CTNRXの日日是好日

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

落語読本 らくごの一文 [落語]『高津の富』桂枝雀〔text〕後編

2023-05-17 22:00:00 | 出来事/備忘録

▲また目ぇ覚ましたら、楊枝くわえてシュッと風呂行きまんがな。帰ってくるっちゅうとちゃんとお膳が出てますわ。布巾取って見るっちゅうと、ご馳 走が二皿三皿、銚子に燗が付いてますわ「何をしてんねん、そこへ座らんか い。俺も呑むけど、お前もいけ」女相手にやった取ったしてる内にホロ~ッ と酔いが回ってきまんがな「えぇあんばいなったなぁ、ここらでいっぺん寝 よかぁ」
▲目ぇ覚ましたら楊枝くわえてシュッと……
★おんなじこと何べん言ぅてな はんねん。そら「えぇあんばいやなぁ、ここらでいっぺん寝よかぁ」は誠に ありがたいこってす。ありがたいこってすけど、そら当たってからのことで すやろ
▲そぉです
★当たらなんだらどないしなはんねん? ▲……、当たらな んだら、ウドン食て寝るわ
★えらい違いやがな。ワァワァ言ぅております内に時刻がまいります。世話方が箱の蓋を取りま して、いっぺん中をば見物人にこぉ検めます。ポ~~ンと蓋をいたしますと いぅと、キリを入れる穴が開いてございます。これへ手をかけましてガラガ ラ、ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ。 十分に振りましたところで最前申しました男の子、長ぁ~いキリのよぉな ものでプツッ、シュッと引き上げますといぅと先に小さな札が一枚付いて上 がってまいります。これを世話方が大ぉ~きな声で読み上げます。 「第一番のぉ~~、おん富ぃ~~」この声がかかりますといぅと、今まで ウワァ~~ッと言ぅてました見物、水を打ったよぉにシィ~~ンッ…… 「子ぇの千三百、六十、五番ぁ~~ん」
◆ワァ~~~~、ワッ!
▲どぉしたんです?
◆す、す、す、す、スレた
▲ス レたんかいな。ワァ~ちゅうから当たったんか思いますがな。わずかなスレ やったら金くれまっせ。何ぼほどスレたんです?
◆たったの、は、八百五十五
▲ぎょ~さんスレたぁるがな。またぞろ、ガラガラガラガラ……、プツッ!「第二番のぉ~、おん富ぃ~」
▲さぁ、わしの番や。女ごと一杯呑んで寝るか、一人でウドン食て寝るかの 境目になったぁるねん。やってもらお……。辰やろぉ~ッ?
▲さぁ、わしの番や。女ごと一杯呑んで寝るか、一人でウドン食て寝るかの 境目になったぁるねん。やってもらお……。辰やろぉ~ッ?
■辰のぉ~~ッ
▲辰? 八百かぁ~ッ?
■八ぁ百ぁ~く
▲五十やろぉ~ッ?
■五十ぅ~……
★もし、えらいもんだんなぁ……。あれだけ思い詰めたら出まっしゃろなぁ、あんた、ウドンやおまへんで、女と一杯呑んで寝れまっせ
▲おっき、ありが とぉ……。七番かぁ~ッ?
■一番ぁ~~~ん
▲はに、へほにはぁ~~。三番も突き切りますといぅと、当たりクジを紙に書いて張り出す。群集は 「きょうもあかんなんだ」といぅので、ゾロゾロぞろぞろ帰りかける、とこ ろへやってまいりましたのが空っ穴の親っさん。
●何じゃ知らん? きょうは大勢の人出……、ちょっと待っとくなされ、そぉ 押したらいかん、待っとくなされと言ぅんじゃ……、そぉじゃ、宿の亭主が 言ぅてた富の当日、ちょっと押したらいかん、待っとくなされ。富はどぉな りました?
◆とぉに済みましたで。当たりクジは正面に書いて張ってま
●さよか、おおきありがと……、待っとくなされちゅうに、これは大勢の人じゃ なぁ。
●潮が引くごとくとはこのこっちゃなぁ、世話方が後始末にかかってなさる。 正面、正面……、おぉ書いたぁった、書いたぁった。立派に書いたぁるなぁ。 何じゃて、一番が「子の千三百六十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番 が「寅の千四十番」干支頭に竜虎、勢いのある番号が出たぁるなぁ……
●わしも宿の亭主に無理やり買わされた札が一枚あるが……、当たりゃせん ねでこんなもん。これは「子ぇの千三百六十五番」か。あの一番が「子ぇの 千三百六十五番」か……、当たらんもんじゃなぁ。二番が「辰の八百五十一 番」三番が「寅の千四十番……」辰に寅に、子ぇ。
●やれやれ、とぉとぉ一文無しの空っ穴か。一番が「子ぇの千三百六十五番」 二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」誰ぞ当たった人が あるのじゃろ。一番「子ぇの千三百六十五」二番「辰の八百五十一番」三番 「寅の千四十番……」
●一番が「子ぇの千三百六十五番……」諦め切れんなぁ。えぇ~ッと、これ が「番の五十六百三千の子ぇ……」さかさまや。これが「子ぇの千三百六十 五番」あの一番が「子ぇの千三百六十五番……」ふぅ~ん、ちょっと似たぁ るなぁ。これが「子ぇの千三百六十五番」あれが「子ぇ」の、子ぇの……、 子ぇの、ねぇの、ネェノ「千三百……」えッ? 千三百、六十……
●六十? 六十、えぇ? 五番……、五番? 五番、あれが「子ぇの千三百 六十五番」これが「子ぇの千三百六十五番」あたた、たたたた、たた、たた たた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた。
▲お帰りやす。どぉあそばした?
●たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あ たたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた…… さて、高津のお宮さん、あとにやってまいりましたのが宿屋の亭主。
■さぁ、きょうや。世話はさしてもろてんねんけど、おのれで買ぉたことな いよってなぁ、旦さん「何が当たっても半分やる」ちゅうてなはった、あり がたいこっちゃで……。書いたぁる書いたぁる、一番が「子ぇの千三百六十 五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番」なるほどなぁ、 当たりクジっちゅうのは当たりクジらしぃ当たりクジやで、今見たとこやけ ど、昔から知ってたよぉな気がするなぁ。
■旦さんのんが「子ぇの千三百六十五番」か、あの一番が「子ぇの千三百六 十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」シュッと 言えるなぁ。旦さんのんが「子ぇの千三百六十五番」あの一番が「子ぇの千 三百六十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」
■これが「子ぇの、千、三百、六十、五番」あの一番が「子ぇの」ん、子ぇ の「千、三百、六十、五番……」といぅのは、どぉいぅ番号や? ん? つ まりどぉいぅこっちゃ? え……、これはやな「子ぇの千三百六十五番」や、 あれが「子ぇの千三百六十五番」や。どこが違うねん?
■あれが「子ぇの千三百六十五番」これが「子ぇの千三百六十五番」当たっ たぁねんやがな……。たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、た たあたたた、たたたたあたたたあた……
■あ~た、たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、 たたたたあたたたあた……
▲何でんねんな、妙な顔して?
■び、ビックリす なよ。高津の富が、当たったんじゃ!
▲んまぁ~ッ、富が、ふぅ~ッ……
■こら、お前がひっくり返ってどないすんねん。旦さんはどないしはった?
▲何や知らんけど、二階で寝間敷(ひ)ぃて寝たはります
■寝てる? この最 中(さなか)に寝てるやなんて。旦さん酒がお好きや、風呂の湯ぅ抜いて酒放り込め、下からボォ~ッと燃やせ。ドボンと飛び込んで呑んでもらお。
■ウワァ~~~~ッ、旦さん!!
●たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あ たたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた……
■何をおっしゃる旦さ ん? 旦さん、旦さん、旦さん
●や、喧しぃ。やかましぃ言ぃなさんな
■旦 さん、たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、た たたたあたたたあた……
●お前さん、何が起こったんか知らんが、人の寝間へ下駄履いて上がって来 るやつがあるか
■下駄? うわぁ~ッ、あんまり嬉しぃて、下駄脱ぐのん忘 れておりますねん。誠に相すまんこって。そんなことより旦さん、ちょっと も早よぉお祝い酒を。

 シュッと布団をめくりますと……

   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 《後編 終了》
情報元:《【世紀末亭】http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm 》


最新の画像もっと見る

コメントを投稿