著作権法

著作権法についてしっかり考えてみませんか。

著作権の保護期間の延長(その4)

2006-11-29 02:53:10 | Weblog
 「エンドユーザーの見た著作権」さんから、私が書いた記事への反論と、質問を頂戴しました。
 反論の記事は、トラックバックのところを見ると判ります。

 ここでは、寄せられた質問に対して、回答を載せたいと思います。

 なお、私の「立場」に対しても言及いただきましたが、他の措置とセットで延長を認めるべきということなので、「条件付賛成」としたいと思います。

【1】保護期間を延長すべき根拠とは何か?
 特に、そのメリットは何でしょうか。欧米並みにして何が変わるでしょうか。

 メリットとして考えられることは、以下の通りです。

 まずは、日本のコンテンツを国際的に厚く保護することができる点だと思います。保護期間を70年にしている国においては、米国を除いて、保護期間について相互主義を取っているので、日本の著作物は50年しか保護していません。しかし、そのような国においては、日本が保護期間を70年にすると、日本の著作物の保護も70年となります。これが、最大のメリットと考えます。

 第2には、インターネットの手段により欧米との間で著作物が国境を超えて流通することが多いわけですが、日本の保護期間が50年のままですと、欧米で保護されているが、日本で保護されていないという状況が生じますが、そこから様々な問題が生じる可能性があります。保護期間を70年にすることにより、そうした諸問題を回避することができると考えます。

 第3は、国際協調です。先進国がこぞって70年にしている現在、逆に言うと70年にしないほうがなぜ?といわれるのではないかと思います。もちろんベルヌ条約は50年と決めていますが、先進国の大半が70年としているのなら、そうしたルールを採用することが、国際協調ではないでしょうか。

【2】保護期間を延長したメリットはデメリットを上回るか?
 デメリットについては既に指摘した通りです。これを無視されませんよう。

 デメリットは、著作物の利用者からすれば、自由な利用が妨げられること、 また、利用できるとしても、経済的な負担がかかることでしょう。

 また、日本の国際収支の観点からすれば、現時点ではメリットよりデメリットが上回ると思います。
 しかし、将来はどうなるかは分かりません。映画、小説、ゲームなど、国際的に強い分野がありますし、政府としてもコンテンツ産業の発展と国際展開を重視していますので、今デメリットかもしれませんが、将来までそうした傾向にあるとは思えません。
 いま日本のコンテンツ産業の強みは、ストーリーといわれています。
 コミックの原作や小説が様々な形で日本や諸外国において利用されています。
 将来にわたってそうしたストーリーが海外で広く利用されることを考えると、保護期間延長は将来の収支のプラス要因です。

 また、「新たな創作」の観点からすすと、どうなるでしょうか。
 確かに、翻訳・翻案は影響を受けるでしょうから、それはデメリットだと思います。

 しかし、それ以外の利用については、私は大きな影響はあるとは思いません。
 過去の作品にインスピレーションをえて創作する人も、著作権に触れるような形で自らの創作をする人はいないと思います。

 また、権利者が不明の作品が大量に発生します。これはデメリットでしょう。

 で、【1】と【2】のメリット・デメリットをどう評価するかが問題となるわけですが、私の考えは、「権利者が不明の場合の利用を円滑にする」という条件付なので、そのデメリットは解消されたものと考えさせてください。

 まずは、経済的には保護期間延長は現時点ではマイナスだが、将来は改善の可能性があると考えます。

 「新たな創作」に関しては、延長は影響はあるが、概ね翻訳や翻案の事例にとどまるでしょう。

 日本の国際的な地位ということを考えれば延長のほうがよい。

 法的に問題をなくするための国際協調という観点からは、延長にメリットがある。

 以上のような状況下においては、メリット・デメリットの評価は見る人の価値観にもよりますが、私はメリットが大きいものと考えます。

【3】著作者の「気持ち」を満たすのが目的か?
 もしそうなら国民会議側の「気持ち」をどう評価しますか。
 もちろん著作権法上の話であって、 copyright1971 さんの仰る狭い話ではありません。

 メリットがあるから延長をするのですが、私は権利者側の気持ちを満たすことは大切だと思います。
 しかし、「国民会議」側の気持ちも大切にしなければいけないと考えます。
 では、この状況にどう対応すればいいのでしょうか。
 ・・・多数決という問題ではありますまい。

 私は、延長を認めた上で、延長のデメリットをできるだけ少なくする措置を同時に講じることが、最も適切ではないかと思っています。
 また、クリエイティブコモンズの試みを政府が支援したり、奨励することもあるかもしれませんね。
 さらに、文化の発展という目的をより明確化するため、延長される部分については、「許諾権」でなくするとか、権利者団体が徴収する延長分の使用料の一部は、新進の創作者の育成などに当てるようにできればいいのかもしれません。
 こうしたことで、延長したとしても、なんとか国民会議の方々の気持ちに配慮していくという方向で行くべきではないでしょうか。

【4】保護期間が死後50年でなぜ不足か?

 私は、「そもそも論」でいえば、50年で十分だと思います。しかし、国際的な協調等を考えれば、「延長すべきだ」というのが私の考え方です。

【5】創作は、過去の著作物と無関係に発生すると思うか?
 優れた著作物を多く消化することで より良い創作が望めるとは思いませんか。
 流通(パブリックドメインのものも含む)が少なくなることで、創作者が触れる著作物を減らし創作のインスピレーションを減じることには なりはしませんか。

 創作は過去の著作物と無関係に発生することはまれで、過去の何らかの成果に依拠しているものだと考えます。
 しかし保護期間の延長と、創作者による過去の著作物へのアクセスは、基本的には別の問題ではないかと思います。
 保護期間を経過したとしても、版を出版社が独占し公開しなければ、アクセスは困難になるかもしれません。また、保護期間内であっても、すでに十分利用がなされているものについては、図書館その他にいけば、誰もがそうした著作物にアクセスすることが可能でしょう。

【6】創作は「オリジナル」のものが全てと考えてはいないか?
 全体を考えれば、過去の著作物に依拠するものが多い(評論や論文・ジャーナリズムも含む)。

 創作は、何らかの形で過去の著作物に依拠していると思います。しかし、それは、アイディアだとか思想、表現の様式などにおいてであって、そうした部分は、著作権が及びませんので、保護期間が延長されても、創作活動には影響はないと思います。

【7】copyright1971 氏自身が延長の経済的メリットを否定していますが?
「死後50年を経過しそうな者の作品の利用はいったいどれだけあるかと考えると、著作物全体の利用からすれば極わずかでしょう」との文章がありましたが、これでは延長の経済的メリットが存在しないと言っているのに等しい。これをあなたは撤回しますか? それとも維持しますか。

 「極わずか」という点は、私は現時点では間違っているとは思っていません。しかし、厳密な影響調査がなされ、「非常に大きい」という結果がでれば、撤回いたします。

著作権の保護期間の延長(その3)

2006-11-26 04:41:29 | Weblog

「国民会議」発起人の津田大介さんより、コメントを頂戴しました。

 私が国民会議発起人の構成について「有識者」と表現したことについてのコメントがありますが、私は、著作者としての代表が「創造性の高い著作物を創作するクリエーター」とは思っていません。社会の様々な情報をわれわれに伝えてくれると共に卓越した識見を表明され、われわれに考えるヒントを与えてくれる「研究者」「評論家」その他私が「有識者」と表現した「著作者」の方々の活動は、現代社会にあってはまさしく「著作者」の代表といってよい存在だと認識しています。

 しかし、保護期間の延長問題を議論するときには、多くの人たちが念頭に置くのは、「この作家、作曲家、画家の保護期間はいつ切れるんだ?」などと議論されるように、小説家であり、画家、作曲家といった立場の方であると思います。また、新たな創作を促すことになるのかという議論をするときも、引き合いに出されるのが「星の王子様」であったり、ホルストの「ジュピター」であったりしています。
私は、そうしたことを念頭に、「国民会議」の発起人の方々をひとくくりにして表現(・・などと大変失礼なことであったと思いますが)する場合に、用語として「有識者」というコトバを使用しました。

 よく考えてみれば、発起人の方々の様々な著作は、現代社会についての様々な論説等はあったとしても、将来においては、この時代を映す鏡としてばかりでなく、時代を超えて読者を獲得していくものも多いでしょうから、死後50年までか70年までかという議論から除外するかのような概念整理は不適切であったかもしれません。この点「発起人」の方々にお詫びしたいと思います。

著作権の保護期間の延長(その2)

2006-11-24 03:24:48 | Weblog
 保護期間の延長にかんする「賛成論」について、反論を頂戴しました。11月23日付けのトラックバックに引用されているものがそれです。
 

■「国民会議」の構成について
 「国民会議」について、十分そのお名前を認識した上で「有識者」と書いたところ、「ほとんどが著作者である」という指摘を頂戴しました。
 確かに、発起人の方々は各分野で様々な活動をされている方々で、著作も数多くあり、「著作者」であることは間違いありません。しかし、大学の教員や弁護士として論文を「著作」したり、「評論」などを著作するだけの方も多く、小説家や美術の創作をされる方、アーティストといった方々の割合は多くありません。
 私はこの構成を的確に表現するには「有識者」と表現したほうが適切だと思います。
 
■未来の著作者を再生産できる環境
 保護期間が長くなると、利用が円滑に進まず、あらたな著作物の再生産ができにくくなる点も指摘されています。これは、延長反対を考える方々の共通した意見と思います。
 私は、利用が円滑にならなくなるという点については、まさにその通りだと思います。仮に20年間保護が延長されれば「青空文庫」も20年間にわたり、新たな作家リストを得られなくなりますし、ワンコインDVDについては、映画の保護期間が70年となったことにより、年々新たなタイトルのものが出されるという状況でなくなっています。
 しかし、新たな創作には、どれほどの影響があるのでしょうか。
 確かに翻訳のような、既存の創作を利用して創作を行う活動には、影響はあるでしょう。前の記事で引用した「星の王子様」がよい例です。
 同様に、小説の映画化といった「翻案」利用にも影響はあるでしょう。
 しかし、オリジナルの作品を創作するという点では、私は大きな影響はあるのかどうか、よくわかりません。今の時代に創作活動をされている方々は、過去の作品からインスピレーションを感じて創作することは多いと思いますが、そうした作品について権利が存続していたとするならば、その著作権に触れるような形で創作活動をされる方はどれほどおられるのか・・
 私は「新たな創作」に影響がある点は否定するものではありませんが、その影響は、創作活動全体から見れば「限定的なもの」ではないかと思っています。

 ■国際協調について
 50年より長い保護期間を設定している国は、数としては少数です。ベルヌ条約の規定を国際標準と考えれば、その標準を乱しているのが「欧米諸国」だといわれれば、確かにそういう考え方は否定できないと思います。
 しかし、米国・EU諸国などが70年としている状況を冷静に考えたとき、どのような行動を取ることが「国際協調」かをよく考える必要があると思います。
 私は、協調するなら、欧米諸国と一緒の歩調を取るべきではないかと思います。もちろん、ここは「価値判断」の問題ですけどね。


 ・・・提起された問題点のすべてに応えているわけではありませんが、とりあえず気がついた点について、書いてみました。
 私は、「無条件」で保護期間の延長を賛成しているわけではありません。延長のデメリットの解消策がセットで取られることがぜひとも必要であると思っています。
 「権利者が不明になって、許諾を取ろうと思っても取れない」とか、「出版社が作品を塩漬けにして、一般人の作品へのアクセスを困難にしている」という状況は、改善されなければならないでしょう。
 私は、権利者不明の場合には「裁定」によって利用可能とする手段が著作権法にもありますが、それを非常に簡潔な手続きで行えるようにすべきだと思っています。米国でも「オーファンワークス」の利用を円滑にするための法案が連邦議会で議論されていると聞いています。日本でも、そうした対策はぜひとも必要でしょう。
 また、出版社の「作品塩漬け」については、出版社に猛省を促すとともに、著作権法で、「独占出版」の契約を禁じるくらいの措置をとってもいいのではないかと思っています。
 新聞報道によれば、文化庁は来年にも保護期間の延長問題を検討するようですから、そうした政策を一緒に考えるべきだと思っています。
 

著作権の保護期間の延長

2006-11-20 02:52:46 | Weblog
 権利者団体が保護期間の延長を求めて文化庁に要望書を提出し、また、慎重な検討を求める有識者がその旨文化庁に要望書を提出したという報道がありました。
 権利者団体の要望は、各紙にのっていましたが、慎重な検討を求める要望は、日経しか報道していなかったのではないでしょうか。

 米国からの要望もありますし、政府の公式の計画である「知的財産戦略推進計画」においても「2007年度中に結論を得る」とあることから、著作権法を所管する文化庁ではおそらく近いうちに検討を開始することでしょう。

 保護期間の問題は、ある面経済問題ですが、創作に携わる人や創作物をどれほど大切にするかという文化芸術の問題でもあると思います。
 保護期間延長反対論は、「経済」の問題として、保護期間を「死後50年まで」から「死後70年まで」に延長しても、創作のインセンティブにはならない、と言っています。しかし、延長要望派は、創作者やその作品を大切にするということで、インセンティブになるとしています。要するに、経済的な側面よりも、「しっかり保護してくれている」というその「気持ち」のような部分を重視しているのでしょう。

 たしかに、創作のインセンティブにならないといっている人は、「有識者」に多いような気がします。実際に創作をしない人で「経済学」的な観点から、言っているのではないでしょうか。

 私は、個人的な考え方を披瀝すれば、保護期間の延長は賛成です。
 理由は、3つあります。

 第1には、やはり国際協調の観点です。
 欧米先進国がもう70年に延長しています。そうしたなか、国境を越えて利用されることが多い「著作物」の保護は、一般論としては先進国共通の保護内容とすべきではないでしょうか。
 損得の議論がありますし、知的財産権法の権威である研究者までもそのようなことを言っておられますが、それはあまりにも「途上国」的な発想ではないかと思います。「星の王子様」が、保護期間が切れたことにより多くの翻訳が登場したといいますが、そうした翻訳が出版される経費のうち、権利者に支払われるべき金銭はいったいどれほどなのでしょうか。それを節約したいから保護期間が短い方がよいというのは、なんだか情けない気がしてなりません。
 日本は「自由貿易」でもって、今日の経済的な繁栄を勝ち取り、その成果を謳歌しています。そういう国は、国際収支面の「損得」の議論というよりも、「国際協調」を大切にすべきではないでしょうか。


 第2は、創作をする方々の気持ちを大切にしたいということです。
 保護期間の問題は、先に触れたように、「経済問題」だけではなく、「文化芸術政策」の問題でもあります。「保護期間の延長」は、創作する者を大切にするとともに、作品をも大切にするという国家の意思の表れという側面があります。
 文化芸術に対する政策は日本は欧米諸国に比べると本当に貧弱といわれています。国の予算も少なく、民間からの寄付も少なく、寄付を促進するような税制にもなっていない・・・・ 
 そんな文脈からすると、せめて著作権の分野で、創作を大切にする姿勢を示さなければいけないのではないかと感じます。

 第3は、保護期間の延長は、経済的には大きな影響はないということです。
 断定的に「ない」と書いてしまいましたが、確たるデータがあるわけではありません。しかし、死後50年を経過しそうな者の作品の利用はいったいどれだけあるかと考えると、著作物全体の利用からすれば極わずかでしょう。
 もちろん、権利者との連絡がうまくいかないから著作物を利用できないとか、そういう面での影響も考えられますが、それは50年となっている現在でも問題とされており、保護期間の延長問題とは別に解決されるべき課題であり、延長問題とリンクして語られるものではないと思います。
 でも、文化庁が延長を考えているのなら、この問題に対しては有効な対策を用意すべきでしょうね。「裁定制度」をより緩やかなものとするとか、「えいや」と使っていいことにして、後から登場した権利者には、その権利行使に限定を加えるとか、そうした措置を取るべきでしょう。

 ・・・そんなことで、保護期間は延長してもよいと思いますが、こうした考え方は少数派なんでしょうね。