―原作 スタンダール―
星組東京特別公演 日本青年館 08年4月1日
脚本:柴田侑宏/演出:中村暁/主演:安蘭けい、遠野あすか他
舞台は19世紀フランス。出世欲と情熱にとり憑かれたような生き方をした一人の青年が、今、法廷で裁かれようとしています。響き渡る裁判長の声。レナール夫人(遠野あすか)を殺害せしめようとした罪を問われ、暗闇の中に浮かび上がる被告ジュリアン・ソレル(安蘭けい)はしっかりした声で、「はい、認めます」と答弁。その声に野次馬だらけの傍聴席からは驚嘆や怒声が。まるで客席が傍聴席と化したかのよう。メッシュのスクリーンが左右に開き、舞台は一転して独房へ‥‥一体この美少年はどんな道をたどってここに立っているのか? 幕開きから、甘美なほど悲劇的な結末を暗示する劇的な演出が冴えています。
当時のフランスは歴然とした階級社会で、製材屋の息子ジュリアンには出世の道は閉ざされています。ジュリアンは自分の貧しさも含め、世の中のすべてを軽蔑しています。ナポレオンのセントヘレナ日記を密かに愛読し、いつか自分も英雄になろうと考えています。しかし、戦争もなく、軍隊に志願することもできない平民には、神学の道で身をたてるしかありません。抜群の記憶力で、信仰心もないのにラテン語で聖書を暗記しています。
優秀な彼の噂を耳にし、ヴェリエールの町長レナール氏(立樹遥)は、3人の息子の専属家庭教師に彼を迎えます。人気取りに忙しく、何かと目ざわりな助役のヴァルノ氏(にしき愛)を出し抜くためでもありました。
ラテン語を教えに来るお坊さん(笑います)なんて、太った年寄りで恐い人に違いないと子供たちやレナール夫人が話しているところに入ってきた紅顔の美少年、ジュリアン・ソレル。想像を絶する若々しさと初々しさ、聞きしに勝る優秀さに、レナール家の人々はたちまち虜になります。ジュリアンは少女と見間違えるほどの美少年ですから、安蘭けいはぴったり。本当にきれいな人だなぁ~と、オペラグラス越しに見とれてしまいます。
一家に迎える前にレナール氏がはじめてジュリアンに会う場面。雇用条件に質問はないかと聞くと、ジュリアンはつかつかと歩いてきて、食事のときに自分は誰と食事をするのかと聞きます。その唐突な質問に観客は大笑い。この質問には、家族と一緒ならいいけれど、使用人と一緒の場合は自分は召使でしかない、だからそこを確認したかったというジュリアンならではの自尊心があるのですが、こんな風に真面目すぎるがゆえに発想が突拍子もなかったり、行動と考えが正反対だったりするので(さすが文芸作は奥が深い!)、見ている方は驚きを笑いで表すしかない。シリアスな作品なのに、爆笑の波が起きていました。星組の皆の“間”のよさ、持前の愛嬌ももちろん大きいですね。
ジュリアンの心の声は録音が流れるので、演技自体はポーカーフェイスがいい。巻き舌でテンポの良い台詞まわしもいい。そして、ひとりになった時の熱唱は、あぁ、たまりません。
貞淑な人妻、ルイーズ(レナール夫人)を遠野あすか。子持ちの母親という落ち着きと、初恋(!)に震える女心。登場シーンの落ち着いた衣装と、ジュリアンが来てからの若々しい衣装のあまりの違いに、言わなくてもルイーズの恋心が伝わります。叩きつけるように激しいピアノの演奏をバックに繰り広げられる二人のラブシーンは宝塚の様式美の極致。メッシュのスクリーン越しなので、寝室の秘密を覗いているようす。
柚希礼音はジュリアンの親友フーケとコラゾフ侯爵の二役。フーケは、内面に暗い炎を持つジュリアンに真っ当な道を歩いて欲しくて、最後の最後まで材木の商売を一緒にやろうと誘います。個人的には、フーケにはもっと粗野な感じが欲しかったです。軍服のコラゾフ侯爵はプリンスのように格好よかった。ダンスは本当に見栄えがする。もっとも柚希礼音だけでなく、和涼華といい、彩海早矢といい、プリティーなボーイがそろっています。
パリでジュリアンが秘書として仕えることになる、政界の実力者、ラ・モール侯爵を萬あきら。プログラムのスチール写真では黒髪ですが、舞台では金髪でした。なんとまあ、ダンディなおじさま。惚れ直しました。
ラ・モール侯爵の娘で、パリ社交界一の美人マチルドを夢咲ねね。何でも持っているのに唯一思い通りにならないのはジュリアンへの思い。誘惑したり、冷酷に突き放したり、他の女といちゃいちゃしている姿を見せつけられて逆上したり、愛してほしいとひれ伏したりと忙しい。ジュリアンにサーベルを突きつけられ、自分は今殺されようとしたのだとうっとりした時の心の声が、あまりにぶっ飛んでて観客は大爆笑。笑う場面ではないんですけどね。
ドレスは豪華。シンプルな舞台でスクリーンや照明の使い方が見事。一瞬にして法廷が神学校や独房に変わります。時々挟まれる法廷の暗いシーンが奥行きを出しています。
原作ではジュリアンの最終答弁は思想的なものでしたが、この作品では恋と野望に焦点があてられています。宝塚らしくてとてもいいです。
何なんでしょう、この集中力の高い舞台。安蘭けいの念願がかなった舞台なので求心力もあるのでしょうが、無駄なく、隙なく、テンポよく、笑わせながらも奥が深く、宝塚っていいなって改めて思いました。
星組東京特別公演 日本青年館 08年4月1日
脚本:柴田侑宏/演出:中村暁/主演:安蘭けい、遠野あすか他
舞台は19世紀フランス。出世欲と情熱にとり憑かれたような生き方をした一人の青年が、今、法廷で裁かれようとしています。響き渡る裁判長の声。レナール夫人(遠野あすか)を殺害せしめようとした罪を問われ、暗闇の中に浮かび上がる被告ジュリアン・ソレル(安蘭けい)はしっかりした声で、「はい、認めます」と答弁。その声に野次馬だらけの傍聴席からは驚嘆や怒声が。まるで客席が傍聴席と化したかのよう。メッシュのスクリーンが左右に開き、舞台は一転して独房へ‥‥一体この美少年はどんな道をたどってここに立っているのか? 幕開きから、甘美なほど悲劇的な結末を暗示する劇的な演出が冴えています。
当時のフランスは歴然とした階級社会で、製材屋の息子ジュリアンには出世の道は閉ざされています。ジュリアンは自分の貧しさも含め、世の中のすべてを軽蔑しています。ナポレオンのセントヘレナ日記を密かに愛読し、いつか自分も英雄になろうと考えています。しかし、戦争もなく、軍隊に志願することもできない平民には、神学の道で身をたてるしかありません。抜群の記憶力で、信仰心もないのにラテン語で聖書を暗記しています。
優秀な彼の噂を耳にし、ヴェリエールの町長レナール氏(立樹遥)は、3人の息子の専属家庭教師に彼を迎えます。人気取りに忙しく、何かと目ざわりな助役のヴァルノ氏(にしき愛)を出し抜くためでもありました。
ラテン語を教えに来るお坊さん(笑います)なんて、太った年寄りで恐い人に違いないと子供たちやレナール夫人が話しているところに入ってきた紅顔の美少年、ジュリアン・ソレル。想像を絶する若々しさと初々しさ、聞きしに勝る優秀さに、レナール家の人々はたちまち虜になります。ジュリアンは少女と見間違えるほどの美少年ですから、安蘭けいはぴったり。本当にきれいな人だなぁ~と、オペラグラス越しに見とれてしまいます。
一家に迎える前にレナール氏がはじめてジュリアンに会う場面。雇用条件に質問はないかと聞くと、ジュリアンはつかつかと歩いてきて、食事のときに自分は誰と食事をするのかと聞きます。その唐突な質問に観客は大笑い。この質問には、家族と一緒ならいいけれど、使用人と一緒の場合は自分は召使でしかない、だからそこを確認したかったというジュリアンならではの自尊心があるのですが、こんな風に真面目すぎるがゆえに発想が突拍子もなかったり、行動と考えが正反対だったりするので(さすが文芸作は奥が深い!)、見ている方は驚きを笑いで表すしかない。シリアスな作品なのに、爆笑の波が起きていました。星組の皆の“間”のよさ、持前の愛嬌ももちろん大きいですね。
ジュリアンの心の声は録音が流れるので、演技自体はポーカーフェイスがいい。巻き舌でテンポの良い台詞まわしもいい。そして、ひとりになった時の熱唱は、あぁ、たまりません。
貞淑な人妻、ルイーズ(レナール夫人)を遠野あすか。子持ちの母親という落ち着きと、初恋(!)に震える女心。登場シーンの落ち着いた衣装と、ジュリアンが来てからの若々しい衣装のあまりの違いに、言わなくてもルイーズの恋心が伝わります。叩きつけるように激しいピアノの演奏をバックに繰り広げられる二人のラブシーンは宝塚の様式美の極致。メッシュのスクリーン越しなので、寝室の秘密を覗いているようす。
柚希礼音はジュリアンの親友フーケとコラゾフ侯爵の二役。フーケは、内面に暗い炎を持つジュリアンに真っ当な道を歩いて欲しくて、最後の最後まで材木の商売を一緒にやろうと誘います。個人的には、フーケにはもっと粗野な感じが欲しかったです。軍服のコラゾフ侯爵はプリンスのように格好よかった。ダンスは本当に見栄えがする。もっとも柚希礼音だけでなく、和涼華といい、彩海早矢といい、プリティーなボーイがそろっています。
パリでジュリアンが秘書として仕えることになる、政界の実力者、ラ・モール侯爵を萬あきら。プログラムのスチール写真では黒髪ですが、舞台では金髪でした。なんとまあ、ダンディなおじさま。惚れ直しました。
ラ・モール侯爵の娘で、パリ社交界一の美人マチルドを夢咲ねね。何でも持っているのに唯一思い通りにならないのはジュリアンへの思い。誘惑したり、冷酷に突き放したり、他の女といちゃいちゃしている姿を見せつけられて逆上したり、愛してほしいとひれ伏したりと忙しい。ジュリアンにサーベルを突きつけられ、自分は今殺されようとしたのだとうっとりした時の心の声が、あまりにぶっ飛んでて観客は大爆笑。笑う場面ではないんですけどね。
ドレスは豪華。シンプルな舞台でスクリーンや照明の使い方が見事。一瞬にして法廷が神学校や独房に変わります。時々挟まれる法廷の暗いシーンが奥行きを出しています。
原作ではジュリアンの最終答弁は思想的なものでしたが、この作品では恋と野望に焦点があてられています。宝塚らしくてとてもいいです。
何なんでしょう、この集中力の高い舞台。安蘭けいの念願がかなった舞台なので求心力もあるのでしょうが、無駄なく、隙なく、テンポよく、笑わせながらも奥が深く、宝塚っていいなって改めて思いました。
