著作権法

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Winny開発者有罪判決

2006-12-15 03:45:37 | Weblog
 Winny開発者に有罪判決が出ました。

■どんな行為が罪とされたのか

 新聞などで報道されている「判決要旨」によれば、「開発行為」が「罪」となったのではなく、「違法に使われることを認識しながら、不特定の人に利用できるような状況においていて現に利用された」ことが罪に当たるとされているようです。

■「正犯」の具体的行為は認識していないが、罪になった

 Winnyを使ってファイルをアップロードし、すでに有罪が確定している者が2名ほどあるようですが、その具体的な行為は認識していませんでしたが、幇助罪が認められました。
 人通りの多い道路に爆弾を仕掛けて「誰かがこれで死ぬだろう」と思っていたところ、実際に爆破により人が死んだとき、殺人罪が成立するのと同じと言うことでしょう。いわゆる「未必の故意」と同じと思われます。
 「幇助の範囲が不明確」との批判がありますが、さほど不明確とは思えません。「不明確」と主張している技術者も、もうすこし法律を調べれば、十分判るのではないかと思います。

■技術開発の阻害要因になるか?

 「開発行為」自体が違法とされているのではないのですから、「技術開発の阻害要因となる」との主張もありますが、なぜだかよくわかりません。
 ただ、影響はないわけではないでしょう。開発されている技術を確かめる実証行為に一定の枠がはめられたわけですので・・・

 しかし、それは、「実証行為」といっても、「法律を犯してまでそれをやっていいということではない」ということを言っているに過ぎません。
 拳銃を開発した人が、その効果を試すために、人を撃ってはいけないのは当然ですし、自動車を開発する人が、ナンバーを交付されないまま公道をつかって開発中の自動車をはしらせてはいけないのと同様です。

 著作権の分野でも、例えば一定の送信技術を開発した通信サービス会社が技術的な面を実証するための試験を行う場合には、権利侵害にならないように細心の注意を払っていると聞いています。
 具体的には、著作物を不特定または多数の者に送信すると、「公衆送信」の権利が及んでくると言うことで、送信先を「特定少数」にするなどの工夫をしていると言います。

 Winnyも、仮に開発者がアップロードする行為が実証実験であったとするなら、ほんの十数名だけに交付して、その人たちだけの間でファイルのやり取りをするとか、あるいは、交換されるファイルを著作権フリーのものを特定していればよかったわけです。
 他の技術についても同様です。ほんの少し法律に配慮すれば、技術開発に影響が出ることはないのではないかと思いますし、仮に何らかの影響があったとしても、それは「コンプライアンス」の観点から受忍すべきものではないでしょうか。
 仮に社会に有用な技術の開発であるとしても、違法な手段でもって開発を進めることが許されないのは、私は当然のことだと思います。

 さまさりながら、今回の判決は、現に適法な手段による開発行為まで萎縮させるものなのでしょうか?技術者が実際に「萎縮する気持ち」を抱いているのであれば、それ自体が大きな問題であり、あってはならないことだと思います。

 しかし、それは、今回の判決の結論を変更するのではなく、今回の判決が何を罰することとしているのかをよく知ることにより解消されるべきものと思えます。
 そのあたり、技術者がどのような気持ちでいるのでしょうか。

 わたくしは、「今回の判決は技術開発を萎縮させる」ということが大々的に伝えられたことにより、十分な知識を持っていない技術者が萎縮する気持ちを抱くこおとになったとすれば、そうした伝達行為自体が問題であり、控えられるべきことと思います。

■罪に問うことは妥当だったか

 違法かどうか、罪となるかどうかを考えた場合には、今回のWinny開発者の行為は、どう考えても違法で可罰的なものと思います。

 しかし、罪になるべき行為を行った者のすべてが裁判にかけられて有罪になるわけではありません。
 検察官は、初犯なら「起訴猶予」にすることもあるでしょうし、証拠が不十分なら「不起訴」にします。反省していて被害者との示談が成立していれば、罪の内容にもよるのでしょうが、起訴しないことも少なくありません。

 私は、今回検察官が開発者を起訴し罪に問うことが適切だったか、という問題は残るような気がします。

 どのような事情があったのでしょうか。

 権利者側が強く処罰を求めていたのでしょうか。

 実は開発者に既存の著作権秩序への挑戦のような意図があり、検察は、裁判上立証はできませんでしたが、そうした意図を十分認識していたからこそ、起訴に踏み切ったのでしょうか。

 あるいは、すでに別のファイル交換ソフトにより違法なファイル交換が蔓延しつつあるので、ほおっておくと、例えばわいせつ図画がネット上で頻繁にやり取りされてがつけられなくなるのと同様の自体に陥りかねないので、法秩序維持のためあえて「天才」、「神」などとも言われ、信奉者も多い開発者を起訴したのでしょうか。

 「起訴便宜主義」とはいえ、起訴は恣意的であってはならないし、市民感情に適合するものでなければならないと思います。
 今回の起訴は、著作者にとっては当然のことと思いますが、なんでここまでやるのか?という気持ちは残ります。検察当局はどのような事情で起訴にいたったのか、きちんと説明する必要があるような気がします。