この春に話題になったドラマ『残念な夫』、記憶に新しい方も多いのではないかと思います。このドラマのように、夫に、そして夫婦生活にご不満をお持ちの奥さま方の声は相談現場でも後を絶ちません。
 
◆「妻に感謝されている」と思い込む夫たち
 
心理学的な夫婦関係の調実態査でも妻の不満のほうが大きいという結果が示されています。夫は不満に気づいていないことが多く、むしろ「妻に感謝されている」と思いこんでいるという話もよく聞かれます。
 
なかには、外では「素敵な旦那さん」で通っているご主人が、家に帰ると妻に怒鳴り散らしたり、無視などの冷たい態度をとったり、気に入らないことがあると背を向けてコミュニケーションが取れなくなる…などと奥さんを悩ませるご主人もいるようです。ひどい時は「だいたいお前はなあ…」とか、「ばか野郎!!」と直接的に妻の人間性を否定することもあります。
 
◆同じことを上司や友人にしていたら問題
 
仮に同じことをお仕事でやったどうなるでしょうか。取引先からは取引停止、先輩や上司なら「ちょっと来い!!」と何時間も説教されるでしょう。友人たちも、人柄を疑って去ってゆくことでしょう。なぜなら、これらは人としてのモラルを無視した行為だからです。
 
モラルを無視した行為はモラル・ハラスメント、略してモラハラと呼ばれています。モラハラは当事者同士で許し合っていれば成立しないので定義が難しい言葉です。ですが、ご夫婦の間ではご主人が一方的に「俺は許されている、むしろ尊敬されている」と錯覚しながら、妻の人間性を否定する暴言を繰り返すことが少なくないようです。もちろん、妻によるご主人へのモラハラもあるわけですが、ここではご主人がモラハラに陥ることについて考えてみましょう。
 
◆「お殿様」でいたい夫
 
すべての男性が妻にモラハラをするわけではありませんが、モラハラ夫は妻に対して「お殿さま気分」が行き過ぎているケースが多いようです。女性もお姫さま願望を秘めている方が多いかと思いますが、同じように男性もお殿さま願望や王子さま願望を秘めていることがあるのです。
 
お互いの願望を受け止め合うご夫婦関係を理想にする女性は多いのではないでしょうか。しかし、一部の自分を過大価値しがちなご主人は、外で働いて稼いでくることで「妻のお姫さま待遇」を既にやっている気になるようです。そして「俺にはお殿さま扱いされる資格がある」と思い込むようなのです。共働きの場合は「稼ぐ」が他の何かにすり替わることもありますが、わずかな妻への貢献でも「姫扱い」と勘違いしやすいのです。
 
◆「誰のためで飯が食えると思ってるんだ!」という思い込み
 
これがちょっとエスカレートしてくると、「俺は偉いんだ!!」「俺のおかげでお前は生きてるんだ!」と尊大な気分になり、妻の人としての価値を踏みにじります。「お前には姫気分に浸る資格なんかないだろ!」という気持ちにもなるようです。ご自分も「お殿さま」の価値があるかどうか怪しいのですが、このような時は自分のことは不問になってしまうのです。
 
こうして、妻の些細な何かが気に入らないと「殿を不愉快にする不届きものめが!!」と天誅…すなわち痛みとお殿さまに都合のよい「分別」を与えようとするのです。「正しい方向に導いてやっている」という気分ですから、全く悪いとは思っていません。
 
たとえ言葉の暴力であっても、その心の痛みは想像を絶します。しかし、ご主人は妻が感じる痛みも「お前が悪いんだから当然だ」と思っています。夫婦間の最低限の「思いやり」さえ忘れてしまうようです。
 
◆気づいてからではすでに手遅れな場合も…
 
夫婦関係はお互いの安らぎの場、憩いの場であってほしいもの。しかし、夫婦間のモラハラは、おしどり夫婦として知られていた芸能人ご夫婦の別居でも疑惑として話題になりましたが、夫は往々にして気づかないようです。
 
我慢できなくなった妻の離婚活動、通称「離活」で初めて妻の不満に気づいた…というご主人も少なくありません。妻が一時的な癒しを求めて他の男性に身をゆだねて家庭崩壊…という事例もあります。原因がご主人の気づかないモラハラだったとしたら悲しいことです。モラハラ傾向のある男性はエスカレートする前にぜひ気づいていただいて、ご家庭を守ってください。自分を省みることも家族を守ることの一つです。
 
◆モラハラ夫になりやすい傾向とは
 
筆者の印象では職業や社会的地位は関係なく、自信家の男性、特に男としての魅力に自信がある男性で、さらに調子に乗りやすいタイプがモラハラ夫になりやすいようです。結婚前の女性はこのような男性には警戒してください。結婚後の対策は男性が自覚を持たない限り難しいようですので、周りの方や夫婦問題に詳しい方にご相談ください。
 
そして、男性は常に女性は自分の姫さまであるということを忘れないでください。姫は少々足りないところがあって可愛いもの…。そこを非難してはいけません。姫さまにご満足をいただいて、初めて本当に魅力的な男性になれるのです。
 
<執筆者プロフィール>
杉山崇
神奈川大学人間科学部/大学院人間科学研究科 教授
心理相談センター所長・教育支援センター副所長
臨床心理士・一級キャリアコンサルティング技能士
公益社団法人日本心理学会代議員
 

 
(・_・D フムフム、ナルホド、これか~!…?