著作権法

著作権法についてしっかり考えてみませんか。

フェア・ユース

2006-12-20 03:12:50 | Weblog
 ■フェア・ユース規定の効用
 米国法は、権利制限規定については、「フェア・ユース」と呼ばれる一般条項があります。
 あらかじめ、無許諾で著作物の利用が可能な範囲が明確でない反面、新たな利用形態に柔軟に対応できるという利点もあります。

 日本でもこうした規定があれば、インターネット上での様々な利用に適切に対応できるし、一般に著作物の円滑な利用がなされるのではないかといわれることもあります。

 確かに日本の現在の権利制限規定は、個別の事項を列挙していますので、新たな時代の新たな利用には的確に対応できませんので、絶えず法改正が必要になってきているようです。

 ■日本でフェア・ユース規定を導入できる?

 フェア・ユース規定は、裁判で物事を決着させる文化がない日本においては、適切ではないという考え方もあります。
 しかし、民法709条の不法行為だって、一般的な規定ですが、判例の蓄積や法学上の理論構築により、その内容がより具体化されてきています。
 著作権法の既存の規定の中にも、「著作者の利益を不当に害することとならない」ということを要件としている権利制限規定もありますし、「引用」は「公正な慣行」に合致することが求められています。
 すでに、条文上は明確ではないのではないでしょうか。

 しかし、著作権侵害は、刑事罰が科せられることとなりますので、その限界は明確でなければなりません。いくら既存の権利制限規定があいまいだといっても、フェア・ユース規定を日本の著作権法に取り入れるには、その問題が解決される必要があると思います。

 ■著作権侵害の罪のような一般的な構成要件を改めるべき

 私は、著作権侵害が一般的に刑事罰の対象になることが、問題ではないのではないかと思っています。所有権については、違法な行為を列挙して刑事罰の構成要件としており、「所有権侵害罪」のような一般的な罪はありません。著作権侵害の場合も、違法な侵害類型を特定して、構成要件にすべきではないでしょうか。

 刑事罰をそのようなことにすれば、フェアユースに合致するか否かは、一般的に民事上の問題のみとなりますので、この問題は解決されることになります。

 著作権法は、刑事罰則が懲役10年に引き上げる法改正が、つい最近の国会で成立したようですが、「10年」は諸外国と比べると相当に重いといわれています。
 したがって、構成要件を限定するという作業を行ってもよいのではないかという気がしています。

Winny開発者有罪判決

2006-12-15 03:45:37 | Weblog
 Winny開発者に有罪判決が出ました。

■どんな行為が罪とされたのか

 新聞などで報道されている「判決要旨」によれば、「開発行為」が「罪」となったのではなく、「違法に使われることを認識しながら、不特定の人に利用できるような状況においていて現に利用された」ことが罪に当たるとされているようです。

■「正犯」の具体的行為は認識していないが、罪になった

 Winnyを使ってファイルをアップロードし、すでに有罪が確定している者が2名ほどあるようですが、その具体的な行為は認識していませんでしたが、幇助罪が認められました。
 人通りの多い道路に爆弾を仕掛けて「誰かがこれで死ぬだろう」と思っていたところ、実際に爆破により人が死んだとき、殺人罪が成立するのと同じと言うことでしょう。いわゆる「未必の故意」と同じと思われます。
 「幇助の範囲が不明確」との批判がありますが、さほど不明確とは思えません。「不明確」と主張している技術者も、もうすこし法律を調べれば、十分判るのではないかと思います。

■技術開発の阻害要因になるか?

 「開発行為」自体が違法とされているのではないのですから、「技術開発の阻害要因となる」との主張もありますが、なぜだかよくわかりません。
 ただ、影響はないわけではないでしょう。開発されている技術を確かめる実証行為に一定の枠がはめられたわけですので・・・

 しかし、それは、「実証行為」といっても、「法律を犯してまでそれをやっていいということではない」ということを言っているに過ぎません。
 拳銃を開発した人が、その効果を試すために、人を撃ってはいけないのは当然ですし、自動車を開発する人が、ナンバーを交付されないまま公道をつかって開発中の自動車をはしらせてはいけないのと同様です。

 著作権の分野でも、例えば一定の送信技術を開発した通信サービス会社が技術的な面を実証するための試験を行う場合には、権利侵害にならないように細心の注意を払っていると聞いています。
 具体的には、著作物を不特定または多数の者に送信すると、「公衆送信」の権利が及んでくると言うことで、送信先を「特定少数」にするなどの工夫をしていると言います。

 Winnyも、仮に開発者がアップロードする行為が実証実験であったとするなら、ほんの十数名だけに交付して、その人たちだけの間でファイルのやり取りをするとか、あるいは、交換されるファイルを著作権フリーのものを特定していればよかったわけです。
 他の技術についても同様です。ほんの少し法律に配慮すれば、技術開発に影響が出ることはないのではないかと思いますし、仮に何らかの影響があったとしても、それは「コンプライアンス」の観点から受忍すべきものではないでしょうか。
 仮に社会に有用な技術の開発であるとしても、違法な手段でもって開発を進めることが許されないのは、私は当然のことだと思います。

 さまさりながら、今回の判決は、現に適法な手段による開発行為まで萎縮させるものなのでしょうか?技術者が実際に「萎縮する気持ち」を抱いているのであれば、それ自体が大きな問題であり、あってはならないことだと思います。

 しかし、それは、今回の判決の結論を変更するのではなく、今回の判決が何を罰することとしているのかをよく知ることにより解消されるべきものと思えます。
 そのあたり、技術者がどのような気持ちでいるのでしょうか。

 わたくしは、「今回の判決は技術開発を萎縮させる」ということが大々的に伝えられたことにより、十分な知識を持っていない技術者が萎縮する気持ちを抱くこおとになったとすれば、そうした伝達行為自体が問題であり、控えられるべきことと思います。

■罪に問うことは妥当だったか

 違法かどうか、罪となるかどうかを考えた場合には、今回のWinny開発者の行為は、どう考えても違法で可罰的なものと思います。

 しかし、罪になるべき行為を行った者のすべてが裁判にかけられて有罪になるわけではありません。
 検察官は、初犯なら「起訴猶予」にすることもあるでしょうし、証拠が不十分なら「不起訴」にします。反省していて被害者との示談が成立していれば、罪の内容にもよるのでしょうが、起訴しないことも少なくありません。

 私は、今回検察官が開発者を起訴し罪に問うことが適切だったか、という問題は残るような気がします。

 どのような事情があったのでしょうか。

 権利者側が強く処罰を求めていたのでしょうか。

 実は開発者に既存の著作権秩序への挑戦のような意図があり、検察は、裁判上立証はできませんでしたが、そうした意図を十分認識していたからこそ、起訴に踏み切ったのでしょうか。

 あるいは、すでに別のファイル交換ソフトにより違法なファイル交換が蔓延しつつあるので、ほおっておくと、例えばわいせつ図画がネット上で頻繁にやり取りされてがつけられなくなるのと同様の自体に陥りかねないので、法秩序維持のためあえて「天才」、「神」などとも言われ、信奉者も多い開発者を起訴したのでしょうか。

 「起訴便宜主義」とはいえ、起訴は恣意的であってはならないし、市民感情に適合するものでなければならないと思います。
 今回の起訴は、著作者にとっては当然のことと思いますが、なんでここまでやるのか?という気持ちは残ります。検察当局はどのような事情で起訴にいたったのか、きちんと説明する必要があるような気がします。

違法サイトからのダウンロード

2006-12-05 00:33:39 | Weblog
 「違法サイトからのダウンロード」を禁止し、違反者に対しては罰則がかけられるようにすることを政府部内で検討しているとの報道がありました(朝日11月24日)。12月1日の衆議院文部科学委員会における著作権法改正案の質疑の中でも、この問題は取り上げられていました。
 衆議院のHPにはまだ会議録はアップされていませんが、会議の映像は視聴することができます。社民党の保坂展人議員の質問に対して政府側は「技術的保護手段の回避による複製を違法とする法改正を行ったときも刑事罰を科さなかった。違法サイトからのダウンロードをどうするかも、そうした過去の立法例を参考に、十分慎重に検討すべき」と答弁していました。

 政府関係者が「慎重に」というときは、通常「否定的」とされています。過去の刑事罰を科さなかった立法例を引き合いに出し、かつ「慎重に」と言っているので、政府の姿勢は、違法サイトからのダウンロードについては、民事上違法としたとしても、刑事罰は科さない方向であることが推測されます。

 では、政府としては、違法サイトからのダウンロードは、刑事罰が科されないものの、「禁止」とするのでしょうか。
 文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会では、11月15日に開催された第7回会議に提出された資料には、以下のくだりがあります(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/06111523.htm)。

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②制度改正は可能
ア  違法複製物、違法サイト(ファイル交換によるものを含む)からの私的録音録画
(理由)
* 利用者に対する権利行使は事実上困難。ただし、ファイル交換の場合、ダウンロードされたものが同時にアップロードされる場合は、実態把握が可能
* 利用秩序の変更を伴うが、違法複製物等からの録音録画が違法であるという秩序は利用者にとっても受け入れやすい。ただし、利用者保護の立場から複製物等が違法に作成されたものであることを知っていた場合に限る等の限定が必要と考えられる。
・ 今回の私的録音実態調査において、80パーセント以上の人が「自分で録音した音楽をHPに掲載したりファイル交換ソフトで交換すること」を「権利者の了解を得る必要があるかもしれない行為」と認識

* 利用者の対する権利行使が困難だが、違法複製物等を減少させるためには、利用者の複製行為を減少させる必要あり
* 著作権保護技術が及ばない分野であり、法的秩序の一律の変更はやむを得ない


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 ここいにう「制度改正」とは、どうも著作権法30条で私的な複製ができるとする範囲の外に出す「制度改正」という意味ではないかと思われます。どんな議論が行われたかは、会議録がアップされていないのでよくわかりませんが・・・

 この資料によれば、30条の範囲から除かれる・・つまり複製が適法ではなくなるのは「複製物が違法に作成されたことを知っている場合」に限定しているようですから、国会で保坂代議士が述べられた「添付ファイルをあけてみたら中に違法なものが入っていた」場合は、違法とはいえなくなります。
 が、いずれにしても、そのような範囲で、違法サイトからのダウンロードは「違法」とする方向であると考えることができるのではないでしょうか。

 もしそうだとした場合、Winnyでのファイル交換についてはどうなるでしょうか。アップロードする行為についてレコード会社などの権利者は許諾していませんから、そのことを知ってダウンロードをすれば、違法ということになるでしょう。実際多くの人が「無許諾でアップロードされている」と認識しているでしょうし、法律ができたら、関係の権利者は「無許諾だ」と宣伝するでしょうから、実際ファイル交換で音楽や映像を獲得する行為は違法になってしまうでしょう。

 では、違法となった場合にはどういうことがダウンロードをした人に対して起こるのでしょうか。
 おそらく、ファイルを削除することが求められるでしょう。削除しないと裁判に訴えられるかもしれません。ただ、刑事罰は科せられないでしょうから、警察が来て逮捕したり家宅捜索されることはないでしょう。

 個人の家庭内の零細な行為については、法律はあまり立ち入るべきではないと思います。立ち入る以上は、それだけの理由が必要でしょう。

 私は、違法サイトからのダウンロードを禁止するとすれば、権利者の利益を害しているという証明がなければならないと思っています。
 そういえば、最近権利者側は「ファイル交換で6時間に100億円の被害」という報告を出したようです。100億円の計算をどのようにして出したのか、ファイル交換が新曲の周知に効果があることや新たなCD購入につながる効果があることも考慮に入れなければいけないと思います。

 また、配信ビジネスが実際に行われているかどうかもよく考慮すべきだと思います。TV番組に関しては、見逃した番組をあとから視聴する手段は、適法なものは存在しません。TV局が、そうしたビジネスをしていないからです。したがって、YouTubeは違法だといっても、過去の番組にアクセスできない消費者がそこにアクセスすることを違法としてしまうのは、私はいかがなものかと思っています。
 例えば、ダウンロード行為を違法としたとしても、適法な手段で消費者に提供するビジネスを展開していない権利者は、違法であることを主張できない、というような法律にはできないのでしょうか・・・(他の著作権の分野全般についていえる話ではありますが・・・)

 私は、実際に非常に多くのCDやDVDなどのファイルが交換されているわけですから、被害は相当の額に上るのではないかと推察しています。それを明らかにした上で、ダウンロードも違法とする方向で検討すべきではないかと思います。
 ただし、無許諾でアップロードされていることを知ってダウンロードした場合に限ることが必要でしょう。また、違法としても、刑事罰は科すべきではないと思います。さらに、ビジネスを展開していない者は、個人のダウンロードに対して権利主張ができないというような規定でもあればいいのではないかと思っています。