集団の意志決定のあり方について考えよう
A.経過
1.2017年10月の衆議院議員総選挙が終わりました。結果は自由民主党が465
議席中284議席を獲得して勝ちました。
2.この選挙では、選挙前に一つの政党(希望の党)ができ、一つの政党(民進党)
が、自党からの候補者を立てず、所属の国会議員は新しくできた党(希望の党)から公
認をもらって立候補するという機関(両議院総会)決定をするという稀代(きだい)の
政治史に残る出来事がありました。
3.この意志決定の過程は、広く国家から、私達の普段の生活まで、危急(ききゅう)
迫って、或いは危急迫らない場合でも、私達が意志決定をしようとする時、教訓を与え
てくれるものを多く含んでいます。
4.希望の党を小池百合子・東京都知事が設立されたのが2017年9月25日です。
衆議院が解散されたのが同年9月28日です。衆議院議員総選挙の公示日が10月10
日です。ここでは設立日を入れて公示日まで16日しかありません。
5.一方、前原誠司・民進党代表が民進党の両議員総会を開かれるのが2017年9月
28日(衆議院の解散日)、午後1時30分からです。
ここで前原代表は、常任幹事会として次の3点の提案(議案の内容は当日配布)を行わ
れます。
一)今回の総選挙における民進党の公認内定は取り消す。
二)民進党の立候補予定者は「希望の党」に公認申請することとし、「希望の党」との
交渉及び当分の間の党務については代表に一任する。
三)民進党は今回の総選挙に候補者を擁立せず、「希望の党」を全力で支援する。
6.議事進行は、民進党のビデオを見ると、議題提案(と言っても、一号議案、二号議
案、三号議案と言って議題を提案されるのではなく、今、解散したばかりの議員の皆さ
んの昂った気持ちに訴えることを第一としていると思える挨拶)の後、記者の皆さんに
退席してもらって、懇談会を行い、議決を行っています。そして、両議員総会はこの議
案を承認しました。
B.疑義
1.2017年9月28日の民進党両議員総会の議事進行には、部外者が見ても疑義が
あります。
2.第一に、代表挨拶(提案)の後、質疑応答、討論が行われた気配が、民進党がWe
bに載せている広報からはうかがえず、希望の党との交渉は代表一任で集約し、その上
で承認していること。
3.第二に、民進党の候補者を立てず、立候補者は希望の党の公認を申請し、希望の党
から立候補することとしたことは、政党(組織)の代表(責任者)として持つべき責任
の放棄であること。
4.前原氏が民進党代表に選出されたのは、2017年9月1日です。そしてこの両議
員総会が同年9月28日です。この間、前原代表は、自由党の小沢一郎・共同代表と9
月24日に会談され、両党の合流を摸索されています。9月25日には、神津里季生
(こうずりきお)連合会長と会談されています。そして、9月26日の夜には希望の党
の代表になられた小池百合子・東京都知事と会談されました。また、同日(9月26
日)の夜は再び小沢一郎氏と会談されています。これらの一連の会談の中でとりわけ重
要なのは、9月28日の民進党両議員総会で提案される議案の伏線となる内容が話され
た会談であろう9月26日の希望の党代表の小池百合子・東京都知事との会談での合意
事項です。この内容はまだ明らかになっていません。
5.両議員総会では、小池・希望の党代表との合意内容を明らかにされ、提案が討議さ
れるべきでした。「べきでした」というより、このような党や議員の存在の根源に関わ
る提案については絶対行わなければなりません。そして不思議なのは、この提案は、執
行役員会と常任幹事会の承認を得て提出されており、これらの機関の段階で疑義が出な
かったことです。
6.今回の一連の経緯は、選挙が終わってみれば、衆議院の民進党は、希望の党に行か
れたグループ(52人中31人当選)と、無所属で立候補されたが所属は引き続き民進
党である議員のグループ(22人中19人当選)、両議員総会の決定に従って希望の党
に公認申請をしようとされたが、新たに立憲民主党を立ち上げられたグループ(15人
全員当選プラス40人の合計55人当選)の3つに分かれ、更に、まだ存在している民
進党の参議院のグループと地方議員のグループがあり、民進党は核を失った分解状態に
なってしまいました。
7.これが国家の存亡にかかわる危急の事態において、指導者がこういうことを引き起
こしたとするならどうでしょう。国は弱体化し、他国に翻弄(ほんろう)され、国民は
塗炭(とたん)の屈辱を味わうのです。私達はこのことを強く強く肝に銘じなければな
りません。
C.教訓
1.私達の人生の局面において、人生を左右する危急存亡の時は、必ずとは言いません
が、あります。その時、私達は自分の人生を他人に預けてはなりません。正しく判断
し、決断しなければならないのです。そしてこの時、戦場以外の場所で、私達に決断す
ることを迫って来る相手がいるとするならば、その相手が信用できるか否かの基準は、
その相手は、私達にこの決断をした場合、事態はどうなるか十分説明し、事態を良い方
向に進めようとしている場合、それはそれを保証する文書や約定によって担保(保証)
されていることを示しているものであるのか、私達が十分質問し、考える時間があるか
によります。まやかしの人物は、或る進行している状況があり、そこで私達がすぐ答え
を出さなければならないような状況を作り、その状況下で即決を迫ります。その場合、
私達は即決を断り、十分に考えた上で答えを出さなければならないのです。私達は、
「この人は信用できる、信用する」と思うと、その人の言うことはすべて信用できると
思う習性を持っています。そうではない場合もあることを知らなければなりません。
2.会社や企業、団体、政党と言った組織の場合、私達が決断するための条件は、個人
の場合と同様で、ここに更に、質疑応答、討議討論、採決が加わります。もし皆さんが
こういう組織の一員になられることがあれば、こういう組織の機能を必ず作ってくださ
い。討議(対話)は意志決定する上で必ず必要です。
3.そしてもし、皆さんが政治家になろうと思われるようなことがあれば、その志は中
学生や高校生の早い段階から持ち、国家と世界を考え、世界をどうしようと思うくらい
の気概を持って勉強を続けてください。選挙の折には、これはと思う政治家の事務所に
行ってボランティアをするのも良いでしょう。アメリカの大学に行って勉強するのも良
いでしょう。要は、政治に触れ続けて頭と心(意識と意志)を鍛え続けることなので
す。こう思ってくれる君たちの大成を願っています。
補記
文中、C.「教訓」で述べている部分は、世間で常識として言われている一般的な注意
を述べたものであり、特定の人物に言い及んだものではありませんので、誤解を招かな
いよう言い添えさせて頂きます。
たわわに実った柿