著作権法

著作権法についてしっかり考えてみませんか。

医薬品と著作権

2006-06-29 00:41:46 | Weblog
 製薬会社のMRは、せっせと自社の医薬品にかかる文献をコピーして病院の医師に配るそうです。医師から求められてコピーすることもあるようですが、売り込みのために積極的にコピーして渡すことも多いようです。
 薬事法は、医薬品にかかる情報について医師等から求められたときに製薬会社はその情報を提供する努力義務が課せられています。確かに患者がいて、そのクスリをどの程度投与することが適切なのか不明なときには、参考となる文献があればそれを見た上で最終的な判断がなされるべきでしょう。文献について著作権があったとしても、著作者がこのような場合に許諾権を行使して「複製するな」と言うことは適切ではないと思います。
 他方、そうした場面で利用されることを前提に、医学関係の出版社は出版物を編集し発行しています。したがって、たやすくコピーされてしまうと、販売に影響が出て、最終的には出版活動が維持されなくなる恐れもなしとしません。
 製薬会社は薬事法に情報提供義務が規定されていて、著作権法では著作者の許諾をとらないといけないというのは、両法律の間に調整がなされていないものであり、著作権法では薬事法上の義務が十分果たせるように、著作者の権利に制限を加えるべきだと主張しています。
 この問題は昨年文化庁の著作権分科会法制問題小委員会でも検討されましたが、結論は出ませんでした。しかし、文献の複写は実際にはなされて、医師等に提供されています。それに対して適正な対価は出版側には支払われていません。
 患者がいる以上、投与すべき医薬品にかかる文献の複写ができないわけにはいかないと思います。その意味で権利制限は必要でしょう。しかし、出版社の経済的な利益はしっかり確保されないといけません。「許諾権」は「報酬請求権」に格下げされ、複写にストップがかからないことを確保するとともに、権利者の利益もしっかり確保できるよう、一刻も早く制度改正がなされることが必要と思います。
 

自動公衆送信

2006-06-28 03:14:53 | Weblog
 著作権法は、著作者の権利として様々な「支分権」を規定しています。「複製権」であったり、「上演権」であったり・・・昔は、「放送権」というのもありました。いずれも、著作物などを利用する事業者の利用形態に添った形で、支分権が規定されていました。著作者はそうした事業者に許諾を与え、事業者が著作物を利用して事業を行い収益を上げて、その収益の中から著作者に許諾の対価を支払うという形で、経済も動いていました。
 しかし、「自動公衆送信」は、その前段階である「送信可能化」も含め、様相は異にしています。インターネットの普及に伴い、多くの個人が画像や映像、音声などをアップロードできるようになりましたが、勝手にそうした行為が行われないようにするために、そうした権利が設定されたという側面が非常に大きいのです。収益を上げようとする事業者の行為を捕捉するのではなく、素人の行為を規制するためにそのような権利が設定されたと考えることができるのではないでしょうか。「支分権」にこれまでと違った要素を持ち込んだのが「自動公衆送信」と考えることができます。
 今後の著作権法も、技術の進歩・普及に伴い、素人である個人が著作物を利用する場面が増えていくことに対応したものとなることは間違いのないことだと思います。著作権が「経済財」になることによりパラダイムが生じましたが、誰もが著作物を利用できることにより、更なるパラダイムが起こっているように見えます。

文化庁著作権分科会法制問題小委員会報告書

2006-06-25 03:40:08 | Weblog
 IPマルチキャストに関して文化庁が報告書を出したようです。
 放送を同時再送信する場合に限って、IPマルチキャストを「有線放送」と同様の扱いとし、自主放送は今後引き続き検討するという結論を出しています。
 総務省の竹中大臣の懇談会は「電気通信役務利用放送法で放送と位置づけられているものについては、著作権法上も放送にすべきだ」という趣旨の報告をまとめていますがそれに比べるとずいぶん小さな法改正を提言しているものだと思います。
 分科会の報告書によれば、今年の年末には地上波デジタル放送がIPマルチキャストにより同時再送信されることがスタートするとのことですから、察するに緊急に必要な措置ということで報告書をまとめたのでしょう。しかし、本来であれば「自主放送」部分も、有線放送と同様に扱うべきであり、その方向で今後急いで検討して結論を出さなければいけないのではないでしょうか。
 IPマルチキャストをつかう事業者は、NTT、KDDIとソフトバンクといわれています。事業規模が大きな会社で既存のCATVにとっては脅威でしょうし、全国展開が可能なので、放送局にとっても脅威でしょう。竹中大臣の懇談会の報告書でも、デジタル放送をIPマルチキャストで再送信する場合には、地域限定を書けるなという趣旨のことを言っています。都道府県単位で市場分割して経営を安定化してきた地方局にとっては、大きな脅威になるのではないでしょうか。
 いずれにしても、将来の姿として見えることは、既存のTV局のキー局・ネット局というヒエラルヒーとCATVの並存の現状に加えて、IPマルチの事業者が全国に張り巡らされたブロードバンド網を使用しての放送が加わり、両者の間に大変な競争が行われることです。ブロードバンド網の使用も、NTTが分割化されるかどうかは別として多くの事業者に開放され、複数の事業者が全国展開のサービスを競争的に行うようになるでしょう。
 そうしたなか、生き残っていくのはどんな事業形態なのでしょうか。すべてを生き残らせるために総務省はなにか行政的な措置を取るのでしょうか。
 著作権分科会報告書は、既存の秩序の再構築への第一歩を踏み出したことになります。今後自主放送も有線放送と同様の取り扱いとなるでしょうし、放送行政の観点からも両者は同様の扱いとなって、いわゆる「通信」と「放送」の垣根は撤廃されていき、競争が激化することでしょう。
 私は、こうした流れに対して、消費者の立場から意見の表明があっても良いのではないかという気がしてなりません。ポイントは以下の2点でしょう。
 ①既存の放送が衰退していくとなれば、CATVにしてもIPマルチキャストにしても、放送を受信するには一定の負担が必要となりますが、それでいいのかどうか。
 ②本当に消費者一人一人にとって必要な情報を得ることができるのか。地域に密着した情報の提供は今後も行われるのか。
 消費者団体はいつも「自分たちには情報が知らされていない」とか「自分たちが知らない間に物事が決まったのはけしからん」などというようですが、きちんと状況を把握して、必要な意見を言わなければいけないような気がします。

ファイル交換

2006-06-21 23:43:15 | Weblog
 Winnyによる情報流出は、警察の捜査資料、自衛隊のの機密資料など、大きな問題となっていますが、そもそも情報流出の問題以前に、Winnyの利用者はほとんどが音楽や映画などの情報をやり取りしていることから著作権侵害の問題があるという指摘もなされています。
 確かに、著作権法は、インターネット上のどこかのサイトからダウンロードする行為は、それが違法サイトであったとしても違法にはなりませんが、アップロードする行為は、「送信可能化」という著作者等の権利の及ぶ行為であって、無断でこれを行うことはできないこととなっています。音楽にしろ映画にしろ、通常アップロードは認めていませんから、そうした行為は違法になります。
 Winnyを用いたファイル交換は、ダウンロードする限りにおいては著作権法上違法にはなりませんが、どうもWinnyでダウンロードした者はシステム上自動的にそのファイルをアップロードすることとなるようです。したがって、アップロードされていることを知らない人は「故意」がないので「著作権侵害の罪」には問われることはないかもしれませんが、差止請求などが提起されれば、裁判所はそれを認めて差し止め命令(具体的にはPCが使えなくなるかWinnyを削除する)を出すことになります。
 Winny自体はもちろん悪いものではなく、こうしたファイル交換の技術は利用の仕方如何では適法かつ便利なツールとなりうるものです。問題はそれを音楽や映画といったファイルの交換に利用する行為であります。たとえて言うなら、料理用の包丁は別に「邪悪」なものではなく、人を傷つけることにこれが用いられた場合には、そうした使い方をした者が悪いということと同様でしょうか。
 しかし、例えばケシの花は、鎮痛作用があるクスリとして利用できるものであり、そうした利用をする限りにおいては何の問題はありませんが、乱用の危険があり、その栽培や所持その他の行為は法律で厳しく制限を受けています。Winnyは料理用の包丁というよりも、けしの花にたとえられるべきもののように思います。多くの人が違法な使い方をしていますし、それを誘うような「魅力」があるのですから・・・
 「情報漏えいを防ぐにはWinnyを使わないこと」と官房長官は明確に述べましたが、「Winnyは悪くなく使い方が悪いのだ」という論調もあるようです。確かにおっしゃるとおりですが、違法行為を誘引する力が強いことも事実です。そして、おそらく膨大な被害が世界中の音楽産業等にでているのではないでしょうか。
 私は、はっきりと「使うなっ!」といって、何らかの形で規制の対象にしたほうが良いように思えます。

盗作

2006-06-18 01:17:01 | Weblog
 著作権法は、「表現」を保護していて、その背景にある「アイディア」は保護しません。したがって、他人の独創的なアイディアを勝手に盗んだとしても、自分なりの表現でそれをあらわせば、著作権法の問題は基本的には生じませんし、自らが権利者として保護されることとなります。
 また、表現が似ているとしても、偶然に似てしまった場合には、著作権侵害にはなりません。他人の作品を見て「真似て」表現をした場合に、著作権侵害となるのです。したがって、他人から著作権侵害だと訴えられたときには、自分がその他人の著作物についてアクセス不可能だったことを証明すれば、たとえ表現が酷似していたとしても、自分が独自に創作したことを証明できますから、著作権侵害とはならないのです。
 特許の場合には、独自に開発したとしても、すでに成立している特許権と抵触する部分があれば、特許権侵害は免れません。
 どうして著作権の場合は独自に作品を創作すれば、侵害とはならないのか。おそらく、権利の発生が方式主義で公示されている特許権の場合には、成立している特許権の存在や、申請中のものについて「アクセス不能」という抗弁は不能であるのに対し、そうした登録が不要な著作権の場合には、本当に表現の偶然の一致があった場合には、どちらかの権利を否定し、他方の権利の侵害とするようなことはできない・・ということなのではないでしょうか。

デジタル万引き・盗撮

2006-06-16 01:54:59 | Weblog
 書店等で本を手にとって、必要な部分を携帯のカメラで撮ることをデジタル万引きなどといいます。著作権法では、自分が使うという目的であれば、複製は許されますから、こうした行為は著作権侵害にはなりません。
 では、書店が、そうした行為を禁じる表示をしていたら、どうなるでしょうか。撮影目的で書店に入ることは、例えば建造物侵入の罪になるのでしょうか・・
 同様のことが、映画館内でのスクリーンの撮影についてもいえます。米国ではそうした形で撮影されたDVDが出回っていることから、そうした撮影行為を禁じる法律ができたといいます。日本でも、そうした行為が行われているようですが、映画館の関係者がそうした「盗撮」を見つけ注意しても、「私的目的の複製」などといわれ、どうしようもないといいます。実際には「私的目的」ではなく、海賊版作成目的であり、そうして撮影されたものが、街頭で販売されることもあるようです。
 日本の映画関係者は、米国と同様の法律を制定するよう関係方面に働きかけをしているとのことです。しかし、日本ではそうした行為は頻繁に行われているのでしょうか・・・
 20年前くらいに、ビデオレンタル店では、違法に複製されたビデオによりレンタルを行うことが頻繁になされていました。そのようなことから、レンタルや販売目的で違法複製物を所持していることを禁止する著作権法の改正が行われました。
 そのような状況が今果たしてあるのでしょうか・・・決してあるようには見えません。

新しいビジネスの展開と著作権

2006-06-15 04:40:02 | Weblog
 ■著作権はビジネス展開の妨げ?

 著作者や著作隣接権者に「許諾権」があることが、新しいビジネスの芽を摘むとの指摘があります。木村太郎さんも著作権の問題では苦労したそうだし、米国でできて日本でできないことの大きな理由として「著作権」があることが多いそうです。
 また、IPマルチキャストの技術を用いると、いろいろなことができるそうです。ローカル局の放送を全国どこからでも見ることができるようになるらしい。環境問題について議論する特定の市町村の市議会の議論を、東京からみることだって可能だといいます。
 それを日本で現在できなくしているのは著作権法の存在であるといわれています。そのようなことから、権利者の権利を制限すべきだというような論調も見られます。

 ■本当はビジネスを行う者の努力不足

 そもそも、ビジネスを展開しようとする者は関係する知的財産権の問題を自らの努力でクリアすべきでないでしょうか。
 例えば、大学の授業で用いた教材をネット上一般に利用可能にする試みも行われていますが、MITでは、権利処理チームを作ってすべて著作権問題をクリアしたもののみ、アップロードしているといいます。米国の法律は、ネットでの利用は権利者の権利が働きやすいので、きちんと契約で処理されているはずです。その実態を見ずにただビジネスが展開されている点のみを見て、日本の著作権法が問題あると断じるのであれば、それは愚かな議論だといえましょう。

ベルヌ条約と有線放送事業者の一時的固定

2006-06-09 04:11:20 | Weblog
 ■ベルヌ条約が規定している著作権制限のための条件

 ベルヌ条約に加盟している国は、条約が定めている最低限の権利を他の加盟国に与えなければなりません。そして、それら権利には各国の様々な事情もあるでしょうから、一定の範囲で「制限」を設けることもできますが、それは、条約が定めた3つの要件を満たすものでなければならないとされています。
 その3つの要件とは、
   ①特別の場合であること
   ②通常の利用に影響が出ないこと
   ③著作権者の利益を不当に害するものでないこと
をいいます。
 そのようなことから、日本の著作権法も第30条以下に様々な権利制限規定を置いているのです。

 ■放送事業者に認められている「一時的固定」

 最近、第44条で有線放送事業者に一時的固定を認めていることは、この条約違反だということが言われています。この一時的固定は1986年の著作権法の改正で設けられたものですが、驚いたことに政府(著作権法を所管している文化庁)も、条約違反であることを認識しており、将来は条約のほうが改正されて有線放送事業者に一時的固定が認められるだろうし、そうなったら問題は解消すると考えているという指摘もあります。
 もし本当に条約違反であれば、日本国憲法の規定からすると条約のほうが国内法より効力は上なので、そうした規定の効力が疑問視されることとなります。

 しかし、本当に条約違反なのでしょうか。
 有線放送事業者の一時的固定は、有線放送事業者が自分で番組を作るときにだけ問題となるのですが、放送の場合とことなり、そうした実態は非常に少なく、「特別の場合」であるというでしょうし、「一時的固定」つまり録音録画されたものは有線放送のためだけにしかつかわれませんから(それ以外の使用は著作権法上禁じられています)「著作者の利益を不当に害する」ことにはなりませんし、有線放送事業者の番組制作を目的としたビジネスがあるわけでもないので、「通常の利用」を妨げることにもなりません。
 もし、政府が「条約違反」と認識していたとしても、条約違反と考えるのは相当程度無理があるようなきがします。

 番組を制作するに当たっては、すべて生番組とするのは到底無理です。放送・有線放送の目的のみに使うのであれば、著作物を録音録画したとしても、まったく問題は生じないのではないでしょうか。

許諾なく著作物等を利用できることの危うさ

2006-06-07 00:13:51 | Weblog
 ■入試問題への著作物の利用

 入試問題に小説や随筆などを用いることがあります。語学の試験科目なら外国の作品が用いられます。
 著作権法は、このような試験に用いる場合には、著作権者の許諾は不要としています。「試験」の性格ゆえ、そのような権利制限は仕方のないことでしょう。
 しかし、この権利制限は、試験問題として利用される場合に限るので、その後その試験問題を学校がネット上にアップしたりする行為や、いわゆる赤本に掲載する行為には、著作権者から許諾を得なければなりません。そのようなことから、学校等の情報公開や広く教育活動に支障が生じるという事態も起こっています。
 センター試験でも、そのような事例があったことは記憶に新しいところです。

 ■放送番組を制作するときにも許諾権は制限されている

 同様のことが、放送番組においても起こっています。放送局はとにかく視聴率を取れるものをつくろうとします。視聴率によってスポンサーからの広告収入が変わってくるからです。そのため、気難しいアーティストの曲を使ったりします。レコードの放送使用に関しては、実演家やレコード製作者は許諾権はないので、放送局は自由に音源を選択し利用することができます。
 
しかし、その番組をビデオ化したりネットで配信しようとすると、これら権利者の許諾権がかかってきます。そのようなことから、いわゆる放送番組の2次利用ができなくなってしまうのです。
 著作物等を自由に利用できる特権が与えられると、特権の範囲内では著作物は利用されますが、その範囲外での利用はきわめて難しくなってしまいます。

 ■許諾なく著作物を利用できるという「特権」とは・・・

 入試の場合にでも、その入試問題はその後様々な利用をされるべきものですし、放送番組も、ビデオ化、ネット配信利用など、様々な利用が想定されます。
 著作権法におけるこうした特権は、今後見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。

IPマルチキャストによる放送

2006-06-02 23:17:16 | Weblog
 ■放送番組をインターネットでみたい?

 放送番組がインターネットで見ることができないのはなぜか?見ることができるようにすべきでないのか・・
 総務省の竹中大臣が問題提起していますが、そう簡単にいくのでしょうか。

 ■通信事業者は放送事業者のライバル

 放送局にとっては、NTTやKDDIといった通信会社は将来のライバルですから、こうした会社がIPマルチキャスト技術を用いて放送サービスをおこない始めても、そこに放送番組を出すわけはありません。すでにCATVには出していますが、仮にブロードバンドにだしたら、CATVから文句が出てしまいます。

 ■IPマルチキャストの将来は?

 そうなると、NTTなどは自分で番組を作るしかありません。かつてTVの創生期のころに映画を提供してもらえなかったTV局が試行錯誤の上でTVドラマを制作するようになり、それが視聴者の支持を得ることができましたが、NTTはそういう経過をたどる意気込みはあるのでしょうか。
 キャプテンシステムは死語となり、その存在も消えうせました。
 IPマルチによる放送も、将来どうなるのかわかりません。