日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

細川護熙氏の「脱原発社会」は社会を衰退させる(見かけの)成長論である (重要なメッセージ)

2014年01月29日 | 日記

 細川護熙氏の「脱原発社会」は社会を衰退させる(見かけの)成長論である

 

1.細川護熙氏が、1月22日、東京都庁において都知事選立候補前の記者会見を行わ

れました。会見は、次のことを私達に教えます。それは、細川氏の「脱原発社会」は、

今後、日本の人口が、現在の1億3000万人(概算値: 2014年1月1日現在、1

億2722万人)から、50年後には9000万人に減少し、更に100年後には江戸

時代の人口であった4000万程に減少するという、未来社会を想定して語られている

ことです。氏はこれを「成熟社会」と呼びます。いいえ違います。私はこれを「衰退す

る社会」と呼びます。

 

2.ここに、社会はどのようにあるべきかという、都市と文化の在りように対する細川

氏と私の姿勢の相違があります。私の姿勢は凡庸なものです。福島第一原子力発電所の

事故は、人間が凡庸であるが故に起こりました。傲慢にも自分の判断を過信し、自省を

忘れたチェックシステムしか持つことが出来なかったが故に起こったものだと、私は思

っております。事実、福島第一原発の5号機と6号機、そして福島第二原子力発電所の

4基は無事だったのです。人間の凡庸さゆえに起こしてしまった事故を、心底、申し訳

ないと思いながら、懸命に、復興に努め、そして、私達の世代で考え得る限りの安全対

策とシステム構築を施して、次の世代に伝える。これが最も賢明な方法だと思っていま

す。次の世代は、私達の能力の限界を越える発明や発見をそこに付け加えて、安全な都

市をつくることでしょう。

 

3.細川さんは、子供の頃、現代の日本社会の発展とその姿を想像できましたか?今、

御自分(細川さん)が思われている、原発の再稼働を認めず、日本を自然エネルギーの

国にすることが、次の世代に対する自分の責務であると思われることは、それは「俺が

レールを敷いてやる」と言って次世代のことを語りながら、実は、次の世代の人々の努

力と営みを認めないことと同義であり、傲慢にも自分の判断を過信して事故を招いてし

まった人と同じ傲慢さを、細川さんが示しているものに他なりません。お分かり頂けま

か?

 

4.何度も言いますが、原発とその技術と施設は捨てるべきではありません。「(原発

を)自然エネルギーに変えていく方が、生産的であり、新しい雇用や技術を開発して行

く可能性が開ける」と、細川氏は言います。これは細川氏の期待や願望以上のものでは

ありません。そうではなく、私たちの社会には恒常的に電気を供給し続けている原発が

存在し、加えて私たちが自然再生エネルギーの活用と開発を進めることによって、私た

ちの社会と産業構造は複合的にその安全度を高め、発展するというのが正解です。むろ

んこの時、私達は、核廃棄物の最終処分場を建設し、立地を含めて、重層的な安全装置

と技術を具えた原発を運用するというのが条件となります。そして安全思想の普及も不

可欠です。

 

5.以下、少し直截(ちょくさい)に書きます。

 

6.「脱原発」とは、日本の原子力産業の、人、技術、施設をゼロにすることです。こ

こには膨大な費用と時間が投入されます。その結果が、原子力に関する人材と技術と施

設の消失です。人材と技術と施設の消失という、何も生み出すことの無い状態を作り出

すために膨大な努力と費用と時間を費(つい)やす。これはおかしい考えだと思われま

せんか?おぞましいと思われませんか?

 

7.細川氏や小泉純一郎氏は、都知事選を、「原発ゼロでも日本は発展できるというグ

ループと、原発なくして日本は発展できないというグループとの争いだ」、と言って対

立を煽(あお)り、選択を迫ります。しかし、細川氏の言うように、この失うものを補

って、「自然エネルギーに変換(交換)することが、生産的であり、新しい雇用や技術

を開発して行く可能性が開ける」と言えるでしょうか?こういう弁法を修辞と言うので

はないでしょうか? 会見には修辞が散りばめられています。曰(いわ)く、「成熟社会

へのパラダイムの変換」、「文明史的転換」。こういうフレーズはもう何十年も前にも

聞きました。

 

8.細川氏は、「修辞」と聞かれて立腹されるかも知れません。そんな細川氏のために

言葉を補っておきましょう。細川氏は、50年後は9000万人に、100年後は40

00万人に人口が減少する社会を想定して述べていらっしゃいます。とすれば、この弁

法は衰退する社会の見かけの発展を語っていらっしゃるのだということができます。細

川氏がこの衰退して行く社会の文明論を語っていらっしゃるのだとすれば、それは修辞

ではないということになります。しかしその視点は、人間(人生)に達観された境地の

人のそれです。現代の賢者と呼ばれるにふさわしいと思います。しかし、賢者たること

が現代の政治家の資質としてふさわしいかといえば、その社会観によってはそうではな

いと言わざるを得ないこともあります。

 

9.ここから、重要なメッセージとなります。

 

10.既に書いたように、細川氏や小泉氏の「脱原発」とは、日本の原子力産業の、

人、技術、施設をゼロにすることです。ここには膨大な費用と時間が投入されます。

 

a.この投資を、私は、破壊投資( 破壊のための投資、Destroy Invest

ments DI)、或いは、自壊投資( 自壊のための投資、Self Destro

y Investments SDI )と呼びます。

 

b.この破壊投資のもうひとつの例が戦争です。戦争は、譬(たと)えを分かりやすく

するために、他国に対して行うもののみを考えます。戦争は他国の都市を破壊します。

そして破壊された都市は、再生のための投資を行ないます。ここでの投資は、都市と消

耗した軍需産業の再生産のために行われます。

 

c.「脱原発社会」の自壊投資は、投資完了後、その分野が何かを生み出すことは困難

となります。日本には、建設中(3基)、廃炉中(8基)、大学等の実験炉を除き、現

在、51基の原発(含む:もんじゅ)があります。この廃炉費用が1兆円/1基とし

て、51兆円です。期間50年とします。そうすると1年で約1兆円のマーケットとな

ります。この過程はGDPに反映します。この過程は、「無」に向かっての作業である

のに、むしろGDPへの産出量は現在より増えます。ここに、「原発ゼロでも日本は発

展できるという」カラクリがあります。その後は、何度も書きますが、その分野の人・

術・設備の喪失した社会です。

 

d.2012年の日本の総発電量が、9404万Kwです(出典:電気事業連合会)。

その中で自然エネルギーと原発電力の占める割合は、水力8.4%、地熱その他1.

6%、原発1.7%です。

そして、原発の設備容量は、4658万Kw/51基です。

 

e.原発の概算建設費を考えます。既設品: 5000億円(新設)/1基×0.6=3

000億円とします。すると既設原発の概算建設費は、15兆3000億円になりま

す。耐用年数40年。ここでは維持費は考えません。Webに51基の建設費を電力会

社から聞き取り調査したデーターがあります。それによりますと、計13兆1333億

円です。

 

f.自然エネルギー電力の建設コストを考えます。算出の目途(めど)として、現在の

日本の概算必要電力量1億Kwの25%を賄う電力設備を考えます。これに現在の水力

の8.4%を加算すると、33.4%となり、ドイツの目標値に近くなります。

 

α) 太陽光パネル: 125兆円 (これはWebにあった500兆円/1億Kw×2

5%の値です。但し、ここには蓄電池、付帯設備、工事費 用地費用は含んでいませ

ん。耐用年数20年)。

 

β) 風力: 121.8兆円 (算出資料 日本風力発電協会 2011年 国内新設

風車容量 8.2万Kw/年 売上高 799億円/年  効率20%(これは私の目

算です)。  概算金額: 799÷8.2×2500÷0.2=121.8兆円 但

し、ここには蓄電池、付帯設備、工事費 用地費用は含んでいません。耐用年数15

年)     

 

γ) 太陽光パネルと風力の概算値を共に125兆円と考え、将来はこの額の40%でで

きるようになると、建設費は50兆円となります。この額は、私にも意外でした。自然

エネルギー電力設備の建設費の方が、原子力より安いと考えていました。技術開発によ

って30%で済むようになるとしても、37,5兆円です。これは既設の原発の建設費

13兆1333億円より高く、将来、原発を、5000億円/基で50基作るとしても

25兆円ですから、自然エネルギー電力設備の方が原子力電力設備より高いということ

になります。

 

δ) これの意味するものは、原発を無くした将来世代の高負担です。しかも、中国

(現在の中華人民共和国と中華民国)、大韓民国が原発を維持した場合、将来は、送電

網も日本と結ばれ、しかも彼らは国策上も電気を安くするでしょうから、経済の理とし

て、日本の民需と工業生産は彼らからの電気の供給に依存するようになります。少し極

論のように感じられるかも知れませんが、これが、小泉氏と細川氏が唱(とな)える

「脱原発社会」の日本の将来像です。

 

ε) ちなみに、ドイツは、現在の原発政策を改めるものと思われます。あるいは、フ

ランスと交互に原子力設備の更新期を取って行くのかも知れません。これは極めて合理

性を持つものです。あり得ない話ではありません。現在のドイツは、廃炉のための投資

と、自然エネルギーを電気に変換するための投資が、同時に行われています。両者はG

DPに寄与します。問題はその先です。「脱原発」は一つの産業を破壊する自壊行為で

す。ある程度廃炉が終わったら、新しい原子炉、或いは、新原子力エネルギー技術を使

用する発電設備の建設に向かうものと思われます。

 

10.細川氏は、昨年の10月21日に、小泉純一郎氏と会って、オンカロやドイツの

ことを聞いたと発言されています。最終処分場は作ればよろしい。それだけです。ま

た、ドイツの様子はどのように聞かれたのか不明ですが、ドイツの事情は、自然エネル

ギー導入の先進例として、すばらしい実験です。しかし、そこでは木も森も見なければ

なりません。メディアが伝えるところでは、自然エネルギー電力の買取制度によって、

①.電力料金が値上がりし国民の負担が増大しています ②.電力会社の負担が増大して

います。 ③.ドイツのパネルメーカーが中華人民共和国メーカーに敗れて倒産するもの

が出ています。しかし、こんなことは大(たい)したことではありません。真に恐(こ

わ)いのは、この先にあるものが一国の電気を作り出す重要産業である原子力分野に対

する自壊行為であることが気付かれないことです。ドイツも日本も先の大戦では国を自

壊させしまうという大失敗をやったのですから、この轍(てつ)はもう踏まないように

しなければなりません。

 

11.2011年12月31日現在のドイツの総発電容量、約1億4500万Kwに占

める自然エネルギーの設備容量の割合は、風力8.4%、太陽光4.8%、バイオマス

5.3%、水力4.2%、計22.7%(出典:“ドイツとスペインの系統運用につい

て視察報告” WWFジャパン 気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 小西雅

子)です。そして、ドイツの原子力発電の国内総発電量に占める割合は、2012年で

約16%を占めています。止まってはいないのです。

 

 

御注意 1 : 太陽光パネルの125兆円の算出は、‘goo教えて’の「日本国内の全発

電量を太陽光発電でするには?」の回答をベースにしています。参考時、日本の年間総

発電電力は1億Kwと記載されていましたが、翌日数値を再チェックしたところ、この

値は10000億Kwhとなっていました。

 

御注意 2 : 2012年の日本の総発電量9404万Kwは、電気事業連合会のWe

bデーター“電源別発電電力量構成比”に基づきます。この表の単位も、参考時は‘K

w’であったものが、現在‘億Kwh’となっていました。

 

御注意 3 : 算出した数値は目安とする概算値です。厳密な値を求めるには、厳密な

シミュレーションが必要です。

 

 

*選挙期間のため、下記を記載します

文責: 前田子六(正治)

e-mail : shouji_zen@ybb.ne.jp

URL https://www.colincan.info

 

 

         冬の木立

 

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