「……こんな事、お前にしか頼めないからだ」
斎藤一という男は、新撰組屈指の剣豪であり、その真面目さと多くを語らぬ姿勢から、多くの暗殺や斬り込みを任せられてきた。故に土方からの信頼は厚い。その上、藤堂とも同い年という共通点の元、懇意であるからあれば何とかしてくれるだろうという期待があった。
それを聞いた斎藤は微かに目元を動かす。子宮內膜增生
断られても仕方がないことだと思いながら、土方は腕を組んだ。
だが。
「ああ。引き受けよう」
斎藤は迷うことなく即答した。頼んだ本人すら驚くくらいに何の迷いすら見せない。
「……本当に、良いのか」
思わず土方は確認の言葉を漏らした。
斎藤は長い睫毛を伏せると口元を緩める。
「良いのかって……、あんたが頼んだんだろう。俺はここに入る時、が命はあんたに託すと決めたのだ」
それを聞いた土方は胸の奥にグッと込み上げる何かを感じた。鉄の仮面が剥がれ落ちそうになるのを必死に堪える。
「……すまねえ。まだ分離の件は正式に決まった訳では無いからな。だが、そう遠くない筈だ。徐々にに取り入ってくれ」
「承知。……時に土方さん。一体どうして参謀は事を急ぐようになった」
「さあな。大方、長州との戦に幕府が敗北したような形になっちまったから、尻込みしたんだろう」
その言葉に、斎藤はふむと声を漏らす。
土方は文机の引き出しから煙管を取り出すと、吸っていいかと尋ねた。斎藤が頷くのを確認すると、手際良く火を付けては煙を燻らせる。
ふう、と紫煙を吐き出すと舌で乾いた唇を舐めた。
「あの野郎が接触してんのは、薩摩だ。……あれもいけ好かねえ。ついぞこの間までは先陣切って長州と戦っていた癖に、此度の戦では何やら理由を付けては断っちまったそうじゃねえか」
近頃、悩みの種が多すぎて口を開けば愚痴になってしまう。それが信頼にたる男の前ならば尚更だ。
「成程。薩摩か……」
「薩摩も伊東も。大方、勝ち馬に乗りたくて仕方ねえんだろうよ。……男たるもの、一度行くと決めた道を違えることはあっちゃならねえんだ」
土方の、新撰組の主君は会津である。引いては幕府だと信じて止まなかった。故に多少思いがけない敗北があったとしても、コロコロと手のひらを返すような情けない真似は出来ないと云う。
それを聞きながら、斎藤は薄く笑みを口元へ浮かべた。農民の生まれながら、そこらの武士よりも遥かに武士らしい信念を持った目の前の男が眩しく見える。
「それでこそ、土方歳三だ」
──あんたがあんたで居てくれる限り、俺は何処までも着いていく。
斎藤はそう思いながら、目を細めた。 一方で夜も更けた頃。伊東は実弟の三木三郎、腹心の篠原泰之進を自室へ集めていた。
出来るだけ灯りを暗くし、廊下へそれが漏れないように細心の注意を払う。
「……ようやっと、分離の話しを局長と副長へ上げました。局長からは待って欲しいと言われましたがね」
「これで甲子太郎さんの道が開けるのですね。おめでとうございます」
伊東を下の名で呼ぶのは篠原だ。何を考えているか分からない程、感情が顔に出ない男である。江戸からの付き合いであり、伊東へ心酔していることだけは間違いがなかった。
「待って欲しいと言われて、はいそうですかと従う阿呆がいると思ってんのかね?ボケてやがんなァ……」
三木は呆れたように舌打ちをすると、片膝を立ててその上に腕を置く。
「……三郎、言葉遣いが悪いですよ。確かにもう一押し出来る口実が欲しいのも事実ではあります。ですが、ここまで殆どが上手くいっていますから。天は我々に味方して下さることでしょう」
伊東は聖人のような笑みを浮かべると、それにしてもと言葉を続けた。
「ここまで近藤局長に時流を見る目が無いとは、思いも寄りませんでした。はっきり申しまして、失望です」
伊東は薩摩人と深く交流するようになってから、この時の流れが幕府にはもう無いことを知っていた。
ついぞ最近酒の席で聞き出したのは、年明けくらいに
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