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正直、あのときは

2023-08-23 23:04:23 | 日記
 正直、あのときはおれ自身、その勇気がなかった。
 
 もしかしたら、大どんでん返しがあるかもしれないという、ムダな期待を心の片隅に抱いていたということもあるかもしれない。

 結局、なんちゃって牢屋で 正直、婦科檢查 あのときはおれ自身、その勇気がなかった。
 
 もしかしたら、大どんでん返しがあるかもしれないという、ムダな期待を心の片隅に抱いていたということもあるかもしれない。なのだろうか。それともも、ただ単純に現実から逃避し、真っ白になっているだけなのだろうか。

 兎に角、いまのおれは、勇気がある。自信をもっていえる。
 
『局長の最期を、しっかり見届けることができる』と・・・・・・。

 副長は、どうだろうか。永倉と原田と島田は、どうだろうか。

 局長は、穴にをさしだしたまま、微動だにしない。ぎりぎりみえる左半面は、瞼を閉じ、じつに穏やかなである。

 ついさきほど、局長のことを散々悪くいってしまったが、それはおれの腹立ちまぎれの戯言である。
 
 心から謝罪したい。
だ。も。いまはもう、鼓動も感じられない。

 剣を握る俊冬と側に控える俊春は、どちらもそのは無機質でかたい。   
 かれらもきっと、真っ白な状態にちがいない。いいや。真っ白にしようと努力しているのかもしれない。

 その俊冬の瞼が数秒とじられ、カッとみひらかれた。

『ひゅんっ!』

「二王清綱」の空を斬り裂くするどい音が、耳をうった。

 局長の体が、バッテリーの切れた人形のごとく地面にくずれてゆく。それはもうゆっくりと。まるで映像をみているかのように、スローモーションで引力にひきよせられてゆく。

『どさっ』

 地面に倒れた頸のない体。大量の血が、切断面から穴へと落ちていっているだろうか。

 頭部は、穴の底に転がっているだろうか・・・・・・。

 俊冬の手練は見事であった。
 
 本物の横倉より、ずっとあざやかだったにちがいない。

 近藤勇は、板橋の刑場にて斬首された。享年三十三歳。

 おれは、またしても助けることができなかった。

 このときになってはじめて、縄のことを思いだした。テンパったり憤ったり口惜しかったり悲しかったりと、感情の波にもまれまくっていた。そのせいばかりではないが、そのことをすっかり忘れてしまっていたのである。

 そうだった。俊春が、すぐにでもほどけるように細工してくれていたのである。

 握らせてくれた縄をひっぱってみる。どういう仕掛けなのか、するするとほどけはじめた。野村も同様に、いまになって思いだしたらしい。かれの体の縄も、おなじように上の方からするするほどけはじめている。

 窮屈さと痛みからじょじょに解放されてゆく。同時に、血流がよくなり、血が頭のてっぺんから足の指先まで駆け巡りまくっている錯覚を抱く。
の状態は兎も角、おれは生きている。
 不謹慎にも、心からそう実感してしまう。

 俊冬は、「二王清綱」の刀身を俊春に水で清めてもらっている。
 
 あれだけあざやかに斬ってのけたのだ。刀身に血糊はついていないかもしれない。

 それでも、かれは弟に清めさせている。

 俊春が刀身についた水気を懐紙で丁寧に拭き取ると、俊冬は「二王清綱」を鞘に納刀する。

 そして、双子は局長の頸のない体のすぐ横に、並んで正座した。

 野村と二人、局長の胴体にふらふらとちかづいてゆく。
 見張りたちは、それに気がついたようだ。が、なにもいってこない。を地面にちかづけて。

 おれも局長の亡骸にちかづこうと脚を動かすが、気がせくばかりでうまく動かすことができない。縛られて筵の上に長時間正座させられていたため、血流がよくなってもまだうまく動作できないのだ。
 野村と二人で支え合い、しまいには這いつくばるようにして距離を詰めてゆく。

 そのとき、亡骸をはさんだ向こう側で、土佐藩の立会人が叩頭するのがみえた。それから、視界のすみに、公卿が立った姿勢で上半身を折って深々と辞儀をし、長州藩の立会人が叩頭するのが映った。

 それだけではない。見張りや護衛といった刑場内にいる兵士たちも、土下座して叩頭している。
 そして、刑場の外では、見物人たちが掌を合わせ、それぞれが信仰する宗派の経を唱えている。

 やっとちかづけた。野村とともに、叩頭する。

 見物人たちのばらばらのお経が流れてくる。ばらばらであっても、唱えている対象はおなじである。もちろん、おれたちが叩頭する対象もである。

 近藤勇にたいして、である。
 近藤勇が、この場にいる全員に叩頭やらお経を唱えさせているのだ。

 湿り気を帯びた土をみつめながら、

 局長の亡骸の向こう側で、双子が同時に叩頭した。それこそ、地面をなめることができるほど、
 おれは生きている。

の反乱で大活躍した。

2023-08-23 15:08:58 | 日記
の反乱で大活躍した。唐の時代の武将である。

『靡他今日復何言 取義捨生吾所尊
 快受電光三尺劔 只將一死報君恩』

 敵になびき、もはや言うべきことはない。子宮環 生きることを捨てて義を取ることこそ、私がもっとも尊ぶところでだ。斬首を、快くうけいれようではないか。一死をもって、主の恩に報いるのだ。

 おれは、局長の漢詩をしっかりと覚えている。
 これらは、三鷹市にある龍源寺の局長の墓に刻まれている。

 思わず、口ずさんでいた。野村と俊春の耳に入っただろうか。

「局長・・・・・・」って、こんなに涙がでるものなのか・・・・・・。
 
 女性が失恋したときに大泣きし、さっぱりするときいたことがある。つぎの恋愛に気持ちをきりかえ、つぎのいい彼氏へとステップアップするのだ。

 たしかに、こんなに泣いたら、それはさっぱりするだろう
 
 もちろん、おれはそうじゃない。涙の種類がまったく異なる。

「委細、承知しております」

 俊春が、俊冬の口の形をよむ。
 
 俊冬は、あらかじめ準備されている三方をひきよせた。そこから湯呑みを掌にとり、もう片方の掌を添えて恭しく局長の眼前にかかげる。局長は、それを両掌でうけとり、いっきに呑みほした。そして、それを俊冬へ返す。俊冬は、を運んだ。

 すべての動作がゆっくりとおこなわれる。時間稼ぎであることはいうまでもない。

 かれの動きのすべてが堂にいっていて、まるで舞台をみているようである。


を置くと、局長のところへと戻った。膝は折らずに立ったまま、立会人たちに体ごと向きなおる。

 立会人たちは、ムカつくほどにやにや笑いを浮かべている。

「斬首の理由をしりたい」

 俊冬はもう涙を流してはいない。
 いま、その
を置くと、局長のところへと戻った。膝は折らずに立ったまま、立会人たちに体ごと向きなおる。

 立会人たちは、ムカつくほどにやにや笑いを浮かべている。

「斬首の理由をしりたい」

 俊冬はもう涙を流してはいない。
 いま、そのにあるのは、底しれぬ怒り、そして、得体のしれぬ不気味さである。

 立会人たちは、この期におよんでのまさかの問いに、当惑している。

 かれらにすれば、『いまさら?』って感じであろう。

「の頸を斬るのです。誠の理由をしらされてもいいでしょう?」

 俊冬は、立会人たちがだまっているのでさらに問いかける。

「いかにっ!」

 それでもまだだまっている。かれは、両眼をひんむいて迫る。これはもう尋ねているというよりかは、詰問だ。

 土佐藩の立会人が、ちかくに立つ士官に合図を送った。すると、その士官は当惑したようにいいはじめる。

「われわれに逆らったためです。甲府、それから流山で・・・・・・」
「逆らった?大久保剛、あるいは大久保大和が、ではないのか?」
「い、いえ・・・・・・」に、困惑がくっきりと浮かんでいる。

「一度も干戈をまじえず、武装放棄した上で斥候に投降した。斥候にである。投降するよう勧告する使者にではない。それを、斬首にするのか?しかも、敵である徳川家、否、幕府の助言にしたがって?笑止っ!」

 俊冬は、歌舞伎役者みたいに大仰なみぶりで笑ってみせる。

 いまや、ここだけ宇宙に飛ばされたかのように静かである。見物人たちも、息をひそめて俊冬に注目している。

「薩摩藩の意見に、耳朶をかたむけるべきであったな」

 それは、土佐藩の立会人に向けられたものである。そうと気がついた土佐藩の立会人の体がびくりと動いたのが、はっきりとわかった。

「さしたる証拠もなく、否、それどころか近藤と新撰組が関係のないことをしっているのに、すべてを押しつけ、藩の不手際を葬ろうというのか?」

 その指摘に、土佐藩の立会人の顔色がいっきにかわった。かれの両隣で、公卿と長州藩の立会人の

 士官は、座している立会人にちらりと

 野村は、号泣している。うつむいたに、クエスチョンマークが浮かんでいる。

 薩摩藩は、再三せめて切腹にといいはった。が、土佐藩が斬首をゴリ押しした。坂本龍馬と中岡慎太郎殺害の報復のためである。にされたかにしか、こだわっていない。
 だれがそうさせたのか、ではなく。

 谷の意見を、土佐藩が藩をあげて容認した。そのうえで、藩をあげて支持したのである。

 新撰組が、坂本と中岡を暗殺した。ここで局長をその罪で斬首し、

も、うんざり感が半

2023-08-23 14:52:20 | 日記
も、うんざり感が半端ない。

 斬首などというものにひっぱりだされ、心底『勘弁してくれ』て思っているのかもしれない。

 蒸し暑い。額や背中にを向け見張っているわけではなさそうだ。どの気持ちの悪い汗が浮かび、ゆっくりと流れてゆく。避孕藥香港 背中は兎も角、を曇天に向けてみた。二羽のツバメが、低空飛行している。
 戦闘機みたいなその滑空は、梅雨空を思いださせてくれる。

「大丈夫か?」

 俊春が、おれの右横でかぎりなくちいさな声できいてきた。
 おれがぼーっと空を見上げているので、どうしたのかと心配になったんだろう。

「ええ、いまのところは。意外と落ちついています。利三郎、おまえは?」

 左横の野村に問う。

「わたしもだ」でささやく。

 いったい、どれだけの人がみにきているんだろう。
 正座しているので、矢来の向こうにどれだけの人々が集まっているのか想像もできない。

 町人っぽい人々がほとんどだが、帯刀している浪人風情もちらほらまじっている。

 正直、そんなことを冷静に観察できる自分に驚いてしまう。

 向こうのほうでざわめきがおこり、それが波になってちかくに波及してきた。

 おれたちの周囲にいる兵士や士官もざわめいている。

 馬にのせられ連行される局長の姿がみえたのは、それからすぐのことである。

 黒羽二重に黒の紋付羽織で、月代も髭も剃っているだろう。

 じつに立派なだ。
の局長の場合はちがうみたいだ。

「きたぞ」
「あれが新撰組の・・・・・・」
「気の毒なこった」
「南無阿弥陀仏」

 どちらかといえば、好意的ともよべるざわめきである。

 見物人たちのおおくが、幕府の庇護下で暮らしてきた人々である。それがなくなって時代はあたらしくなりつつあるとはいえ、そうころっときりかえられるものではない。かれらが親しんできた江城、つまり江戸城は、おれが嘆願書を持参し、とっ捕まった六日後に敵に引き渡されている。

 江戸の町が焼かれずにすんだとはいえ、彰義隊などがゲリラ活動し、敵は当然のことながら各地で小規模に戦闘をつづけている。

 おそらく、戦勝者の例にもれず、町中でやりたい放題やっている敵の兵士もすくなくないだろう。

 つまり、大局をみれば、江戸の町の人々は敵をよく思っていないということだ。
 それが、いまの馬上の局長にたいする言葉にあらわれているにちがいない。

 矢来の一部が開けられ、一行がなかに入った。がっつり切縄で縛られている局長が、馬上から引きずりおろされるのをみて、はじめて心臓がずきんと痛んだ。その痛みは、どんどん増し、ひろがってゆく。呼吸が苦しくなってきた。鼓動がどんどんはやくなり、いつ止まってもおかしくないかのような錯覚を抱かせる。

 過呼吸にちがいない。こんなこと、現代でどんだけストレスがたまったときでもおこしたことはない。

 まずい・・・・・・。

「主計、わたしの呼吸を感じろ」

 そのとき、右耳にささやかれたことで、俊春がおれにぴったり寄り添っていることに気がついた。

 うしろに立つ見張り番たちは、局長に注目していている。

 俊春がよりかかってくれたおかげで、かれの呼吸を感じることができる。

 深く吸って、ゆっくりと吐いて・・・・・・。それを数度繰り返すと、鼓動も気分も鎮まってきた。

「大丈夫か、主計?」「すみません。もう大丈夫です」

 俊春に告げると、かれは姿勢を元に戻しつつ、ささやき返してくる。

「二人とも、けっして声をだすな。とくに主計、表情にだすのではないぞ。二時の方角最前列。編み笠の浪人と従者、駕籠を背負った農夫二人だ」

 人々がざわめいている。そのため、俊春のささやきが野村まできこえたかと思ったが、野村にもちゃんときこえたらしい。かれがそちらへ

 左耳に、野村の心配げな声が・・・・・・。

 そちらに
 時代劇だと、市中引き回しされていると、見物人から罵倒や呪詛や、挙句の果てには石礫なんかが飛ぶもんだが、どこからどうみても立派な

 前方、矢来の向こうをひたとみつめたまま、かれはマジな

を向けてしまう。

2023-08-23 14:33:59 | 日記
を向けてしまう。

「いろいろあった?そうか、おまえがミスったとか、おまえがしょぼいことしたとか、おまえが草とか・・・・・・」
「だーっ、もう!ちょっとだまっててくれないか?」
「ちぇっ、せっかくかまってやってるのに・・・・・・。どうせ、ぽち先生のほうが大好きなんだろう?わたしは、さみしく独り寝するよ」
「はあああ?ちょっ・・・・・・。子宮內膜異位症 利三郎っ、おま・・・・・・」

 こいつといると、高校のときのツレと話しているような錯覚に陥ってしまう。

 宣言どおり、利三郎は部屋の隅でふて寝してしまった。

「そうなのか?」

 ささやき声が、後頭部にあたった。

 振り返ると、存在感すらなかった俊春が、じっとこちらをみつめている。

「はい?なにが「そうなのか?」、なんですか?」
「わたしのことが、大好きなのか?」
「はああああ?そんなわけないじゃないですか、ぽち」
「そうか・・・・・・。ならば、大っ嫌いなわけだな」
「はあ?」

 かれは、シュンとうつむいた。その両肩が、これでもかというほど落ちている。

「な、なんでそんな極端な話になるんです?大っ嫌いって、そういう意味ではありません。そういう意味では、大好きですよ」
「いやらしい・・・・・・」
「ちょっ・・・・・・。だから、そっちのほうの意味でしたらちがいますってば・・・・・・」

 俊春の上目遣いのを感じつつ、かれにうまくかわされているのだと気がついた。

 かれは、おれが俊冬のことを追求することをわかっている。そのため、気をほかへそらそうとしているのか。それとも、先延ばしにでもするつもりなのか。

 ということは、いくら尋ねようがすがろうが、かれは兄のことを容易には教えてくれないだろう。
 
 だが、もしかすると・・・・・・。

 超絶マックスにブラコンのかれのことだ。俊冬のことを心配するあまり、打ち明けてくれるかも・・・・・・。

「ブラコンとはなんだ?以前にも申しておったな」
「はい?ちょっと、よまないでくださいって」

 そういえば、以前は相棒の心のつぶやきをよみ、ブラコンがどういう意味かを尋ねていたっけ。

「あまりいい意味ではなさそうだな」
「まったく・・・・・・。おれのすべてをよんでるんでしたら、おれがききたいこと、いいたいこともわかってますよね、ぽち?」
「ブラコンの意味だ」
「なんでそこにこだわるんです?」

 はぐらかされまくりで、キレそうになる。
 
 ふだん、ここまで短気ではない。が、俊冬のことが気になりすぎている。くわえて、その俊冬のことを気にしている副長のことも気になる。ゆえに、なにか情報を得ようと焦っている。

 これではまるで、副長と俊冬が恋仲で、痴話喧嘩しているのをハラハラみまもっている共通の友人みたいだ。
「ブラザー・コンプレックスの略です。男兄弟にたいして、強い愛着をもっていることをいうんです」
「なるほど。承知した」

 え?そこ、納得するところなんだ。

「わたしは、兄上を愛している。兄上がそばにいないと、力がでぬのだ」
「ちょっ・・・・・・。それ、マジだったんですか?たまもおなじことを・・・・・・」

 ジャム〇じさんは大変だ。俊冬と俊春をいっぱい焼かなければならない。

「ってか、愛してる?あんだけやられっぱなしなのに?」
「兄上もブラコンだ。であろう?兄上もわたしを愛するがため、涙を呑んで厳しくされているのだ」
「愛って・・・・・・」

 たしかに、家族愛とか兄弟愛、というが・・・。
 
 兄と弟の間で愛してるっていうのはどうだろうか。日本人の感覚からすれば、いい年ぶっこいた男兄弟が愛し合っているなんていったら、だいたいの人はひくにちがいない。
 
 それとも、異世界は外国同様だれとでも愛し合うのがフツーなんだろうか。

「わたしたち兄弟はブラコンだ。というわけで、わたしは鍛錬をさせてもらう。さみしさをまぎらわせたいのでな」

 しまった・・・・・・。
 
 わざとだ。おれがおおよろこびして喰いつく「愛」をつかって、核心をはぐらかしたんだ。

「ちょっとまったぁ!」

 立ち上がり、部屋のすみにいこうとする俊春の左腕にすがる。

「逃げるんですか、ぽち?」

 かれはおれをみおろし、華奢な肩をすくめる。

 かれの腕の細さに戸惑いを禁じ得ない。こんな細腕で、よくもまぁあれだけ剣を振ったり、大男や巨獣をぶっ飛ばしたりできるものだ。

「逃げる?まわりをみよ。このひろさだ。逃げようにも逃げられぬ。それに、なにゆえわたしが逃げなければならぬのだ」
「おれとの話を避けてるじゃないですか」
「避ける?いましているのはなんだ?話をしているのではないのか?」
「もうっ!屁理屈はやめてください」

 思わずキレてしまった。叫んだものだから、こちらに背を向けて寝転がっている野村が、ごろんと体ごとこちらに向き直った。


「なにごとだっ!」

 牢番をさせられている兵が駆けつけてきた。
 
 羅紗生地の軍服である。のことはいえないが、この兵士の着せられている感は半端ない。

「申し訳ございません。上役が、わたしの素行が気に喰わぬと・・・」

 俊春は格子にちかづき、牢番にそっと告げる。

「わかるわかる。士分というのは、どこもおなじだな」

 牢番は、うんうんとうなずきつつ共感を示している。そして、おれをにらみつけると去っていった。

「くくくっ」

 野村は、低く笑ってまたこちらへ背を向ける。

 だめだ・・・・・・。とてもじゃないが、俊春には勝てそうにない。

 そのとき、俊春がおれとをあわせてから、野村とは反対側のすみへ

ほうっと感心するく

2023-08-23 00:51:31 | 日記
ほうっと感心するくらいの門に、おおっと感嘆するほどのおおきさの庭がある。庭には、桜の木が数本植わっている。もちろん、いまは青々とした葉っぱだらけだが。ちいさな池もある。
 厨と厠、風呂は、母屋とは別にあるようだ。

 最初に滞在した秋月邸より 經痛 かはちいさいものの、隠れ家にしてはご立派すぎる。

 双子は、これだけの屋敷をだれからどのようにして入手したのだろう。

 またもや、だれかにお願いしたのか?

 資金援助してくれている有力者か、貸しのある金持ちにでも協力をとりつけたのであろうか。

 新撰組の名ではなく、かれらので。

 おそらく、尋ねてもスルーされるかはぐらかされるだろう。
 なんとなく、そう思える。

「副長」

 敷居をまたぐよりもはやく、島田や中島たちが飛びだしてきた。

「ご無事でなによりです」
「ああ、島田。こいつらがいるからな。おれを狙うには狙う馬鹿どものほうが、がいくつあってもたりゃしねぇだろう」

 副長は左掌をこちらへ、厳密には俊冬と相棒なんだろう。兎に角、左掌でおれたちを示しつつ笑う。

「ぽちたまが隠れ家だけではなく、しばらく潜伏していられるよう、必要なものを準備してくれています。とりあえずは、屋敷内を掃除しておきました。ささっ、はやくなかへ」

 島田と中島の案内で、さっそくなかに入る。

 運んできた喰い物は、沢が引き継いでもってくれた。

「医学所で夕飯をつくりましたゆえ、今宵はそれにて我慢してください。わたしは厨にまいり、準備をしてまいります。主計、兼定は奥の庭につれてゆこう」

 俊冬が、玄関先でつげる。みな、おおよろこびである。

「すみません。おれもあとでゆきますので。相棒、たまについていけ」

 俊冬と沢は、玄関からでていった。相棒がそれにつづく。
 庭を横切るか突っ切るかして、厨にゆくのだろう。


「厨に、米や味噌、それに醤油や干物がございました。ほかにもなにかありそうです」

 中島が報告する。

「できた男はちがうな。そうは思わねぇか、主計?」

 島田と並びあるきつつ、副長が厭味ったらしくふってきた。

 ちゃんと食料まで準備している双子は、そりゃぁもうできた男たちである。

 そんなことをわざわざ口にださずとも、ここにいる全員がわかっている。

「ええ、ええ。それはそうでしょうとも。副長。それでしたら、副長職以上の給金を支払わないと、かれらは働けば働くほど赤字になってしまいますよ」
「たしかに、そのとおりだな」

『ジョークちょっぴり嫌味添え』で返すと、副長がマジでかえしてきた。ゆえに、またもや地雷を踏んでしまったのかと焦ってしまった。

「が、金がねぇ。あいつらには悪いが、資金面でどうにかなるまで甘えるしかねぇな」

 副長は、うしろからついてくる隊士たちにはきこえぬようささやく。

 それこそ、隊士たちに支払う金子すらないのかも。

 一番ひろいということで通された部屋は、三十畳はあろうかという大部屋である。しかも、上座は一段高くなっている。

 現代っ子バイリンガルの野村がいたら、喜び勇んで子どもらと殿様ごっこをしそうである。

 そんな想像は兎も角、おれたちを追って江戸に潜入したのは、六名である。

 島田と中島と沢。それから、旗役頭取の。大坂出身で、旗役頭取だけあってルックス抜群である。身長が高くてモデルっぽいといえばいいか。
 おとなしいかれも、残念ながら「おもろない」サイドの男で、アラサーである。

 かれは、会津の母成峠の戦いで戦死することになっている。は未成年で、両長召抱人である。つまり、準隊士といった扱いである。すばしっこく、我流の剣をつかう好男子だ。

 かれも母成峠の戦いに参加するが、生き残って福島で投降する。

 もまた、畠山同様まだ未成年の両長召抱人である。見た目はイケメンで優等生タイプの畠山とは正反対で、ごっついヤンチャ系のかれは、畠山と入隊時期がほぼおなじである。というわけで、二人は仲がいい。
 見た目に反し、畠山の方が活発でガンガンいくようだ。松沢は、やさしくおとなしい