

「近こう寄れ」

「─?」

「儂の側へ参れと申しておる」

ガタンッ!

2024-06-27 20:00:06 | 日記
ガタンッ!


やがて戸襖が開く音が響き、信長らしき男の足が、自分の頭の前をドタドタと通って行った。植髮失敗

男の足がのべられた褥を踏み、その上で胡座をかくと

「では、殿、姫君様。ごゆるりとお休みなされませ──」

外に控えていた侍女たちは一礼し、素早く寝所の戸襖を閉めた。


侍女たちが寝所の前から離れると、室内は一気に静寂に包まれた。

あまりにも静か過ぎて、濃姫は、緊張と焦りとで高鳴る自分の心臓の音が外に漏れてしまうのではないかとすら思った。


それからややあって

「いつまで頭を下げておる。いい加減面を上げよ」

信長のあの妙に高い声が、濃姫の頭上に放たれた。
「…はい」

姫は一度深く頭を下げてから、ゆっくりと頭を上げていった。

「れながら、今夜より何卒よろしくお願い申し上げます。不束者ではございますが、殿の正室として精一杯──」


頭を完全に上げ切ったところで、濃姫は思わず目を見張った。

えと驚きが入り混じったような表情で、姫は目の前の相手をしげしげと眺める。


「…誰…」

「は?」

「…あなたは、誰なのです !?」


濃姫は狼狽した。

大広間で見たあの信長とは違う、別の男が目の前にいたのだ。

白い寝間着を無造作に纏ったその男は、目鼻立ちの整ったなかなか美男子である。

細身だが、適度に筋肉のついた力強そうな体格をしており、浅黒くやけた肌が何とも健康的に見えた。

洗髪したばかりなのか、肩まである黒髪は結い上げず、生乾きのまま後ろで一つに纏められた状態だった。
顔だけ見ると、どことなく信勝に似た雰囲気があったが、目の前の男の方が信勝よりも何倍も凛々しく、生き生きとしていた。

濃姫は訝しみつつも、男が放つ野性的な魅力にぽーっとなっていると

「その方、まさかさっきの今で、もう夫の顔を見忘れたと申すのか?」

男は立ち上がり、グイッと姫の前に顔を突き出した。

「お、夫 !?」

「他に誰に見えるというのじゃ? 言うてみよ、蝮の娘御殿」


その妙に粘っこい口調は確かに聞き覚えがあった。

俄には信じられなかったが、骨格といい、鋭い目元といい、広間で見た信長と全く同じである。


「まことに…信長様なのですか?」

「決まっておろうが。無礼なおなごよのう」

信長は不愉快そうに濃姫から顔を放すと、再び褥の上にドンッと腰を下ろした。

その反応を見て、信長本人と確信したのか

「こ…これは、大変失礼を致しました!」

濃姫は慌てて低頭した。
「気の悪い──。外の侍女たちも “ 殿 ” と呼んでいたではないか。何故 気付かぬ」

ぶすっとした面をして、信長はガシガシと頭を掻く。

「お許し下さいませ。…広間で見たお姿とは、あまりにも違いました故」

「平手の爺があまりにもそう言う故、久方ぶりに風呂に入ったのだ。

おかげで泥やがみな落ちてしもうて、身体中どこもかしこも真っ白じゃ」


確かに広間で見た信長は、顔も手足も泥まみれであった。

汚れが落ちただけで、こうも劇的に変わるとは…。

どれだけ “ 久方ぶりの風呂 ” だったのかと、濃姫は思わず表情を歪めた。

ただ、見違えるほど美しく清潔になった点については、唯一評価出来る部分ではあったが──。

「何じゃ、何故そんなにも儂のことをじっと見る?」

「…え」

濃姫は畳に手をつかえたまま、自分でも気付かぬ内に信長の顔を仰視していた。

そんな三津の背中に入江がそっと手を

2024-06-21 20:37:57 | 日記
そんな三津の背中に入江がそっと手を置いた。


「その土方も松子をしつこく追いかけ回す輩の一人です。それと松子は一度長州との繋がりを疑われて土方に拷問を受けてます。」


「ご……拷問……。」


栄太がごくりと唾を飲み込んだ。竜太郎は信じられないと言う顔で三津を見下ろしていた。そして生きているのだから大した事はないだろうとも思っていた。連帽衛衣


「えぇ,私は妻に二度とそんな怖い目に遭わせたくない。なのでどうか三津の存在は口外しないようにお願いします。」


入江も三津と同じぐらい頭を下げて懇願した。


「河島様!松子さん!どうぞ顔をお上げください!
松子さん,よう耐えはったんですね……。」


栄太の言葉に二人はゆっくり顔を上げた。入江はまっすぐ前を向いたが三津は俯いたままでいた。


「どの程度の拷問やったんですか。」


「こら!竜!」


失礼な言い方に栄太は竜太郎の後頭部を拳骨で殴った。


「酷いものですよ。肋骨を数本折り,顔面は腫れ上がるまで殴られて腕や足も痣だらけ。左腕なんかしばらく上手く動かないぐらいに痛めつけられて。
あちらに送り込んだ間者からの報告にあの木戸さんですら報復を企てたぐらいですから。」


その内容に栄太は顔を引き攣らせ,入江は思い出すだけで腹立たしいと渋い顔をした。


「よ……よくぞご無事で……。」


栄太が生きてて良かった良かったと三津に声を掛ける横で竜太郎は呆然と三津を見ていた。そしてぽろっと言葉をこぼした。


「ホンマによく生きてましたね……。」


「えぇ……でも一度死にかけた時より回復は早かったので……。」


「えっ二度目?一度死に損なった?」


「このど阿呆!!」


竜太郎の失礼な発言にまたも栄太の拳骨が後頭部に放たれた。


『竜太郎さんもちょっとクセのある人やな……。』


三津は苦笑いで死に損ないだからお気になさらずと言っといた。


「竜太郎さんにとっては言い訳に聞こえるかもしれませんが……その一度死に損なった時に私は大切な人を失いました。弥一さんから求婚を受けたのはその後なんです。
その時の私は失った彼の後を追う事ばかり考えていて……他の方と結婚やなんて考えられんかったんです。」


それを聞いた竜太郎は黙り込んでしまった。三津はそんな竜太郎をまっすぐ見つめた。


「竜太郎さん,きっと弥一さんから色々聞いてはるとは思います。私をどんな目で見ようと私は構いません。ですが,小太郎さんの足を引っ張りたくありません。
私の存在は置いておいて長州の為にこれからもよろしくお願い致します。」


そして頭を下げるのが三津に出来る事だった。「松子さん!松子さん!ホンマにもうよろしおす!絶対長州の皆さんが不利になるような事は致しません!
竜!お前が謝らんかっ!失礼な事ばっかいいよって!!」


栄太は竜太郎の頭を押さえつけるから今度は入江がそちらを止めた。


「大丈夫です,私らに不利な事は薫堂さんにも不利に働くのは承知してますから私もヘマはしないよう気を付けます。
松子,帰ろうか。」


入江の優しい声と背中を撫でてくれる手に安心感をもらい,三津はゆっくりと顔を上げた。


「松子さん,いつでも顔を見せに来て下さい。」


栄太が待ってますと微笑んでくれたので三津も分かりましたとやんわり笑みを浮かべてその日はお暇した。


外に出て少し店から離れた所で三津は盛大な溜息と共に崩れ落ちた。


「お疲れ様。何か色々と誤算が起きたな。」


だがかなり面白いと入江は他人事のように笑った。


「もう頭真っ白です……。帰ってからゆっくり整理したい……。」