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落語読本 らくごの一文 [落語]『高津の富』桂枝雀〔text〕中編

2023-05-17 21:30:00 | 出来事/備忘録

 「何、用意がでけた、おっきはばかりさん。酌も給仕も何も要らん、一人 でキコンカイにやらしてもらいます。用があったら手を叩く」「どぉぞごゆっ くり……」悠々とお酒を呑みまして腹いっぱいごはんを食べますといぅと、 ゴロッと横になって寝てしまいます。 ガラリ夜が明けますといぅと、べつに用事は無いんですけれども、きのう 言ぅてた言葉の手前、いつまでも寝ているわけにもまいりません。朝早よぉ から起きまして...。

●お早よぉさん
▲旦さん、お早いこってございます
●ご亭主の姿が見えんよぉじゃが
▲朝からちょっと用足しに行ております
●わたしも、きのう言ぅてた 二万両の口、行てまいります。たいした額じゃありゃせんが、ちょっと行っ てまいりますでな。帰りは晩方になるやろと思うんでな、何もないがわたし の部屋ちょいちょいと気ぃだけ付けてもらいたい
▲かしこまってございます。 どぉぞお早よぉお帰り。
▲ポイッと表へ出ましたが一文無しの空っ穴で行く所がございません。城の 馬場から天満の天神さん、天神橋筋をば南へ南へ松屋町、二つ井戸、道頓堀、 心斎橋筋をブラァ~ブラ見物いたしまして、八幡筋を東へ。やってまいりま したのが高津神社でございます。
さて、高津のお宮さんでは久しぶりに許(ゆ)れた富やといぅので、大阪中 の人間が一人残らず寄ったかと思われる、えらい賑わいでございます。高津 のお宮さんは少々高台になっておりまして、階段上がりましたところにも大 勢の人出。正面拝殿の前には三方(さんぼう)の上に白木の箱が置いてござい ます。 この中へ札が入ったぁるわけで、横手に十ぐらいの可愛らしぃ男の子、熨 斗目(のしめ)の裃(かみしも)を着せまして柄の長ぁいキリのよぉなものが一 本持たせてございます。 世話方と見えます紋付袴の者が五、六人。その辺をば行たり来たりいたし ておりますが、集まった群衆「われが当てよ、俺が当てよ」といぅ人の熱気 といぅやつが、境内をウヮァ~~ッ、渦を巻いております。
★えらい人だんな、もし。これだけ人間がいてまんねんなぁ、大阪に、
■いて まんねんなぁ
★これ皆当てよと思てまんねんで
■当てよと思てまんねんなぁ。
★誰に当たりまんねやろなぁ
■誰に当たりまんねやろなぁ
★誰ぞに当たりま んねんで
■誰ぞに当たりまんねんなぁ……
▲あんたら大きな声で何言ぅてなはんねん「誰に当たんねんやろな?」て、 きょうのクジが誰に当たるかちゅうことは、ちゃ~んと分かってます
★えぇ、 何ですて?
▲ちゃ~んと分かってま。一番は知りまへんで、一番は知りまへ んけど、二番の五百両、誰に当たるかっちゅうこと、ちゃ~んと分かってま す
★アホなこと言ぃなはんな。そんなことが分かってたらワァワァ言ぃます かいな。
▲いいえ、分かってます。それが誰やといぅことを言ぃましょ~か。それは わたしです……。
▲言ぅたげまひょか、夕べ神さんのお告げがおましたんです。
▲わたしがウツウツッとしかけると、日ごろ念ずるお稲荷さんが出て来はって 枕元へポンと立ちはって「今年のぉ~、高津の二番はぁ~、お前にぃ~やる。 あてにしてぇ~、待て」
★ホンマですかいな?
▲ホンマでんがな。神さんのおっしゃることホンマに せんとどないしまんねん。この五百両といぅ金がわたいの懐へ転がり込んだ ら、これをわたいがどぉいぅふぅに使うと思いなはる?
★そんなこと分かり まっかいな、人の思いは一人ひとり違いますわいな
▲違いますけれどもでん なぁ、わたしがそれをどぉいぅふぅに使うかといぅことを……
★そぉでんなぁ、五百両あんねんさかいなぁ……、それを元手に手広ぉ商売 でもしなはるか?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな
★やっぱりなぁ、 思いが違いますよってなぁ。ほな、それでデェ~ンと地所でも買占めなはる か?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな
★思いが違うよってなぁ。日本 国中旅でもしなはるか?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな ★……、ど ないしなはんねん?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな。
★わたいが尋んねてますんやがな
▲よぉ尋んねとくなはった。その五百両で ね、まず大丸へさして浜縮緬(ちりめん)一反買ぉてきます。よろしぃか、こ れを京に染めにやる。染め上がったところをばツ~ッと二つにハサミを入れ る。細長ぁい財布をこしらえまんねん。
▲よろしぃか、こん中へ五百両を細かいもんに崩してザラザラ~ッと放り込 む。クルクルッと丸めるっちゅうとこれぐらいの塊ができる。これを懐へポ イッと放り込む。この辺がプッと膨らんで布袋さんみたいになりまっしゃろ、 これでわたい新町行きまんねん。
★何しに?  
▲「何しに?」って、新町でっせ、これだんがな。わたいこれ行 きまんねん。わたいのこれ歳はテンナラ・二十二。別嬪ちゅう女ごやおまへ んけど、色の白いポチャポチャッとした、いわゆる男好きのする顔ちゅうや つでんねん。笑ろたら笑窪がぺこっ!

★……、ノロケですかいな?
▲まぁ話、聞きなはれ。いつもやったらシュッと行ってサッと上がるんでっ けど、この日はそぉはしまへんで。一町ほど手前から鼻歌もんや ♪赤襟さ んではぁ~ 年季が長い。あだな年増にゃ~ 真夫(まぶ)がある♪ この声 聞ぃたらわたいのこれ、よぉじっとしてまへんで。二階からゴロゴロ転げる よぉに降りてくるなり「まぁ、松っちゃん、あんたどこ行きなはんのん?」
▲出てきたなぁ、これから一回りしてこぉと思てんねん「そんなこと言わん と、ちょっと上がんなはれ」残念ながら金が無いねん「お金が無かったかて、 いっつも上がるやないか。あんたにいっぺんでも恥かかしたことあんのんか? きょうに限って何を言ぅてなはんのん。上がんなはれ」
▲引きずられるよぉにして内らへ入るっちゅうと、トントントントンと階段 上がる。シュ~ッと襖開けるっちゅうと、江戸火鉢の立派なやつがデ~ンと据わってます。こんな分厚い座布団だっせ。女ごと差し向かえに座りますわ いな「まぁ、松っちゃん、長いこと来てやなかったやないか。ほかにえぇの がでけたんやろ。そらかまへんの、そこ行くのはかまへんねけど、せめてう ちにも月にいっぺんは顔見せとくなはれ、言ぅてまんのん……。松っちゃん」
▲「どこ向いてんねん、松っちゃん。こっち見なはらんか、松っちゃん」女 キュッと簪(かんざし)取って「おちょやん、これいつものおばちゃんとこ持っ て行ってあんじょ~してくるねんで」おちょぼが走る、金に替えて帰って来 る、それを帳場へ持たしてやる、何がしか別に残しといて紙で包んで「さぁ、 おちょやん、これ松っちゃんからでっせ。あんじょ~お礼言ぃなはれ。わてからと違うのん、うちのひとから……、松っちゃんから」
▲あんたらねぇ、ボヤ~ッと聞ぃてたらあきまへんで。ここ、一番肝心なと こだっせ。女ごがおのれの簪殺して造った金、おちょぼに祝儀やって「これ 松っちゃんからでっせ。あんじょ~お礼言ぃなはれや」この女ごの真実が分 からんのかッ!
★い、い、痛い痛い。耳引っ張りなはんな……
▲おい、酒五、六十本。茶碗蒸百ほど言ぅてこい「まぁ、松っちゃん、何を 言ぃなはんねん無茶言ぅたら困るやないか。今お帳場へ持って行ったお金、 わてがどぉしてこしらえたか見てなはったやろ。きょうはそんな無理言ぅね やないの。きょうは何も呑まんと寝んねしなはれ、もぉ遅いよってまたあし た」
▲何も呑まんと寝んねせぇ? 何も食わんと寝んねせぇ? 俺の口をばヒジ メル気ぃか
★すんまへんけど、ちょっと代わってもらえまへんか、ここ。今 まで気嫌よぉしてはりましてんけど、今度えらい怒ったはりますわ
▲ポ~ン と言ぅてやると何をいぅても相手は女ご、先立つものはただ涙「およ、よよ よよよ……」
★代わってぇな、今度は泣いてまんがな。
▲泣くな、吠えるな。金が無いっちゅうて泣いてんねやろ、金があったら文 句無いんじゃ。金ならここに何ぼでもあるわい。ちゅうて、ここでわたいが 懐の五百両をバ~~ンと放り出しまんねん。えらい音がしまっしゃろなぁ、 女ごキュッと引っ張ってみたらズシッと重い。これが金やちゅうことはすぐ に分かりますわ。 ▲「まぁ、松っちゃん、こないぎょ~さんのお金どないしてやってん。こな いだ鴻池さんへ賊が入ったちゅうこと聞ぃたけど、あんた賊の片割れか?」 何をぬかすねん、高津の富が当たったんじゃ「まぁ富が、どぉしょ~」どぉ しょ~もこぉしょ~もあるかい親方呼んでこい、証文持って来てもらえちゅ うやっちゃ。
▲この女ご、一文も値切らんとシュッと身請けをしてやって、小奇麗な家の 一軒も借りまんねん。そぉなったらわたい「朝風呂・丹前・金火鉢」ちゅう やっちゃ、何にもしまへんで。朝目ぇ覚めまっしゃろ、楊枝くわえてシュッ と風呂行きますわ、帰ってくるっちゅうとお膳が出てまんがな。布巾(ふっ きん)取って見るっちゅうと、ご馳走が二皿三皿。
▲おい、何をしてんねん。そこへ座らんかい「俺も呑むけど、お前もいけ」 ちゅうてね、女相手にやった取ったしてる内にホロ~ッと酔いが回ってきま んがな「えぇあんばいなったなぁ、いっぺん寝よかぁ」目ぇ覚ましたら楊枝 くわえてシュッと風呂行きまんがな。帰ってくるっちゅうとちゃんとお膳が 出てますわいな。布巾取って見るっちゅうと、ご馳走が二皿三皿「何をして んねんそこへ座らんかい。俺も呑むけど、お前もいけ」ちゅうてね、女相手 にやった取ったしてる内にホロ~ッと酔いが回ってきまんがな「えぇあんば いなったなぁ、いっぺん寝よかぁ……」

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   〔中編 終了〕
情報元:《【世紀末亭】http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm 》


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