教えない方が無責任
東京都の中学校で3月に行われた性教育の授業で避妊などが取り上げられ、都議会議員が問題視した。これに対して教育内容への介入だと批判がある。感染症に詳しい神戸大の岩田健太郎教授に性教育の在り方を聞いた。
知識 リスク回避に不可欠
今春、東京都の中学校え行われた性教育が不適切だとして都議会議員や都教育委員会に批判されました。報道によると、コンドームやピルを使う避妊方法や人工妊娠中絶などを授業で説明したが「中学生の発達段階に合わない」「『性交』や『避妊』といった言葉は中学校の学習指導要領にない」など問題視されたのだそうです。
こうした「行き過ぎた性教育」批判は近年しばしば聞かれます。教育現場には萎縮ムードもあるようです。しかし、感染症の専門家として20年以上前から学校で性教育の話をしてきた経験からすれば、望まない妊娠や性感染症の聞きを避ける具体的な方法を教えない方が、大人として無責任と言わざるを得ません。
この考え方は、中学の学習指導要領にも外れていません。指導要領には中学生が「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠までを取り扱う」とあります。妊娠・出産が可能な年齢だからこそ、自ら他社の健康「身・体・性)に配慮せねんばならない。であるならば、受精や妊娠の前提である性交がどういうものなのかを知らずに、そのような配慮をすることは不可能です。ちょっと考えれば分かるはずです。
指導要領には、エイズなどの性感染症も扱うよう記載があります。性感染症予防の最善のう方法はコンドームの着用であり、それは避妊の最良の方法の一つです。 ちなみに「コンドーム」という用語は、文部科学省が指導要領の解説で取り上げています。安全のためにには正しい使い方も教えなければ意味がないのは、シートベルトと同じです。
中学校での性教育の最大の目的は妊娠・出産が可能な思春期の自分と他者の健康を守ることです。望まない妊娠や性感染症などの問題に対峙し、リスクをヘッジ(回避)するのが目的であり、そこから逆算すれば何を教えるべきかは明白です。
昔のようにオシベとメシベの話をしたり、男女の体を縦割りにした図を見せて解剖用語を暗記させたりしたって、リスクはヘッジできやしません。インターネットで正誤不明の膨大な性情報に小さい頃から接触できる今の子どもたちには、きちんとした情報を伝えることこそ重要です。
学習指導要領は中学生に「思考力、判断力」「主体性」を育むよう求めています。 望まない妊娠や病気を回避するための思考力や判断力、主体性にとって必要なのは「無知」でなく「知識」であるに決まっています。
生徒たちが現実世界で生き抜く力を身に付けるのを支援すべき立場の人々が、その力に必要な知識を生徒から遠ざけるよう要求するなんて滑稽です。古い観念にとらわれ、子どもたちに不可欠な性教育をおとしめようとする反知性的な大人たちの言説を、ぼくらは認めてはいけないのです。
実践的な性教育 国際常識
海外の性教育の現状はどうか。 各国の事情に詳しい女子栄養大名誉教授の橋本紀子さんは「子どもたちに性教育の機会を保障する上で、学校の役割が極めて重要なのも、具体的な性教育が欠かせないのも、国際的には常識です」と指摘する。
近年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)を中心に作られた指針などを基盤に、性教育を重要な教育分野とする考え方が多くの国に定着。遅れていた中国や韓国でも、コンドームの使い方など実践的な避妊方法を教える傾向が広がったという。
日本では、具体的な性教育は子どもの性行動を早めると主張する声が大きいが、橋本さんは「全く根拠がない」と批判する。 「性教育を積極的に進めた方が性行動を起こす時期は遅くなる、という結果が国際調査で出ている。誤った性情報が氾濫する今こそ、実践的な性教育が急務です」
2018年6月21日(木) 信濃毎日新聞より
東京都の中学校で3月に行われた性教育の授業で避妊などが取り上げられ、都議会議員が問題視した。これに対して教育内容への介入だと批判がある。感染症に詳しい神戸大の岩田健太郎教授に性教育の在り方を聞いた。
知識 リスク回避に不可欠
今春、東京都の中学校え行われた性教育が不適切だとして都議会議員や都教育委員会に批判されました。報道によると、コンドームやピルを使う避妊方法や人工妊娠中絶などを授業で説明したが「中学生の発達段階に合わない」「『性交』や『避妊』といった言葉は中学校の学習指導要領にない」など問題視されたのだそうです。
こうした「行き過ぎた性教育」批判は近年しばしば聞かれます。教育現場には萎縮ムードもあるようです。しかし、感染症の専門家として20年以上前から学校で性教育の話をしてきた経験からすれば、望まない妊娠や性感染症の聞きを避ける具体的な方法を教えない方が、大人として無責任と言わざるを得ません。
この考え方は、中学の学習指導要領にも外れていません。指導要領には中学生が「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠までを取り扱う」とあります。妊娠・出産が可能な年齢だからこそ、自ら他社の健康「身・体・性)に配慮せねんばならない。であるならば、受精や妊娠の前提である性交がどういうものなのかを知らずに、そのような配慮をすることは不可能です。ちょっと考えれば分かるはずです。
指導要領には、エイズなどの性感染症も扱うよう記載があります。性感染症予防の最善のう方法はコンドームの着用であり、それは避妊の最良の方法の一つです。 ちなみに「コンドーム」という用語は、文部科学省が指導要領の解説で取り上げています。安全のためにには正しい使い方も教えなければ意味がないのは、シートベルトと同じです。
中学校での性教育の最大の目的は妊娠・出産が可能な思春期の自分と他者の健康を守ることです。望まない妊娠や性感染症などの問題に対峙し、リスクをヘッジ(回避)するのが目的であり、そこから逆算すれば何を教えるべきかは明白です。
昔のようにオシベとメシベの話をしたり、男女の体を縦割りにした図を見せて解剖用語を暗記させたりしたって、リスクはヘッジできやしません。インターネットで正誤不明の膨大な性情報に小さい頃から接触できる今の子どもたちには、きちんとした情報を伝えることこそ重要です。
学習指導要領は中学生に「思考力、判断力」「主体性」を育むよう求めています。 望まない妊娠や病気を回避するための思考力や判断力、主体性にとって必要なのは「無知」でなく「知識」であるに決まっています。
生徒たちが現実世界で生き抜く力を身に付けるのを支援すべき立場の人々が、その力に必要な知識を生徒から遠ざけるよう要求するなんて滑稽です。古い観念にとらわれ、子どもたちに不可欠な性教育をおとしめようとする反知性的な大人たちの言説を、ぼくらは認めてはいけないのです。
実践的な性教育 国際常識
海外の性教育の現状はどうか。 各国の事情に詳しい女子栄養大名誉教授の橋本紀子さんは「子どもたちに性教育の機会を保障する上で、学校の役割が極めて重要なのも、具体的な性教育が欠かせないのも、国際的には常識です」と指摘する。
近年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)を中心に作られた指針などを基盤に、性教育を重要な教育分野とする考え方が多くの国に定着。遅れていた中国や韓国でも、コンドームの使い方など実践的な避妊方法を教える傾向が広がったという。
日本では、具体的な性教育は子どもの性行動を早めると主張する声が大きいが、橋本さんは「全く根拠がない」と批判する。 「性教育を積極的に進めた方が性行動を起こす時期は遅くなる、という結果が国際調査で出ている。誤った性情報が氾濫する今こそ、実践的な性教育が急務です」
2018年6月21日(木) 信濃毎日新聞より